二度目の走路は、一度目より静かだった。杭と白布は同じ位置に立ち、転倒位置の土は朝のうちにヘルマン軍曹とブルーム技師が鍬で耕して、鉄の棒で硬さを測り終えている。違うのは、機体の足元にグレタが立っていることだった。ひずみ計の記録紙を片手に、もう片手で膝の外装を叩き、音を聞いている。
「ガルム1より各員。走ります」
ペダルを踏み込む。J型が泥を蹴って加速し、三本目の杭で向きを変え、片足で降りる。右膝に衝撃が来た。内へ逃がそうとする癖が出かけたところを、踏む角度を指一本ぶん変えて外へ流す。流したぶん、足首が泥を噛んで鳴いた。膝は鳴かなかった。
降機すると、グレタが記録紙をこちらへ突き出した。
「ひずみ、右膝は前の半分」
「半分か」
「残りは癖じゃない。機体の側。こっちで詰める」
それだけだった。礼を言う前に、彼女はもう脚部の点検口を開けて、中へ首を突っ込んでいる。少し離れた場所では、ブラントが土を指でつまんで確かめていた。こちらの歩き方をちらりと見て、何も言わずに頷く。それで十分だと思った。
クルスト博士が来たのは、その翌朝だった。
整備棟の前に降りた連絡機から、最初に出てきたのは計器の箱だった。ヘルマンとブルームが二人がかりで運び出し、その後ろから、がっしりした体格の男がゆっくりと降りてくる。軍服の上に白衣を羽織っているが、恐ろしいほど似合っていない。白髪交じりの短髪に太い眉で、軍人のような風貌だった。五十代半ばに見えた。こちらの敬礼にも、整列した面々にも目をくれず、まっすぐ整備棟の中へ歩いていく。
「あの、博士。ご挨拶を」
ヘルマンが慌てて追いかけたが、博士は聞いていなかった。台の上のJ型は、右膝と左肩の外装を外されたままだった。博士はその前で足を止め、膝のひずみ痕、肩の凹み、乾いた泥の跡を、順に見ていく。指で凹みをなぞり、鼻先を近づけ、それからようやく振り向いた。
「誰が殴らせた」
「自分です。実証試験局に追加を申請しました」
「申請は読んだ。許可を出したのは局だ。……君がワーカー中尉か」
「はい」
「結構。壊れ方が揃っている」
それだけ言って、博士は台に視線を戻した。言伝は、こういう意味だったのか。揃えたつもりはなかったが、結果として揃っていたらしい。
「博士。右膝、受けの癖が出てた。昨日、直した」
台の下から、グレタの声がした。這い出てきた彼女を、博士は上から下まで眺める。
「君は」
「グレタ・ホフマン。J型を預かってる」
「直した、と言ったな」
「直した。半分」
「残せばよかった」
「は?」
「癖はデータだ。直す前に、もう少し取りたかった」
「壊れる前に直すのが整備」
二人の間で、空気が軋んだ気がした。ブラントがこちらを見て、わずかに首を振る。入るな、という意味だと受け取って、黙っていた。
博士はそれきり視線を切り、箱から取り出した記録の束を台に広げ始めた。足元で黒い犬が寝返りを打つのを、軽く跨いで避ける。一瞬だけ、動きが止まった。
「これは」
「居着いてしまいまして」ブラントが答える。「衛生上の問題があれば、自分が引き取ります」
「……いや。踏まなければ構わない」
博士はそう言って、また記録に目を落とした。
「模擬弾の一対二は、明日だったな。私が観測する。今日のうちに、君の話を聞いておきたい。少し時間を取ってくれ」
「はい」
管理棟の一室を借りた。博士は椅子に座らず、窓際に立ったまま話した。早口で、こちらの顔はほとんど見ない。窓の外には、掘り返された黒い土と、その向こうに並ぶ採掘場の設備が見えていた。
「J型の本来の試験は、脚が地上でどれだけ持つかを見ることだ。それは君のおかげで、かなり進んだ」
博士はそこで言葉を切った。窓の外へ目をやったまま、しばらく黙っている。掘り返された土の上を、風が低く渡っていった。
