ネフェルピトーに執着されるだけ   作:おいかぜ

16 / 17
めちゃくちゃメタいことを言いますが、ピトーと主人公に全く知覚されずにモモゼを暗殺できる念は出てきません。その場合、唐突にモモゼが死んで継承戦編が終わるからです。護衛目標がデスノートで殺されて打ち切りとかかましたら低評価待ったなし、ベンジャミィ最強!になってしまいます……

とか言いつつやり方を調整して出すかもしれませんが……


十六話 転換

 

「本日はもう休みます。皆さんもご自由になさって」

 

 モモゼ王子は疲労のためか、食事をして早々に床に就いた。見るからにオーラが目減りしているのは、やはり守護霊獣が働いたからだろう。

 

 進言はしたものの、護衛が寝室に入ることは許されなかった。ピトーならばと思ったのだが、なかなか上手くはいかない。所詮は部外者なのが厳しいところだ。

 

 仕方なく、ピトーが『円』で護衛することになった。随分和らいだとはいえ、非念能力者が彼女の絶大なオーラに晒され続けるのは毒だ。王子のベッドそのものを避けて、寝室はカバーできる形で警戒する。

 

「エリア14は護衛が二人になったそうですな。なんでも、ネズミのような姿の念獣が協会員を操り、他の護衛を殺傷せしめたとか」

 

「私設兵同士の情報網か? 随分都合の良い役職だな」

 

 モモゼ王子が寝室へ引っ込むなり、トノグラはニヤつきながら俺に近付いてきた。本能的に不快感が勝る。

 刈り上げた黒髪がいかにも軍人然としているが、職務態度はそうでもないらしい。

 

「ですからこうして情報を共有して差し上げているのですよ」

 

「そうか。ご配慮痛み入る」

 

 この私設兵が原作にいたかどうかは思い出せないが、少なくとも能力は非公開だったはずだ。

 ピトーがこの部屋の護衛に入ることは事前に他の王子たちも知るところ。全王子が知っているかまでは不明だが、ベンジャミン王子は知っているだろうし、知られている前提で動くべきだ。

 

 よって導き出される回答は、こいつには俺とピトーを掻い潜ってモモゼ王子を殺害する能力があるという想定。

 

 事前に考えていた通り、俺達は搦手に弱い。護衛という立場を使って条件を満たしてくるような暗殺向きの能力にはほとんど為す術がないと言っても良いほどだ。

 

「他の王子に被害は出ていないんだな?」

 

「そのようです。何せ、モモゼ王子と共に寝室へ向かいましたからな」

 

 モモゼ王子の守護霊獣は、半強制型の操作系能力だ。特定のターゲットに暇かどうかを訊ね、暇だと答えたものを操作する。どこまで操れるのかは未知数だが、仲間を奇襲させることは可能なようだ。

 

「困った守護霊獣です。早急に対処せねばなりません」

 

「どういう名目で? モモゼ王子に過失はない」

 

「幾らでも考えられます」

 

「継承戦の機構による被害は不可抗力だろう」

 

「ふむ、随分モモゼ王子を庇いなさる。協会員にとってはついでの任務のはずでは?」

 

 ……ああ、本当に面倒だ。こうして話していても向こうがボロを出したりはしないだろうし、そうなると俺達が動くこともできない。

 探りを入れるべきか否か。望み薄ではあるが、少し話してみることにした。

 

「任務は任務だ」

 

「そうですか。ときに、リグ=ファウラー殿。少しばかり貴方と話してみたいと思っていたのですよ」

 

「一協会員に、軍部のエリートが用なんてあるのか?」

 

「ええ。あなたは近頃のカキンではそこそこ有名な賞金首(ブラックリスト)ハンターですからね」

 

 ピトーが左耳をこちらへ向けた。

 俺はトノグラの『興味』の中身を理解し、会話を拒否したい思いに駆られ始めていた。

 

「マフィアと繋がっていた密猟組織の幹部八名を縛り首にした功績は、一時期大きな話題になったものです。軍部も手を焼いていたものですから、A級賞金首である首魁を含めた一団を容易に壊滅させたプロハンターという存在に、我々も関心を抱かざるを得ませんでした」

 

「訂正させてくれ。俺は賞金稼ぎではないし、一人で奴らを潰したわけでもない」

 

「ええ、二人でしたね」

 

「で、だからなんだって言うんだ? アンタ達が不甲斐なかっただけだろう」

 

