寄生虫と行く現代ダンジョン   作:脳タリン

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第265話 繋がっている

 八層で動く根を見つけてから、寄生個体への指示を少し変えた。

 

 今までは周囲を広く調べさせ、危険な大型生物がいれば避ける程度だった。そこへ新しく、前に見つけたものと似た根へ近づかないことと、見つけた場所では無理に先へ進まないことを加えた。

 

 細かい地図そのものを共有することはできない。それでも、甲殻類や魚型が避ける場所を増やしていけば、根がどこにあるのかは反応の偏りからある程度見えてくる。

 

 数日かけて、その空白は少しずつ増えていた。

 

「やっぱり多いな」

 

 八層へ入ってしばらく進んだところで立ち止まり、周囲へ意識を広げる。

 

 入口側には甲殻類や魚型の反応が広く散っている。その先でも同じ状態が続いていたが、さらに奥へ行くほど、寄生個体が近づかない細長い場所が何本も混ざり始めていた。

 

 完全に行き止まりになっている場所は少なく、根を避けて左右へ回り込めるところが多いため、探索自体は続いている。ただ、その迂回路を繋いで考えると妙な形になる。

 

「こっちも同じ方向か」

 

 俺は巨大な鳥型を一体飛ばし、地上では狼型と蜥蜴人を連れて寄生個体の反応が途切れた場所へ向かった。

 

 最初に見つけた根からはかなり離れている。

 

 水草の多い浅瀬を抜け、木の根が複雑に絡んだ場所へ入ると、途中から甲殻類の姿がほとんど見えなくなった。魚型も水路の端を通るようになり、中央付近へは近づこうとしない。

 

 原因はすぐに見つかった。

 

 泥の中を、黒褐色の太い根が横切っている。

 

 前に切ったものより少し細いが、表面の色や苔の付き方はよく似ていた。水中から一度姿を出し、数メートル先でまた泥の下へ潜っている。

 

 今回は近づかず、上空の鳥型をその先へ飛ばした。

 

 根が消えた方向には木々が密集していて、地上から追うのは難しい。鳥型から見える範囲でも途中で完全に隠れたが、そのさらに先で、同じような黒い線が一度だけ地表へ出ていた。

 

「切れてないなら、相当長いな」

 

 距離は数百メートルある。途中で別の根へ繋がっている可能性もあるが、一続きならそれだけで前に見つけたものより遥かに長い。

 

 甲殻類を遠回りさせ、その根の反対側まで進ませる。直接触れない距離を保てば攻撃される様子はなく、寄生個体たちはそのまま探索を続けられた。

 

 同じ方法で別の場所も確認していくと、一つ見つけるたびに、その周囲からさらに別の空白が見えてきた。

 

 午前中だけで新しく三か所の根を確認した。一本は浅い水路の底を這い、一本は大木の根元へ絡むように通っている。残る一本は地表へ出ている部分がほとんどなく、甲殻類がそこだけ大きく迂回していなければ気づかなかったと思う。

 

「これ、今まで普通に横を通ってたな」

 

 動かなければ本当にただの根にしか見えないうえ、八層では木の根そのものが至るところにある。似たものが混ざっていても、意識して探さなければ見分けられなかった。

 

 俺は見つけた場所を頭の中で大まかに並べてみる。

 

 最初の一本と今日見つけた三本は離れている。それでも、それぞれが伸びている方向には共通点があった。

 

 全部、八層のさらに奥へ向かっている。

 

「偶然って感じじゃないな」

 

 同じ種類の植物が複数生えていて、それぞれ根を伸ばしている可能性も残っている。一本の生物だと決めつけるにはまだ早いため、それを確かめる方法を考えながらさらに奥へ進んだ。

 

 昼を過ぎた頃から周囲の景色にも変化が現れ始めた。木の数自体はそれほど変わらないのに、地表へ出ている黒褐色の根だけが明らかに増えている。

 

 普通の木から伸びた根も混ざっているが、その中に以前より頻繁に同じものが現れるようになっていた。一本を避けた先で別の一本にぶつかり、さらに回り込む必要がある場所も出てくる。

 

 寄生個体の動きも、それに合わせて変わっていた。

 

 甲殻類は狭い隙間を探して根の間を抜け、魚型は比較的安全な水路へ集まる。上空の鳥型から見ても、地表を這う黒い線が以前より目につくようになっている。

 

「こっちへ行くほど増えてるのか」

 

 俺はそれ以上まっすぐ進まず、代わりに左右へ大きく広がるよう寄生個体を動かしてみた。しばらく待つと、右へ向かった個体も左へ向かった個体も、ある程度進んだところで同じように根を避け始める。

 

 正面だけに集中しているのではなく、かなり横へ広がっているらしい。その範囲を確かめようとしていた時、少し離れた場所にいた魚型の反応が急に途切れ、近くの甲殻類が一斉に散った。

 

「来たか」

 

 俺は距離を取りながら巨大な鳥型を向かわせた。

 

 水草の間にある浅い水場で、泥の下から何本もの細い根が出ている。魚型を捕まえたらしい一本が水中へ引き込まれ、別の根は周囲を探るようにゆっくり動いていた。

 

 少し様子を見ていると、さらに太い根が泥の下で動き、その途中から何本もの細い根が枝分かれしているのが見えた。

 

「一本から出てるのか」

 

 上空から見ると、太い根は水路沿いに長く伸び、その途中から細い根を周囲へ広げている。獲物を捕まえているのは枝分かれした細い方で、奥にある太い根はほとんど地中から姿を出さないらしい。

 

 俺は甲殻類を大きく迂回させ、別方向からその太い根の先を探らせた。何百メートルか離れた場所で同じ太さの根が再び地表へ出ており、さらにその先にも寄生個体が避けている場所が続いている。

 

「これ、枝なんだな」

 

 最初に見つけた太い根ですら、一番大きな部分ではなく、木で考えれば末端に近い枝分かれの一つだった可能性がある。

 

 そう考えると周囲の空白の見え方も変わった。細い根を一本ずつ別物として見るのではなく、その先にある太いものへ繋げて考えれば、離れた場所に点在していたはずの危険な場所が巨大な枝分かれのような形になっていく。

 

「……全部、奥へ繋がってないか?」

 

 俺はその場で先へ進むのをやめた。

 

 ここから先は、入口周辺と同じ感覚で寄生個体を散らすには危険が大きい。根が増えている場所へ小型個体を大量に送り込めば、探索を進める前に餌として減らされる可能性が高かった。

 

 周囲の個体へ、今いる場所より奥へ勝手に進まないよう大まかに伝える。すぐにすべてが止まることはないが、徐々に活動範囲は安全な側へ寄り、根の近くへ集まる個体も減っていった。

 

「しばらくは外側から調べるか」

 

 巨大な鳥型を高く上げ、最後にもう一度広い範囲を見渡させた。

 

 湿地の木々に隠れて全体までは見えない。それでも今日確認した根の位置と、寄生個体が避けている場所を合わせれば、かなり広い範囲へ同じものが伸びていることだけは分かる。

 

 その全部が向かっている先は、今までまだまともに探索できていない八層の奥だった。

 

「本当に一つなら、とんでもなくでかいな」

 

 俺の中の寄生体は、その言葉を聞いて警戒するどころか、また強く興味を示した。

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