そうじゃない方はこんにちは。
今日も長編、はっじまっるよー!!
第一話:はじまり
嫌に馴染んだ鋼の重み。
カチリと鳴らす鯉口の音。
床を彩る鮮やかな紅。
「……」
都合256人目。
今日も私は、命の花を咲かせて、生きている。
今日もひと仕事を終えて、窓から寮の自室に帰って来る。
いけないことをしているような気分になるが、事実として私の本業は汚れ仕事。
表沙汰になれば死刑待ったなしの後ろめたいもの。
そんな私の名は、リアラ=イーディル、16歳。
職業、英雄候補生兼、
物心ついた時には、暗殺者として育てられていた、しがない小娘である。
今はなぜか護衛任務の最中。
といっても、護衛対象は世界一安全な学園で気ままに学生生活を送っている。
基本は暇なので、たまにこうして、近所の仕事を割り振られる。
「ふぁぁ……ねむ……」
時間は既にもう遅い。
深夜も深夜。
あと4時間もすれば日が昇り始めるだろう。
睡眠不足は大敵だ。
少しでも休むために、私はベッドの上で毛布に包まって、眠りについた。
朝。
いつも通りの時間に起床し、制服の袖に腕を通しつつ、物思いにふける。
先程も語ったが、私は暗殺者である。
それと同時に英雄候補生と呼ばれる存在でもある。
英雄候補生とは?という話ではあるが、ぶっちゃけ生贄である。
この世界、アルスガルは旧世界と呼ばれる時代に崩壊し、二柱の最高神と、その友である多くの大神によって再創世された世界である。
その際、崩壊の原因となった異界の怪物を滅しきれておらず、神々は怪物との戦いに赴く英雄を求めている。
とても栄誉であると同時に、神々の戦場から戻って来る英雄は少ない。
それだけの死線だということだろう。
そんな場所に送られるのが確定しているのが、英雄候補生という存在だ。
無論、強制的に徴兵されるわけではない。
基本的に志願制である。
ただ、私は裏の仕事が暗殺者であり、護衛任務のためにこの《英傑院》に潜入している。
私の意思は介在していない。
介在していないが、今までの仕事よりは楽をさせてもらっている。
任期も長い。
気楽にやらせてもらっている手前、未来の就職先に関しては仕方がないと割り切ることにした。
「リアラ、おーはよ」
さて。
思考の海から戻り、制服に身を包んで、朝食を摂るために食堂へ向かっていたところ。
寮の隣人が挨拶をしてきた。
黄金の長髪を一つに束ねている長身の少女。アステリア=オークニー。
私と同い年でありながら、《天雷狼》の二つ名を持つ、既に英雄としての力を示している優等生だ。
「おはよう、アステリア。今日は寝坊しなかったんだ」
ただし、私生活はだらしない。
寝坊遅刻忘れ物、全てにおいて常習犯。
英雄筆頭候補と言われている存在が、こうも私生活がダメダメだと、少し心配になる。
「ねえリアラ、ボクがいつも寝坊してると思ったら大間違いだよ?」
「……ハッ」
「オーケイ、今日こそわからせてあげる」
「アナタの力量が上で、私が下、分かり切ってるでしょ?」
「そういうことじゃなーい!!」
手をひらひらと振って、アステリアの追及をやり過ごす。
こんなまるでダメな女を相手にするより、朝食の方が大切である。
何より、護衛対象もそろそろ起きているはずなのだ。
基本的に暇とはいえ、一応は任務なのだ。
きちんと全うしなければならない。
食堂に辿り着くと、予想通り護衛対象がいた。
「あ、おはようございます、リアラさん、お姉さま」
黒髪の小柄な少女。
アステリアの頭一つ分小さい私よりも、さらに頭一つ分小さい背丈の、幼い時分の少女。
ソラハリア=オークニー。
アステリアの妹であり、その才覚と本人の希望から、例外的に8歳という最年少で《英傑院》に入学した、異例の天才。
最強たる《天剣》の名を継ぐのでは?とも噂される存在だ。
そんな彼女はまあ、暗殺されるかもしれない理由をいくつか持っている。
ひとつ。
オークニー家が最高神の血を引く名家であること。
ふたつ。
その中でも先祖返りした神憑きであること。
みっつ。
ソラハリアは分家の生まれであること。
まあなんというか。
神々は悲しみそうな人間の愚かなサガである。
本家の人間がソラハリアを恐れて暗殺するかもしれない。
その可能性が否めなかった分家は、姉であるアステリアともども、《英傑院》に叩き込んだ。
自衛ができるようになるまで、安全に育つことができるように。
じゃ、私は何で護衛任務を言い渡されたかって?