「いやはや、耳が痛いですな。組織の末端は随分死刑台に載せましたが……」

 

 トノグラが、腰に()いたサーベルを手の甲で軽く叩く。

 こいつが強化系であるにせよ、具現化系であるにせよ、俺は相性が悪そうだ。

 

「私はね、処刑人の家系だったんです。家を継ぎ、国王軍に入り、軍属になっても最前線で犯罪者どもの首を落とす仕事をしていたんですよ。ですから少々、手柄をあげた貴方の事が羨ましいのです」

 

「逆恨みも良いところだな」

 

「まさか。心の底から褒めているというのに」

 

「偶然手柄を上げただけで調子に乗りやがって、としか聞こえない」

 

 もしサーベルが直接的な武器であれば、モモゼ王子を遠隔で呪い殺すような能力である可能性は低いと見ていいだろう。右手に偏るオーラの癖を見るに、銃ではなく剣が主武装である可能性はかなり高い。

 

 直接戦闘を好むタイプの念能力は、正直想定が難しい。特に強化系であれば「何を」強化するかで顕著にスタンスの差が現れる。

 最も考えやすいのは、サーベルを具現化する能力者だが、それだけでピトーの前に送られて来るに足る実力を示せるだろうか。

 相当強力な能力を持っていないと釣り合いが取れない。

 

 俺の推察は、極めて限定的な状況でのみキメラアントの護衛軍にも届き得るタイマン能力。

 

 そしてその場合、俺とピトーのどちらかは条件に外れる可能性が高い。こいつのことはある程度牽制できていると思いたいが……

 

 

「ん」

 

 1時間ほど経って、ピトーが首を傾げた。

 そのままモモゼ王子の寝室へと飛び込んでいく。そしてピトーとの間に結ばれた線が励起し、ピトーの視界が俺に流れ込んでくる。

 

 視点が低くなる。視野が広くなり、世界の色彩がグレーに寄っている。暗いはずの寝室が、真昼の室内のように明るく映った。

 

 モモゼ王子のベッドに忍び込み、首を絞めるために手を伸ばした男の表情までが映り込む。下手人は、原作通りタフディー。

 

「何を!」

「行かせてやってくれ」

 

 それを止めようとした護衛の二人を俺が制する。

 同時に、警護兵用の休憩室の入口に『滑走路(プルージック)』を置く。

 

 ピトーが『黒子舞想(テレプシコーラ)』を発動し、モモゼ王子に襲いかかった影を吹き飛ばした。

 

 突入から一秒も掛かっていない。

 本気の彼女の速度に反応できるのは、プロハンターでもほんのひと握りだ。鉄砲玉が抗うすべはない。

 

「王子、お怪我は?」

 

「ありません。……ありがとうございます」

 

 モモゼ王子の容態を確認する。彼女は咳き込んでいたが、喉を潰されたりはしていなかった。

 彼女はすぐさま平静を装った。ナイトドレスの裾を握り締めたと思えば、すぐに離す。

 

「初日から良い度胸だニャ〜」

 

 直後、内線が掛かってくる。俺は警戒のために手が離せない。タフディーもそうだが、トノグラにも気を配る必要がある。

 ブラッヂに目配せをすると、察した彼が受話器を取った。

 

「こちらエリア12。ああ、襲撃には対応した。御忠告感謝する」

 

 すぐに内線を切り、ブラッヂが受話器を置いた。

 

「エリア14、オイト王妃からのご連絡でした。……何故襲撃が分かったのかは、念能力で説明できるのか?」

 

「可能だ。犯人も既に割れている」

 

 ブラッヂが俺に尋ねた。休憩室を警戒しつつそれに答える。円を張ると、中の二人が起き出してきていることが読み取れた。

 

 モモゼ王子をソファに座らせ、ピトーを傍に控えさせる。直後、仮眠室で休憩していたナゴマムとタフディーが部屋から出てきて、『滑走路(プルージック)』を踏んで転倒した。

 

 即座に起き上がろうとした二人の内、タフディーに蹴りを入れて肋の骨を折り、そのままロープで縛った。

 

「ま、待ってくれ! どういう状況だ?」

 

「流石に無理がある。王子自身が目撃しているんだ」

 

「くっ……」

 

 トノグラが軍に通報し、モモゼ王子の証言によってあっという間にタフディーは連行されていった。彼はそのまま死刑なのだろう。

 

