東方好きの優斗と大妖精と   作:ゆう12906

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第五十六話 さとりの口撃

 大妖精は昼時に帰ってくるらしい。それまでの3時間半、1人で過ごさなければならない。

 

 外に出たくても教師として教壇に立ちたくても、身体がそれを許さない。インフルエンザに罹ったのは久しぶりだが、この体を押し付けられるような感覚は鮮明に覚えていた。

 

 何をすることもなく、ただ耐える時間が続く。苦しい時間が長く感じるのは科学的根拠があるらしい。相対性理論に書かれているとかなんとか。

 

 そんなどうでもいいことを考えていても、やっぱり時計の針は進まない。退屈過ぎて死にそうだ。

 

 なにか暇つぶしはないものかと、上半身を起こして首を回しあたりを確認してみる。すると、

 

「むむ……」

 

 数メートル先のテーブルにタブレッドが置いてあった。俺がぶっ倒れた後、永琳が回収して置いてくれたのだろう。

 

 思わず手が出そうになる。イケナイことだとは理解していても、身体が制御できない。熱のせいであろうか。

 

「……ハッ!」

 

 それでも思いっきり息を吐き、身体がベッドから出るのを留まらせる。

 

 必死に理性を働かせて、もう1度横たわる。画面を見たらさらに体調がひどくなることはわかりきっている。普通に考えれば寝ているのが最善の策だが……それでも……。

 

 欲望と理性の狭間でやきもきしていると、唐突に2人の人物が脳内に浮かんできた。その2人はそれぞれ、天使と悪魔を模していた。

 

 この天使と悪魔は確か……バレンタインの時と同じだ。天使が大妖精で悪魔がさとり。

 

 大妖精の羽が天使の羽毛のような羽に変わっていた。パタパタとわずかに揺れているのがかわいらしい。一方さとりはまさしく悪魔といえる角や尻尾があり、第3の目をさすりながら薄ら笑いを浮かべていた。

 

 こんなおかしい妄想をしてしまうなんて、どうやら俺の脳内はウイルスにむしばまれているようだ。だが、暇つぶしにもなるのは確かだし、面白そうだ。

 

 先に前に出てきたのはさとりのほうだった。

 

「やっちゃいましょうよ優斗さん。10分や20分パソコンいじったって、身体は悪くなりません。むしろ精神安定になるんですよ。これは心理カウンセラーとしての所見なので間違いはありません」

 

「絶対だめだよ! 風邪の時は寝てるのが一番だよ。それに明日には弾幕ごっこ大会もあるんだよ!」

 

「だからこそですよ。インフルエンザを1日で直すのは至難の業です。それを達成するには、精神面でのケアが重要なのです。これは心理カウンセラーとしての所見なので間違いはありません」

 

「だけど……それでもし体に何かあったら……」

 

「心配ありませんよ。もし電子機器をいじっただけで死ぬのなら、外の世界の方々はほとんど亡くなっています。なので心配する必要はないですよ。これは心理カウンセラーとしての所見なので間違いありません」

 

「うう……」

 

「お分かりいただけましたか? これが心理カウンセラーです」

 

 さすがさとり。理路整然としていながらも押しが強い。ディベートをやったら最強なのではないだろうか。ただし、心理カウンセラーは全く関係ないが。

 

 ただ大妖精の言うことも一理ある。パソコンをいじった結果、体調が悪くなっては本末転倒だ。

 

 ここはひとつ誰かに意見を聞きたいのだが……あいにく今は無理だ。

 

 はあ、とため息交じりの空気を漏らしたその時、

 

「――え?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 なにかの表現技法ではない。突然見上げていた天井から真っ黒な穴が開き、そこから誰かがベッドの横に落ちてきたのだ。

 

 まさか、と数秒間固まっていた。俺が思ったことがまるまる見透かされ、家に誰かが侵入してくる。そんなことあっていいはずがない。

 

 だが俺は知ってしまっている。それができる人物が1人いることを。

 

 なんだか頭痛がひどくなってきた。今度はどんなことをされるのやら……。

 

 その地霊殿の主は、気を付けの姿勢でこちらに視線を送った。そして一言、

 

「呼びましたか優斗さん」

 

「帰れ」

 

 先ほど脳内で登場した古明地さとり、その人だった。

 

 

 

 

 

 

 

「優斗さんが暇そうにしてるのが見えたので来ちゃいました。どうですか調子は?」

 

「さっきよりひどくなった気がするな」

 

「それは大変ですね、永琳先生に来てもらって、大妖精さんの胸の話をしてもらいますか?」

 

