「さて、緊急クエストを発行しよう。敵はオークニー公爵領から来たる邪神教団《生命の樹》の改造戦士。その数一万を超える大軍勢。一匹一匹が英雄級。目標はこの《英傑院》。言いたいことは分かるね、ひよっこども」
あの日。
《妖精王》の執務室で、話を聞いた時点で。
こうなることは分かっていた。
「戦争ってわけですかい」
「腕が鳴るなあ」
「打って出るか?」
「流石に数が数だ、防衛戦の方がいいな」
だが彼ら、彼女らにとってそれは突然の事。
それでも、英雄の卵である彼、彼女らは、逃げない。
逃げることをしない。
不敵に笑って立ち向かう。
「覚悟は良いらしいね。よろしい、ならば戦争だ。
たかだか英雄級一万ごときでここを落とせると思っているフーリガンどもをぶちのめすぞ!!」
天神様は、敗北などあり得ないという顔で、そう宣言した。
「大変なことになってるじゃんね」
「そうだね」
相変わらず、私の自室。
最早溜まり場と化している私の部屋だが、もう良いかなという気がしてきた。
「リアラさんは参加するのですか?」
「流石に参加しないと。まあ、ソラちゃんは留守番ね」
「えっ!?」
参加の是非の話になり、その流れで私はソラちゃんに留守番を言い渡す。
別に過保護というわけじゃない。
ただ、ソラちゃんはまだ10にも満たない幼子。
こんな時分から【殺し】を行えば、何がどう歪むか分からない。
子供は順応性が高い、高すぎる。
だからダメなのだ。
「ボクもそう思うかなー」
「なんでですか!私もやれます!!」
「そりゃ実力的には申し分ないよ?」
「月並みな言葉だけど、十年早いかな」
不満そうに頬を膨らませるソラちゃんの頭を、優しくなでる。
意地悪で言っているわけではないのは分かってくれるはずだ。
ソラハリア=オークニーという少女は、英雄になるべくして産まれた人間だが。
英雄になるにはまだ早すぎる。
「どうしてもだめですか……?」
「ダメ」
「……分かりました」
「ごめんね」
「まあ、騙すようで悪いけど、もう参加する人員は決まってるの。これから出発だから、出る前にちょっとね」
「むぅ……」
「必ず帰って来る。約束だよ」
「約束ですよ」
私とアステリアはソラちゃんに留守を任せて、戦場に出る。
《英傑院》は不落の学園都市だ。
こと防衛になれば、敗北はない。
神話に並ぶほどの絶大な信頼が、そこにはある。
『さて、全員配置についたね?これから先制攻撃をするから、皆下手に動かないでね……
そして、天神様による先制攻撃。
天をも焦がすとされる、本物の
『うわちちち……しかし幸先良し!!出鼻はくじいた!!キルゼムオール!キルゼムオール!!戦闘、開始ィ~~!!』
そして、それを合図に戦いは始まった。
《生命の樹》の改造戦士たちは、大小様々だが皆人型であり、やはりソラハリアを置いて来て正解だと痛感した。
魔物を切るのとは、やはり違う。
人に近しい形をしたものを斬るのは、忌避感が産まれるものだ。
否。
産まれなければならない。
「これで38体目……流石にしぶとい……!」
「リアラ、後ろがお留守だよ」
ぐちゃり。
私の後ろに迫っていた改造戦士が、アステリアによって潰される。
莫大な魔力量と、圧倒的な暴力を以て、英雄級であろうと叩き潰す、真なる英雄の器。
眩しいほどの才覚に、私は目を細める。
「ありがと、アステリア」
「良いってことさ!ボクとリアラの仲でしょ」
私とアステリアは単身軍勢の中に突撃して、敵軍の後方から荒らしている。
偵察の結果、規律を保った軍事行動を取っていることが判明したため、後方に兵站などがあると思われたためである。
『ガァアア!!』
「邪魔だよ!《
アステリアが放った稲妻に焼き払われた道を、私が斬り開く。
私が斬り開いた道を、アステリアが稲妻で焼き払う。
その繰り返しで、敵の中枢へと潜り込んでゆく。
『そこまでだ』
ただ、その快進撃は、突如として現れた巨躯に阻まれる。
雷霆は受け止められ、斬撃は受け流される。
言葉を操る理性があり、技量があり、力量がある。
「真打登場ってトコ?」
