テーマパークみたいだぜ〜
焼け野原ヒロシー戦の流儀ー
自分で言うことではないかもしれないが、レベル4の冒険者というのは貴重である。
現在の都市最強戦力はオッタルのレベル6。
他の第一級冒険者は全員がレベル5。
つまり、レベル4の冒険者は最上位の冒険者に準ずる戦力ということだ。
しかし、そんな実力者であっても死ぬときは死ぬのがダンジョン。そしてそれは、今のオラリオ全域にもいえることである。
それでもなお生き残るために。そして民衆を守るために。
日々の戦力増強は、冒険者の義務である。
オラリオの冒険者は、誰もがそうあるべきなのだ。
というわけで。
「いくぞ!オッタル!」
「来い」
二本の西洋剣が、大剣を構えるオッタルへと振るわれる。十分に高いアビリティと卓越した剣技。
これだけで同レベル以下の相手であれば倒せるだろう連撃。
しかし、相対する相手は都市最強の男。アビリティでも、技術においても都市の頂点である。
文字にしたのなら、ガァン、ガァン、ガァン、と。
そんな可愛らしいものになるのだろうが。
実際に鳴り響くのは、耳を劈く金属の悲鳴。
それはほんの刹那で幾合も剣を打ち合わせたことの証左。
より重厚で巨大な剣を扱っておきながら、剣速においてはオッタルが勝る。
しかし手数においては二本の剣を振る俺が優れる。
レベル差は明白だが、剣戟は辛うじて成立している。
オッタルが本気を出していない、という前提の上でだが。
「こちらからだ」
薄氷の上で成り立っていた膠着が、猛者に戯れのごとく壊される。
俺の連撃を全て防ぎきったオッタルが、大剣を軽く薙いだ。
当人にしてみれば小手調べのような、何でもない一撃。しかし俺にとっては致命的な一撃。
「はっ!」
迎撃のために剣を振る。右の一撃。左の二撃。それでも足りないから、回転の勢いを乗せて三撃。
無造作に放たれた一撃を凌ぐために三度も剣をふらされる。
続いて放たれた無造作な蹴りを、俺は剣を十字に交差させて受ける。ミノタウロスの突進を受けたような衝撃に、身を任せて大きく跳んだ。
「来い」
「仕切り直しだな!ここからは俺も、本気で戦うとしよう!」
戦いの野には俺たち二人だけではなく、アレンやヘディン、ヘグニにガリバー四兄弟など、そうそうたる面々が集っている。
殺気だった熱視線が、四方八方から浴びせられる。
だからこそ、血が騒ぐ。
熱狂に浮かされて、手札を切った。
力が充溢していくのを感じる。
【獅子奮迅】は、己の勇猛さに応じて能力に補正がかかるスキル。発動条件が曖昧だが、猛者相手への単騎駆けは足ると判断されたのだろう。
上昇した敏捷による踏み込み。
同レベル帯はおろか、レベル5と比較しても遜色ない速度で攻め立てる。
先ほどと比較して、手数は遥かに増している。
それでもなお、加速。
持ち手は緩く、肩から先は脱力し、力は込めない。
ひたすらに手数を稼ぐ。
両の腕が霞んでいる。常人では刀身を目で追えないほどの速度だ。
しかしそれでも、猛者には通じない。
「速さだけなら見るべきものはある。だが、一撃がお粗末だ」
「『我が牙は勝利のために。我が爪は栄誉のために。我が鬣は誇りのために』」
「貴様…」
剣戟と同時に行われる高速詠唱。
上級魔導師でも一部のものにしかできない高等技術。
それを、猛者相手に敢行する。
こうしなければ詠唱の隙を狩られる。
魔法がなければ俺はオッタルに勝てない。
だから、魔法を唱えるために剣を振る。
オッタルからのプレッシャーが増すが、それすらも速度で黙らせる。
剣の本数が多く、ステイタスの上昇があったからこそ、この捨て身の瞬間のみ俺は自身の無傷を確保できた。
とはいえ所詮は防戦一方。一に十で返す荒業。そういくらも続くものではない。そこまで続ける必要もない。
時間にしてみれば5秒かそこら、長く感じられた詠唱が終わる。
「『我が心臓よ、煉獄の果てで猛く煌めけ。──【吠え立てよ、獅子の心臓】』」
獅子が吼えた。
そうとしか形容できない、血の沸き立つような轟音が戦いの野に響く。
音の発生源には、獅子の鬣がごとく炎を纏う、二刀の騎士。
平時は鮮やかに赤い髪が、今は金に近い色をしている。
炎の奥の瞳は獣のように見開かれ、爛々とした輝きを放っている。
炎を纏う獅子が、獲物を前に牙を剥く。
「さあ!開戦の時だ!」
叫ぶ。
本番はここからだ、と。
俺は本気を出したのだから、お前も出し惜しみなどしてくれるな、と。
それを受けて、オッタルが口を開く。
その瞬間、
「───────」
大気を焦がしながら彼我の距離を食い潰す。
振るった刃の切っ先がオッタルの頬を掠め、ツウと血を流す。
続く二の太刀は大剣に阻まれた。
しかし止まらない。加速する。より速く。より多く。より強く。
撒き散らす炎が肌を舐め、頬を伝う血が乾いて固まった。