直属の上司がソラハリアの家と仲が良かったので、手勢を差し向けただけの事。
《英傑院》に潜入するのにちょうど良すぎる人材が私だっただけの事だ。
《英傑院》の中も完全に安全というわけではない。
滅多に入り込むことはないが、内側にネズミが入り込まれれば危うくもなる。
そういうのを駆除するのが、私の仕事だ。
ちなみに、私という護衛の存在は、二人には知らされていない。
知らないほうがいいこともある。
らしい。
駒の一つでしかない私には、上の意図など知る必要のないことだ。
「おはよう、ソラちゃん。よく眠れた?」
「はい。黒夜の女神のご加護があったようです」
「それは良かった。よく寝てよく食べて、よく育つんだよ」
「はい!お姉さまのように立派な英雄になります!!」
「私生活は真似しちゃだめだからね」
「もちろんです!」
「ねえ、お姉ちゃん泣くよ?傷ついちゃったよ?」
毎朝のように繰り返される芝居のようなやり取り。
私のうぬぼれでなければ、仲のいい友人になれていると思う。
護衛という観点からも、そのほうが都合がいい。
若干の後ろめたさを感じながらも、妹のようにソラハリアを可愛がる。
実の姉はダメ、腕っぷしだけだ。
この天使を、そんなダメ人間にさせてはいけない。
「リアラってボクには辛辣だよね……」
「ソラちゃんというものがありながら規範となる生活ができない姉なんてこんなものでいい」
「ほんとにソラには甘いよね!ボクなにかしたかな!?」
「何もできてないの間違いでは?」
「ぐさっ」
言葉でアステリアをノックアウトさせて、ソラちゃんと仲良く食堂に入る。
ソラちゃんはまだまだ小さい子供であることから、一人で食堂を利用するには少々危険である。
単純に人込みの中に迷子になってしまう可能性と、気性の荒い候補生もいるため、安全のために一緒に行動する。
「今日の朝食は何でしょう」
「アルセリアイールの蒲焼定食だって」
「わぁ!大好物です!!」
「朝から豪華だねえ。何かいいことでもあったかな」
好物が出てはしゃぐソラちゃんと、いつの間にか復活しているアステリア。
アステリアが言うように、今日は少し豪華な朝食だ。
きっと、食堂で食事を作ってくれる《
ここ《英傑院》は神々が創り上げた、神々と密接に関わってくる場でもある。
施設のいたるところに、神々が《英傑院》の運営に必要な妖精を遣わしている。
《食場の隣人》たちも遣わされている妖精の一種で、良いことがあれば何かにつけて祭事にして食堂のメニューを豪華にしてくる。
おかげで《英傑院》の物資を管理している《
妖精同士の言い争いもよく見る光景である。
「おはようございます、《食場の隣人》さん。何かいいことでもありましたか?」
「オハヨ!オハヨ!今日ハ神様見テル!イッパイ見テル!ダカラオ仕事イッパイガンバル!!」
ソラちゃんが定食を受け取りながら、《食場の隣人》に問いかける。
木でできた人形のような姿の彼らは、陽気に答えた。
今日は神々が特別目を向けているらしい。
いつも以上に仕事に力が入っているようだ。
「神々が御眼を向けておられるのですね」
「ソウ!ソウ!ボク達ガンバル!皆元気ナル!神様喜ブ!!ボク達喜ブ!!」
「いつもありがとうございます、《食場の隣人》さん」
「ドウイタシマシテ!ドウイタシマシテ!皆元気、ボク達ウレシイ!!」
《食場の隣人》から朝食を受け取り、適当な席に座る。