 ブラッヂが蜂蜜を溶いた紅茶を用意し、モモゼ王子がそれに口をつける。

 トノグラが国王軍との調整をしている間に、王子は幾分動揺を収めた様子だった。まだ手は震えているが、気丈だ。

 

「お前の『円』に触れなかったのか?」

 

「うん。突然ベッドの上に湧いたのかな? 衣擦れの音で気が付いたケド、ボクの円じゃ検知できなかった」

 

「分身の遠隔操作と具現化……幽体離脱だな。円に関しては、実体がなければすり抜ける手段はいくつかあるから矛盾はない」

 

 ……正直危うかった。タフディーの能力は分身だと覚えていたが、ピトーの円をすり抜けて犯行に及ぶとは思っていなかった。

 

 これに関しては、初日に仕掛けてきたタフディーが上手だったと言えるだろう。

 俺の算段では、モモゼ王子に念のことを教えつつ信用と理解を勝ち取り、寝室にピトーが立ち入る許可を得る予定だった。一日目はピトーの円で凌ぐ計算だ。

 

 バレたら即座に死刑が確定する暗殺の都合上、ピトーの円を確認すれば計画を修正せざるを得ないはずなのだが、タフディーはそれでも強行した。

 

 あれほどのオーラの中に幽体で飛び込むのは相当の精神力を必要としたはずだ。おそらくは警備がより厳重になることを恐れたのだろうが、今回ばかりは拙速が功を奏しかけた。

 

 

 ……モモゼ王子の首元には痣が残っている。

 

 俺の力不足が齎した跡だ。後手にまわる状況につくづく嫌気が差す。犯人が分かっていても先手が打てないこの状況と、最低限の保身のために狭い裁量で遣り繰りする必要があるこの環境は、生来器用ではない俺にとってかなりの逆境だ。

 

 原作知識と念使いとしてのゴリ押しで上手くやっているように見せてきただけで、俺はクラピカほど有能じゃないのだ。

 

 本当に、参る。

 

 

 もう一度内線が鳴った。これ以上は俺の脳みそのキャパシティを超えそうだ。

 立ち上がって受話器を取る。

 

「エリア12、協会員リグだ」

 

『エリア14の協会員ビルだ。協会員が出てくれたのなら話が早いな。明日の午前9時から、念能力の講習を実施する予定だ。対象は全ての王子の配下』

 

「……発案はクラピカか?」

 

『ああ。二週間で精孔を開き、『(テン)』を覚えるところまでやると言っている』

 

「……無茶をするな。承知した。であれば、王子の意向を伺ってから折り返す」

 

『わかった。折り返しは30分後以降で頼む』

 

「ああ」

 

 原作通りのイベントだ。クラピカが主導で各陣営の護衛に『念』を指南し、戦力的な均衡を生み出すことで状況の膠着を狙う策。こちらも乗らない手はないだろう。

 

 この部屋には積極的に情報を収集する手段が多くない。他陣営の動向を探るチャンスを損ねることは有り得ない。

 

「用件は?」

 

「エリア14の護衛についている協会員が、それぞれの王子の配下を対象に『念』の指南を行なうとのことでした。二週間で最低限『使える』ところまでやると言っています」

 

「そうですか。……リグ様はどう考えますか?」

 

「最低でも講習会に関わるべきと考えます。……ですが、この部屋から誰かを派遣する事については慎重に考える必要があります」

 

 ……作戦を立案できる味方が欲しい。

 もっとピトーを頼るか? 俺は既に彼女を信用しているが、しかし彼女はまだこういう政治が絡んだ争いに疎い。俺とのやり取りも含めてすぐに学習はするだろうが……根本的に危機感がないのが気がかりと言えば気がかりだ。

 

 彼女はモモゼ王子を護るが、その優先度は彼女の中でそれほど高くない。

 

「既にお気付きになったかと思いますが、この場にいる護衛達は全て外様です。私とピトーは協会員で、他の五人は上位王妃や王子の配下。モモゼ王子自身の部下はこの場におりません」

 

「……ええ」

 

「加えて、今は王位継承戦の真っ只中。先程のタフディーのように、彼らは王子の護衛でもあり、敵でもあります。平時では王子を護り、チャンスが来れば暗殺にかかる動機がある」

 

「加えて協会員のお二人も、本当の仕事は下船後です。護衛任務は片手間でしょうな」

 

