ネフェルピトーに執着されるだけ   作:おいかぜ

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バトルが書きてぇ!(気さくな挨拶)

オリジナル念能力杯2026が日曜日で終了しました。
本作品の投稿のきっかけをくださった主催の鈴ノ風さまに感謝申し上げます。
オリジナル念能力(原作キャラの能力を弄る)という超邪道をかましておりましたが、流石にもう能力改変はないです。捏造とオリジナル念能力は出ます。


十四話 花緑青

 

「追加で聞きたいことがあれば対応するが、どうかな」

 

「船上での主権はカキンですね? ハンター協会員の治外法権はどういう扱いになります?」

 

「従来通りだ。王族を害した協会員を庇う手立てはこちらにない」

 

 ピトーが口を挟まないまま、俺とミザイストム、チードルの間で打ち合わせが進んでいく。この場にクラピカが同席している意味を考えると、王子の護衛に関しての擦り合わせも済ませておきたいと考えるのが筋だろうか。

 

「ではもう一つ。俺が死んだら彼女はどうするんです?」

 

 ピトーの尾が跳ねた。ミザイストムは素面のままだが、チードルの表情が強ばった。

 

「俺に手綱を期待しているのは分かるし、貴方達の目論見通り、効果はゼロじゃないでしょう。だからその後を聞いておきたい」

 

「……協会員としての判断を尊重します。私たちの指揮下にあるなら従ってもらいますし、自由ならば何も問わない」

 

 暗黒大陸に帰ってくれれば万歳、くらいか。

 彼らはもう、ピトーに理性的な判断が可能だと考えているらしい。それには俺も同意する。復讐衝動に呑まれたり、人類への敵意を露わにすることはないだろう。

 

 好奇心を優先しそうなきらいはあるが、その程度。

 

「なら問題ありません。貴方達なら上手くやるでしょうし」

 

「死なないのが理想です→リグ」

 

「無駄死にする気はないですよ」

 

 一通りの打ち合わせを済ませると、ミザイストムとチードルの二人が去り、その場にはクラピカだけが残った。

 

 十二支んの「子」、クラピカ。マフィア、ノストラード組の若頭にしてゴンとキルアの同期であり友人。賞金首(ブラックリスト)ハンターとして疑いようのない実力と、原作に裏打ちされた善性は、手を結ぶに余りある。

 

「王位継承戦に関して話がある。まだ時間はあるか?」

 

「もちろん」

 

「済まないが、まずはあなたの理解を測りたい。どこまで把握している?」

 

 クラピカに問われ、逡巡する。

 彼はこの時点で第8王妃(オイト)と第14王子(ワブル)に接触しているはずだ。B・W号の中で起こることが閉鎖空間での暗殺合戦であることを知っている。

 

 原作から読み取れる思惑をあまり考慮せずに考えても、クラピカの目的は俺たちを陥れることではなく、その逆──文字通りに認識をすり合わせ、足並みを揃える事だと思われる。

 

「与えられた情報以上ではないな。護衛に求められる要件としての文言から、船という閉鎖空間内でのゴタゴタ……言ってしまえば暗殺までは想定されていると考える。そして、王族同士の殺し合いが行われるなら、歳上の上位王子が圧倒的に優位なパワーバランスだとも考えられる。対する下位王子側がやれることは、連合を組むことか、外部戦力を積極的に受け入れること。第12王子(モモゼ王子)が俺達を受け入れた理由もそれだろう」

 

「大きく齟齬はない。私は第14王子(ワブル王子)の護衛に就く。加えて、6,7,10,12,13王子の警護には私の息がかかった協会員も派遣されている」

 

「協会員を足がかりにして、下位王子による同盟の可能性があると?」

 

「そこまでは具体的に考えていないが、想定はすべきだろう。我々の任務は、王子達の護衛だ」

 

 王子を勝たせることではない、と。これはどちらかといえばピトーに釘を刺しているのだろう。本人は何処吹く風だが。

 

「モモゼ王子の護衛は?」

 

「私の同期だ。ハンゾーという」

 

「承知した。なるべく連携が取れるように心掛けよう。そちらからも言伝してもらえると助かるが」

 

「当然だ」

 

