サポート特化陰陽師補佐転生   作:タルタル功夫

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第9話 対『怪異の波』その1

 俺は陰陽連で買った指南書を全てマスターし、より練度を上げる特訓に励んでいた。

 

 一通り覚えたし、結界術なんかは森島術師に合格点ももらったが、俺からするとまだまだ粗い所が多いように見える。

 というか単純に、練度が足りない気がしていた。

 

 指南書に書いてある術たちは、陰陽師に広く浸透している術だ。

 その道のエキスパートなんてゴロゴロいる。

 そんな中で、俺は欲張って全ての術に手を出したのだ。

 一通り学んだところで満足していたようでは、ただの器用貧乏になってしまう。

 それは避けたかった。

 

 出来れば俺は『北条さんがいたから、この窮地を切り抜けられた』みたいなことを思ってもらえるような補佐役になりたい。

 単純に、役に立つ人間になりたいのだ。

 ありがたいことに、ハクアや神宮司術師にはそう言ってもらえたが、俺の欲はまだまだこんなところでは止まらない。

 俺はそれこそ、関わった人間全てを助け、感謝されたいのだ。

 自分勝手な願いだと呆れてしまう所もあるが、それでも俺はそうすることで、より多くの人の命を助けられる、と信じている。

 

 そんなわけで、俺は日々修行に励んでいた。

 流石に結界術の修行の時のような、根を詰めに詰めた修行法は無理だが、それでも体調を整えつつ、無理のない範囲で修行することによって、確実に基礎力は磨かれたと思っている。

 

 そして、そんな折……俺が活躍できそうな機会が突然やって来た。

 

「怪異の波、ですか」

 

「そう。北条も去年一回経験してるだろ? 毎年一、二回発生する、怪異の大量出現のことだよ」

 

 とある平日の午後、陰陽連の事務室で俺は上司からそんな話を聞かされた。

 

「ああ、はい。陰陽師のほぼ全員で対処するアレですよね」

 

「そうそう。それが、三日後に起こりそうなんだと」

 

「三日後ですか!? それはまた急な」

 

「俺もそう思う。なんでも、上が霊力の急な変調を感知したことで、波が発生すると予測したらしい。いつも、波が起こる前は霊力の空間密度が緩やかに上がっていくからな。今回はそれが急に起こった」

 

「なるほど……」

 

 霊力の空間密度が急に跳ね上がるのは、何か理由がないとおかしい。

 俺でも考えられるのは……霊力に影響を与えるレベルの特等怪異が出現した、とかだが……実際にそのレベルの怪異は見つかってないので、何とも言えない。

 

「とにかく、起点は変でも、現象としては普通の波と変わらない。だからお前も、現場でサポートにあたってくれ」

 

「わかりました。あの、誰のサポートを行えば……?」

 

「うーんと、ちょっと待ってくれ」

 

 上司はデスクから書類束を出すと、ペラペラと捲り……三枚のプリントを渡してきた。

 

「お前の所属は水無瀬ハクア二等術師、神宮司キリカ一等術師、赤尾ルキ二等術師の班だ。よかったな、このメンバーならお前の仕事も楽に終わるだろう」

 

「はあ」

 

 俺は貰ったプリントたちをじっと見つめる。

 ハクアと神宮司術師はそれなりに知っているが、赤尾二等術師は全く面識がなかった。

 上司の言い方からして、実力のある人なんだろうが。

 プリントに映っている証明写真には、ボサボサの赤髪で勝気な少女の顔が映っている。

 

「じゃ、当日までに補佐の準備をしておけよ。民間人の避難誘導や、関係各所への連絡も俺たちの仕事だからな。今後は忙しくなるぞ」

 

 上司は若干疲れた目をしながら「話は終わりだから、あっち行った行った」という風に手を振った。

 うちの上司、良い人ではあるんだけど、日ごろの疲れがたまっているのか何となく扱いが雑なんだよな……。

 

 そんなことを思いつつ、俺は自席へと戻っていった。

 

 ― ― ― ― ―

 

 三日後。怪異の波当日。

 

 その日はどこまでも曇り空が続くような、そんな天気だった。

 霊力の密度が天候に影響しているわけではないと思うが……どことなく不穏な空気を感じる。

 

 そんな中、俺は戦闘場所である住宅街にて、ハクア・神宮司術師・赤尾術師と対面した。

 

 赤尾術師の態度は……率直に言って、若干失礼な人だった。

 

「お前が北条かァ? 水無瀬先輩が頼りになるっていうから、どんな奴かと思ってたけど……こんなひょろっちぃ奴だとは思わなかったぜ」

 

 赤尾術師は、パンクなファッションを着こなす、ハクアより少し背が低い少女だった。

 何というか、ちょっとヤンキーっぽい。

 赤尾術師の舐めた態度に対して、ハクアがたしなめる。

 

「る、ルキちゃん、人を見かけで判断したらダメだよ。それに北条さん、補佐役の技術は一流なんだよ?」

 

「えぇ、ホントっスかぁ?」

 

「一流はちょっと言いすぎだと思う、ハクア……」

 

