広い心で読んでもらえれば。
人類が宇宙に生活の場を広げてから、幾星霜。
地球圏に浮かぶ無数のスペースコロニーは、やがて「サイド」と呼ばれる区画に整理され、宇宙世紀――ユニバーサル・センチュリー――という新たな暦のもと、人々は地球を離れた暮らしを営むようになっていた。
サイド3、通称ジオン。
地球連邦政府からの独立を掲げるこの一群のコロニー国家は、宇宙世紀0079年1月3日、ついにその牙を剥く。
午前7時20分。ジオン公国は地球連邦政府に対し、正式に宣戦布告を行った。
――僕は、その瞬間を、確かにこの目で見ていた。
いや、正確には「見ていた」というより、モニター越しに、耳障りな警報と共に叩き込まれた、というべきかもしれない。
出撃を告げるブザーが鳴り響く格納庫で、僕は自分の機体――ザクIIの狭いコクピットに滑り込みながら、場違いなほど冷静にそんなことを考えていた。
隣の整備員が叫ぶように何かを言っている。エンジン始動、各部異常なし、幸運を、というようなことだったと思う。だがその声も、今の僕にはひどく遠く聞こえた。
戦争が、始まる。
これから僕が向かうのは、訓練でも演習でもない。人が、人を殺すための場所だ。
カタパルトへと機体が押し出されていく。宇宙の闇が、目の前いっぱいに広がる。
――思えば、ここに至るまでの道のりは、ひどく穏やかなものだった。
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僕がモビルスーツのシミュレーターに初めて触れたのは、14歳頃だった。
両親はどちらも技術士官で、モビルスーツの開発に携わっていた。家に帰れば当たり前のように図面が広がり、休日には試作機のデータを前に二人で議論している。そんな両親の背中を見て育った僕にとって、シミュレーターは玩具となんら変わらないものだった。
「リオン、また記録更新したの?」
たまの休みに帰ってきた四つ上の姉、リリアは、呆れたような、それでいてどこか誇らしげな顔でいつも僕を見ていた。
ゲーム感覚でやるシミュレーターは最新ゲームよりも楽しい。最短距離、最適解。それをただなぞるのではなく、自分自身の手で探し当てたくなる。シミュレーターのスコアボードの上に、僕はいつも自分だけの道を探していた。
大好きな姉が士官学校に進むと聞いたのは、僕がまだ十三の時だ。
「私が先に行って、道を均しておいてあげる」
冗談めかしてそう言った姉の背中を、僕はただ眩しく見上げていた。追いつきたい。並びたい。そう思うまでに、そう時間はかからなかった。
十七になる年、僕は士官学校の門をくぐった。
筆記試験はぎりぎりの繰り上げ合格だったと、後になって知った。けれど、そんなことはどうでもよかった。この場所でなら、僕はきっと――
そこから始まる日々が、まさか一年後、こんな形で戦場に繋がっているとは、あの頃の僕はまだ知る由もなかった。
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入学初日の朝は、最悪だった。
寮の場所を勘違いして走り回った挙句、整列時間ぎりぎりに滑り込んだ僕を待っていたのは、既に整然と並んだ同期生たちの、冷ややかな視線だった。
「――繰り上げ合格の、リオン・ワーカーだな」
そう声をかけてきたのは、僕より頭一つ分背の高い、いかにも「できる」といった空気を纏った男だった。
「クルト・シュタイナーだ。首席入学者として、今日から班長を務めさせてもらう」
差し出された握手に応じながら、僕は素直に「よろしく」とだけ返した。悪気はなかったのだが、それがどうやら彼の気に障ったらしい。眉間に、微かな皺が寄ったのを僕は見逃さなかった。
