普段は俺を貶めることに全力を注いでいる早苗だが、その裏には確かな実力がある。普段チャラいやつが実は強い、そんなお約束な展開のあれだ。
そもそもあちらは自称人間の半分神様。人為的に豊作にさせたり、海を割るなんてお手の物だ。対してこちらは幻想郷最弱とも揶揄されている種族の、きわめて普通な妖精。ハナから不利な勝負なのだ。
――だが逆に考えれば、もし早苗に勝てたらジャイアントキリングということだ。
「ほらほら、どんどんツッコみますよ。――逃げてばかりでは勝てないですよ?」
「……だから挑発には乗らないって」
「ふむ、まあそのくらいはわかっていますけど、結局こちらから行くだけですけどね!」
早苗がお祓い棒を高々と上げると、その先端から諏訪子のように蛙弾が放出される。
「さらにもう1個」
今度はお祓い棒を横になぎった。すると今度は細かい粒弾。物量が違うな。
「さあさあ、今度は『フォーメーションケロケロブレイク』とでも題しましょうか! 弾けろっ‼」
2種類の弾幕が交差し、わずかな間だけ融合するように混ざり合い、
「うわっ! ――……しょうがない、魔符『フェアリーズマジック』!」
爆発四散した。完全ランダムでしかも高速の融合弾が、大妖精の四方八方を取り囲む。
たまらず2枚目のスペルを発動させて何とか弾消しを図ろうとする大妖精。今の状況を数学らしく表すと、早苗の通常弾=大妖精のスペルカードということだ。
「ふふ、これで使い切りましたね? 私の記憶が正しければ、あなたはこれしかスペルを持っていない。まあ3枚目を撃てる余裕があるか怪しいところですが」
「……っ、ずいぶんと余裕だね」
「そりゃこっちだって、日々霊夢さんに追いつけるよう精進していますからね」
息を切らしながら声を絞りっ出す大妖精に対し、薄ら笑いを浮かべる。
ああ、もうこれは――、
「おや、まさか大妖精さんが負けるとでも思いですか?」
終始心を読んでいる地底の主が車いすの下から聞いてきた。
「あんまりネガティブな思想は好きじゃないんだがな。1対1に持ち込まれた時点で相当厳しいと思うぞ」
「それは愛しの大ちゃんを裏切ったと判断してよろしいので?」
「あくまで事実を言ったまでだ」
愛しってなんだ愛しって。
「そんなんだからいつまでもチキン野郎って言われるんですよ」
「それは大妖精が言われて無かったか。ほら、もう1人の大妖精に」
「論点ずらさないでもらえます?」
「サーセン。でもやっぱり弾幕の濃さが……」
「はあ……」
大きなため息をつくと、さとりは車輪の隙間からこちらに目線を合わせてきた。珍しく、まるでゴミを見るかのような目で。
「ですから、その時点ですでにネガティブなんですよ! あなたは大妖精さんの一番の理解者でしょう? 信じなくて誰が大妖精さんを惚れさせるんですか?」
「わか、わかってるけどさ! ――あとちょいちょい恋愛要素入れてくるのやめろよ……頼むから」
それをされると正常な思考ができなくなりそうだ。
なぜか、なぜだか頭がぽーっとする。熱のせいだとすがりたくなるが、そんなことではないと体の奥からアピールされている。まったくもって不思議だ。
「ふーん。話変えますけど、結局わかったんですか。その動悸と息切れの原因」
「いや、まったくもって」
「はあ……もう誰かに相談しては?」
「言われなくてもその予定だ」
俺1人ではどうしようもない、きっと大妖精に話すしかないのだろう。大妖精ならきっと、分かってくれる。これも根拠は微塵もないが、なぜだか断定できそうな気がする。
「ったく、ここまでヘルプしたのにまーだ足りないんですか」
ぼそっ、とあまりに小さい独り言をつぶやく。その後彼女は車いすを跳ね飛ばし、不意に立ち上がった。