談笑しながら食事をしつつも、頭の隅に懸念が居座る。
なぜ、今日に限って神々が注視しているのか。
何かが起きるのではないのか。
杞憂で済めばいいのだけど。
「美味しいです……!」
そんな憂鬱をよそに、ソラちゃんは朝食を美味しそうに食べている。
実に幸せそうで、人の負の側面など知らぬ笑顔は、とてもまぶしい。
この笑顔を、ずっと見守れればいいな。
そんな事を思っていた矢先だった。
「ノォォォォォォオオオオ!!ヘェプミィィィィィィ!!」
食事も終わり、食堂から出て、渡り廊下を歩いていたところ。
空から悲鳴を上げながら落ちてくる影が一つ。
「!!」
すぐに動いたのは、アステリアだった。
《天雷狼》の名に恥じぬ、刹那の判断。
雷光を纏って宙へ飛び出て、影を優しく受け止めた。
「アバババババババ」
「あ、ごめんね。リアラ!!」
アステリアはそのまま私に影……一人の少女を放り投げて寄越す。
無茶振りはやめてほしい。
私はアステリアと違って、たいそうな二つ名を持つ英雄というわけではないのだ。
まあ、受け止めるが。
「シビレビビビビビ……死ぬかと思った……」
受け止めて、息が止まるかと思った。
ソラハリアそっくりの、黒髪の小さな少女だったのだ。
いや、違う。
「あの、大丈夫?」
「だいじょーぶだいじょーぶ、ちょっとしびれただけ……くっそー!!剣神のやつ、何もボクを家から追い出さなくたっていいじゃないか!!……家から追い出さなくたって、いいじゃんかぁ……ぐすっ……」
腕の中で元気に騒いでいた少女だが、段々と元気がなくなっていき、静かに涙を流し始めた。
その姿はさながら家から放逐された小娘だが、恐らくは異なる。
「ぐすっ、えぐ……」
とはいえ、私の胸の中で涙を流し続ける姿を見て、今すぐ問い詰めることはできないのだった。
どうしようかとアステリアと目配せをして、ひとまず《英傑院》の管理者に伺いを立てることにした。
神々から《英傑院》の院長を任されている妖精、《
神々に最も近い妖精である彼ならば、判断を仰ぐこともできるだろう。
空から落ちて来た少女を抱えて、《妖精王》の執務室へと向かった。
幸いにして、今は執務室にいるようだった。
戸を叩き、入室の許可を得てから入る。
「先触れも出さず申し訳ありません、院長」
「構わないよ。どうにも最高神同士で諍いが起きたようでね」
「「えっ」」
それはあまりにも重大な問題ではないだろうか。
最高神同士が争うとなれば、世界が二分されてもおかしくはない。
「まあぶっちゃけ、1000年に1回はこういうことが起きるから、あまり重要視はしていないのだけどね、ハッハッハ!!」
「オーベロンこの野郎、他人事だと思いやがって……」
「毎度毎度勝てない戦いに挑むのはおやめになったらいかがです、
「うるさいやい!!見てよこの見事な先祖返り!!ボクと剣神にそっくり!!贔屓しない理由ある!?」
少女……天神様はソラハリアの背後に回り、頬を包むようにして両手を添えた。
愛おしそうに頬をモチモチといじくる姿は愛らしいものがあるが、それはそれとして最高神としての威厳はどこへやら。
世界を再創世した最高神の姿がこんなものだとは知りたくなかった。
「最高神が気安く人界に干渉するのはおやめください、本当に。それで国が一つ沈んだのをお忘れですか?」