整列後、僕らはそのまま実技棟へと案内された。オリエンテーションもそこそこに、いきなり四人一組での模擬戦形式の適性検査が始まると聞かされたのは、その道すがらのことだった。
「四人一組……?」
「らしいな。名簿順なら俺とお前が同じ組になるとは思えない。無作為に選ばれたんだろう」
クルトが淡々と答える。彼の隣には、既に二人の女子生徒が並んでいた。
「エルフィ・レンナーです。よろしくお願いします」
小柄な体に不釣り合いなほど分厚い資料を抱えた少女が、丁寧に頭を下げる。目には知的な光が宿っていたが、心なしか顔色は優れないように見えた。
「……グレタ」
もう一人、名乗るなり視線を実技棟の壁に張り出された機体構造図へと逸らしてしまった長身の女子生徒――グレタ・ホフマンは、僕らの自己紹介などまるで耳に入っていない様子だった。
「おい、聞いているのか」
「ん? ああ、聞いてる聞いてる。それよりこの図、旧式のザクなのに関節の稼働域がやけに広く設計されてるな……訓練用にわざわざ改修したのか?」
「……本当に聞いてなかっただろう」
クルトが額に手を当てる。その様子に、僕はつい笑ってしまった。
「面白いチームだね、僕たち」
「呑気だな、お前は」
クルトの声には、隠しきれない苛立ちが滲んでいた。無理もない。首席入学の彼から見れば、繰り上げ合格の落ちこぼれと、人の話を聞かない整備マニアに、消えそうなほど大人しい優等生。この組み合わせに、勝算を見出すのは難しいだろう。
だが、僕には奇妙な確信があった。
――案外、悪くない。
根拠のない予感は、そのまま実技棟の扉の向こうへと、僕らを運んでいった。
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訓練用に改修された複座式の旧ザク――前席に生徒、後席に教官が座る形式の機体が四機、演習場のカタパルトに並んでいた。
「本日の適性検査は、模擬戦形式で行う。相手は教導班のベテランパイロット一機。お前たち四人で挑んでもらう」
放送越しに響く教官の言葉に、演習場がざわめいた。
「一機に、四人がかりですか」
クルトが眉をひそめて聞き返す。
「文句があるのか」
「いえ……ただ、些か不公平では」
「不公平、か」
スピーカー越しに、教官の声が僅かに笑いを含んだ。
「四人がかりで、それでも足りぬというなら――貴様らはよほど、己の無力を分かっているらしい」
言葉の刃は、静かで、それだけに深く刺さった。誰も、それ以上言い返せなかった。
開始のブザーと共に、僕らは散開する。
だが、勝負は一瞬でついた。
最初に沈んだのは、グレタだった。教導機の射撃が、防御姿勢を取る間もなく左肩の推進器を正確に撃ち抜く。バランスを失った機体が錐揉みしながら演習場の壁面へと叩きつけられ、判定装置が甲高い電子音を鳴らした。
「グレタ、機体撃破――大破判定」
追い討つように、教導機はそのままエルフィの機体へと矛先を変える。回避しようとした機体の動きは、けれど焦りのあまり単調で、読み切られていた。振り抜かれたヒートホークの峰が、防御に上げた腕部装甲を叩き割る。膝から崩れるように、機体がその場に頽れた。
「エルフィも、判定大破……!」
僕の後席で、教官が驚いたような声を漏らす。開始から十数秒足らず。二人の機体は、まともに反撃する暇もなく戦線を離脱させられていた。
「な……」
通信越しに、クルトの息を呑む音が聞こえた。
教導機の動きは、これまで見てきたどのシミュレーターのデータとも違っていた。無駄がなく、けれど無機質でもない。まるで、こちらの動きを先読みしているかのような――
「クルト、指示を」
僕が呼びかけても、返事はなかった。ヘッドセット越しに、彼の呼吸が浅くなっていくのが分かる。目の前で二人が一瞬で沈められた光景に、完璧な作戦を組み立てるはずの頭が、まだ追いついていないのだろう。