「おい、映姫に見つかるぞ」
「構いませんよ、今度こそ決めてくださいよ」
「何を?」
俺の質問をまるっきり無視して、さとりは2人が戦っている方へ首を傾けた。
「大妖精さん、ちょっといいですか?」
突然自分の名前呼ばれ、大妖精はとっさにこちらを向いた。
「は、はいっ⁉ ――さとり先生?」
「おっ、教育的指導ですか。どうぞごゆっくり」
早苗も空気を読んで弾幕を一時停止してくれた。いったいどんなさとり劇場が始まるのか。
「なんかですねー! 優斗さんが言うにはあなたが早苗さんに負けるらしいですよー!」
「ちょちょちょちょ、とんでもないこと告げ口するな⁉」
ただのチクリだった。
「……本当?」
「私は心を読む妖怪ですよ?」
しかも大妖精も信じてる⁉ いやまあ、状況が不利なことは動かしがたい真実だけどさ。
「優斗?」
出ましたデススマイル! 俺は死ぬ。
「そ、そんなことはない! 絶対に勝てるって信じてる、やれるから! こんな似非心理カウンセラーは信じるな!」
インフルエンザもびっくりの必死の弁解で説得する。こんなに大声を出したのは久しぶりだ。
「男は信用できませんからねー。どこまで信じてあげれるか……」
「信用できないことは無いと思うけど……不安だね」
「じゃあこうしましょう。もしこの勝負にあなたが勝ったら、優斗さんの二人きりで話をする。これなら優斗さんの本心もわかりますよ。ちょうど彼も言いたいことがあるそうですしおすし」
「なんでもいいよ」
「あの、俺の意見は取り入られないんですか……」
大妖精もバトルで熱くなっていつもの冷静な感じじゃなく、どんどん話が変な方向に向かっていく。
「じゃあそういうことで。中断させてしまいすみませんでした」
ぺこぺこと周りに謝り、事後のケアも忘れない。
「おい、どういう魂胆だ」
「私としてはあなたの願いをかなえたつもりですが。まっ、大妖精さんの頑張り次第ですね、いろんな意味で」
「はあ?」
さとりが言い終わった瞬間、今度は大妖精が口を開いた。
「早苗、私にチャンスをくれない?」
「おお、ついにやる気になってくれましたか!」
「このままやっててもジリ貧だし。それなら一縷にかけた方がいいかなって」
いつにもない自信に満ち溢れた表情が新鮮だ。今日は大妖精の熱い一面を見たような気が……
ドクン
「かはっ……!」
心臓が高らかに鳴り響く。だからなぜだって何回も言ってるんだ。なぜ経験したことのない感情がわく?
俺の葛藤はさとり以外には誰にも知られず、大妖精は続ける。
「お互いスペル1枚ずつで勝負するの。もう逃げも隠れもしないよ」
まさか、大妖精が3枚目のスペルを持っていただと? 俺が倒れている間にいつの間にそんな……。
「それは構いませんが……そんな悪条件でよろしいので?」
「自分からわざわざ不利な条件を仕掛けると思う?」
「おお、今日はいつにもまして強気ですね」
「今日は何が何でも絶対、勝たないといけないの。こあちゃんのためにも」
「……そしてあなた自身のため、でもあるわけですか。いいでしょう、いざ尋常に」
一陣の風が2人の間を通り抜ける。会場で無駄話をしているものは1人もおらず、静寂が包み込む。
さあ、本当のほんとにこれで、――決まる。
「ではっ‼」
「勝負だっ‼」
お互いのおそらく最強であろうスペルが取り出され、
「大奇跡『八坂の神風』!」
「『妖精の
第六十九話でした。投稿遅れてすみません。(デジャヴ)この前買ったBF1が面白すぎたのだ……。
結局さとりさんの出番かー。まあいいけど。(艦これネタですみません)
次回決着になると思います。しかし、優斗との延長戦がまだ残っていたり……。
ではっ!