東方好きの優斗と大妖精と   作:ゆう12906

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第九十二話 『器』を手に入れた者達

「あら、よく分かったわねん♪」

 

「貴方の噂は常々聞いています。私のような身分では拝見することさえ叶いませんが……しかし、こんな形でお会いできるとは」

 

映姫の声が震えていた。会社の上司と部下の関係を超えた、絶対的なヒエラルキーがあるとでもいうのか。

 

「優斗先生、よく聞いてください。今我々が正対しているヘカーティア様は実物ではない。言うなれば、あれも式神のような存在なのです」

 

「ご名答。本物の魂は……まっ、地獄の奥底ってところね」

 

「でもそれなら力は弱まってるはずでしょう? 全員で飛び掛かれば……」

 

「やめておきなさい紫先生。貴方の力でどうにかなる相手では……」

 

「ちょっと、何なんですかさっきからー!!」

 

険しい顔の映姫に待ったをかけたのは、これまでずっと口を閉じていた早苗。

 

あー……物足りなさそうな目をしている。今まで弱い奴らとしか戦ってなくて不完全燃焼なんだろうな。

 

「先生がそんなネガティブでどうするんですか!」

 

「早苗さん、ネガティブというわけではなくて、ただ事実を……」

 

「あんな変なTシャツヤローなんてこれだけ戦力があればきっと勝てます、大丈夫ですから!」

 

うわ、とうとう言っちゃった。みんな空気を察して口に出さないのに空気を読めない早苗さん言っちゃった。

 

「変な……?」

 

ほら、ヘカーティアが声を震わせている。案外煽り耐性はないのかもしれない。

 

それならむしろ好都合。心の安定を崩し、その隙に背後に回り込めば勝機はある。

 

――だが、刹那、

 

「――死ね!」

 

「危ない!」

 

「うわっ!」

 

3人の大声がほぼ同時に響いた。

 

ヘカーティアと早苗と、あとは……?

 

「……止められたか」

 

罵倒していたのはもちろんヘカーティアだろう。おそらく早苗に向かって何らかの弾幕を発射した。

 

……見えなかった。規格外のスピードだ。俺ならば、一瞬でやられてしまっただろう。

 

早苗が悲鳴を上げたのも無理はない。今の一瞬で彼女のお祓い坊が三分の一ほどえぐれていた。きっと彼女も反応できなかったに違いない。顔つきが先ほどとは180度変わっていた。

 

そしてもう1人は、

 

「……まったく、不安に駆られて来てみれば」

 

「あ、ありがとうござい゛ま゛す゛さ゛く゛や゛さ゛ん゛~」

 

あ、早苗が半ベソかいた。なんて珍しい。

 

そう、間に割って入ったのは十六夜咲夜。きっと時間を止めて超速の弾幕を払ったのだろう。

 

「あら、なかなか面白い能力してるのね」

 

「ええ。それにしても、不意打ちなんて美しくないですね。スペルカードルールをご存じないのですか?」

 

「もちろん。だってここは月でしょう? そして私は地獄の女神。どうしてそちらのルールに付き合う必要があるのかしら」

 

「女神ならそのくらいの包容力を見せてほしいものです」

 

「……貴方も大概ね。いいわ。そっちがその気なら」

 

空中でふわっと1回転。10メートルほど飛び上がった。

 

「来るぞ、準備を」

 

全員身構える。念には念を入れるに損はない。

 

「……お前らは私を愚弄した。それだけで、地獄の苦しみを受けるには十分だ」

 

また口調が変わった。……本気か。

 

「異界『逢魔ガ刻』」

 

「境符『四重結界』!」

 

ヘカーティアがスペルを唱えると同時に紫も防護壁を張る。これで相殺できるといいのだが……。

 

ヘカーティアのスペルはなんてことはない、紫色で棒状の弾幕だ。

 

「おらっ!」

 

それらが何百、何千と集まり、一斉に境界へ突撃する。

 

「はっ、そんな弾幕……」

 

紫の軽口が、止まった。

 

結界があきらかに歪んでいる。今までどんな敵でも、いや、どんな幻想郷の住人でも、破ることのできなかった最強スキマ妖怪の得意技に、ヒビが入った。

 

「何っ……なんなのよ」

 

これはもう……限界だ。

 

「ごめんなさい! 抑えきれない!」

 

考えうる限り最悪のスタートだった。まさか紫の結界が数秒で破られるなんて、だれが想像しただろう。

 

「皆、回避優先! できる人は相殺!」

 

「「「了解!」」」

 

まず俺、大妖精、小悪魔、椛は逃げを優先した。なるべく体力を使わないように体をひねりながら、最小限の弾幕で逃げ道を作る。

 

「優斗、こっち!」

 

さすが弾幕ごっこで鍛えられた大妖精だ。的確に弾の薄いところを突いてくる。俺も弾消しに優れたスペカを数枚発射し、なんとか援助する。

 

一方強者たちはそんな戦い方はしない。

 

「天丸『壺中の天地』!」

 

「魍魎『二重黒死蝶』!」

 

大妖怪と月の重役を筆頭に、無限に射出される弾を何とか消していく。

 

だが、それは結局対処療法でしかない。

 

こちらから打って出て、ヘカーティアに致命的な一撃を与えるしかこの弾幕を止める方法はない。

 

だが一体どうすれば。相手はこちらの常識を次々に打ち破る最凶の女神だ。俺の思考ですぐに倒せるような相手では……。

 

「おや、優斗さんが倒す必要はないと思いますけどね」

 

「並走するな」

 

考えているうちにさとりが横に出没していた。こんな時でも楽しそうだなコイツ。

 

「何のために永琳先生の出来立てのアレを飲まされたと思ってるんですか?」

 

「薬を飲んだだけなのにどうしてそんな表現ができるんだ」

 

「才能ですよ。で、その薬はヘカーティアさんを倒すものではないんでしょう?」

 

「ああ、そうだが」

 

「なら、こんなところは他の人に任せて、我々は行きましょう」

 

「……どこにだ」

 

「どこって、そりゃあ決着をつけるべきところですよ。ねえ、大妖精さん?」

 

「私も?」

 

「あなたも薬飲んだでしょう? その瞬間、あなたには権利が発声したんですよ。おいしいところをかっさらう権利をね」

 

つまり、俺たちがラスボスを倒す勇者になれという事か。

 

「……分かった」

 

「頼りないかもしれないけど、頑張るよ」

 

 

 

『こういう時はあなた達、って相場が決まってるのよ。その方がいろいろ対応できるでしょ?』

 

 

 

永琳の言葉が脳裏をよぎる。彼女は俺たちに期待を込め、希望を託したのだ。裏切るわけにはいかない。

 

いつものように大きく息を吐き、数秒「無」になる。

 

これで集中力も上がった。覚悟も、固まった。

 

「よし、善い目ですね。では、――ドレミーさん!」

 

さとりが夢空間の主を呼ぶと、

 

「へっ、――うわああああっ!?」

 

「きゃあああああ!?」

 

もうこのパターンも慣れたものだ。地面の間隔がなくなり、俺と大妖精は仲良く落下していった。

 




第九十二話でしたー。早苗さんは癒し。

この勢いでラストスパートです!失踪せずに疾走するぞ!(激寒)

では!
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