サポート特化陰陽師補佐転生 作:タルタル功夫
俺は陰陽連で買った指南書を全てマスターし、より練度を上げる特訓に励んでいた。
一通り覚えたし、結界術なんかは森島術師に合格点ももらったが、俺からするとまだまだ粗い所が多いように見える。
というか単純に、練度が足りない気がしていた。
指南書に書いてある術たちは、陰陽師に広く浸透している術だ。
その道のエキスパートなんてゴロゴロいる。
そんな中で、俺は欲張って全ての術に手を出したのだ。
一通り学んだところで満足していたようでは、ただの器用貧乏になってしまう。
それは避けたかった。
出来れば俺は『北条さんがいたから、この窮地を切り抜けられた』みたいなことを思ってもらえるような補佐役になりたい。
単純に、役に立つ人間になりたいのだ。
ありがたいことに、ハクアや神宮司術師にはそう言ってもらえたが、俺の欲はまだまだこんなところでは止まらない。
俺はそれこそ、関わった人間全てを助け、感謝されたいのだ。
自分勝手な願いだと呆れてしまう所もあるが、それでも俺はそうすることで、より多くの人の命を助けられる、と信じている。
そんなわけで、俺は日々修行に励んでいた。
流石に結界術の修行の時のような、根を詰めに詰めた修行法は無理だが、それでも体調を整えつつ、無理のない範囲で修行することによって、確実に基礎力は磨かれたと思っている。
そして、そんな折……俺が活躍できそうな機会が突然やって来た。
「怪異の波、ですか」
「そう。北条も去年一回経験してるだろ? 毎年一、二回発生する、怪異の大量出現のことだよ」
とある平日の午後、陰陽連の事務室で俺は上司からそんな話を聞かされた。
「ああ、はい。陰陽師のほぼ全員で対処するアレですよね」
「そうそう。それが、三日後に起こりそうなんだと」
「三日後ですか!? それはまた急な」
「俺もそう思う。なんでも、上が霊力の急な変調を感知したことで、波が発生すると予測したらしい。いつも、波が起こる前は霊力の空間密度が緩やかに上がっていくからな。今回はそれが急に起こった」
「なるほど……」
霊力の空間密度が急に跳ね上がるのは、何か理由がないとおかしい。
俺でも考えられるのは……霊力に影響を与えるレベルの特等怪異が出現した、とかだが……実際にそのレベルの怪異は見つかってないので、何とも言えない。
「とにかく、起点は変でも、現象としては普通の波と変わらない。だからお前も、現場でサポートにあたってくれ」
「わかりました。あの、誰のサポートを行えば……?」
「うーんと、ちょっと待ってくれ」
上司はデスクから書類束を出すと、ペラペラと捲り……三枚のプリントを渡してきた。
「お前の所属は水無瀬ハクア二等術師、神宮司キリカ一等術師、赤尾ルキ二等術師の班だ。よかったな、このメンバーならお前の仕事も楽に終わるだろう」
「はあ」
俺は貰ったプリントたちをじっと見つめる。
ハクアと神宮司術師はそれなりに知っているが、赤尾二等術師は全く面識がなかった。
上司の言い方からして、実力のある人なんだろうが。
プリントに映っている証明写真には、ボサボサの赤髪で勝気な少女の顔が映っている。
「じゃ、当日までに補佐の準備をしておけよ。民間人の避難誘導や、関係各所への連絡も俺たちの仕事だからな。今後は忙しくなるぞ」
上司は若干疲れた目をしながら「話は終わりだから、あっち行った行った」という風に手を振った。
うちの上司、良い人ではあるんだけど、日ごろの疲れがたまっているのか何となく扱いが雑なんだよな……。
そんなことを思いつつ、俺は自席へと戻っていった。
― ― ― ― ―
三日後。怪異の波当日。
その日はどこまでも曇り空が続くような、そんな天気だった。
霊力の密度が天候に影響しているわけではないと思うが……どことなく不穏な空気を感じる。
そんな中、俺は戦闘場所である住宅街にて、ハクア・神宮司術師・赤尾術師と対面した。
赤尾術師の態度は……率直に言って、若干失礼な人だった。
「お前が北条かァ? 水無瀬先輩が頼りになるっていうから、どんな奴かと思ってたけど……こんなひょろっちぃ奴だとは思わなかったぜ」
赤尾術師は、パンクなファッションを着こなす、ハクアより少し背が低い少女だった。
何というか、ちょっとヤンキーっぽい。
赤尾術師の舐めた態度に対して、ハクアがたしなめる。
「る、ルキちゃん、人を見かけで判断したらダメだよ。それに北条さん、補佐役の技術は一流なんだよ?」
「えぇ、ホントっスかぁ?」
「一流はちょっと言いすぎだと思う、ハクア……」
俺がたまらず反応すると、揚げ足を取るように赤尾術師は絡んでくる。
「ほら、自分でもそんな実力無いって言ってるし……ていうかハクア呼び!?!!? お、お前先輩に慣れ慣れしくしてんじゃねーぞ……!」
急に殺気をモロに出して突っかかる赤尾術師に、俺はたじたじになる。
「ハクア、か。私も下の名前で呼んでもらうべきかもな」
「な、神宮司術師、何言ってるんですか!?」
「いや、その方が北条も呼びやすいだろうと思って……」
神宮司術師は相変わらず、着眼点が少しズレているというかなんというか……。
「ほら、北条。呼んでみてくれ」
「え、え……じゃあ、キリカ……」
「うむ」
神宮司術師……いや、キリカはそれを聞くと満足気な顔をしていた。
どこに満足してるんだ……?