「……個人の信条は別にして、立場としてはトノグラの言う通りです」

 

 モモゼ王子はピトーに視線を向けた。ピトーが黙って頷くと、目を伏せる。

 

「……つまり、私の味方はいないのですね」

 

「ボクとリグは味方のつもりだけどね?」

 

「お二人が仕事として私を護衛してくださっていることは承知しています。……ええ、それで構いません。王族とは元より孤独なものでしょう?」

 

 言いたいことはあったが、口を噤んだ。

 モモゼ王子の孤独に対する防衛反応らしい言動には気付けても、孤独を埋める方法は思いつかない。

 

 せめて味方で在り続けることくらいしか俺にはできそうもない。

 

「……話を戻します。私とピトー、それからトノグラは念使いです。そして警護兵四人は念使いではないので、講習会で念を覚えるとしたら彼らになります」

 

「私にとっての脅威を育てるだけだと仰りたいのですね。ですが、講習会に参加して他陣営の情報も得たい……」

 

「仰る通りです」

 

 モモゼ王子は沈黙し、思考の海に沈んでいった。

 俺の考えでは、護衛兵の誰かを送り込んでも大きな問題にはならない。所詮は2ヶ月程度の練度である。極端な才能──それこそゴンやキルアクラスでもなければ、まだ対応はできる。

 

 チームとしての強さが上がることも大きなメリットだ。今のところ俺とピトーしか対応できない、念を用いた脅威を、警護兵にも対処してもらえるかもしれない。

 

 極端に暗殺に特化した能力を開発する恐れはあるが、もはやそれは折り込んで考えるべきだろう。この部屋の護衛兵には俺も指導ができるし、習得の進捗を把握したり、誘導したりすることもできる。

 そもそも講習の中で万能の暗殺能力なんて無いと思い知るだろう、という見込みもある。

 

 そういう意味で念を覚えさせたくないのはブラッヂ。食事担当による毒殺は少々対応が難しい。そこに念が絡めば尚更。

 

 ただし、一人で送り込むのはナシだ。その護衛兵一人がこのエリアの外交を牛耳れてしまう。

 

 よって無難な落とし所はニペイパーとラロック、ナゴマムのうち二人の派遣。

 二人には牽制し合いつつ念を覚えてもらい、この部屋の念に対する対応力を上げる。

 

 そこまで考えたところで、モモゼ王子が顔を上げた。

 

「ナゴマム、リグ様、お二人で講習に出ていただけますか?」

 

 モモゼ王子の口から零れたのは、予想や想定と異なる答えだった。

 

「はっ! 拝命しました!」

 

「……承知しました。講習の補助を務めればよろしいのですね?」

 

「ええ。講習会が潰れてしまわないようにしてください」

 

 講習会が外部から潰される可能性。それは確かに盲点だった。俺は既にこのクラピカの企みが成功することを知っているが、モモゼ王子視点では細い糸を手繰るような試みに映っているはず。

 

 ナゴマムを指名したのはおそらく、第六王妃(セイコ)所属兵だからだろう。彼が念を覚えれば、上位王妃所属の警護兵に対しても一定の影響力を得る。

 

「想定通りの答えでしたか?」

 

「いえ、私が考えていたよりも優れた案です」

 

 俺が護衛を離れることはリスクだが、モモゼ王子から見えている情報を考えれば俺がここで食い下がることも不自然。

 信用を得る段階であることも含めて、ここは王子の考えに乗るべきだろう。

 

 トノグラだけが懸念事項だ。俺が残っていれば抑止力として機能はするだろうが、獅子身中の虫を抱えたまま膠着することになる。状況を改善する手段は警護兵達に念を覚えてもらう以外に無く、それさえも諸刃の剣。

 

 多少の危険を飲んで、状況の打開の確度を上げたいというモモゼ王子の考えは非常に理解出来る。俺達が雇われの護衛である以上、この意思を挫くことは愚策。

 

 ピトーに警戒を促して、モモゼ王子についていて貰うしかないか。

 

 クラピカと直接話せる回数が増えたと思えば、やはり悪くないように思える。これから俺がやろうとしていることを思えば、エリア14と交流を深められる機会は極めて貴重だ。

 

「モモゼ王子。もう一つ、提案がございます」

 

「なんでしょうか」

 

「これから先、継承戦を勝ち抜くにあたって、モモゼ王子にも『念』を覚えていただきたいのです」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。