「ここからは、別の話をする。脚が持つかどうかは、機体の話だ。これから話すのは、人の話になる」
ゆっくりとこちらを振り向く。太い眉の下の目が、動かずにこちらを捉えていた。
「同じ機体に乗り、同じ命令を受け、同じ場所に立つ。それでも、帰ってくる者と、帰ってこない者に分かれる。その差がどこにあるか、考えたことはあるか」
「……あります」
「私は、そこを埋めたい。並のパイロットが、君と同じ動きをできるようにする」
返事ができなかった。握った拳の中で、爪が掌に食い込んでいる。帰ってこなかった顔が、いくつも浮かんだ。そのどれもが、腕が悪かったから死んだのではなかった。
「機体は、動かし方で別物になる。君の動かし方を、局で記録を取り寄せて見た。速い、というより、早い。踏んでから機体が動くまでの遅れを、君は先回りで消している。他のパイロットは、その遅れをそのまま抱えて戦っている。その差を、OSで埋めたい」
「並のパイロットでも、エース級の反応と機動ができるように、ということでしょうか」
「そう言えば分かりやすい。そのとおりだ」
「自分の動きが、そこまで役に立つのでしょうか」
「役に立つかどうかは、見てから決める。協力してくれるか」
ブラントの顔が浮かんだ。元戦車兵の、F型の脚で泥の上を跳べない男の顔だ。跳べたなら、あの人はもっと生きて帰れる。マリーナも。そう考えたとき、答えはもう決まっていた。
「やります。自分にできることなら」
「何でも、とは言わないのか」
「はい。博士に見ていただいて、決めていただきたいので」
博士が初めて、こちらを見た。そして、ほんの少しだけ口の端を動かした。
「いつから、そう動ける」
「いつから、とは言えません。家にあったシミュレーターで動かしていた頃から、士官学校まで、少しずつです。一番大きかったのは、特別機動大隊にいた一か月だと思います」
「何があった」
「シーマ中佐の小隊に配属されて、毎日のように追い回されました。撃たれて、外して、また撃たれて。黒い三連星の大尉方にも、折に触れて目を掛けていただきました。気づいたら、そうなっていました」
博士の手が止まった。
「……黒い三連星か」
「はい」
「それなら、納得がいく。あの三人に目を掛けられた者の動きだ。偶然ではない」
博士は記録紙に目を落とし、何やら書き込んでいた。しばらくして、顔を上げずに続ける。
「教わったのではないのか」
「教わったこともありますが、自分でもなぜ動けるのか、分かっていません。うまく説明できなくて、すみません」
「謝ることではない。説明できる者のほうが、珍しい」
博士は窓の外へ目を戻した。遠くで、マゼラアタックの履帯の音が低く響いている。
「説明できないものを、説明できるものに変える。それが私の仕事だ。君は、説明しなくていい。ただ、同じ動きを何度もやってもらう」
「分かりました」
「君は、自分の機体をわざと殴らせた人間だ。どこまでが限界か、私のほうでもちゃんと見る」
その夜、ブラントとマリーナを整備棟の隅に呼んで、博士の話を伝えた。自分の動かし方を記録して、並のパイロットでも使えるOSにするのだということ。明日の一対二は、そのための試験でもあること。
「明日の一対二は、J型の最終テストの一環です。博士が、自分の動きを記録します。お二人には、その相手役を務めていただきます」
「承知しました、中尉殿」ブラントは穏やかに言った。「中尉殿が跳べる理由が、自分たちにも使えるのなら、願ってもないことです」
「私もです。むしろ、私の弾が当たらない理由を、先に知りたいです」マリーナが腕を組む。「明日、遠慮しませんから。その、本気で」
「お願いします。軍曹の三発目を、楽しみにしています」
「……言いましたね、中尉。明日は、一発目から当てます」
マリーナが目を細める。ブラントが、咳払いのふりをして顔をそむけた。
