むかしむかし、ここではないどこかに。
とても美しいお姫さまがいました。
まずはその誕生プロセスから説明しようッ!!!
冗談です。
お姫さまの国は、みんなが笑っていて、とてもきれいなものばかりでした。
お日さまが出ればぴいぴいと鳥が歌って。
道の色んなところにきれいなお花がさいて。
はたらく人だって
色んな食べ物だってあふれるほどにある。
そんな国です。
そんな国の王さまはいい人で、よくばりなことを一つも言わずに、自分のことよりも、こまっている人を助けてしまう、とてもやさしい王さまでした。
王妃さまもすてきな人で、ぜいたくをしてしまうと他のみんなが大変だと思って、自分でぬいものやお料理をするようなお后さまでした。
王さまもお后さまもいばったりしないで、たくさんの人たちの話を聞いて、もっといい国にしようといっしょうけんめいに、みんながえがおになることを考える人です。
ですが、二人にはなやみがありました。
自分たちの子どもがいないのです。
長くなやんだ末に、とうとう王さまは決めました。
「わたしと王妃の間にはまだ子どもがいない。これからぶじに子どもができるように、すばらしい考えがあり、成果が出たものには、ほうびをあたえよう」
みんな王さまがわるい人ではないことを知っています。お城から出ては町の人たちに困ったことはないかと、しんぱいそうにきいてくれる王さまなのです。
王さまの国の人たちはがんばりました。
東に怪しげな生薬を混ぜた、ミイラすら蘇ると噂の性欲剤があると聞けば喜び勇んで取りに行き。
西にテクニシャンを超えたテクニシャン、国家反逆罪級のエロス伝道師。通称エロテロリストが潜伏していると聞けば教えを請い。
南に催淫剤兼排卵誘発剤があると知って貰いに行けば
『家畜用じゃねーか! クソッ! 騙された!』と言って、酪農家のあらゆる所に吸引器を取り付け。
北に催眠アプリがあると噂されれば、お試し用すら効かない高額課金詐欺だと気付いて泣きました。
冗談です。
…半分くらい。
それでも子どもはできませんでした。
にこにことお日さまのようにやさしく笑っていた王さまは、悲しいかおをすることがふえました。
王妃さまのきぬのようなやわらかいえがおも、すっかり見なくなりました。
王さまの国の人たちも、悲しそうな王さまたちを見ていると、泣きそうになってしまいました。
それから長い長い時間がたって、王さまのおひげが白くなってしまったころ。
どこからともなく、魔法つかいがやってきました。
「んー、女の子が可哀想なのは抜けないのよねー」
魔法うかいはそう言うと、王さまたちに魔法をかけました。
王さまと王妃さまは、若がえりの魔法をかけられたのです。そして、子どもができる魔法も。
「へっ…ティッシュってのは、涙を拭うためにあるんじゃないぜ…!」
キメ顔でした。
さらにもう一つ、王さまに魔法をかけました。
それは、お願いが何でもかなう魔法でした。
「ん? 今、何でもって…」
変なことをしゃべった人は、魔法つかいの魔法で『ウチはそういうんじゃあない、可哀想なので抜けッ!!』と
さて。王さまは、またこまってしまいました。
自分のお願いだけをかなえるなんて、やさしい王さまはいやだったのです。
そうしていると、国の人たちや大臣が言います。
「いいんですよ、たまにはわがままを言っても!」
王妃さまも同じことを言いました。
自分の国のみんなからそう言われて、とてもこまった王さまは。あるお願いをしました。
「私と妻の間に生まれる子が…幸せで…ううむ。
そうだ! 腕白でもいい、元気に育ってほしい…!」
「ンモー我が君ってばぁ」
「欲が無さ過ぎる…そうか! だから性欲も…」
「この者をエロテロリストと三日三晩過ごす刑に処す」
「大臣どの!?」
お願いは。一つだけ、かないました。
「おぎゃあ! おぎゃあ!」
「あなた…産まれました、元気な娘ですよ…!」
「おお…! ありがとう、よく頑張ってくれた…我が妻よ! そして…娘も生まれて来てくれて、ありがとう!
おお、おお! こ、これは…っ」
「どうかしたのですか…?」
「私より…毛がある…っ!?」
王妃さまも子どもも、元気なまま。
けがなくてよかったね!
