次からオリジナル展開が増えると思いますのでご承知ください。
感想で「大事なところが抜けてる」って来てますけど、仮にそうだったとしても書けるわけないでしょ……きっとストレス発散しただけですよ。
極端なことを言えば、王子護衛の任務は、俺とピトーを含めたほとんどの協会員にとっては寄り道に過ぎない。
護衛している王子が殺害されようと罪に問われることはなく、軍に拘留されるくらいがせいぜいだ。2ヶ月弱の航海とはいえ牢屋ぐらしは御免被るが、命を賭けるほどでもない。
俺達の本命はこの後に控える暗黒大陸への航海であり、護衛任務は、同様に滑り込んだであろうビヨンド・ネテロ及びパリストンの手勢である協専ハンターの監視ないし情報収集のためのものだと考えていい。
クラピカの目的はともかく、チードル会長やミザイストムが俺達を一層に送り込むことを決意したのは、上層における極大の予備戦力を期待してのことだろう。
故に、協会員は王子の護衛に消極的であるべきだ。提示された報酬以上に働くべきではない。リソースの無駄だ。
だが、それはあくまで理屈であって、仁義や信念の話ではない。
プロのハンターであれば護衛任務にも命懸けで臨むものが大半だろうし、俺もその例に漏れない。
「よう、クラピカから聞いてるぜ。俺はハンゾーってモンだ」
「リグだ。よろしく。こっちはネフェルピトー」
「……まじでおっかねぇオーラだな」
部屋の境界ギリギリにまで円を展開して周囲を見聞しているピトーを見て、ハンゾーが冷や汗を流しながら言った。敵意は見て取れない。
クラピカが信用して依頼するあたり、彼は仕事人だろう。余計なトラブルを心配しなくて良いのは幾分気楽だ。
ハンターには我が強すぎて困るやつらも多いから、ハンゾーのような人間は貴重だった。彼の同期で言えば、ポックルもその枠に入る。
セレモニーにモモゼ王子を送り出し、待機する間に部屋の中を検分する。
壁は分厚く、ダクトは人間が通れるサイズではない。念能力を用いずに入口以外から侵入することはまず不可能、というのが一先ずの結論だった。
流石に王族が乗る船だけあって、物理的な防御は水準を満たしている。
一方で、念に対する防御は皆無と言っても良い。神字や、専属の念能力者による防衛機構が存在しないので、念使いや守護霊獣であれば部屋を跨いでの暗殺も可能だろう。
「見た感じ、セヴァンチ王妃は弟のマラヤーム王子を溺愛している。モモゼ王子に対する手厚い支援は期待できねぇと思った方がいい」
「……分かってはいたが、大問題だな」
「あとよ、警護兵……アイツらは一人を除いて他所の王妃の子飼いらしい。アイツらの動向も監視する必要がある。特にあの念使い、そこそこの練度だ」
「俺達のシフトはバラけさせようか。それで牽制になるはずだ」
念使いの護衛兵、タフディーと休憩時間が被らなければ、俺たちの内誰かしらが暗殺に反応できるはずだ。それで防げるのは原作通りの暗殺であって、それ以外は無防備なままだが。
護衛兵は俺達を遠巻きにしていた。協専ハンターと思しい三人もピトーを警戒してか近付いてこない。
「……うん、だいたい見えた」
目を瞑って円の展開に集中していたピトーが口を開いた。
「一層から二層以下に行く手段は、正規以外にもいくつかあるね。二層と三層は特に緩そうだから、カタいのは一層の王族居住地を抜けるところかニャ」
「非常時に王子を退避させるルートは構築できそうか?」
「んー、何人か抱き込めば?」
「了解した。後で情報をくれ」
つくづく反則級の能力だ。半径2kmの不定形の『円』。念使い以外には気取られず、念使いさえも回避しながら情報収集ができるこれが、『発』でさえない基礎技能とは。
「俺がアサシンだったら、この部屋には近寄りたくねぇな」
「一年前の俺も同じ気持ちだったよ」
セレモニーが終幕に近付き、モモゼ王子が戻ってきた。
原作でどうだったかは分からないが、護衛たちは付かず離れず、互いに牽制しあっている。
そして俺が密かに抱いていた懸念は的中し、原作通りのことが起こった。
セヴァンチ王妃が、
「モモゼなら自分のことは自分でできるわよね〜?」
「ええ、お母様」
従事者さえも引き上げてしまえば、この部屋に残るのはモモゼ王子の殺害を画策する6人の王妃の配下だけだ。
「セヴァンチ王妃。我々はハンター協会とモモゼ王子の契約に基づいてこの部屋の護衛を務めております。ここに残りますが、ご了承ください」
「ええ、獣混じりがマラヤームに近付いても困りますもの。モモゼが自分で蒔いた種よ、好きにして頂戴」
けっ、とピトーが舌を出した。王妃には見とがめられていないので俺も見なかったことにする。
ハンゾーは遠回しに抵抗してくれたが、結局俺達八人を除いた全員が