先程までの───レベル5とさえ一線を画す速さを、俺は獲得している。
【吠え立てよ、獅子の心臓】。その効果は、全アビリティの超高域上昇。ランクアップにすら匹敵するほどの。
【獅子奮迅】による上昇値と合わせれば、一時的にレベル6相当の身体能力を発揮する。
何もかもの一切を費やしたのなら、俺はほんの少しだけ、頂点よりも速かった。
二本の騎士剣が、肉厚の大剣と噛み合った。
力む。
総身の隅々が熱を持つ。
視界が赫く燃えて、獅子の炎が猛猪を舐めた。
力比べだ。
都市最強の。即ち世界最強の男に。力こそ頂点が故の男に。
真正面から、力で挑む。
【獅子奮迅】の効果は過去最高潮に達していた。
この俺の最高到達点が、猛者と鎬を削る。
「流石だな!猛者!だが!」
ほんの僅かに、二刀が大剣を押し込む。
【英雄孤牢】の発動。力と耐久が向上。
発展アビリティの【不動】によって、両の足を起点に、さらなる怪力を得る。
「オオオォォォオオオオオオオオオオオ!!!」
「ヌゥ!?」
弾き飛ばした。
猛者を相手に、たったの一合。それでも確かに、俺が勝った。
「オッタル、テメエ!手ェ抜いてんじゃねえ!」
誰かが叫んだ気がした。
だが、それよりもなお速く、俺は次の突撃を敢行している。
二振りのうち一振り。
竜を鍛造してできた剣。
高熱になるに連れ、切れ味を増すという性質を持つ刃。
それが、都市最硬の肌を裂いた。
最初は薄く切りつける程度だった刃が、徐々に致命の刃となりつつある。
しかし同様に、オッタルの刃は一撃で致命傷になりうる力を秘めている。
これ以上は殺し合いになる。
周囲で見守る精鋭たちと、今も命を削る二人の修羅が確信していた。
故にこそ、次の一合こそが、この戦いの終着である。
「『銀月の慈悲、黄金の原野』」
それは先刻の光景。
奇しくもその攻守は入れ替わっている。
速さと熱量に任せて駆ける獅子を、鍛え上げた技と肉体で王猪が凌ぐ。
「『この身は戦の猛猪を拝命せし』」
獅子はさらに加速した。
王猪はさらに研ぎ澄まされた。
「『駆け抜けよ、女神の神意を乗せて』」
「熱」が最高潮に達する。戦場は燃え、全ての者が手に汗を握る。
獅子と猪。
一見優勢に見える獅子だが、その実タイムリミットが迫っている。ここで押し切らなければ勝ち目はない。
それを分かっているオッタルは、詠唱を急いだ。
勝負とは互いの全力をぶつけ合わせてこそ。
武頼者のオッタルが持つ信念が、決着を急がせる。
黒猫も、妖精も、小人も。
ことここに至って、猪を仕留め損なった獅子の敗北を確信した。
「──【ヒルディス・ヴィーニ】」
極光。
現最強の一撃はただの斬撃でありながら、対象を消し飛ばす絶技である。
まともに命中したのなら、レベル5は愚か、レベル6でさえ絶命するだろう。
その斬撃を前に、獅子は笑った。
「───『憤激せよ、炎獅子!』」
対するは爆炎。
人の形をした炎が、極光に匹敵する光輝を放つ。
魔法発動中に溜め込んだ熱量の解放。
獅子が持つ最大の火力であり、レベルの差を覆す最大の牙である。
片や練り上げられた武の全てを、極光に収束する一撃。
片や、戦場の熱狂を乗せて放たれる破壊。
二人の周囲十数メドルが割れ、抉れ、消し飛んだ。
土埃と陽炎、火の粉が舞い上がり、役者二人を覆い隠すヴェールとなる。
そしてそれが晴れたとき。
そこに立っていたのは。
「俺の、勝ちだ」
揺るがぬ最強。沈まぬ太陽。
都市最強の名を恣にする、猛き猪。
【猛者】だった。
その足元には、全身を焦がし、傷口の血さえも蒸発した姿の獅子。
意識は遙か彼方に消え、その命の灯すらも揺らぎかけている。
半死半生の獣である。
されどその手には、未だに剣が握られている。
闘志は消えず。肉体だけが、敗北に屈していた。
「認めよう。貴様は強者だ。だが、敗北を知らない。故に、俺が勝った」
敗者を見下ろして、猛者が語る。
「勝者は常に、敗者のなかにいる」と。
なればこそ、最後に残る者は最も敗北を知る己に他ならないと。
「しかし、だ」
猛者は言祝ぐ。
「位階の差を考慮すれば、貴様は驚嘆に値するほど俺に迫った。喜べ。お前はさらに強くなれる」
倒れ伏す獅子は答えない。
どれほど相手から認められようと、追い詰めようと、敗北は敗北。
生殺与奪の権を握られている。
意識がないままに獅子は、己の敗北を受け入れる。
「若きは盛んなり。されど練達に達するべからず」
今日のところは、先達の勝利。
こいつは一体何を四天王?
戦闘描写難しい。
最後に押し負けたのは、攻撃の性質の差です。
斬撃によって一方向に火力が集約したオッタルに対して、術者を中心として周囲に爆発を放つレオナードが押し負けました。
あと、オッタルは本気を出してません。
獣化するか、魔法発動前に本気で仕留めにかかればもっと楽に勝てます。
オランゲランゲ