 クラピカの右手に鎖が覗く。

 協会に疑念を持たれるような嘘をつくつもりはないが、知らされた情報以上のことを話して疑念を持たれるのも困る。

 モラウにプフの弱点を知らせた時のような無茶は、船に乗り込んで以後にやれるかどうかだろう。

 

 残念ながら原作知識が完全に残っているという都合の良いことはないのだが、大まかな配属や勢力図、隠し玉に大雑把な能力の詳細くらいは虫食い状態で残っている。これは王位継承戦において極大のアドバンテージだ。

 

 第12王子(モモゼ王子)と話をしてから考えることにはなるが、原作の途中までの流れを考えるに、下位王子達で緩やかな連合を組んで継承戦を御破算にすることが理想だろうか。カキンの国体の維持なんてものは二の次だ。

 

「まだるっこしいのは得意じゃないニャ〜」

 

「護衛は本分なんだろう」

 

「……ボクにとっての王はメルエム様ただお一人だよ。王でもない子を護るのもボクの本分?」

 

「それに答えを出すのは俺じゃない」

 

 メルエムは満足のままに死んだ。ピトーもそれは分かっているだろうが、だからといってピトーの慰めになるかは別だ。

 王を護ることが本分である護衛軍が、みすみす王を殺されたのだから。

 

 簡単に癒える喪失でもなかろうし、俺が何かを言うことでもない。

 それはそれとして、王子の護衛は真面目にやってもらわなければ困る。俺はクラピカほど賢くないので、情報アドバンテージがあったとて王子を守れる気はあまりしていない。

 

 相手が正面戦闘のみを仕掛けてくるならいくらでも叩きのめしてやるくらいに考えているが、あの戦場は分身、陽動、錯乱、洗脳、毒殺、呪殺となんでもござれだ。

 そういう搦手に対して、俺はあまり強くない。

 

「……まあ、基本的には専守防衛だな」

 

 60日間を耐え凌げば良い、という話でもないだろうが、ここではそう言っておくことしかできないのも事実。

 

「殺し合いは極力避けるが、担当する王子の護衛を優先して良いんだな?」

 

「護衛任務を優先してくれ」

 

「幾つか確認しておきたい。まず、王子が直接殺し合いに乗り込んできた場合。拘束までは許されると解釈したが、どうだ?」

 

「状況と力関係による、という他ない。適宜判断してくれ」

 

「……そうするしかないよな。ではもう一つ、緊急時はクラピカの指揮下に入ると考えて良いか?」

 

「王子の指揮から外れた場合、こちらも状況によるが、私ではなくミザイストムの指揮下に入ることを推奨する。建前上、あくまで我々は他陣営だ」

 

「ふむ。まあ、確かにな。承知した」

 

 意味が薄いと知りつつも、幾つか確認を重ねておく。

 原作からして、先の展開は見えている。協会員にとって都合が良いのは膠着だ。

 

「最後。ハンゾーを通してでも構わないから、できれば互いの区画に起こった異常は共有し合いたいがどうだろう」

 

「もとよりそのつもりだ。暗殺に対しては、事前情報の有無が生存の可否を分ける」

 

 幾つか業務上のやり取りを交わしたあと、俺は核心に触れておくことにした。

 クラピカを挑発する意図はないが、彼にとって俺が「利用価値のある相手」として映る方が望ましい。最低限「使える」ように見せておく必要がある。

 

「……で、クラピカ。君の話は? カキンの王族と何やら因縁があるのでは、と疑っているがどうだろう」

 

 原作知識がなくとも、十二支んの一人がわざわざ下位王子の護衛に拘束される配置になっている時点で察しはつく。

 その王子に重大な秘密や価値があるか、クラピカ自身が王子に近づく動機があるかのいずれか。クラピカが手勢を他の王子にも送り込んでいる時点で後者が濃厚になる。

 

「お察しの通りだ。ただし、あなたに何か仕事を求める気はない。ただそういう状況だと納得して欲しいだけだ」

 

「要らぬ疑いを持たれないための念押しだと?」

 

「相違ない」

 

「協力は不要か? 成果は保証しかねるが」

 

