大海賊時代より……美少女船長の生・配・信! ─West India Company─ 作:海凪ととかる
「ゴン、ナミ、お主らは先に戦装束に着替えてきてくれ。俺はお主らが戻るまで見張りを続けるから」
全員一応武器は持っているとはいえ、それはあくまでも不意の遭遇戦に備えてのもので、今回のように早くに敵に気づけて迎撃準備の時間があるのなら、普段の当直では着けていない防具類も装着して備えることができる。
「おう。船長にも説明しておくからの」「わかったー。すぐ戻るでな」
見張り台に残ったショーゴは敵船のさらなる情報を求めて目を凝らす。岬の陰から密かに忍び寄ってきていた船だったが、こちらの船が慌ただしくなったことで気付かれたと悟ったのだろう。縮帆していた帆を次々に展帆して舳先で白波を蹴立てながらまっすぐにこちらに向かってきた。ショーゴは少しでも早く、少しでも多く情報を得ようと努める。
「
岬の陰から月明かりの下に出たことで敵の全貌が明らかになる。
「
次々に明らかになる情報をその都度甲板に向かって叫ぶ。
「総員、戦闘配置に就け! 敵はまだ遠いから焦らずに防具を着けろ! 錨を巻き上げろ! 準備のできたマスト員はマストに上がって帆を張れ! 甲板員はマスケット銃と大砲の準備だ!」
アボット船長の号令に従って総勢20人の乗組員たちが迎撃の準備を始める。
「ほい、待たせたの! ここはわしに任せてショーゴも準備に行くんじゃ!」
「おう。頼む」
雑賀の
「ショーゴ、よく見つけたな! 発見が早かったからこっちも余裕を持って備えられる。お前も準備ができたら甲板に上がって私のところに来い」
「
短く応じて船内に入ったショーゴが自分の私物入れから出した
「あ、ショーゴごめんな。すぐ戻る言うたのに準備に手間取ってもうてな」
「お父様に一番いいドレスに着替えてくるよう言われてナミに手伝ってもらっていたのよ」
「……船長は策士だな。アニーとナミを弾避けの御守りにするつもりか」
アボット船長の意図を正確に察したショーゴにナミとアネッタがそろってニンマリと人の悪い笑みを浮かべる。
「いひひ♪ うちとアニーみたいな年頃の可愛い女をうっかり撃ち殺してしもたら奴らにとっちゃ大損やからね。うちらがおめかしして甲板にいるだけで撃ってこなくなるならやらん手はないやね」
「女に飢えた海賊たちのギラギラした目は嫌なんだけどね。でもそれで仲間たちを助けられるならやぶさかじゃないわ。……ねぇショーゴ、どうかしら?」
「ああ。よく似合っている。海賊共もさぞかしやる気になるだろうな」
「海賊への撒き餌を演じるのは正直怖いわ。でもショーゴたちが守ってくれるって分かってるから、せいぜい美味しそうな餌を演じてみせるわね。……餌だけ取られないようにくれぐれもお願いよ?」
「任せておけ。絶対にアニーは守り抜く」
「アニーもショーゴのそばを離れたらあかんに」
そして、籠手と脛当てに加えて胴丸を身に付け、
すでに先に配置についた者たちによって帆は開かれ、錨は巻き上げられているので船は動き始めているが、ずんぐりとした船体の鈍重な旧式のキャラックと海軍の補助艦艇としても使われる快速のブリッグでは船足が違いすぎる。このままではいずれ追い付かれるのは確実だ。
「おう、3人とも来たな。いいか、敵は有利な風上で人数は30人以上、船の性能、大砲の数でも向こうが上だ。だから、敵の戦闘継続能力を奪い、追撃を断念させた上で引き離すことを第一目標にする。ショーゴ、お前ならどうする?」
「
アボット船長の問いに答えるショーゴ。