教導機が、機体を止めたままのクルトへと照準を移した。
――まずい。
棒立ちの獲物を前に、教導機の動きに迷いはなかった。射線が、まっすぐクルトの機体へと吸い込まれていく。
「クルト、動け……!」
叫んでも、反応はない。
僕は考えるより先に、マシンガンの引き金を引いていた。一斉掃射。狙いなど二の次だ、ただ弾幕でこちらへ意識を向けさせればいい。
教導機の照準が、ぶれた。クルトから逸れ、僕へと向き直る。
――もらった。
狙いが自分に移った、その一瞬の間に、僕は空になった弾倉を叩き落とし、次弾を叩き込んだ。リロードの数秒は、本来ならこの上ない隙になる。だが教導機がこちらへ意識を向けている今この時こそ、クルトにとっては唯一の猶予だった。
「クルト、今のうちに離脱を!」
通信越しに、機体が慌てて後退する気配が伝わってくる。
――好き勝手、やってもいいよね。
誰の許可を得たわけでもない。作戦も、フォーメーションも、もはや意味を成していない。だったら、あとは自分の思うようにやるだけだ。ゲームのスコアボードに挑むときと、何も変わらない。
教導機がこちらへと向き直る。僕はスロットルを開き――突っ込みかけて、思い直した。
真っ直ぐ距離を詰めるのは、悪手だ。
僕は代わりに、腰だめに構えたマシンガンを掃射した。狙いは、当てることではない。教導機の進路を、僅かでも自分の思う方向へ誘い込むことだ。
弾幕を嫌って教導機が軌道をずらす。その動きこそが、僕の欲しかったものだった。
――そこ。
教導機の機動が、僕の間合いに入った。その瞬間を逃さず、僕はブースターを全開に叩き込んだ。
シミュレーターとは、何もかもが違った。
機体はデータより重く、思った通りの軌道を描いてくれない。慣性が、装甲の質量が、逐一僕の動きに待ったをかけてくる。頭では分かっていたはずのそれを、初めて肌で味わっている。
「うわ、ほんとに重いんだ、これ……!」
思わず声が漏れた。恐怖ではなく、なぜか笑いが込み上げてくる。制御しきれない機体の重さそのものが、たまらなく面白かった。
距離が、一気に潰れる。マシンガンを放り出し、僕はヒートホークを引き抜いた。
ミドルレンジから、間合いを潰しての白兵戦。射撃ではなく、あえてその距離を選んだのは、理屈ではなく、そこが一番"自分の得意な間合い"だと感じたからだ。
一撃、二撃。だが、思うように刃が届かない。シミュレーターの中では、身体の一部のように動いたはずの太刀筋が、実機ではことごとくズレていく。反応速度、可動域、慣性のかかり方――何もかもが、これまで積み上げてきた感覚とは微妙に違っていた。
「くっ……!」
空を切る刃に、思わず舌打ちが漏れる。だが、僕は止まらなかった。
脚部を使って、わざと機体のバランスを崩すように蹴りを織り交ぜる。綺麗な太刀筋ではない。むしろ、教本にあればすぐに直されるような、悪い癖のある足運びだ。だが、狙い通りに動かせない実機だからこそ、その乱れた動きが、逆に教導機の"読み"を狂わせた。
思った通りに動かせないなら、動かせない分だけ、予測もできないはずだ。データではなく、今この瞬間の"手応え"だけを頼りに。
三合、四合と刃を交わすうちに、僕の動きはさらに崩れていった。バックステップのつもりが半回転してしまい、そのまま勢いで繰り出した蹴りが、狙ってもいない位置に命中する。腕を振り上げた反動で機体ごと横に流れ、体勢を崩しながらもヒートホークを振り回す。とても褒められた太刀筋ではなかったが、教導機はその都度、僅かに反応を乱された。
「な、なんなんだ、あの動きは……」
通信越しに、クルトの呆然とした呟きが漏れ聞こえた。