「……いや、いい。巻き込むつもりはない。先程言った私の手勢が、既に依頼を負っている」

 

「そうか」

 

 話は終わりだ、とクラピカが席を立った。

 一言で済む連絡事項にわざわざ時間を割いたのは、彼なりの品定めだろうか。使えるかどうかは判断されただろうが、俺に情報を与える気もあっただろう。殺し合いのことを把握しないままに継承戦に突っ込んでいたら、確実に事故る。

 

「では、次は船で会おう。健闘を祈る」

 

 クラピカを見送ってから、会議室には俺とピトーだけが残った。

 

 監視カメラは残っているが、俺は背もたれに体重を預け脱力する。

 

「参ったな」

 

「そうなの?」

 

「護衛とは言うが、多分お前が思っているよりもずっと苦しいぞ。何せ、敵を排除できないんだから」

 

 ピトーは首を傾げた。これ以上は誰かが聞いているかもしれない中で話すことでもないだろう。飲みかけの茶を飲み干して、席を立つ。

 

「これだから人間の相手は嫌なんだ」

 

 そのまま近隣で押さえたホテルに移動する。引き上げてきた遠征用の荷物の整備をしたいが、客室であれこれ広げる訳にもいかない。カバンに入れたまま、安宿の一室に滑り込んだ。

 

 黙ってついてきたピトーが先にベッドへ飛び込む。

 俺はバゲージラックにカバンを置き、そのまま部屋の端っこに追いやる。

 

「さっきの」

 

「うん?」

 

「敵を排除できないって、王族のこと?」

 

「王族も含む、だな。俺達の護衛対象になるモモゼ王子を直接狙うのは、他の王子と、王妃、そしてその息がかかった暗殺者達だ。俺達は彼らが敵だということを知りながら先手を取れない。暗殺者に関してももし軍属であったりすれば、殺すのは問題になるかもしれない」

 

「うへぇ。ボクそういうのキライ」

 

「だろうな」

 

 だが、ピトーは護衛として極めて強力だ。何とか我慢してもらうしかない。

 彼女のことだからB・W号に乗り込むカキン王国軍ごと一人で滅ぼしかねないが、ハンター協会側が本気で抵抗すれば流石に敗北するだろう。

 俺が協会の幹部側であれば、ピトーに通用する能力の持ち主を仕込んでおく。

 

「基本的には向こうもハンターと事を構えたくないはずだが、互いにそうも言っていられない局面が来るだろう」

 

「戦えるってこと?」

 

「戦わないで済むならそれがいいんだけどな」

 

「王になるために殺し合うんでしょ。ボクたちが護る子が、ボクたちをけしかけるかも」

 

「無理だな。その時点で王子が拘束されることになる。国軍は第一王子(ベンジャミン)の管轄だから、要らぬ口実を与えて負ける」

 

 ピトーは面倒そうに眉を顰め、シーツに突っ伏した。

 

 未だに俺は、彼女が戦いの最中に死ぬ未来しか思い描けないでいた。

 研鑽を積んだキメラアントの護衛軍はいっそ異様なほどの強者だが、彼女は未だ人間一年生だ。ゾルディック家の爺連中やネテロ会長のような老獪さ、強かさには欠ける。

 

 王位継承戦でビスケが死ぬとは思えないが、それは本人の実力に加えて、彼女の優れた判断能力と経験に裏打ちされた知識があるからだ。彼女がただのパワー自慢であれば一コマで死んでいても不思議ではないのが、念使いの戦いだった。

 

「護衛に関しては事前にチードルと約束してたんじゃなかったのか?」

 

「人間の王が生まれるのを見るのも良いかなって思ったんだケド、ずっと退屈そうだニャ。ボク、騙された?」

 

「彼女はそんなに器用じゃない。おそらくだが、本気でお前に向いていると思ってそうしたんだろう。キメラアントの護衛軍だったんだから、護衛(ガード)として優秀なはずだってな」

 

 思い当たったのか、ピトーは唸りながら思案に戻っていった。

 外行きの上着をクローゼットに掛け、予備のシャツに着替える。立ち上がったついでに背骨を反らした。

 

 唸り声を上げているピトーに視線を戻すと、彼女はベッドに寝そべったまま、仰向けに両手を俺の方へ伸ばした。

 