ちなみにショーゴたち3人とアネッタを加えた4人は仲間内では普段は日ノ本の言葉で話しているが、船長を含めた他の船員たちとはオランダ語で話している。ショーゴたち3人はオランダ語の聞き取りはほぼ完璧だが、話す方はまだ得意ではないのでどうしてもぎこちなくなる。
「それでいい。ショーゴ、お前はこのまま甲板の指揮を執れ。アニーはショーゴのそばにいて補佐につけ。ナミはこのまま私のそばにいて、敵船がもう少し近づいたら海賊を怖がる振りをしながらマストに上がってそのままマスト員を指揮しろ。ついでにゴンに狙撃のタイミングは任せると伝えろ」
「「「
ショーゴがアネッタと共に大砲の準備をしている乗組員のところを回り、すべての大砲に有効射程距離は短いが殺傷力の高い対人用散弾であるブドウ弾を装填させ、さらに殺傷力を上げるために割れた瓶のガラス片も詰め込ませる。
前装砲は1発撃ったらすぐには次を撃てないので、いっそのこと1発撃ったらそれでおしまいと割り切り、砲手たちがすぐに持ち換えれるように、装填済みのマスケット銃を敵からの死角にこっそりと数丁ずつ置いていく。
そうこうしているうちに敵船が追いついてくる。すでに距離は100ヤード(約91㍍)を切っており、海賊船の甲板でそれぞれに武器を持った汚ならしい男たちの表情や会話の内容さえも聞こえてくる。
「おい見ろや! 女が2人も乗ってるぜ!」「ひゃはは! 味比べだな!」「てめぇら下手くそな銃や大砲を撃つんじゃねぇぞ! こっちが数が多いんだ。斬り込みで制圧しろ!」「女は生け捕りだ!」
そして、派手な服を着た船長と思われる男がメガホンで甲板の海賊たちに発破をかける。
「野郎共! 敵の大砲を恐れるんじゃねぇぞ! あんなもんは1発撃ったら終いのこけおどしだ! 素人の大砲が当たらねぇことなんざてめぇらが一番知ってんだろぉ!」
「「「うおぉぉぉう!」」」
「降参する奴は生かしておけ! だが、抵抗する奴には容赦するな! ぶち殺して鮫の餌にしろぉ!」
「「「うおぉぉぉう!」」」
船長の煽動に海賊たちが握りしめたカトラスを突き上げ、ドンドンと足を踏み鳴らして呼応する。わざわざこちらの船に聞こえるようにメガホンを使っているあたり、こちらの抵抗の意気を挫く目的もあるのだろう。
「ひぃぃ! もうやだぁあああ!」
舵輪を握るアボット船長のそばに控えていたナミが金切り声を上げて駆け出し、メインマストの
その様子に海賊たちがますます興奮して囃し立てる。
「うひゃひゃひゃ! たまんねえな!」「おれぁまずはあのメイドちゃんにするぜ」「お嬢ちゃんはマストの上で待ってなぁ! 下を片付けたら迎えに行ってやるからよぉ!」「あーもう待ちきれねぇよぉ!」
ようやく見張り台にたどり着いて中に転がり込んだナミは海賊たちからの死角に入った瞬間、今までの泣き顔を一転させてにんまりと笑う。
「にひ♪ どやった?」
「いやぁ、さすがじゃのう。演技と分かっておっても騙されそうじゃったぞ。風に煽られたと見せかけて下着を見せつけたのもわざとじゃろう?」
くっくっくっと笑いを噛み殺すゴン。
「ひひっ♪ 女の武器を使った情報操作はくノ一の
ナミがぺろんとスカートの裾を捲り上げ、膝下まである
「腰巻きやったら下から中身が丸見えになるで興奮するんも分かるんやけど、こんなダボダボの
「いやー、それを見て興奮はせんのぅ。じゃが奴らとて、あくまでそれを脱がした後のことを想像して興奮しとるんじゃないかのぅ」
「いひっ♪ コレを脱いでも奴らが期待するもんちゃうけどね」
そう言いながらナミがドロワーズをずり下げれば、露わになるのはナミの素足ではなく忍装束の
「そうだゴン、船長が今回は敵の戦闘継続能力を奪ってさっさと逃げるってさ。狙撃のタイミングは任せるって伝言やで。甲板の方はショーゴが指揮を任されとるでな」
