寄生虫と行く現代ダンジョン   作:脳タリン

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第199話 第二波

攻撃機二機が管理施設上空へ進入した。

地上部隊は入口から五百メートル以上離れ、車両を建物や盛り土の陰へ移している。退避が間に合わなかった負傷者と放棄車両は、施設内に残されたままだった。

誘導担当者が崩れた研究棟の向こうへ照準を合わせる。

歪んだ防護扉と、そこから続く暗い開口部。

地上へ出た大型個体が瓦礫を踏み越えている。その周囲では甲殻型と四脚獣が倒れた人間や車両へ群がっていた。

 

『目標を確認』

 

攻撃機から報告が入る。

 

「第一目標、入口開口部。第二目標、第一層へ続く通路。周辺地上個体の排除は副次目標とする」

 

『了解』

 

一機目が投下した誘導爆弾は、入口前へほぼ垂直に落ちた。

白い閃光。

遅れて、巨大な爆発音が封鎖線まで届く。

崩れかけていた管理施設の建物が内側から膨らみ、壁と屋根を四方へ吹き飛ばした。入口付近にいた甲殻型が空中へ跳ね上がる。四脚獣の群れは爆風に巻かれ、瓦礫とともに地面へ叩きつけられた。

黒い煙が入口を覆う。

二発目は、その中心へ吸い込まれた。

最初の爆発で露出した通路内部へ入り、地上からは見えない位置で炸裂する。

地面が大きく持ち上がった。

入口周辺の舗装面に亀裂が走り、研究棟の残骸が沈む。土煙と石片が上空へ噴き上がり、数秒後には入口そのものが崩れた瓦礫に埋まった。

攻撃機が上空を離脱する。

封鎖線では、兵士たちが伏せていた身体を起こした。

 

「入口を確認」

 

偵察用の無人機が煙の上へ移動する。

映像には、崩壊した管理施設と大きな陥没だけが映っていた。開口部は見えない。新たに地上へ出てくるモンスターも確認できなかった。

地上に残っていた個体の多くは爆発に巻き込まれている。

甲殻型の外殻が瓦礫の間へ散らばり、四脚獣の身体が建物の壁へ張りついていた。白い節足生物は何か所にも分断され、脚を動かす個体も急速に減っていく。

 

「流出停止を確認」

 

観測員が報告する。

 

「入口は完全に閉塞したと見られます」

 

封鎖線の各所で、張りつめていた空気が緩んだ。

まだ施設外へ散った個体は残っている。

北側の集落や西側の林にも掃討部隊が必要だった。それでも入口からの追加流出さえ止まれば、残る個体を順番に処理できる。

増援部隊の指揮官は無線を取った。

 

「入口への接近は禁止。無人機による観測を継続する。地上個体の排除と住民救助を優先しろ」

 

『了解』

 

「戦車部隊は現在位置を維持。迫撃砲班は待機。航空隊には再攻撃の必要なしと伝えろ」

 

命令が各部隊へ送られる。

管理施設への砲撃が止まり、代わりに周辺地域から断続的な銃声が聞こえていた。北側へ抜けた四脚獣を装甲車が追い、西側の林では火炎放射器を持った部隊が黒い小型種を駆除している。

これで押し返せる。

指揮官がそう判断した直後、足元に弱い振動が伝わった。

最初は、航空爆撃による地盤の揺れが残っているのだと思った。

だが、振動は止まらなかった。

一定の間隔で地面の奥から響いてくる。

 

一度。

 

間を置いて、もう一度。

 

爆発による崩落とは違う。

 

何かが地下から地面を叩いている。

 

「地震計を確認しろ」

 

観測担当が端末を操作する。

 

「震源は入口直下です。深さは特定できません」

 

「余震ではないのか」

 

「周期が揃いすぎています」

 

三度目の振動が届いた。

 

管理施設の陥没部分から、細かな石が跳ねる。

 

煙の中で瓦礫の一部が動いた。

 

無人機が高度を下げる。

 

崩れたコンクリートと石材の下から、何かが押し上げていた。

 

「入口側に動きあり」

 

映像を拡大する。

 

最初に見えたのは、黒い突起だった。

 

岩石ではない。

 

表面に細かな節があり、先端が三つに割れている。

 