「手加減は、お互いに無用でしょう」
ブラントの声は変わらず穏やかだったが、目だけが少し笑っていた。
一対二の試験は、翌朝、採掘場の外縁で行われた。廃土の丘が連なり、その間に掘り跡の段が階段のように並んでいる。身を隠せる場所と跳べる場所が、どちらも十分にあった。計画書の条件は短い。模擬弾の塗料が胴か頭に付けば撃墜、手足なら二か所で撃墜。近接用の武器は刃に塗料を塗った模擬刃に替えてあり、判定は同じ。弾の色は、こちらが白、ブラントが赤、マリーナが黄。判定はヘルマンとブルームが丘の上から行う。博士はその横で、箱から出した計器を三脚に据えていた。
開始前の整備棟の前は、いつもより慌ただしかった。ヘルマンが模擬弾の箱を並べ、色別の札を貼っていく。ブルームは無言で、丘の上に旗と無線機を運んでいた。グレタはJ型の膝に手を当て、昨夜の状態から変わっていないことを確かめてから、ようやく手を離す。
「膝が先に鳴いたら、止めて」
「分かった」
「止めなかったら、私が止める」
博士は計器の三脚の脚を、地面に突き刺すように据えていた。泥の硬さが場所ごとに違うことを、いちいち確かめて、位置を変えている。その間、一度も顔を上げなかった。こちらの機体の足元に立つと、ようやく一言だけ、こう言った。
「今日の君は、勝たなくていい」
「……はい。まず、お二人の動きを見ます。お伝えできることがあれば、伝えます」
「好きにしろ。ただ、手を抜いたところと、無理をしたところは、私が取る」
どちらなのか分からない言い方だった。けれど、少しだけ肩の力が抜けた。
乗機は、こちらがJ型、二人がF型のデチューン型。ブラントは120mmマシンガン、マリーナは120mmアサルトライフル、こちらも120mmマシンガン。弾はすべて模擬弾だ。
「始めます」
「了解」
「了解。遠慮はしませんからね、中尉」
「お願いします」
合図の無線が鳴った。
ペダルを踏む。J型が泥を蹴り、背中がシートへ沈んだ。ペダル越しに、濡れた土の重さが伝わってくる。全力の半分も出していない。この二本は、試験であり、稽古でもあった。二人が何を見て、どう動くのか。それを知らないまま全力で走れば、ただ速いだけの的になる。ブラントはMSに乗って、まだ日が浅い。経験を積ませる機会は、今しかなかった。もうひとつ。J型が、こちらの入力にどこまでついてくるのか。
踏み込みを、ひとつずつ変えて試す。ペダルを浅く、半ばまで、深く。脚が地を蹴るまでの遅れを数える。操縦桿を倒してから、機体が向きを変えるまでも、同じだ。浅いところは、素直に返る。深く踏むと、一拍だけ、遅れる。その遅れが、どこまで縮むのか。三本目に、全部を使うために。
一つ目の段を越える。モニターの端で、丘の稜線が流れていく。二つ目の縁へ向かう途中、足元で、ばしゃ、と黄色が弾けた。
マリーナだ。どこから。探すより先に、二発目が左肩の脇を抜けていった。空を裂く音が、すぐ耳元を通り過ぎる。
「……っ、外した。一発目から当てるって、言ったのに」押し殺した声だった。
「一発目から、というのは、嘘でしたか」
「嘘じゃありません。次は、当てます」
「二発目も、外れましたが」
「……っ。三発目で、当てます」
三発目が来る前に、縁を蹴った。右へ。バーニアを噴かして、向きを変える。降りる先は、掘り跡の段の底。
そこに、ブラントがいた。
着地に合わせて、バーニアを噴かす。その噴射音に、赤い弾が重なった。胸の前を、塗料の尾が抜けていく。外れたのではない。次に跳ぶ向きを削るための弾だ。
「曹長、前に出るなら、軍曹の射線を塞がない角度で。斜めに」
「斜めに。了解しました」
段の底を蹴り、ブラントの脇をすり抜けた。撃てる距離だった。撃たなかった。
背後で、ブラントが息を呑む音がした。
「……速い。目が、追いつきません」