「ほうか。ショーゴが大砲にブドウ弾を装填しとるのはそういうことじゃな。わしの初手にショーゴが合わせてくれるんじゃったらやり易いのぅ。ほんなら一つ雑賀の鉄砲撃ちの怖さっちゅうもんを海賊共に教えてやろうかのぅ」
ゴンは不敵に笑うと、すでに装填済みの愛銃の火縄に、咥えたパイプから火を移して立ち上がった。
敵船との距離はすでに50ヤード(約45㍍)を切り、こちらの船に追い付いて左舷側から乗り込もうと、海賊たちが敵船の右舷船首側に集結している。
こちらの甲板では左舷側の5門のセーカー砲それぞれに砲手が取り付き、ショーゴからの号令を待っている。
月下のヴェルデ岬沖で、ついに戦いの火蓋が切られようとしていた。
【掲示板に代えての作者のオタク語り】
より臨場感を出してみたいなーと思いまして、ショーゴのアボット船長へのセリフだけ片言っぽいオランダ語のルビをつけてみました。気まぐれにこういう小ネタが仕込めるのがAI翻訳の凄いところですね。10年前に同じことをしようと思ったら辞書と何時間も睨めっこすることになったでしょうから気軽にこんなことできませんでしたよ。調査におけるAIの有用性たるや、いやはや凄い時代になったものです。ちなみに作者はGlokをメインで使っています。
さて、この作中における度量衡はヤード・ポンド法を採用しております。我々にお馴染みのメートル法が生まれたのは18世紀末のフランス革命後なので18世紀初頭をモデルにしているこの時代にはまだ使われていないからです。
ちなみに長さの単位はこんな感じです。
1インチ=25.4㎜
1フィート=12インチ=304.8㎜
1ヤード=3フィート=36インチ=914.4㎜
……なんでこんな使い勝手の悪い度量衡使ってるんですかね? 日本の尺貫法の方がよっぽど洗練されてますよ。尺貫法は10進法なので180mlを1合として10倍の1.8lで1升、100倍の18lで1斗。うむ。実に分かりやすい。
対してヤーポン法は1ヤードが3フィートで36インチって単位の繰り上げどないなっとんねん。その上、マイルが陸マイル(約1.6㎞)と海マイル(約1.85㎞)に分かれているとか、ただでさえややこしい度量衡をなんでわざわざ面倒くさい運用をするかな!?
あともう一つややこしいのが大砲の口径。インチという長さの単位があるんだから最初から口径をインチで表せばいいのに、何故か砲弾の重量で大砲のサイズを表す謎仕様。大砲の口径に合わせて砲弾を作ればいいのに、まず砲弾の重さありきでそれに合わせて大砲を作るからややこしいことこの上なし。しかも時代によって規格が変わります。
元々は例えば12ポンド砲弾を撃てる大砲が12ポンド砲だったのですが、やはり不便すぎたので口径の規格を統一して砲弾をそちらに合わせる形になり、19世紀末、世界がメートル法メインになっていく中で口径のセンチ=ポンドに変わっていきます。その場合の12ポンド砲は口径が12センチで実際の砲弾重量は4.1kgつまり9ポンドです。……もうここでやめちまえよヤーポン法。
そして近代になってライフル砲が発明されると事態はさらにややこしくなり、口径3インチつまり76ミリを12ポンド砲と呼ぶようになりました。そして大砲の能力の向上により、同じ口径でも砲弾重量が増え、第二次世界大戦時にイギリスがM4ファイヤーフライ戦車に主砲として搭載した17ポンド砲の口径は12ポンド砲と同じ3インチの76ミリ。もうむちゃくちゃです。
さすがにもう無理ということで20世紀半ばにはイギリス軍も現代的な表記に変わりましたが、他の国が19世紀に一斉にメートル法に切り替えた中で頑なにヤーポン法にこだわり続けたイギリス軍。これもまた英国面ってやつでしょう。