突起は瓦礫の隙間から伸び、近くのコンクリート片をつかんだ。そのまま横へ投げ捨てる。

 

別の突起が現れる。

 

三本目。

 

四本目。

 

それぞれが人間の胴より太く、地面へ深く食い込んでいた。

 

「全隊、警戒!」

 

指揮官が叫ぶ。

 

戦車の砲塔が一斉に入口跡へ向く。

 

黒い脚が瓦礫を押しのけるたび、陥没部分が広がっていく。爆撃によって塞がれた通路を、内側から掘り返していた。

 

地面が大きく割れた。

 

土煙の中から、巨大な円盤状の甲殻が現れる。

 

直径は十メートルを超えていた。

 

黒紫色の外殻が何重にも重なり、中央部だけが不自然に盛り上がっている。外周から八本の太い脚が伸び、それぞれが瓦礫と地面をつかんでいた。

 

明確な頭部はない。

 

円盤の前面に、細い赤色の線が半円状に並んでいる。

 

それらが順番に開き、内部の濡れた組織を露出させた。

 

「戦車部隊、射撃!」

 

戦車砲三門がほぼ同時に火を噴いた。

 

砲弾が巨大な甲殻へ命中する。

 

爆発によって外殻が砕け、大きな破片が飛び散った。円盤状の身体が後方へ揺れる。

 

一瞬、止まったように見えた。

 

八本の脚が再び地面をつかむ。

 

一発目で割れた箇所から黒い液体を流しながら、瓦礫の山を越えてきた。

 

「効果あり。射撃継続!」

 

二射目。

 

今度は五両が撃った。

 

複数の砲弾が同じ個体へ集中する。

 

外殻の一部が大きく剥がれ、内側の白い組織が露出した。脚の一本が付け根から千切れ、地面へ転がる。

 

それでも前進は止まらない。

 

残る七本の脚で身体を支え、封鎖線へ向かってくる。

 

「距離、四百!」

 

戦車は後退しながら装填を続ける。

 

巨大個体の後ろでは、掘り返された入口から別の影が出始めていた。

 

三メートル近い高さの細長い生物。

 

骨格を外側へ露出させたような赤黒い身体を持ち、前脚が二対、後脚が一対ある。四本の前脚は刃物のように薄く、先端まで湾曲していた。

 

一体目が地上へ出る。

 

続いて二体。

 

三体。

 

その後ろからも同じ姿が現れる。

 

「新型、複数!」

 

重機関銃が発砲した。

 

赤黒い個体の胸部へ弾丸が集中する。

 

外側の骨格が欠け、黒い肉が飛ぶ。

 

個体は身体を低くした。

 

次の瞬間、十メートル以上を一息に跳んだ。

 

封鎖線手前の盛り土へ着地する。

 

重機関銃が追う前に、再び跳躍した。

 

一体が戦車の車体へ乗る。

 

四本の刃状前脚を装甲板の隙間へ突き立てる。

 

金属表面には刺さらない。

 

だが、前脚は砲塔基部や観測装置を探り、外付け機器を切り落としていく。

 

車載機関銃が至近距離から発砲した。

 

赤黒い個体の肩が砕ける。

 

個体は砲塔から飛び降り、近くの歩兵へ向きを変えた。

 

兵士たちが散開する。

 

一人が前脚に胴体を払われた。

 

防弾装備ごと裂かれ、身体が地面へ落ちる。

 

別の兵士が撃つ。

 

腹部へ命中。

 

胸部へ命中。

 

赤黒い個体は傷を負いながら走り、二人目へ前脚を振り下ろした。

 

「歩兵を下げろ! 車両間へ入れるな!」

 

装甲車が後退しながら機関砲を撃つ。

 

一体が直撃を受け、上半身を失った。

 

倒れた下半身は数秒間走り続け、戦車の履帯へ衝突してから止まった。

 

別の個体が装甲車の側面へ飛びつく。

 

前脚を何度も打ち込み、タイヤを切り裂く。

 

車体が傾く。

 

内部の兵士が反対側から脱出しようとする。

 

その先に三体目が回り込んでいた。

 

地上の防衛線が、数分前までとは比べものにならない速さで崩れていく。

 

浅層から出てきたモンスターは、一体を止めるために大量の弾薬が必要だった。

 

今現れた個体は、それだけではない。

 

速い。

 

