「そうそう、話は変わるけど、人間が一番欲望を表に出しやすい状態って知ってる?」
「なんですか唐突に」
「まあ暇つぶしだと思って」
絶対嘘だ。
ただ、無視してると怪しまれるので答えておかなければならない。
「そうですね……飲酒してるときとか? よくサラリーマンが愚痴を吐いてますよね」
「ミスティアの屋台で飲んでた昨日のあなたみたいにね」
「どうしてそれを……」
「わたしさとり先生と仲いいのよ」
「人のプライバシーをなんだと思ってんですか」
「まあまあ。それも正解ね。けど、もう1つあるのよ」
「なんですか?」
「寝てるときよ」
そういうことか……。さっきの行為をダシにして、俺のとことんイジリ倒す魂胆なのだろう。
永琳は俺が今さっき意識を戻したと思っているはずだ。なら、このままシラを切っておいたほうがいいだろう。無意識で胸をまさぐるのも相当な罪だが、寝ぼけてやるよりまだマシだな。
「へー、勉強になりました」
「さっき寝ている姿を観察してたら、珍しく欲求丸出しなあなたが見えたのよ」
「そうなんですか? 俺に限ってそんなはことないかと……」
先ほどから笑いが途切れない永琳だが、俺の演技はバレてないようだ。
「けれどあれ、本当に寝ていたのかしらね? あの時明かりもついてたし、あなた何かつぶやいていたわよ。もしかしたらあれは確信犯……」
「何のことを言ってるんですか? そもそも話の中身が見えてこないんですが」
俺の顔は崩れてない。大丈夫だ、何の問題もない。
「まあ、結構すごいことをしてたのよ」
「はあ……あんまりよく覚えてないですね」
「そうなの? ならちょうどよかった。――大妖精起こしてくれる?」
大妖精を起こす? 何をするつもりだ?
「まだ真夜中ですよ。こんな時間に起こすのはちょっと」
「どうしても大妖精に見てもらいたいのよ」
「何をです?」
俺が尋ねると、永琳はおもむろに胸ポケットから何かを取り出した。両手で持てるサイズで、銀色で包まれていた。先端にはカメラのレンズらしきもの。
それを見た瞬間、嫌な汗が背中から噴き出る。忘れもしない。あれは小悪魔が持ち歩いている恐怖の……
「月の最新式ビデオカメラで録画しておいたさっきのあなたの行為よ」
「すみません、すべて俺が悪かったです」
それをやられたら俺の人生が確実に終わります。
「あっれ? けどさっきは何も覚えていないって」
「寝ぼけてましたけど記憶はあります……」
「すると……あなたは意識的に大妖精の胸を触ったあげく、それを隠そうとしたの?」
「はい……」
「やっぱり大妖精起こして報告させてもらっていいかしら?」
「反省してるので勘弁してください……」
俺の残機をゼロにする気なのだろうかこのドSな医者は。
本当に告げ口されたら冗談抜きで首がもげる事態に発展するので、上半身を精一杯下げて懇願する。
「だったら2つだけ約束を守ってもらえるかしら?」
「なんでもやります」
永琳の瞳が一気に真剣になる。
「まず大妖精を心配させないこと。あと、完治するまで外に出ないこと」
「わかりました」
外出禁止とはまたずいぶんと厳しい処置だ。それだけ重病なのだろうか。
「あの、俺の病気ってなんだったんですか?」
「よく考えてごらんなさい。高熱に猛烈な頭痛と頭のふらつき、節々の痛み。これだけ明確な症状がでていればわかるでしょう?」
「ああ……」
インフルエンザか……。
「じゃあもう寝なさい。また朝になったら来るから」
「はい。――その前に大妖精を移動させてもらえますか?」
「なんで? 隣で寝ればいいじゃない?」
「インフルが移ったら大変じゃないですか。明後日には弾幕ごっこ大会がありますし」
「大丈夫大丈夫。大妖精には即効性のワクチン打っておいたから」
「しかし、」
「ほら、目をそらさない!」
永琳は俺の肩に手をかけ、妖艶な微笑みで、
「少しは隣にいてあげなさい。それが大妖精にとって一番うれしいことだから」
「はい……」
俺の言葉をさえぎった。
今のはなかなかに卑怯だ。そんなこと言われたら、隣で寝るしか無くなってしまう。
「じゃあまたね~。キスの一つくらいやっておけば~」
「全力でお断りします」
永琳がドアを開けるところまでは確認できたが、まぶたがだんだん閉じていく。
あおむけの姿勢に戻ると即、深い眠りの世界へ戻っていった。
第五十四話でした。永琳&さとりのコンビは無敵ですね
小悪魔は月世界でビデオカメラを買ってましたよね。あれは伏線(仮)だ!
では!