「起き上がれますか?」
小悪魔が手を差し伸べてくれる。強がって断りたい気もするが、そんな余裕はなかった。
「ん、悪いな……」
「せーので行きますよ。――ほら、大ちゃんも!」
「えっ? うん、わかった」
おとなしく両手を差し出すと、右が小悪魔、左が大妖精の柔らかい掌に包まれた。
「せーのっ!」
小悪魔の掛け声とともに、ものの数秒で起き上がることができた。
ところが足に力が入らない。小悪魔はそれを瞬時に察したのか、
「すぐに背負って!」
「ええ? ――こういうこと⁉」
小悪魔と大妖精の肩に体をゆだねた。男子高校生を背負わせてしまって、本当に申し訳ない。
「やっぱり手放しで安心できないよ……体に力が入ってないのが伝わってくる」
「ということは普段の優斗さんの身体を知っている、つまりベタベタ触ってるってこと? いやー、うらやましいなあ!」
「そ、そういうことじゃないよ⁉」
「はい、車いすに乗せるよ!」
大妖精の疑問を即座に返す、さすがだ。
車いすに乗せられて、ゆっくりと会場へ移動する。
こうしてじっくりと周りを見渡してみると、さすが幻想郷、校庭1つとっても美しい。四方は高い針葉樹に囲まれていて、目の保養になる。特にあそこに立っている大杉なんて……あれ、魔理沙が根元で寝ている。
ぶっ倒れるのは悪いことばかりだと思っていたが、周りがよく見えるという点では評価できるかもしれない。
「そういえば、あのスキマは紫先生が繋いだの?」
その途中、車いすを押してくれている大妖精から尋ねられた。
「いや、それが違って、あれはさとりが作ったんだ」
「さとり先生? なんでスキマ作れるの?」
「ちょっと待ってください、さとり先生は私たちの審判務めるんですけど。なんで優斗さんと会ってるんですか?」
「ちょ、神子じゃないから同時に質問されても……」
「ああ、ごめんなさい。なんでさとり先生と会ったんですか?」
「えっと、ここに来る途中でスキマを作っていきなり出てきて……。それでここに飛ばされてきた」
嘘は言ってない。
「それで今さとり先生はどこ?」
「さあ……戻ってるといいんだが」
「もし試合開始までに来なかったら……」
「それは問題だな……俺が審判するか」
「やめてっ‼」
「いやいや、冗談だよ」
「優斗ならほんとにしかねないもん……」
「永琳先生からその場しのぎの鎮静剤までもらって来るくらいですからね」
「ちょ、そのことは……!」
「……その場しのぎ?」
大妖精の笑みが凍りつく。
ああ、分かる。分かるぞ……。大妖精のこめかみに青筋が立っていて、マンガのごとく額が陰で黒くなっている恐怖の顔が瞬時に想像できてしまう。
というかなんで小悪魔は薬の効果をそんなに細かく知ってるんだ……。秘密の通信回路でもあるというのか。
「ちょっと優斗、どういうこと…」
「おーっと! 会場に着いたみたいだな‼ さあ、いよいよ試合だ」
「私たちの集大成だね! 頑張ろう大ちゃん‼」
「あ……うん」
けれど小悪魔は一応フォローしてくれているので、まだ何とかなっている。当然、さとりや紫に慈悲など無い。
「2人の闘い、期待してるからな。今回はチーム戦だから、存分に1年1組に貢献してきてくれ」
「当然です! ここで勝たなくてが優斗さんに申し訳ないですよ!」
「ちょっと緊張するけど……精一杯ぶつかってくるよ!」
「それが聞けて安心した。よっし、いってこい!」
最後に2人の肩を軽くたたき、送り出す。
「あーあー。こちらさとり。優斗さんの調子はどうですか?」
「紫よ。無事に大妖精と合流できたみたい」
「文です! 車いす優斗さんとそれを押す大妖精さんを激写できました! まるで円熟夫婦みたいですね!」
にとり仕込みのトランシーバーで、優斗を困らせている面々は連絡を取り合っていた。
幻想郷にトランシーバーと聞くと首をかしげるかもしれない。だがにとりは以前、スマートフォンを優斗からもらっている。通話の仕組みが分かったにとりに、離れた者同士をつなげる道具を作ることなど、造作もないことだった……。
「こちら早苗。弾幕ごっこ観戦に最適な場所に優斗さんはいます!」
「小悪魔です。あとは大ちゃんが魅せる試合を見せられるか……ですね」
「あなたは試合に集中しなさい」
紫の的確な一言で、一斉に通信が切れた。
第六十五話でした。さとりに紫に文に早苗に小悪魔……濃いですねー。
スマホの伏線は幻想高校の日々のほうでやったような……やってないような……投稿頻度が遅すぎて忘れてしまった!
ではっ!