「さあ、残りは西都だけだな。さっさといくぞ」
とりあえず発破だけかけておく。なお効果はあまりない。
『いや待て、その必要はない』
だが間髪入れずにサグメから待ったがかかった。
ガクッ、その横ではなぜかドレミーがひざを突いた。
『ちょ、どうしたドレミー』
「いえ、どうせなら最後までやりたいってだけです」
『別にいいじゃないか。小悪魔と早苗? とかいうのが殲滅してくれてるらしい』
「あ、」
「それって……」
大妖精と顔を見合わせる。こくん、とうなずきあって色々と悟った。あいつらもう移動してたのか。
「じゃあこれからどうするんだ」
『連中もこれで終わり、というわけにはいかないだろう。必ず攻勢に出てくるはずだ。それまで少し休んでおくといい』
「分かった。おーいみんな、戻るぞー」
「ごめんなさい、ちょっといいかしら?」
「なんでしょ」
背後からお姫様に呼び止められた。
「もしよかったら、依姫の様子を見てくれない?」
「えー、あの小娘の?」
「横から口を挟むな自称最強妖怪」
本気で月世界とやり合ったら幻想郷滅びるからマジで。
「それはかまわないが、容態は平気なのか」
「ええ、だいぶ回復したと。救護所は都の中心部分ですからすぐ着きますよ。――サグメ、案内をお願いできるかしら」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げる姿は、月世界の品格を感じさせた
「優斗さん、私サグメさんと結構長くいるんですけどー、あんな凛々しい姿初めてですよ」
「そうか、結構頼もしいじゃないか」
月世界の司令塔として機能しているようだし。なにより、この個性的なメンバーをまとめているわけで。
けど、ドレミーは全く納得いっていないようで、口上をまくし始めた。
「まさか! たまに夢世界に招待するんですけど、そのときのサグメさんはヒドいもんですよー。なにせ一歩も動かず、ご飯食べたいだのマンガ読みたいだのワガママ放題……そうだ。この前なんか」
ガシッ
しかし、ドレミーが次の言葉を発することはなかった。
「な! いつの間に裏を!」
『私はしゃべらない分、感覚が敏感なのよ』
ニッコリと、今まで見たこと無かった満面の笑みで、
「さあ、私が口にするわ。『あなたにとてもとても気持ちいいことが起こる』」
「ひ、ひええええええええええ」
ナイトキャップを引っ張って、夢の世界へ連行していった。
「……よし、じゃあ行くか!」
「2人の存在を無かったことにしようとしているの!?」
大妖精の手厳しいツッコミを頂戴したが、リスクマネージメント能力だけならピカイチのこの脊髄が、ドレミーを助けるなとささやいているもので。
豊姫直々に案内され、元来た道をしばらく戻ると、何もないところで立ち止まった。
「ここよ、少し待ってなさい」
こちらの返事を待つ前に扇を一なぎ。まあどうなるかはあらかた予想がつくが、それにしても仕組みがさっぱりわからない。
もちろん、一陣の風の後から床に秘密の地下通路が現われていた。
一人ずつしか進めない通路だったので、みんなに先を譲って最後尾から階段を下る。
「あのー、依姫さんとはどういう方ですか?」
すぐ前にいたさとりが首を180度曲げた。
「うーん、俺もそんなに関わってるわけじゃないけどな。厳しいけど責任感が強くていいやつだぞ」
「うっ……まるで映姫先生のようではありませんか」
「何か言いましたか?」
「ナンノコトダカ」
あのささやきを拾えるなんて、どれだけ地獄耳なんだ?
「あっ、いま優斗さんが映姫先生のこと地獄耳だって揶揄してましたよ」
「どうして口にしちゃうんだよ」
こっちも大概だけど。
ドアを開けると、やはり大勢のケガ兎が列を作っていた。
「うわあ……こんなに」
「確かにこれだけいると治療が大変そうだな」
俺がいまいち他人事なのは、そこにいる超優秀看護師の方がいるからだ。
「はい次、ほら、さっさとどきなさい。――はい治療完了」
時間を操る程度の能力はこのために存在したのではないのだろうか。咲夜が超速で包帯を巻いていた。
「あらみなさん、掃除は終わったんですか。暇なら手伝っていただけますか」
「その必要を全く感じないのだけど……」
「もしかして治療が怖いんですか? まあ貴方は治療される側ですからね」
「うーん、否定はできない」
結構無茶やってます。
「ほらほら、無駄話しない! ただでさえ忙しいんだから、面会するならさっさと行きなさい!」
奥から永琳の怒号が飛んでくる。珍しく白衣を着こんでいて、白衣の天使に見えなくもない。
「あそこのカーテン開けたらいるから。多分ふてくされて寝てるから、励ましてやって」
「ご迷惑をかけて申し訳ありません……」
「いえ、月世界のことだから。それにしても、ちょっとびっくりしたわよ。まさかあの子があんな傷で帰ってくるなんてね。よかったら、そこら辺の事情も聴いてもらえる? 敵の情報がわかるかもしれないし」
「承知しました」
「……永琳先生って偉いんだね」
「上に立つ者ほど変人だってことだな」
綿月姉妹が敬語を使うなんてねえ……しかも相手が永琳……いや、知ってたけど違和感がすごすぎる。
永琳に改めて首をかしげながら、仲良く移動する。
「依姫さん……いろいろイジってみたい……」
「目を輝かせるな」
なぜか恍惚としているさとりはほっておくとして、
「依姫ー、開けるわよー」
豊姫がカーテンのヘリに手にかける。
「あ、ちょ、」
そうしたら、その奥から久しぶりに聞いた依姫の声。ただ少し、か細かった。
ん? ちょっと待て。普通、「どうぞー」とかの返答するはずだよな。依姫があんな歯切れの悪い返事をするだろうか。
何かほかの理由が? いずれにしても、ただ事ではなさそう。
ここまでの思考で、0.5秒。
「ちょっと待って、一回依姫の話を……」
ダメだ、これでは間に合わない!
「へっ?」
……時すでに遅しとはまさにこのことかっ。すでに俺たちの間にそびえた壁は影も形もなく、
「あっ、」
「あら、」
「おおっ、サービスシーン」
「大妖精さん、優斗先生の目を塞ぎなさい!」
「言われなくても!」
これは避けきれなかった……気がする。俺は悪くない……気がする。
「ちょ、なんなのよ貴方たちー!」
ちょうど着替え中の依姫大先生が顔を真っ赤にしていた。……サラシかあ、大和撫子だな。
第八十話でした。綿月姉妹は二人でバランスとれてて好きです。(唐突)
そんな綿月姉妹ですが、原作だと一応既婚者らしいですよ。依姫の夫が豊姫の子ども(つまり依姫のおいっ子)……。月世界怖い。
先週、ほかの原稿書いてて遅れましてすみません。そっちもそっちで、締切日にモンスターエナジー突っ込んで間に合わせました。その日は頭が動かなかったとさ。
では!