戦力はガタ落ちだ。暗殺や諜報に長けているハンゾーの離脱は、正面戦闘の戦力低下よりもずっと厳しい。
何せ俺には、暗殺を防ぐためのプロトコルが存在しない。彼やクラピカが息をするようにこなす護衛の『鉄則』、『定石』を、俺はいちいち考えて組み上げなければならない。
王妃に少しばかり楯突いてでもハンゾーは繋ぎ止めておきたかったが……俺とピトーは思っていたよりも毛嫌いされている。どうにもならなかった。
それに、セヴァンチ王妃とモモゼ王子の関係も気にかかる。原作からしてモモゼ王子は軽く見られているのが明らさまだったが、実際に目にしてしまうと気が滅入る。
ピトーの言う通り、彼女は助けを求めない。
恐れないこと。
他人に寄りかからないこと。
一見立派だが、それが人として歪んだ在り方であることを誰も彼女に教えない。
落胆していると、護衛兵のうち二人が近付いてきた。
「なあ、シフトと配置の相談をしたいんだが……」
「ああ、済まない。改めて、プロハンターのリグだ。こちらも同じくプロハンターのネフェルピトー」
ピトーは口を挟む気がないらしい。護衛達がすっかりピトーに対して怯えているので、興が削がれたというところだろうか。事前に調整は俺がやるよう取り決めていたから、予定通りではある。
モモゼ王子に対しては関心があるようなので、気を付けるとしたらそこだろうか。
「
「
「ああ、それで頼む。……が、俺と彼女のシフトは別にして欲しい」
「わかった。それと、王子の食事だが……あんた作れたりしないか?」
「王族に出せるようなものは無理だ」
「そうか……じゃあ、オレが担当しよう」
念使い以外は、過剰に警戒する必要がない。俺とピトーの警戒をすり抜けて直接害する手段はそれこそ毒殺くらいしかなく、食事の担当を一本化してしまえば、毒殺には多大なるリスクが伴う。容疑者が必然的に一人に絞られるからだ。
容疑者がわかっても王子が害されてしまえば意味がないが、通常の毒味以上のリソースを割かないで済むのは大きい。
食事をブラッヂに一任すること、シフトの調整が決まり、俺達の休憩ローテーションはタフディーと別になった。好都合だ。
「モモゼ王子は──」
「わぉ。大盛り上がりだね」
打ち合わせを終え、一人編み物を始めていたモモゼ王子に護衛の調整の件を振ろうとした瞬間、彼女の背後に黄色い毛並みのデカイネズミが出現した。直後、部屋のあちらこちらから念獣と思しい生命体が壁をすり抜け姿を表す。
「? 何か?」
「王子。確認しますが、背後の何かは見えていないのですよね?」
「ええ、何も変わったものは……」
「ニペイパー、どうだ?」
「俺にも何も見えないが……」
龍のような姿のもの、両生類らしきもの、クラゲのようなもの。乗り込んできたのはこの三種だ。モモゼ王子の守護霊獣は、1014号室の方へと走っていってしまった。原作通りにろくでもないことが起こるのだろう。
ピトーが手慰みに両生類らしきものと、クラゲみたいな霊獣を蹴り飛ばした。湿った音が鳴って、跡形もなく消し飛ぶ。多数いたのもあって、群体型のものか、先触れだったのだろう。
「
「モモゼ王子
モモゼ王子は流石に編み物をしていた手を止めて、安楽椅子から立ち上がった。座ったままで結構だと伝えると、まだ移動しやすいソファの方に浅く腰掛ける。
「いいえ。聞くに、超常的な現象のことでしょうか」
「ええ。超能力だと思っていただければよろしいかと」
「ネフェルピトー様のそのお姿も?」
「これは別」
「左様ですか。……超常的なものであれば、覚えがあります。私達カキン帝国の王子は、王位継承に先駆けて、壺中卵の儀という儀式を受けました。単なる願掛けと捉えていましたが、何かが起こっているのであれば、きっかけはそれかもしれません」
「その儀式を受けたのはどれくらい前ですか?」
「一ヶ月ほど前です。壺に血を垂らし、王位継承への思いを念ずることで特別な能力を授かる……というような説明を受けました」
王位継承戦の儀式や守護霊獣の仕様については原作から大まかな知識を得ているが、モモゼ王子やピトーの理解のため、情報共有がてら確認を進めていく。
原作はあくまで漫画媒体だったし、現実で受ける印象とはまるで違う。何せ一年前まで、俺はカイトと二人ならネフェルピトーを撃退できるとさえ考えていたのだから。まああれは思い上がりが大部分を占めるとしても、原作情報を現実で再度得ることには利益が存在する。
守護霊獣達が躍動する中、内線がけたたましく鳴った。
護衛兵とアイコンタクトをして、俺が受話器を取る。
『緊急放送! 全体共通チャンネル使用中! こちら協会員クラピカ! 14エリア内に未確認の念獣が多数出現! 各エリアの状況を知らせてくれ!』