僕自身、自分が次にどう動くか、正直よく分かっていなかった。だがそれでいい。分からないのは、目の前の教導機も同じはずだ。
組み合っては離れ、離れてはまた組み合う。何度目かの鍔迫り合いの末、僕の振るった一撃が、ついに教導機の肩部装甲を浅く抉った。
「――そこ!」
だがその刹那、教導機もまた僕の隙を見逃さず、ヒートホークの峰がこちらの腕部に叩き込まれる。互いの得物が、真正面から噛み合った。
鍔迫り合い。動かない、動けない、拮抗した力の中で、コクピット越しに相手の気配だけがやけに近く感じられた。
――ブザーが鳴る。
「時間切れ。……判定、痛み分け」
放送からそう告げられた瞬間、演習場に、誰のものとも分からないため息が漏れた。
機体を降りるなり、待っていたのは労いの言葉ではなかった。
「貴様、あの動きは何だ! フォーメーションもクソもない、ただの出鱈目じゃないか! 機体を壊す気か!」
後席から降りてきた教官が、顔を真っ赤にして怒鳴りつけてくる。バックステップの失敗も、狙ってもいない蹴りも、全て見抜かれていた。
「機体構造も分からんくせに、あんな無茶な動かし方を……! 今日び訓練機の予備なんぞそう何台もないんだぞ、分かっているのか!」
ガミガミと続く説教を、僕はただ「はい」「すみません」と繰り返しながら聞き流していた。
その様子を、少し離れた場所からクルトが眺めていた。
(――本当に、落ちこぼれかよ、あいつ)
心の中で、そう呟く。皮肉のつもりだった。だが、口の中はやけに苦かった。
完璧な作戦を組み立てたはずの自分は、たった一機の教導機を前に、指一本動かせずにいた。隣で滅茶苦茶に暴れていた男の方が、結果としてよほど戦果を上げている。
――俺は、一体何を積み上げてきたんだ。
誰にも聞こえないその呟きは、演習場の喧騒に紛れて消えていった。
こうして僕の初めての実機訓練は、一時間近くに及ぶこってりとした説教で幕を閉じた。
楽しかった。それは間違いない。だが、あの後の一時間は、正直、最悪だった。
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初日のあの一件は、瞬く間に学年中に知れ渡った。
「四人がかりでも敵わないはずの教導機と、痛み分け」「フォーメーション無視の無茶な単騎戦法」――尾ひれのついた噂話が、廊下ですれ違う同期生たちの視線に混じるようになるまで、そう時間はかからなかった。
「お前のせいで、俺まで奇人変人扱いされている気がするんだが」
翌朝の食堂で、クルトが眉間に皺を寄せながらそう零した。
「え、僕のせい?」
「他に誰がいる」
心底不服そうな顔をしながらも、クルトは律儀に僕の隣の席に腰を下ろす。しかもそれは、その日だけの話ではなかった。
朝食も、座学の席も、実技の合間の休憩時間も。気づけばクルトは、当たり前のように僕らのそばにいた。
「班長としての義務感、ってやつ?」
「……勝手に納得するな」
そう言って視線を逸らす横顔は、けれど本気で嫌がっているようには見えなかった。
グレタは相変わらず、機体の話になると誰の声も届かなくなる。エルフィは分厚い教本を片手に、時折こちらの会話にぽつりと鋭い指摘を挟んでくる。四人が四人とも、噛み合っているとは到底言えない。それでも、なぜか自然と同じ食卓を囲むようになっていた。
そんな日々が、瞬く間に過ぎていった。
座学、実技、休日の外出許可を巡るちょっとした揉め事。基礎教練を終えた一年目、応用実技に明け暮れた二年目。積み上げていく時間の中で、僕らは少しずつ、けれど確かに、互いの間合いを覚えていった。
そしてその頃には、四人それぞれが、否応なく学年の中で名前の知られる存在になっていた。