装甲車両へ取りつく。

 

歩兵と重火器の間へ入り、射線を崩す。

 

巨大な円盤型は、戦車砲を何発受けても前進を続けている。

 

三射目の戦車砲撃が行われた。

 

露出していた白い組織へ二発が命中する。

 

甲殻の中央が大きく陥没した。

 

円盤型の動きが止まる。

 

八本あった脚のうち、三本が失われていた。

 

「停止したか」

 

観測員が映像を拡大する。

 

残った脚の一本が、地面へ深く突き刺さった。

 

円盤型は身体を傾ける。

 

前面に並んだ赤い線が一斉に開いた。

 

低い音が響いた。

 

耳で聞くというより、胸と腹の内側を直接揺らす音だった。

 

封鎖線の兵士たちが身体を丸める。

 

何人かが耳を押さえ、膝をついた。

 

車両の窓ガラスが細かく震える。

 

近くにいた赤黒い個体は反応しない。

 

円盤型は倒れたまま、もう一度音を発した。

 

その音に応えるように、入口跡の奥から別の音が返った。

 

一つではない。

 

深い場所から、いくつもの低音が重なってくる。

 

無人機の映像に、新たな動きが映る。

 

掘り返された入口の内側で、巨大な影が続いていた。

 

円盤型と同じもの。

 

さらに大きな個体。

 

形の異なるもの。

 

爆撃前には地上へ向かっていなかったはずのモンスターが、次々と入口側へ集まっている。

 

指揮官は航空支援との回線を開いた。

 

「再攻撃を中止しろ」

 

『地上個体への攻撃もですか』

 

「入口と内部への攻撃は禁止。地上へ出た個体のみを対象にする」

 

『理由は』

 

指揮官は、掘り返された入口を見る。

 

爆撃で入口を塞ぐ前、地上へ出ていたのは低層から押し出された個体だった。

 

甲殻型。

 

四脚獣。

 

黒い小型種。

 

兵器を集中させれば倒せる相手だった。

 

入口そのものを攻撃した後、現れた個体は明らかに違う。

 

より大きく、速く、硬い。

 

偶然と判断するには、変化が急すぎた。

 

「攻撃後に敵の構成が変わった、嫌な予感がする」

 

『内部から押し出されただけでは』

 

「その可能性もある。だが、もう一度試す理由にはならない」

 

円盤型が残った脚で再び身体を持ち上げる。

 

戦車砲を受けて壊れた外殻を引きずり、封鎖線へ前進を始めた。

 

一両の戦車が撃つ。

 

砲弾が中央部へ命中する。

 

巨体は止まらない。

 

距離、二百メートル。

 

赤黒い個体は戦車と歩兵の間を走り、既に十数名を死傷させていた。

 

入口からは、さらに新しい大型個体が地上へ身体を押し出している。

 

「第一封鎖線を放棄」

 

指揮官が命令した。

 

「全部隊、二キロ後方の予備線へ後退。車両回収は可能な範囲に限定する。動かない車両は放棄しろ」

 

副官が振り返る。

 

「入口周辺を明け渡すのですか」

 

「ここに留まれば、兵士と弾薬を与え続けることになる」

 

「住民避難は完了していません」

 

「だから後方で止める」

 

戦車部隊が煙幕を展開する。

 

白い煙が道路を覆う。

 

歩兵は負傷者を装甲車へ押し込み、動ける車両から順番に後退を始めた。

 

赤黒い個体が煙の中から飛び出す。

 

最後尾の戦車が機関銃を向ける。

 

発砲。

 

個体が倒れる。

 

その後ろから別の影が現れる。

 

円盤型の脚が放棄された装甲車へ乗る。

 

車体が潰れた。

 

砲撃と爆撃で破壊された管理施設を中心に、モンスターが外側へ広がっていく。

 

浅層個体は建物や林へ散る。

 

深層から現れた大型個体は入口周辺へ集まり、撤退する軍を追って前進した。

 

その日の戦闘で、中国軍が初めて理解したことがある。

 

ダンジョンから出てきたモンスターは、強い兵器を使えば倒せる。

 

だが、ダンジョンそのものへ強い兵器を向けてはならない。

 

入口を塞ぐための二発の爆弾は、流出を止めなかった。

 

それまで地上へ出てこなかったものを、呼び出した。

 

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