星光は翳り、獅子は夜天に反哮する。   作:中々の柘榴

5 / 7
ここが戦いの野か〜
テーマパークみたいだぜ〜
            焼け野原ヒロシー戦の流儀ー


獅子の戦

自分で言うことではないかもしれないが、レベル4の冒険者というのは貴重である。

現在の都市最強戦力はオッタルのレベル6。

他の第一級冒険者は全員がレベル5。

つまり、レベル4の冒険者は最上位の冒険者に準ずる戦力ということだ。

しかし、そんな実力者であっても死ぬときは死ぬのがダンジョン。そしてそれは、今のオラリオ全域にもいえることである。

それでもなお生き残るために。そして民衆を守るために。

日々の戦力増強は、冒険者の義務である。

オラリオの冒険者は、誰もがそうあるべきなのだ。

 

というわけで。

 

「いくぞ!オッタル!」

「来い」

 

二本の西洋剣が、大剣を構えるオッタルへと振るわれる。十分に高いアビリティと卓越した剣技。

これだけで同レベル以下の相手であれば倒せるだろう連撃。

しかし、相対する相手は都市最強の男。アビリティでも、技術においても都市の頂点である。

 

文字にしたのなら、ガァン、ガァン、ガァン、と。

そんな可愛らしいものになるのだろうが。

実際に鳴り響くのは、耳を劈く金属の悲鳴。

それはほんの刹那で幾合も剣を打ち合わせたことの証左。

 

より重厚で巨大な剣を扱っておきながら、剣速においてはオッタルが勝る。

しかし手数においては二本の剣を振る俺が優れる。

 

レベル差は明白だが、剣戟は辛うじて成立している。

 

オッタルが本気を出していない、という前提の上でだが。

 

「こちらからだ」

 

薄氷の上で成り立っていた膠着が、猛者に戯れのごとく壊される。

俺の連撃を全て防ぎきったオッタルが、大剣を軽く薙いだ。

当人にしてみれば小手調べのような、何でもない一撃。しかし俺にとっては致命的な一撃。

 

「はっ!」

 

迎撃のために剣を振る。右の一撃。左の二撃。それでも足りないから、回転の勢いを乗せて三撃。

無造作に放たれた一撃を凌ぐために三度も剣をふらされる。

続いて放たれた無造作な蹴りを、俺は剣を十字に交差させて受ける。ミノタウロスの突進を受けたような衝撃に、身を任せて大きく跳んだ。

 

「来い」

「仕切り直しだな!ここからは俺も、本気で戦うとしよう!」

 

戦いの野には俺たち二人だけではなく、アレンやヘディン、ヘグニにガリバー四兄弟など、そうそうたる面々が集っている。

殺気だった熱視線が、四方八方から浴びせられる。

だからこそ、血が騒ぐ。

 

熱狂に浮かされて、手札を切った。

 

力が充溢していくのを感じる。

【獅子奮迅】は、己の勇猛さに応じて能力に補正がかかるスキル。発動条件が曖昧だが、猛者相手への単騎駆けは足ると判断されたのだろう。

 

上昇した敏捷による踏み込み。

 

同レベル帯はおろか、レベル5と比較しても遜色ない速度で攻め立てる。

先ほどと比較して、手数は遥かに増している。

それでもなお、加速。

持ち手は緩く、肩から先は脱力し、力は込めない。

ひたすらに手数を稼ぐ。

両の腕が霞んでいる。常人では刀身を目で追えないほどの速度だ。

 

しかしそれでも、猛者には通じない。

 

「速さだけなら見るべきものはある。だが、一撃がお粗末だ」

「『我が牙は勝利のために。我が爪は栄誉のために。我が鬣は誇りのために』」

「貴様…」

 

剣戟と同時に行われる高速詠唱。

上級魔導師でも一部のものにしかできない高等技術。

それを、猛者相手に敢行する。

こうしなければ詠唱の隙を狩られる。

魔法がなければ俺はオッタルに勝てない。

だから、魔法を唱えるために剣を振る。

 

オッタルからのプレッシャーが増すが、それすらも速度で黙らせる。

剣の本数が多く、ステイタスの上昇があったからこそ、この捨て身の瞬間のみ俺は自身の無傷を確保できた。

とはいえ所詮は防戦一方。一に十で返す荒業。そういくらも続くものではない。そこまで続ける必要もない。

 

時間にしてみれば5秒かそこら、長く感じられた詠唱が終わる。

 

「『我が心臓よ、煉獄の果てで猛く煌めけ。──【吠え立てよ、獅子の心臓】』」

 

獅子が吼えた。

 

そうとしか形容できない、血の沸き立つような轟音が戦いの野に響く。

音の発生源には、獅子の鬣がごとく炎を纏う、二刀の騎士。

平時は鮮やかに赤い髪が、今は金に近い色をしている。

炎の奥の瞳は獣のように見開かれ、爛々とした輝きを放っている。

 

炎を纏う獅子が、獲物を前に牙を剥く。

 

「さあ!開戦の時だ!」

 

叫ぶ。

本番はここからだ、と。

俺は本気を出したのだから、お前も出し惜しみなどしてくれるな、と。

それを受けて、オッタルが口を開く。

その瞬間、

 

「───────」

 

大気を焦がしながら彼我の距離を食い潰す。

振るった刃の切っ先がオッタルの頬を掠め、ツウと血を流す。

続く二の太刀は大剣に阻まれた。

しかし止まらない。加速する。より速く。より多く。より強く。

撒き散らす炎が肌を舐め、頬を伝う血が乾いて固まった。

 