「曹長、止まらないでください。降りる先を、先に押さえて」
「やっています!」
赤い弾が、段を削る。そこには、もうこちらはいない。跳び、噴かし、横へ滑り、また跳ぶ。モニターの景色が、右へ左へ振り回される。ブラントの銃口は、いつも、こちらの一歩後ろを追っていた。
頭上から、黄色い二連射が降ってくる。稜線の位置は変えたのに、弾は、降りる先ではなく、跳ぶ先へ偏る。バーニアを短く噴かす。足元を、弾が抜けた。
「当たらない……っ」
マリーナの声が、悔しさで歪んでいた。
「軍曹、狙うのは降りる先です。一段後ろの稜線から」
「分かってます……!」
返事が荒い。教えたことを試そうとして、体が、目が、追いつかない。それでも、二人は止まらなかった。弾を撃ち尽くす勢いで、撃ち込んでくる。
それなら、確かめる。
三度目の跳躍で、着地を、わざと半拍、遅らせた。段の底で、噴射を切り、脚を地につけたまま、動かない。ほんの一瞬。止まって見える、隙。
赤い弾が、一拍遅れて飛んだ。装甲に触れもしない。
「今、止まって……見えたのに」
返事はしなかった。もう一度、跳ぶ。もう一度、同じ隙を作る。今度は、黄色い二連射が先に着いた。左脚に衝撃。膝の少し上に、黄色が広がる。手足の一か所。
「当たった……!」
「軍曹、撃った後、動いてください。同じ場所に留まっています」
「……っ、はい!」
撃てば、そこへ弾が返ってくる。マリーナの機体が、慌てて稜線の裏へ転がった。
受け続けた。ブラントは、降りる前に、必ず止まって構える。マリーナは、撃った直後、同じ場所に少し留まる。素直で、基本に忠実だ。だから、読める。読めるぶん、隙も、はっきり作れる。
だが、二人は変わり始めていた。ブラントの機体が、こちらの脚を追っている。無線に、荒い呼吸が混じる。汗の匂いまで、届きそうだった。
「曹長、脚です。脚の曲がった方に、降ります」
「脚。……見えます!」
跳躍の途中で、わざと機体を泳がせた。バーニアを噴かし損ねたように、軌道がふらりと崩れる。見せ方は、拙くていい。誰かが、気づけば。
誰も、撃たなかった。ブラントの銃口が、一瞬だけ動いて、止まる。軌道が戻るまでの、わずかな間。追い打ちの反応が、間に合わなかった。
最後の跳躍で、右腕を、わざと開けた。着地の瞬間、ほんのわずか、脇が空く。
ブラントの赤い弾が、一拍早く、その脇をなぞった。ずらす。ずらした先へ、黄色い二連射が重なる。避けきれない。右腕の外装を、弾が叩いた。黄色が弾ける。手足の二か所目。
「撃墜。中尉機、右腕と左脚に一」ヘルマンの声が、無線に乗った。
一拍、無線が静まった。
「……勝った、んですか。私たち」
「曹長、息が」
「……ぎりぎりでした。右の膝が、悲鳴を上げています」ブラントの声は、荒かった。
「お二人の勝ちです」
世辞ではなかった。教えたことを、二人はその場で自分のものにして、こちらの動きを越えてきた。素直に、嬉しかった。
「降りましょう。機体を見ます」
降機して泥の上に立つ。グレタが、もう脚部の点検口を開けている。
「右膝、ひずみ、さっきより少し増えてる。左は問題なし」
「踏み込みを、半分ずつ深くしてみた。一段上までなら、ついてくる」
「その一段上を、本番でやるんでしょ」
「うん」
「じゃあ、そこまで。それ以上は、私が止める」
「頼むよ、グレタ」
少し離れた場所では、ブルームが二機のF型の脚部を、無言で見ていた。ブラントの機体は、右膝の外装が、わずかに凹んでいる。こちらの視線に気づくと、ブルームは手を止めずに言った。
「中尉。曹長機は、右膝だけが先に擦り減っています。止まる脚が、いつも同じです」
近づいてきたブラントが、自分の機体の膝を見上げた。
「右で止まる癖、ですか」
「止まる脚を左右で変えられれば、機体も、曹長も楽になります。今日の宿題にしましょう」