 俺がたまらず反応すると、揚げ足を取るように赤尾術師は絡んでくる。

 

「ほら、自分でもそんな実力無いって言ってるし……ていうかハクア呼び!?!!? お、お前先輩に慣れ慣れしくしてんじゃねーぞ……!」

 

 急に殺気をモロに出して突っかかる赤尾術師に、俺はたじたじになる。

 

「ハクア、か。私も下の名前で呼んでもらうべきかもな」

 

「な、神宮司術師、何言ってるんですか!?」

 

「いや、その方が北条も呼びやすいだろうと思って……」

 

 神宮司術師は相変わらず、着眼点が少しズレているというかなんというか……。

 

「ほら、北条。呼んでみてくれ」

 

「え、え……じゃあ、キリカ……」

 

「うむ」

 

 神宮司術師……いや、キリカはそれを聞くと満足気な顔をしていた。

 どこに満足してるんだ……?

 

 そんな俺たちを見た赤尾術師は、ますますしかめっ面になる。

 

「北条ォ~! お前、なんか慣れ慣れしい雰囲気出してるのが気に入らね~ぜ! 補佐役ならもっと公私を分けてビシッとしろよ!」

 

「そ、そりゃ俺もそう思いますが……」

 

「じゃあなんで先輩と神宮司術師を両脇に抱えてるんだよ!?」

 

 いつの間にか俺は、ハクアに右腕を、キリカに左腕を掴まれていた。

 

「な、何やってるんだ二人共!?」

 

「え、えへへ……」

 

「いや、水無瀬が腕掴んでて楽そうでいいな、と思ったのでな」

 

 顔を赤らめるハクアに対し、キリカは仏頂面で変なことを言ってくる。

 というか、前から若干思ってたけど、ハクアって俺のことが、す、好き……。

 

 いや、ダメだ。

 前世の俺も今世の俺も、恋愛経験なんて皆無だ。

 ここで変に意識したりしたら、戦闘中に意識が乱れて絶対大変なことになる。

 意図的にそういう心情回路をシャットダウンさせよう。

 はい、シャットダウン。

 

 ……よし。

 

「そ、そろそろ怪異の波がくるので、二人共離れて」

 

「……むぅ」

 

「むぅむぅムルシエラゴ」

 

「何でそこでムルシエラゴが出てくるんだよ、キリカ……」

 

「ツッコミ入れてないでさっさと構えろよ!?」

 

 若干グダグダになっている俺たちを見かねたのか、赤尾術師が活を入れる。

 

 既に、住宅街の住人は全て避難を完了している。

 怪異の波が届く範囲には、軽い結界を張って、それ以上外に出て行かないようにした。

 

 これで、準備は万端なはずだ。

 

「……来る!」

 

 キリカが鋭く呟いた瞬間。

 俺たちの眼前は、大量のカラス型低級怪異によって覆い尽くされた。

 

「くっ!」

 

 俺が結界を張るより早く、ハクア・キリカ・赤尾術師は飛び出していく。

 

流星輝砲(りゅうせいきほう)!」

 

破斬式(はざんしき)

 

炎炎轟轟(えんえんごうごう)ォ!!」

 

 三人は一斉に固有術を発動させた。

 

 すると、ハクアからは青く光る光線が、キリカからは細かな斬撃が、そして赤尾術師からは燃え盛る炎が、次々に射出されていった。

 それらはほんの数秒で、低級怪異ほぼ全てを消し炭にしてしまう。

 

「これが、固有術の力……!」

 

 俺は思わず、唾をごくりと飲み込む。

 これほどの力が、固有術には込められているのか。

 俺も、こんな術が使えるようになりたかったのを、よく思い出した。

 相当昔の話だが……俺も確かに、こんな強力な固有術を操って怪異を倒す、陰陽師になりたかったのだ。

 

 だが、俺に固有術の、陰陽師の才能はなかった。

 だから……俺は、俺なりに出来ることをするだけだ。

 

 俺は三人に向け、両手を掲げた。

 

 霊力を集中し、高密度で強化術を仕掛ける。

 

 赤尾術師は、かけられた強化術の感覚に、一瞬目を丸くしていた。

 

「……そうか。北条、悔しいがお前は先輩が言う通り一流だよ。今かけられた術でわかった」

 

 こちらを少しだけ振り向き、ニヤリと赤尾術師は笑った。

 その顔には、先ほどのような上から目線な態度はない。

 

「さっきはズケズケ言って悪かったな。後方支援、頼めるか? 北条補佐役……!」

 

「任せておいてください、赤尾術師!」

 

「安心だぜ!」

 

 続く、第二波の低級怪異の波へ向け、赤尾術師たちは構えた。

 それを見た俺も、また意識を引き締め、補佐のタイミングを伺う。

 

 こうして、かなり万全な状態で、対『怪異の波』戦は始まった。




『赤尾ルキ』
 15歳。赤髪茶目、着崩したパンクファッション。ヤンキー気質で素直じゃない。二等陰陽師。メリケンサック使い。炎を操る固有術持ち。
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