「リグ、付き合って」

 

 

 

 

 

 ♦

 

 原作のキメラアント編で登場したキメラアントは、そのほとんどが生後一ヶ月から二ヶ月程度の超若齢個体である。そこらの働きアリでさえ数年生きることを考えれば、彼女はまだかなりの若年層であると言える。

 

 こんなことを考えているのは、半年前には俺が勝っていたはずの『流』と『周』の練度においても置き去りにされていたからで、脇腹の痣とうなじの傷が絶妙に痛むからだ。

 

 傷を負わせた張本人は何事も無かったかのように俺の隣を歩いている。

 フードで耳を隠してはいるが、逆にそれが衆目を集めていた。隠しきれない異様な気配もそれに拍車をかける。

 

 セレモニーが始まる前に、俺達はモモゼ王子との顔合わせに臨んでいた。

 抱いていたイメージよりも彼女は幼く、小さく見えた。よく考えれば、ゴンと同じくらいか、それよりも若いのだからそれも当たり前のことだった。

 

「お初にお目にかかります、協会員のリグ=ファウラーと申します」

 

「同じく、ネフェルピトー」

 

「……モモゼと申します。お二方とも、大変に優秀なハンターであると伺っています」

 

「光栄です」

 

 周囲の協会員は三人。ハンゾーと、名前も知らない二人だ。それから、従事者が三人、王妃所属の兵が七人。

 王妃所属の兵のうち、二人が念能力者だった。記憶が定かであれば、原作のモモゼ王子殺害の下手人は分身能力者であったはずだ。

 即座の排除に出ることはできないが、一先ずはマークしておく。

 

「……その耳と尾は、本当に本物なのでしょうか」

 

 彼女は、フードを外したピトーの耳に興味を抱いたようだった。

 HUNTER × HUNTER世界にあっても獣耳は珍しい。前世と同じようにバニーやネコミミ文化はあるが、本当の意味での獣人種族は実在しないし、コスプレ念能力者は超希少だ。

 

「そうだよ。珍しい?」

 

「他にお見かけしたことがありません」

 

「だろーね」

 

 敬語は使ってくれよと思ったが、黙っておく。

 もとより期待してはいなかった。彼女が人間に敬意を抱くとは思えない。

 

「不躾な事を伺いますが、王子。何故彼女を護衛として受け入れたのでしょうか。事前に協会から説明がなされたと聞いております」

 

「なぜ、ですか。兄様方が拒否なされる方が私には意外でした」

 

「人喰いの獣は誰だって恐ろしいんじゃない〜?」

 

「王たらんとするものが周章(しゅうしょう)するものでしょうか」

 

 彼女は膝の上で手を重ねたまま、続けた。

 

「いずれにしても、私は得をしたことになりますね。恐ろしい護衛がついてくださるのですから」

 

 彼女は本当にピトーのことを恐れてはいないのだろう。

 ただそれは、ピトーの持つ情報を恐れていないというだけだ。人殺しの獣であるという情報が、己にとって害にならないと盲信しているだけ。

 或いは死さえも、それほど恐れていないのかもしれない。

 

 たとえばピトーのオーラに触れれば、彼女とて本能的な恐怖に陥るだろう。理屈で逃れられる恐怖なら、ノヴがあそこまで揺れるはずもない。ただし、それはそれ。悪戯心を揺らしている彼女を視線で窘(たしな)める。

 

 俺達が部屋にいる間、彼女の母親であるセヴァンチ王妃はついぞ訪ねてこなかった。

 

 従事者の一人がモモゼ王子に耳打ちする。

 

「お時間のようです。参りましょう」

 

「ええ」

 

 立ち上がった彼女に合わせ、七人の護衛兵が隊列を組む。その後ろに俺達外部の護衛が付かず離れずの位置をキープする。

 

 周囲を固める護衛兵達は、その全てが彼女の首に手を掛ける瞬間を待ち望む敵だ。

 

 ただ一人歩く彼女を、どうしようもなく憐れに思う。

 

「彼女はきっと、助けを求めないんだろうね?」

 

 ピトーが愉快そうに囁いた。

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