ではなく。
王さまと王妃さまの娘、つまりお姫さまが生まれたのです。これには国の人たちもみんなよろこびました。
ですが、そう。
かなったお願いは、一つだけ。
お姫さまはすくすくと元気に育ちました。けれど、他の人とは何かがちがいました。
「んー…」
「姫様…?」
まず、あまりに言葉をしゃべりませんでした。
お姫さまはもう7才、とっくにお話ができるはずです。
お姫さまは言葉を知っています。
鳥を探そうとあれば空気を蹴って鳥を捕まえて。
花を移し変えると聞けば地面を空手で切断して。
ゆかいにはたらく人たちといっしょに、極めた力を振るいつつ踊り。武というよりは舞、舞踊だなと愚弄されては音速を超えた拳で声を掻き消してッッッ!!
それぞれ何を意味しているのかを知っていて、それでもしゃべりませんでした。
ですが、何よりもかなってしまったのは。
お姫さまはワンパクすぎたのです。
自分の足で立てるようになってから、かけっこをすれば地面が砕けました。
手であおぐだけで木の葉っぱは全部落ちました。
腕をふるうと周囲の大気を歪ませてしまい、そこだけ白い穴が空いたようになり結果として腕の周りが白んだように見え…これぞ腕白ッッ〜…!
というように。
王さまの国の人たちは怒りました。
きっと、あの魔法つかいがいたずらをしたのだと、みんなが言いました。
王さまは魔法つかいはわるくないと言いましたが、みんなはそれを聞きません。あの魔法つかいはどこだ、きっと今ごろ笑っているにちがいないと、たくさんの人がさがしました。
そんなみんなのさわぎを聞いて、どこからか魔法つかいがやってきました。
そして。
「願いは一つだけって言ったじゃないか!」
と言って、かなしい顔をしました。
そうです。王さまが言いきったお願いごとは一つ「ワンパクでもいい、元気に育ってほしい」ということ。
それがかなってしまったのです。
こうして、わんぱく姫は生まれました。
わんぱく姫は大きくなるにつれて、きれいに、そして強くなっていきました。
わんぱく姫はもう10さいになりました。ですが友だちができませんでした。
ふつうの人とあそぶには、力が強すぎたのです。
お花のかんむりを作ろうとしてお花をつむと、花がつぶれてしまいます。
虫とりをしようとすれば。どうぐはこわれて、虫もばらばらになってしまいます。
川でおよげば水がふきとんでしまいます。
わんぱく姫は、ひとりぼっちでした。
しぜんだってこわしてしまうのだから、人といっしょにあそぶなんてできないのです。
いつでもひとりであそんで、わらうこともありません。
わんぱく姫を見ているみんなも。
「おいたわしや姫さま」
「いっしょにあそぶとあぶないって…」
「可哀想なのは抜けない」
「ロ○コンだ! 殺せ!」
「待ってくれ、私はロリコンではない!」
「ロボコンかもしれねぇだろ! ロボットコンプレックスの方! 非生産的な!」
「一字の違いがデカ過ぎる」
「○ボポンはちょっと特殊側だよね」
「待て、がんばれロボコ○かもしれない」
「ロボ根性の方??」
「好き勝手言いやがって、フェイ・イ○ンとかセ○ラーマルチはイイだろうが!」
「正体表しやがったなロ○コン野郎!?」
「マルチはマルチでも、to H○artのマルチはいいよね。だって彼女もロボだし同じだろ? 俺、マルチでロボ娘の良さがわかった!」
「違うよクソ!!!!」
「そこはゲートウェイ・ロボ娘のK○S-M○Sだよな」
と、口々に言います。
でも、みんなが何を言っても友だちはできないままです。なのできょうもひとり、お城や町から外れたところにある、しずかなお花畑に行きました。
わんぱく姫はお花畑がすきでした。花のいいにおいがして、周りにはちょうちょもとんでいますし、花がゆれるのを見るだけでもたいくつじゃないからです。
花と葉っぱがかぜにふかれて、すこしだけ聞こえるかさかさという音も人の話し声みたいで、ほんのちょっとだけさびしさがまぎれました。
「………」
きょうも、ひとり。
しずかにお花畑ですごしていた、そのときです。
「くそ…いかれた国民め…」
「!」
だれかがすねたような言葉をいいながら、お花畑にちかづいてきました。ふくはぼろぼろになっていて、かおや手からは血が出ています。
わんぱく姫よりも背がたかくて、どうやらおなじくらいか、すこしだけ年上の男の子です。
男の子は、足を大きくひろげて、花をふんづけてずんずんと歩いています。よく見れば、泣いているような、泣くのをがまんしているようなかおでした。
ぼろぼろの服のそでで、血をふいているのか、それともなみだをふいているのか、それはわかりません。
「…っ!」
「なっ!?」
わんぱく姫は思わずとび出していました。ふまれる花をかわいそうと思ったのと、泣いている男の子をほうっておけなかったからです。