「いや……それは……」

 

「では改めて、調子はどうですか?」

 

「さとりが来たから少し良くなった。さすが地霊殿の主だな」

 

「お褒めいただき光栄です」

 

 だめだ、舌戦で勝てる気がしない。

 

 さっそく強烈なジャブを食らわせたさとりは、近くにあった丸椅子に座った。

 

「ところでさとり、2つほど質問があるんだが、」

 

「なんでしょ?」

 

 これ以上話を続けられるわけにはいかないので、強引に話をそらす。

 

「さっきの穴、どうしたんだ?」

 

 あんな時空をゆがめるような穴、紫でもない限り作れないだろう。

 

「ええ、優斗さんの思ってるとおりですよ。あの穴は紫先生が作って、ここと学校を繋げたものです。いつでもお見舞いに行けるようにとのご好意らしいです」

 

「プライバシーはどうなってるんだ」

 

「そんなのここでは、あってないようなものです」

 

 つまり、俺の行動がすべて監視されてるわけだ。気を付けないと。

 

「もう一つ、こっちのほうが大事なんだが、」

 

「私が優斗さんの秘密をばらさないか、ってことですか? ご心配なく、こいしにしか話しませんよ」

 

「そうじゃねえよ。俺の脳内に映った天使と悪魔。あれは誰がやったんだ?」

 

「やだな~、私に決まってるじゃないですか」

 

「…………」

 

 殺意がわいたのは言うまでもない。

 

 それにしても、このジト目で見られると、すべてを見透かされてるように感じる。

 

 例えばこのように、

 

「あ、そうそう。結局ネット見るんですよね。持ってきましたよ」

 

 一瞬で俺のパソコンを手元に持ってくるところとか。

 

 画面を開き、実に器用にマウスを使って操作するさとり。外の高校生のようだ。

 

「へえ……外の世界で私たちの人気投票やってるみたいですよ」

 

「東方キャラのか?」

 

「そうですね。残念ながら、優斗さんは入ってないみたいですね」

 

「あたりまえだ」

 

 1年に1度、非公式で人気投票をやってるという話を聞いたことがある。

 

 当然トップは霊夢……と思っていたのだが、こいしがとったこともあるらしい。

 

「優斗さんならだれに投票しますか? やっぱ大妖精さんですよね、そうですよね、決まってますよね。絶対入れますよね」

 

「畳み掛けるな。――けどまあ……そうなるな……」

 

「……さらっと惚気やがりましたね。さすがです」

 

「えっ?」

 

 さとりがあまりにぼそっと言うものなので、聞き取れなかった。

 

 あと投票するなら霖之助とかだな。

 

「ちなみに前回は……やっぱり霊夢さんでしたか」

 

「えっ?」

 

 今のさとりの言葉に違和感を覚えた。

 

 やっぱり霊夢? なんでこいつは外の世界で霊夢が人気なことを知ってるんだ?

 

「ちょっと待て。なぜ……」

 

「ああ、私外の世界の女子高生と交流があるんですよ。バレンタインのとき言いませんでしたっけ? この流れるようなパソコン技術も、彼女から教わったんです」

 

 そういえば前、さとりから外の板チョコをもらったな。けどあれの出所は教えてもらわなかったような……。

 

「話戻しますけど、私は今回こそこいしが1位になると思いますよ」

 

「いや、なんだかんだいって霊夢だろ」

 

「あれ? 大妖精さんを推さないんですか?」

 

「前回50番台だったし……きついだろ」

 

「やはり古明地姉妹は最強なのですね」

 

「今回こそはお前を抜いてやるからな」

 

 などと、人気ランキングの話を数十分続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「では優斗さん、もう帰りますね。あとはゆっくり休むよう」

 

「ああ、もう話疲れた」

 

 最初さとりが来たときは戦々恐々としていたが、なんだかんだ俺に気を使ってくれたようだ。おかげで暇が潰せた。

 

「じゃあ最後に催眠術をかけてあげましょう。――だんだんあなたは眠くな~る。目がとじ~る……」

 

「おいおい、そんなの効くわけ……」

 

 さとりの上ずった声に、思わず笑みがこぼれる。だが、その笑みはなぜが眠気を誘発させた。

 

 まぶたが自然と閉じて、意識が遠のいていく。

 




第五十五話でした。さっとりん!さっとりん!

優斗たちが話していた東方人気投票が始まってますね!(一月十五日現在)

みなさんはだれに投票しますか?

もし投票するキャラが決まってなかったら……ぜひ優斗と同じ投票先で!

では!




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