「大将首かしら。首級はあげたいところね」
『《天雷狼》と、それに並ぶ剣士か。貴様の情報はなかったな。不自然なほどに』
「ボクのリアラは目立ちたがらないからね」
「アステリア」
「はいはい」
『リアラか。貴様の名は今組織に共有した』
「あっそ」
アステリアがより一層雷を放ち、周囲の改造戦士を葬り去って、突撃する。
私はそれに合わせて反対側から攻め立てる。
『まずは貴様からだ、剣士』
「っ!!」
だが、敵将は巨躯に似合わぬ俊敏さで方向転換し、私の方へと盾を構えて突進してきた。
アステリアの倍はある巨躯を覆って有り余る大盾が、私の視界いっぱいに埋まる。
私はとっさに飛びあがり、勢いよく盾に着地する。
ぶつかり合う力で私は数舜盾に張り付き、体の発条を使って勢いを殺しながら盾を蹴飛ばして距離を取った。
その間にアステリアが金色に輝く雷を纏った拳を振り下ろす。
「《
『ヌゥン!!』
敵将は魔力を込めた拳をアステリアの振り下ろした拳に合わせて振り上げ、衝突する。
衝撃と熱波。
小規模だが、大地が硝子と化す。
敵将もあまりの衝撃に、数舜の硬直を強いられる。
「もういっちょぉ!!《
しかしアステリアは止まらず、雷鳴を纏った回し蹴りが敵将の頭に突き刺さる。
防御は間に合わず、敵将は勢いよく大地を転がる。
致命傷ではなかったのか、途中で体勢を直して立ち上がったが、まずは有効打である。
『……噂以上だな、《天雷狼》』
「そりゃね。ボクはまだまだこんなもんじゃないぜ」
『で、あろうな。その上、貴様と並べる剣士か……《英傑院》の雛鳥も士気が高く、技量も言わずもがな。こちらは技量が伴っておらず、このままでは我々の敗北は必定、か……』
「そこまで分かってるなら、大人しく首を出したらどう?」
『そういうわけにもいかぬ。任務なのでな』
「じゃあ、死んどいてね!!」
アステリアが加速する。
私もそれに合わせて動く。
アステリアの本気は、私がどう足掻いたって追いつけるものじゃない。
文字通り雷と化して縦横無尽に動き回る。
彼女を止められる英雄を、私はまだ知らない。
『《
否。
知らなかった。
今この瞬間までは。
「マジィ?」
『大マジだ』
再び拳がぶつかり合う。
アステリアが本気を出したならば、本来は拮抗など許さずぶち抜く。
だが、そうではなかった。
「このボクが力比べで押されるなんて……誇れよ、キミで二人目だ」
『ほう?ぜひとも一人目を知りたいところだが』
「生憎と愛しい愛しい妹さ!!」
アステリアが押されている。
そんな馬鹿なと思う前に、身体が動いていた。
力の比べ愛をしている今が、最大の好機。
「《破斬・翁》」
『グヌゥウ!?』
首を狙いすました一撃。
すんでのところで狙いをずらされ、致命の一撃とはならなかった。
ならば次と構える。
『無駄だ!!』
「おいおい、お前の相手はボクだぜ!!」
再びアステリアが張り付く。
アステリアを無視して私を仕留めることはできない。
何故なら私以上の脅威だから。
私を自由にせざるを得ない。
次第に追い詰めていき、傷だらけの身体を晒させる。
肩で息をし始める敵将に、私たちは油断せずに構える。
『よもやこれほどの英雄が既に育っていようとは……!!だが、ただではやられんぞ!!《
「させない」
「疾く死ね」
最後の悪あがきも許さない。
通じ合った一撃でとどめを刺した。
そのはずだった。
『儀、式は成った……く、はは……!!』
閃光と共に衝撃が私たちの身体を打ち据え、吹き飛ばしていく。
「いってぇ……なんなんだ今のは……!」
「見て。どうやらヤバいのを目覚めさせたみたい」
身体を立て直した私の視界に写ったのは、城塞ほどもある、悍ましい巨大な魔物の姿だった。
「なぁるほど、こっから本番ってワケ?」
『あ、あー緊急連絡、緊急連絡。戦域各地で巨大魔獣の姿を確認。控えめに言ってヤバいね、策を立てる、時間を稼いでくれ』
天神様からの緊急連絡。
現状の戦力を以てしてもヤバいと言わしめるソレらは、戦況がひっくり返ったのを確信させるには十分だった。