先程までの───レベル5とさえ一線を画す速さを、俺は獲得している。

【吠え立てよ、獅子の心臓】。その効果は、全アビリティの超高域上昇。ランクアップにすら匹敵するほどの。

【獅子奮迅】による上昇値と合わせれば、一時的にレベル6相当の身体能力を発揮する。

何もかもの一切を費やしたのなら、俺はほんの少しだけ、頂点よりも速かった。

 

二本の騎士剣が、肉厚の大剣と噛み合った。

力む。

総身の隅々が熱を持つ。

視界が赫く燃えて、獅子の炎が猛猪を舐めた。

 

力比べだ。

 

都市最強の。即ち世界最強の男に。力こそ頂点が故の男に。

真正面から、力で挑む。

 

【獅子奮迅】の効果は過去最高潮に達していた。

この俺の最高到達点が、猛者と鎬を削る。

 

「流石だな!猛者!だが!」

 

ほんの僅かに、二刀が大剣を押し込む。

 

【英雄孤牢】の発動。力と耐久が向上。

発展アビリティの【不動】によって、両の足を起点に、さらなる怪力を得る。

 

「オオオォォォオオオオオオオオオオオ!!!」

「ヌゥ!?」

 

弾き飛ばした。

猛者を相手に、たったの一合。それでも確かに、俺が勝った。

 

「オッタル、テメエ!手ェ抜いてんじゃねえ!」

 

誰かが叫んだ気がした。

だが、それよりもなお速く、俺は次の突撃を敢行している。

二振りのうち一振り。

竜を鍛造してできた剣。

高熱になるに連れ、切れ味を増すという性質を持つ刃。

それが、都市最硬の肌を裂いた。

 

最初は薄く切りつける程度だった刃が、徐々に致命の刃となりつつある。

しかし同様に、オッタルの刃は一撃で致命傷になりうる力を秘めている。

 

これ以上は殺し合いになる。

 

周囲で見守る精鋭たちと、今も命を削る二人の修羅が確信していた。

 

故にこそ、次の一合こそが、この戦いの終着である。

 

「『銀月の慈悲、黄金の原野』」

 

それは先刻の光景。

奇しくもその攻守は入れ替わっている。

速さと熱量に任せて駆ける獅子を、鍛え上げた技と肉体で王猪が凌ぐ。

 

「『この身は戦の猛猪を拝命せし』」

 

獅子はさらに加速した。

王猪はさらに研ぎ澄まされた。

 

「『駆け抜けよ、女神の神意を乗せて』」

 

「熱」が最高潮に達する。戦場は燃え、全ての者が手に汗を握る。

獅子と猪。

一見優勢に見える獅子だが、その実タイムリミットが迫っている。ここで押し切らなければ勝ち目はない。

それを分かっているオッタルは、詠唱を急いだ。

勝負とは互いの全力をぶつけ合わせてこそ。

武頼者のオッタルが持つ信念が、決着を急がせる。

 

黒猫も、妖精も、小人も。

ことここに至って、猪を仕留め損なった獅子の敗北を確信した。

 

「──【ヒルディス・ヴィーニ】」

 

極光。

現最強の一撃はただの斬撃でありながら、対象を消し飛ばす絶技である。

まともに命中したのなら、レベル5は愚か、レベル6でさえ絶命するだろう。

その斬撃を前に、獅子は笑った。

 

「───『憤激せよ、炎獅子!』」

 

対するは爆炎。

人の形をした炎が、極光に匹敵する光輝を放つ。

魔法発動中に溜め込んだ熱量の解放。

獅子が持つ最大の火力であり、レベルの差を覆す最大の牙である。

 

片や練り上げられた武の全てを、極光に収束する一撃。

片や、戦場の熱狂を乗せて放たれる破壊。

 

二人の周囲十数メドルが割れ、抉れ、消し飛んだ。

土埃と陽炎、火の粉が舞い上がり、役者二人を覆い隠すヴェールとなる。

そしてそれが晴れたとき。

そこに立っていたのは。

 

「俺の、勝ちだ」

 

揺るがぬ最強。沈まぬ太陽。

都市最強の名を恣にする、猛き猪。

【猛者】だった。

その足元には、全身を焦がし、傷口の血さえも蒸発した姿の獅子。

意識は遙か彼方に消え、その命の灯すらも揺らぎかけている。

半死半生の獣である。

されどその手には、未だに剣が握られている。

闘志は消えず。肉体だけが、敗北に屈していた。

 

「認めよう。貴様は強者だ。だが、敗北を知らない。故に、俺が勝った」

 

敗者を見下ろして、猛者が語る。

「勝者は常に、敗者のなかにいる」と。

なればこそ、最後に残る者は最も敗北を知る己に他ならないと。

 

「しかし、だ」

 

猛者は言祝ぐ。

 

「位階の差を考慮すれば、貴様は驚嘆に値するほど俺に迫った。喜べ。お前はさらに強くなれる」

 

倒れ伏す獅子は答えない。

どれほど相手から認められようと、追い詰めようと、敗北は敗北。

生殺与奪の権を握られている。

意識がないままに獅子は、己の敗北を受け入れる。

「若きは盛んなり。されど練達に達するべからず」

今日のところは、先達の勝利。




こいつは一体何を四天王?
戦闘描写難しい。

最後に押し負けたのは、攻撃の性質の差です。
斬撃によって一方向に火力が集約したオッタルに対して、術者を中心として周囲に爆発を放つレオナードが押し負けました。
あと、オッタルは本気を出してません。
獣化するか、魔法発動前に本気で仕留めにかかればもっと楽に勝てます。

オランゲランゲ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。