大海賊時代より……美少女船長の生・配・信! ─West India Company─ 作:海凪ととかる
「さて、初期設定を続けるよ。これは男性女性アバター共通だけど、自分がどんな方向に進んでいきたいかに合わせて得意ジャンルを3択から選ぶんだ。一度選んだら変更できないからよく考えなきゃいけないね。その選択肢はこんな感じだよ」
□経済/交易に役立つ目利きや交渉術の基礎知識
□海戦/水上戦闘に役立つ砲術や剣術や指揮の基礎知識
□航海/操船に役立つ航海術や帆船に関する基礎知識
──これは悩む。
──全部欲しい。
──どれも必要だろ。
──絞れねぇよ。
──マサムネは決めてるの?
──……
「んー、この中なら航海かな。海戦はほとんど経験ないけど砲術や剣術や軍勢指揮は経験あるし、目利きや交渉もそこそこできると思うんだよね。それより帆船についての基礎知識と航海術は未知のジャンルだから必要かなって」
──あ、納得。
──プレイヤーの元々のスキルと経験値は盲点だった。
──尾張のうつけ姫の経験値は大きいな。
──歴代マサムネキの記憶を引き継いでるのはすごいアドバンテージ。
──織田家の姫参謀長とドイツ空軍大将と随正規軍副将と凄腕外科医の経歴を持つカリブ海の駆け出し商人(笑)
──これなら航海一択だわ。
──……
「ということで得意ジャンルは航海にしたよ。じゃあ最後に、船と初期資金の設定なんだけど、これも3択から選ぶようになってるから共有するね」
□船重視/初期資金12000ペソとブリッグ船[最大積載80バレル、最速11ノット、最大大砲数12門、最大乗員50人、最低操船人数10人]
□バランス重視/初期資金20000ペソとスループ船[最大積載50バレル、最速11ノット、最大大砲数10門、最大乗員40人、最低操船人数8人]
□資金重視/初期資金30000ペソとピンネス船[最大積載50バレル、最速10ノット、最大大砲数6門、最大乗員30人、最低操船人数6人]
──ペソってクレジ換算でいくら?
──これは悩ましい。
──ノットって?
──船の名前だけじゃわからん
──1日の経費はいかほど?
──詳細キボンヌ。
──このデータだけだと船重視かバランス重視かな。
──……
「俺もこの選択肢は慎重に選ばないといけないなーと思うよ。この決定が確実にターニングポイントになるだろうからね。『牛がいなければ牛小屋は綺麗だが、牛がいなければ豊作は見込めない』って
──収支のバランスを考えろってことか。
──メリットとデメリットを比較検討しろってことね。
──むずかしくてわかんにゃい。
──牛ってなに?
──開示されてるデータにないリスクが心配。
──……
「そう。開示されてないリスク、そこをよく考えておかないといけないんだ。ゲーム内を一つの現実と考えるなら、当然発生する経費もあるからね。あと通貨とか度量衡の単位とかも知っておかないとね。ということで、開示されているデータを一通り分析してみたよ」
──さすムネ。
──運営の罠回避。
──この準備の良さがグダらないゲーム配信の秘訣。
──さすがやな。
──勉強になるわー。
──……
「まず通貨について。このペソはスペインの銀貨でこの時代の基軸通貨だね。歴史背景調べると、この時代の金貨、銀貨は金や銀の含有量によって価値が変動してたんだ。スペインはアメリカ大陸のアステカ文明を滅ぼして奪った大量の金銀があったから、それで鋳造したダブルーン金貨とペソ銀貨は金銀の含有量が高くて信頼されていたんだ。それに対して他国、特にフランスの貨幣は財政難の立て直しの為に何度も水増しされてるから信用度最悪みたいでね、同じ銀貨でも価値がぜんぜん違うから気を付けなきゃいけないね。他国の貨幣も流通してるみたいだから」
──両替の時に気を付けなきゃいかんのか。
──いつの間にか交換レート変わってたりするか。
──ミシシッピバブルってこの時代だっけか?
──フランス革命は?
──ピースオブエイト!
──……
「おお、さすがによく勉強してる人もいるね。そう、フランスの財政難はミシシッピバブルの影響も大きいね。それとイギリスの南海バブルもこの時代の出来事だし、スペイン継承戦争もあったから政治も経済もしっちゃかめっちゃかで、その混乱に乗じて海賊が大暴れしていたのがちょうどこの時代なんだ。
ピースオブエイトは1ペソ銀貨の別名だね。ペソより下の単位でレアル銀貨ってのがあるんだけど、1レアル銀貨8枚で1ペソになったから、1ペソ銀貨を1/8に分割して1レアルとして使うこともよくあったみたいで
──ほーん。
──8レアルで1ペソって中途半端だな。
──大海賊時代ってやつか。
──下手に他国の貨幣には手を出さん方がいいな。
──逆手に取れば稼げるが恨まれそう。
──金貸しはやめとけ。
──……
「そうね。俺も堅実に可能な限りダブルーン、ペソ、レアルだけを使ってやっていきたいと思うよ。信用にも繋がると思うしね。で、このペソの価値だけど、港湾労働者が朝から夕方までしっかり働いて貰える相場がだいたい1ペソと思えばいいかな。つまり1ペソは10000
──1ペソ=10000Çね。了解。
──なるほど。人件費はしっかりかかってくるわけだ。
──人を何人乗せるかも大事なんだな。
──乗せてる連中の食費もかかるよね。
──ってことは船重視は地雷じゃね?