「うっ……アトラテス帝国のこと引き合いに出すの止めない?」
「貴女が当時の巫女を贔屓しまくった結果、他国の恵みに影響が出てアトラテス帝国と各国の大戦争に陥ったのをお忘れとは言わせませんよ」
「うっ、うぅ……」
「今回も10:0で剣神様が正しいです。しばらくは神としての振る舞いを忘れて人間として生きるよう、剣神様から言伝を預かっております。よろしいですね、天神様?」
私はアステリアと顔を見合わせた。
二柱の最高神の片割れが、あまりにも駄女神過ぎたが故に。
「人間としてのボクなんてたこ焼きたこ抜きのただの焼きじゃないか!」
「相変わらずの意味不明な言動ですが問題ありませんね。溶岩くらいの火力は出せるでしょう?」
「溶岩程度で満足できるかァー!!吸血鬼の1匹だって殺せやしないよ!!」
「そもそもその体が死んだところで神体に戻るだけでしょう。諦めてください」
「ちくしょうめぇ!!」
「執務の邪魔ですから、しばらく裏で遊んでてください。邪魔です」
「松◯ぁ〜〜!誰を撃ってるぅぅ〜〜!!」
院長にそのままどこかへと放り投げられ、消えていく天神。
あれが最高神か、そうか……。
畏敬の念が薄れていく。
「まあ、はい。神々の恥を晒してしまったようで申し訳ありませんが、天神様はこちらで預かります。ただまあ、天神様が人界に関わって無事に済んだ試しはありませんので、激動の時代が訪れるかもしれませんね」
私はまだ知らなかった。
コレが、大きな波紋となって大事件を引き起こす事を。
私の属している組織が、大きく動き出す事を。
・リアラ=イーディル
本業暗殺者、信心深い女の子。
幼い頃から組織に暗殺者として育てられたが、何故かいま護衛をしている。
「人選ミスでは?!」と訴えたが「メンゴ、ちょうどいい人材お前しかいない」と言われて渋々拝命。
奇跡的に普通の感性を持って育ってしまったために人知れず病んでいる。
今まで食ったパンの数を覚えてしまっている……。
・アステリア=オークニー
英雄としては優等生。
私生活はダメ人間。
キャラモチーフはジンオ◯ガ。
リアラの親友ポジション。
寝坊グセをよくいじられている金髪ポニテ長身ボクっ娘ガール。
余談だが力を解放しすぎてもジ◯オウガになってしまうことはない。
・ソラハリア=オークニー
アステリアの妹。
最高神の血を引くオークニー家のスーパー先祖帰り。
黒目黒髪ロングロリがエントリー!!
現代最強の才能を秘めているが、まだまだ幼い子供。
姉のことはほどほどに参考にしている。
賢い。
・天神
最高駄女神。
すぐ贔屓する。
反省はするが後悔はしない。
今回もスーパー先祖帰りソラハリアちゃんを見て依怙贔屓しようとした。
ので、最高神の片割れ剣神からゲンコツ貰って人界に墜とされた。
たこ抜きたこ焼きのただの焼き状態だが、どっかの吸血鬼の1匹くらいはシバける。
・剣神
最高神の片割れ。
普段はマトモだが巫女や先祖返りを見ては暴走する相棒に苦労している。
今回も暴走した天神をゲンコツでシバいて人界に叩き落とした。
暴走したお前がいると仕事にならねえからしばらく帰ってくんなボケ。
・《英傑院》
英雄育成機関。
天神がめちゃくちゃ手間暇かけて作った最高傑作。
セキュリティ万全カリキュラムは随時更新。
家族同然の妖精が運営してくれている。
え?《妖精王》が天神に容赦ない理由?
駄目親を叱る長男の気持ち