『こちらセンリツ、エリア10異常なしです!』
『こちらビスケ、念獣確認! 現在エリア13異常なし!』
『ビスケ、王子の様子は大丈夫か?』
『異常、自覚症状共になし。すこぶる元気です、そちらは?』
『無事だ。念獣を視認できるのは協会員だけか?』
『その通りです。本人も視認できず、念は「寄生型」と思われます!』
受話器の先で情報共有がなされている。たった今モモゼ王子と確認した内容に相違は無さそうだった。
「あー、こちらエリア12、協会員リグだ。同様に念獣多数出現中。一部がエリア14の方向へ移動した。クラピカは留意されたし。念獣に関しては「壺中卵の儀」に関係するものと推察する」
『念獣の種数は?』
「4種類だ」
『こちらも同様だ。一度通信を切る。続報があれば
受話器を置き、通信を終える。
ピトーが耳を揺らし、首を横に振った。
「エリア13は揉めてるね。王子が動揺して王妃が騒いでる。エリア10は落ち着いてる」
「だろうな」
ほぼ同時に、守護霊獣達が姿を消す。もう満足したらしい。
「モモゼ王子。体調に異常などは御座いませんか」
「大丈夫ですわ」
「では、軽く『念』についてお話ししておきましょう」
ブラッヂが紅茶を用意する間に、ここから先のことを考える。
まず、俺とピトーがこの場に残ることになった以上、原作通りにモモゼ王子を死なせるなんてことは起こさせない腹積もりだ。
故に継承戦の現状を理解してもらう必要があり、なおかつ本人にも自覚的に動いてもらう必要がある。
引きこもることを選ぶならそれはそれで構わないが、一人で孤立されると助ける手段も減っていくからだ。
「先程申し上げた通り、『念』とは簡単に言えば超能力です。しかし、同時に誰にでも開かれた技術でもあります。たとえば、ハンター協会の協会員はほとんどがこの技術を修めています」
「あなた達も?」
「ええ。たとえばそちらのリボン──お借りしてもよろしいですか?」
「構いません」
リボンを手に取り、ダブルリボンに結ぶ。
『
リボンに『周』を施し、荷物の搬送に使われていた木箱の残りへ投擲する。リボンは真っ直ぐに飛び、木箱へと突き立った。オーラが切れ、布状に戻ったリボンがくたりと垂れる。
「『念』を用いればこのような芸当も可能です。それも、これは基礎と言っていいレベルですね。そしてこれが大きいのですが、『念』を修めれば、通常見えないものが見えるようになります」
「その『念』によって、壺中卵の儀では私には見えない何かが起こっているということですね」
「その通りです。この継承戦は、『念』を用いたサバイバルだと考えられます。壺を用いた儀式によって、王子達にはそれぞれ念能力が授けられたと見て間違いないでしょう。先程の騒動で我々の目には見えていた『念獣』の中には、モモゼ王子の背後から出現したものがいました。あれがモモゼ王子の念獣だと思われます」
護衛兵達も耳を澄ませている。
モモゼ王子に紅茶が出され、彼女がそれに口をつける。
「念獣とは、どのようなものなのですか?」
「モモゼ王子の念獣はネズミのようでしたね。それもデフォルメされたマスコットのような外観で、人間と同じくらいのサイズです。能力は一切不明。王子の不利益になるようなことはしないと思われますが……」
「隣室へ行ってしまったのですよね?」
「ええ」
「ネズミなら、ネフェルピトー様が恐ろしかったのでは?」
ピトーが肩を震わせていた。
「他の部屋を見に行ったと考えるのが自然かと。モモゼ王子を護るのも役目の一つだと思われますから、流石に逃げたりは……」
しばらくして、モモゼ王子の守護霊獣が戻ってくる。
「戻ってきたよ」
「怯えてはいませんか」
「うーん、ひと仕事終えてきたって感じ?」
ピトーの耳がしきりに動いていた。
原作ではエリア14の護衛がクラピカとビルの二人にまで削られる戦いが起きているはずだ。助けられれば良いのだが、流石に動けない。いっそ、内線でも掛けてくれれば良いものを。
今後の方針を話し合おうとしたところで、護衛兵の一人が立ち上がった。第一王妃所属の兵だ。
「王子、王妃令により交代のため失礼致します」
「ご苦労さま」
……ベンジャミン王子の私設兵が送り込まれてくる流れか。原作でエリア12に誰が送り込まれていたかまでは覚えていないが、ピトーがいる関係上原作と違う人間が送り込まれても不思議はない。
そしてその場合、十中八九、ピトーの対策を持った兵が来るのだろう。二人体制でも驚かない。
理想はエリア14に派遣されていたバビマイナや、能力を覚えているリハンだが……
「失礼する。ベンジャミン王子よりこの部屋の警護を拝命した。国王軍所属のトノグラだ」
「ええ、ご苦労さま」
──能力不明。
内心で舌打ちする。面倒なやつが来た。