──コスト管理大事だな。
──……
「俺も船重視は地雷だと思うね。せっかくいい船を手に入れても資金に余裕がないとそのポテンシャルを十分に発揮できるとは思えないし、いい船は1日あたりの最低コストもけっこうかかるからね。それに大砲も火薬も砲弾も自分で買わなきゃいけないわけだし、天下布武の金銭感覚からすると最初期から上限一杯の大砲は現実的じゃないと思うんだよね」
──それなっ!
──火縄銃ですら揃えるの大変だった。
──大砲を積んだら船も重くなってスピード落ちるよな。
──最初から海賊デビューするんでないならそこまで重武装いらんくね。
──そうなるとやっぱりバランス重視か。
──……
「そうだね。俺もバランス重視が一番いいと思ってる。まあ、交易しないで始まりの町で無難に生きていくだけなら資金重視でもいいかなって思うけど、やっぱりせっかくだから西インド会社目指して成り上がっていきたいからね。まずはスループ船から始めて、事業の拡大に合わせて船を乗り換えたり増やしたりすればいいかなと思ってるんだ」
──うんうん。
──いいと思う。
──スループから始めるサクセスストーリー。
──資金重視だと1日1ペソ生活でも80年余裕。
──無難ではなくベストを選ぶのがマサムネ。
──がんばれー! スパチャできないぃー!
──俺なら資金重視でβ期間ずっと引きこもるわ。
──おい、それ楽しいか?
──……
「さてさて、これで一通りの初期設定は終わった訳だけど、この初期設定に合わせてサミエラ・ゴールディという人物のバックグラウンドストーリーが自動的に生成されて、初回ログインの時にアバターにインストールされるんだってさ。どんな物語になるか楽しみだね。あと、女性アバターにはサポート役の男性NPCが一人付いてくれて、初期資金でも少しボーナスがあるってことだけど、それはまだ詳細は分からないから始めてみてのお楽しみってことだね」
──イケメン希望。
──イケオジがいいなー。
──ここはショタで。
──幼馴染み男子。
──普通に考えてとーちゃんじゃね?
──ボーナスってなんだろ。
──いよいよ始まるな。
──wktk
──……
「なんとかβ版のサービス開始前に初期設定終われたね。あと1時間ぐらいで全サーバー同時スタートだから、それまで時間の許す範囲で質疑応答受け付けるよ。ゲーム始まったら質問には答えない、というか中からはチャットのチェックはできないからね。質問も当然全部は対応できないから目についたやつだけ答えていくけど選ばれなくても気を悪くしないでね」
──楽しみすぎる。
──歴史が始まるぞ。
──バックグラウンドストーリーは俺たちはいつ知れるの?
──大砲っていくらすんのかな?
──……
「バックグラウンドストーリーは、そうだねー、最初にログアウトした時に詳しくは説明するけど、一応中でNPCとの会話や独り言で自然に伝わるように出来るだけ努力するよー。大砲は……いくらするんだろうね? あまり高すぎないことを願うよ」
──マサムネのリアル性別どっちなん?
──楽しみだなー。
──それは聞いたらいかんやつ。
──マサムネはマサムネという性を超越した存在。それでええやん。
──どうやってキャラ演じ分けてるの?
──……
「リアル性別は内緒だよー。その方が楽しめるでしょ? 演じ分けというか、ゲームの中ではあくまでも前世の記憶のあるそのキャラクターとして生きてるから演じてるという感覚はないなー」
──前世の記憶持ちのゲーム内転生ロールプレイ。
──正しい意味でロールプレイしてるわけだ。
──今回のマサムネキのP.AI用ダウンロードデータは販売される?
──それな。サミエラは嫁にほすぃよね。
──嫁コレクション。
──嫁コレ出来るやつは相当資産家に限られるからなー。
──……
「フォーマット済みのP.AI素体にインストールできるサミエラのダウンロードデータは、いくつかのP.AI関連企業からオファーは来てるけど、まだしばらくは保留だね。ゲームの方をしばらくやってキャラクターの個性が完全に固まってからじゃないと、見た目はともかく内面的な個性の再現性下がっちゃうからね」
──さすがはこのプロ意識よ。
──見た目だけ寄せてもただのドールだからな。
──わかりみしかない。
──ファンとしてよりリアリティの高いダウンロードデータを待ってる。
──P.AI素体も高いし、ダウンロードデータも高いからなー。
──今のヨッメをフォーマットなんてできないから新しくP.AI素体買って待っとくわ。
──……
そんな感じでチャットのログから適当に拾い上げて答えながら時間が流れ、【West India Company】のサービスの開始時間が迫ってくる。
「さあ、そろそろ時間だからフォームチェンジするよ」
マサムネの姿が一瞬でサミエラ・ゴールディに変わる。
──サミエラ姐さんキター!
──姐さぁぁん!
──姉貴!
──サミエラちゃんかわゆす!
──サミエラきたぁ!
──おらワクワクしてきたぞ。
──始まるぞ。
──……
「よぉーし、行くよ! 野郎共、しっかりアタシについてきなぁ!」
不敵な笑みと共に片手の拳を突き上げたサミエラの姿にチャットが一斉に沸き立ち、マサムネのバーチャルマイルームからサミエラの姿が消えた。