とつぜん目のまえにきたお姫さまに、男の子はとてもおどろきました。
そして、ひどいことを言いました。
『なんだこの貧乳!?』
「………」
わんぱく姫は殺意というものを覚えました。
そもそも子どもだというのに胸が大きい訳がありません。これは栄養学的にも成長に必須のタンパク質を多く摂ろうとも、揺るがせない事実。
そうでなくとも人間には超えてはならない一線があり、もしもそれを超えてしまった場合。後はもう命のやり取りしか残らないのです。
何より、
「あっ!」
「………」
ゆらりとわんぱく姫が近付き。その周囲には花弁ではなく、修羅が纏う細かな塵のような物が舞い始めました。
「……門が開いちまったな」
「オイオイオイ」
「死んだわアイツ」
どこからともなく表れたギャラリーも、無礼者の死を確信したその時です。
「ち、違っ……!」
「………?」
何がちがうのでしょうか。男の子はうんうんと悩んでいるようすで、かおをまっさおにしながら、血の出ている手で口をおさえているばかりです。
それを見ていたわんぱく姫は、男の子が血を出していることに気づいて、あることをしました。
「ちょ、お、おい…っ!?」
「………」
わんぱく姫はできるだけゆっくりと花びらをつんでは手ですりつぶしてから、自分のふくのすそをやぶってハンカチのようにして、つぶした花をつつみました。
花のなまえは、セイヨウノコギリソウといって、血を止められるこうかがあります。
わんぱく姫はそれを知っていました。
大したものですね。セイヨウノコギリソウは古来より止血材の一つとして、古代ギリシャでは英雄アキレウスが仲間を治療する為に使った事から珍重され、その伝説から学名をアキレアと称された程です。
また中国でも生のままパップ剤として使用するなど、東西問わず止血薬として使われていて東洋西洋問わず使用されてきた伝統のバランスもいい。
それにしても野生の植物を使っての応急手当を思いつくのは、普段からの読書学習が実を結んでいるという他はない。
長くなりましたが、そして…。
「何をして……」
「………」
「ブフォアッ!?」
ハンカチをなげつけました。
時速にして105マイル、メジャーリーグ最速も夢じゃない。ヤードポンド法は滅べ。
らんぼうなようですが、わんぱく姫としてはできるだけゆっくりにしたつもりです。そうです、がんばって手かげんをしていました。そのままさわると男の子が危ないと知っていたからです。
「し、しっ死ぬかと思ったぞ!?」
「………」
男の子の脳内では避…否…無理…死…! と神経伝達物質が加速して走馬灯を見せていました。ハンカチでなければ即死だった…!
とにかく、わんぱく姫はハンカチといっしょに、きずにきく物はわたしたので、それをきずにぬるようにゆっくりと動いて伝えます。
「なっ…なんだよ…」
「…ん……」
…伝えたつもりでした。
「何が伝えたいんだ…!?」
「………」
みぶり手ぶりでがんばってハンカチをきずに当てるように教えているつもりですが、ほとんど伝わっていません。
むしろ首元近くまで手を当てている為「お前の首を掻っ切ってやるッ!」とでも言うかのようでした。
『こんな安っぽいハンカチをどうしろって…』
「………」
「あっ、違…クソ…!」
男の子はしゃべればしゃべるほど、悲しいような、くやしいような。いまにも泣いてしまいそうなかおをしています。
それを見たわんぱく姫は、ふしぎに思いました。
だって男の子はこわがっていないのですから。
「………」
「あ、あのっ……!」
わんぱく姫はふしぎに思ったまま。男の子からはなれて帰ってしまいました。
男の子は手を出してひきとめようとしましたが、できませんでした。ハンカチを返そうとしたのですが、それよりもはやく、お姫さまが帰ってしまったからです。
こうして、ふたりはであったのです。
わんぱく姫はじぶんのおへやにもどってからも、むねのあたりがもやもやしたような、すっきりしない気持ちでした。
おへやの中の、数すくないお姫さまのともだちは、そのようすを見て聞きました。
『姫さま、どうかなさいましたか?』
「ふしぎな男の子にあったの」
『まあ!』
わんぱく姫は今日あったことを小さな声でともだちに話しました。どこかほこらしいような、うれしいような気持ちがあったのです。
『人に優しくできたんですね』
「そうなのかな」
『そうですとも』
「そっかあ……」
お姫さまのともだちが言うには、それはすてきなことだから、もっとよろこんでいいのだそうです。
『もしかしたら、お友だちになってくれるかもしれませんよ!』
「……むりだよ」
でも、わんぱく姫は知っています。
ちかくに行くだけで人がきずだらけになってしまうこと、今日ハンカチをわたしたときだって、よけいにけがをさせてしまったのです。
だからお友だちになんて、きっとなれない。