僕は、実機での訓練を重ねるうちに、機体特有の重さや挙動を骨の髄まで覚え込んでいた。だが、それをそのままシミュレーターのように綺麗になぞるつもりはなかった。むしろ、把握したからこそ、あえて型を崩す。機体を摩耗させながら、教本にない動きで敵を惑わす戦い方は、教官陣の間で「危なっかしい」と「目が離せない」の両方の評判を呼んでいた。
「また関節部の限界稼働域を超えてるじゃないか、これ……」
整備班からそんな呆れ声が漏れるのも、もはや日常の一部だった。
グレタは、遠目には近寄りがたい美人として、下級生からもよく噂されるようになっていた。だが実際に話しかけようものなら、誰彼構わず機体の話が止まらなくなることを、今では同期のほとんどが知っている。
「その脚部フレームの設計、実は旧型のマイナーチェンジで――」
一度スイッチが入ると、相手が誰であろうと解説が終わるまで解放されない。それもまた、彼女らしい"評判"のひとつだった。
エルフィは、戦術と兵站の知識、そして立案力において、既に教官陣すら舌を巻くほどの頭脳を発揮していた。演習の講評会で、彼女の分析が教官の想定を上回ることも一度や二度ではなかった。
「後方の補給線を軽視した机上の空論だ、と講評された作戦を、実際の兵站データで裏付けて再提出したらしいぞ」
そんな噂が、まことしやかに学年中を駆け巡っていた。
そして、クルトは――そんな癖しかない僕ら三人を、なんとか、本当になんとか纏めながら、それでいて全ての教科で優秀な成績を修め続けていた。
「よくやってられるよね、僕らの面倒」
ある日、そう軽口を叩いた僕に、クルトは呆れたような、それでいてどこか満更でもなさそうな顔を返した。
「最初は、正直割に合わないと思っていた。だが……お前ら三人を纏めていくうちに、こうして引っ張っていくのも、悪くない気がしてきたんだよ」
そう言った横顔には、以前のような苛立ちはなかった。
そして――最終学年。
士官学校三年目のこの年、生徒たちは初めて、自らの適性と希望をもとに進路を選ぶことになる。パイロット科、指揮官科、参謀科、そして整備科。これまで共に机を並べてきた同期たちが、それぞれの道へと枝分かれしていく最初の分岐点だった。
「僕は、やっぱりパイロット科かな」
迷うまでもなかった。誰よりも早く志望用紙に書き込んだ僕を見て、クルトは小さく笑った。
「意外性のかけらもないな」
「クルトは?」
「指揮官科だ」
迷いのない声だった。
「私は参謀科を希望します」
エルフィが静かに、けれど確信を持った声で告げる。彼女の分析力は、既に教官陣の間でも評判になっていた。
「グレタは……整備科、だよね」
「うん」
珍しく短く、はっきりとした返事だった。彼女にとって、それだけは迷う余地のない選択だったのだろう。
志望はばらばらだった。パイロット、指揮官、参謀、整備。これから先、僕らは別々の道を歩んでいくのだと、誰もがそう思っていた。
だから、最終学年の配属チーム発表の日、掲示板に張り出された名簿を見て、僕らは揃って言葉を失った。
「――同じ、班?」
四人の名前が、また一つの枠の中に並んでいた。パイロット科、指揮官科、参謀科、整備科――本来なら決して交わらないはずの進路が、なぜか一つのチームとして再び組み合わされている。
「偶然、か……?」
クルトが呟く声には、既に確信めいた響きがあった。二年前、あの模擬戦の日に組まされた時と、同じ台詞だった。
僕には、分からなかった。偶然なのか、それとも――誰かの意図なのか。
ただ一つだけ、はっきりしていたのは。
「なんか、嬉しいね」
そう笑った僕に、クルトは呆れたように、けれどどこか安堵したような顔で肩をすくめた。
この時の僕らはまだ、知らなかった。
この奇妙な巡り合わせが、これから始まる戦争の中で、どれほど得難いものだったのかを。