整備棟の影に、三人で腰を下ろした。缶の水に口をつけたまま、マリーナがしばらく黙っていた。それから、ぽつりと言った。
「中尉。一発も、撃ってきませんでしたね」
「はい」
「勝ちましたけど。……勝たせてもらった、が正しいですよね」
「そうではありません。お二人の動きを、見たかったので。撃てば、お二人の意識が、撃たれないことに向いてしまいます」
「理屈は、分かります」ブラントが、静かに言った。「ですが、自分たちは息が上がるまで撃って、中尉殿は一度も撃ち返さなかった。……正直に申し上げて、悔しいです」
「私もです。撃つ価値もない、って言われたみたいで」マリーナが、缶を握りしめた。
「価値がないなら、教えたりしません。二本目は、こちらからも撃ちます。お二人が次にどう動くべきか、弾で示します」
二人が、小さく頷く。こちらも缶を置き、息を吐いて、気持ちを切り替えた。
「では、お二人のいいところから。曹長は、降りる先を読む目が、本物です。戦車で培った、止まる場所を撃つ感覚は、MSでも通じます。軍曹は、弾道の置き方がうまい。二発目で外す前に、三発目の位置を決めている」
「悪いところは、ありますか」ブラントが静かに聞いた。
「曹長は、止まるとき、前に出すぎます。止まる瞬間は、撃つ側にとっても、撃たれる側にとっても、一番危ない。軍曹は、撃った後に、留まる。同じ場所に、二度続けて留まらないでください。一射したら、必ず稜線の裏へ」
「……言われてみれば、撃つたびに、同じ丘の肩でした」マリーナが、唇を噛んだ。
「もう一つ。一本目で、隙を四回、見せました」
「……隙、ですか」
「着地を遅らせて、止まって見せたのが二回。跳ぶ途中で、わざと機体を泳がせたのが一回。右腕の脇を開けたのが一回。狙えたのは、二回です」
「どれと、どれですか」ブラントが、静かに聞いた。
「着地の二回目と、右腕です。一回目は、撃つのが遅れました。泳がせたときは、お二人とも、撃ちませんでした」
ヘルマンが、二機のF型から外した戦闘記録を、整備棟の隅のモニターへ繋いだ。MSには、モノアイが見たものを戦闘ログとして残す装置が付いている。撃墠の判定にも使われるものだ。
「泳がせた場面を、見ましょう」
画面に、ブラントの照準枠が映った。跳んでいるJ型の軌道が、ふらりと崩れる。ほんの一瞬で、噴射が戻り、元の軌道に収まった。照準枠は、崩れた位置へ遅れて動き、そこで止まる。
「崩れた、と気づいたときには、もう、軌道が戻っていました」ブラントが、画面を見つめたまま言った。「反応が、間に合いませんでした」
「機体が崩れたなら、追い打ちです。崩れた瞬間に撃ち込めば、立て直す前に当たります。崩れたと分かってから撃つのでは、遅い」
映像が、マリーナの記録に切り替わった。照準枠の中に、J型は映っている。映ってはいるが、彼女の機体は、稜線の裏で位置を変えている最中だった。
「……私は、そもそも、撃てる位置にいませんでした」マリーナが、小さく言った。「見えてはいたのに、撃てる状態じゃなかった」
「撃った後の位置取りが、次の射撃を決めます。さっきの話と、同じです。隙は、見えた瞬間に消えます。見えたら、すぐ撃てる位置にいてください」
缶の水を一口飲んで、続けた。
「連携は、役割で分けると、いいです。曹長が前で、降りる先を押さえる。軍曹が後ろで、止まったところを撃つ。声は短く。右、左、降りる先。それだけで足ります」
「二本目は、それでやってみます」ブラントが頷いた。
「中尉の言う通りにやって、当たらなかったら、責任は取ってもらいますよ」マリーナが、わざとらしく眉を上げる。
「当たる前提で、お願いします」
ブラントが、小さく笑った。
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