そんな俺たちを見た赤尾術師は、ますますしかめっ面になる。
「北条ォ~! お前、なんか慣れ慣れしい雰囲気出してるのが気に入らね~ぜ! 補佐役ならもっと公私を分けてビシッとしろよ!」
「そ、そりゃ俺もそう思いますが……」
「じゃあなんで先輩と神宮司術師を両脇に抱えてるんだよ!?」
いつの間にか俺は、ハクアに右腕を、キリカに左腕を掴まれていた。
「な、何やってるんだ二人共!?」
「え、えへへ……」
「いや、水無瀬が腕掴んでて楽そうでいいな、と思ったのでな」
顔を赤らめるハクアに対し、キリカは仏頂面で変なことを言ってくる。
というか、前から若干思ってたけど、ハクアって俺のことが、す、好き……。
いや、ダメだ。
前世の俺も今世の俺も、恋愛経験なんて皆無だ。
ここで変に意識したりしたら、戦闘中に意識が乱れて絶対大変なことになる。
意図的にそういう心情回路をシャットダウンさせよう。
はい、シャットダウン。
……よし。
「そ、そろそろ怪異の波がくるので、二人共離れて」
「……むぅ」
「むぅむぅムルシエラゴ」
「何でそこでムルシエラゴが出てくるんだよ、キリカ……」
「ツッコミ入れてないでさっさと構えろよ!?」
若干グダグダになっている俺たちを見かねたのか、赤尾術師が活を入れる。
既に、住宅街の住人は全て避難を完了している。
怪異の波が届く範囲には、軽い結界を張って、それ以上外に出て行かないようにした。
これで、準備は万端なはずだ。
「……来る!」
キリカが鋭く呟いた瞬間。
俺たちの眼前は、大量のカラス型低級怪異によって覆い尽くされた。
「くっ!」
俺が結界を張るより早く、ハクア・キリカ・赤尾術師は飛び出していく。
「
「
「
三人は一斉に固有術を発動させた。
すると、ハクアからは青く光る光線が、キリカからは細かな斬撃が、そして赤尾術師からは燃え盛る炎が、次々に射出されていった。
それらはほんの数秒で、低級怪異ほぼ全てを消し炭にしてしまう。
「これが、固有術の力……!」
俺は思わず、唾をごくりと飲み込む。
これほどの力が、固有術には込められているのか。
俺も、こんな術が使えるようになりたかったのを、よく思い出した。
相当昔の話だが……俺も確かに、こんな強力な固有術を操って怪異を倒す、陰陽師になりたかったのだ。
だが、俺に固有術の、陰陽師の才能はなかった。
だから……俺は、俺なりに出来ることをするだけだ。
俺は三人に向け、両手を掲げた。
霊力を集中し、高密度で強化術を仕掛ける。
赤尾術師は、かけられた強化術の感覚に、一瞬目を丸くしていた。
「……そうか。北条、悔しいがお前は先輩が言う通り一流だよ。今かけられた術でわかった」
こちらを少しだけ振り向き、ニヤリと赤尾術師は笑った。
その顔には、先ほどのような上から目線な態度はない。
「さっきはズケズケ言って悪かったな。後方支援、頼めるか? 北条補佐役……!」
「任せておいてください、赤尾術師!」
「安心だぜ!」
続く、第二波の低級怪異の波へ向け、赤尾術師たちは構えた。
それを見た俺も、また意識を引き締め、補佐のタイミングを伺う。
こうして、かなり万全な状態で、対『怪異の波』戦は始まった。
『赤尾ルキ』
15歳。赤髪茶目、着崩したパンクファッション。ヤンキー気質で素直じゃない。二等陰陽師。メリケンサック使い。炎を操る固有術持ち。