ネフェルピトーに執着されるだけ   作:おいかぜ

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情報量が!
ひとつのアクションを起こすのに動かさなきゃならない人数が多すぎる!




十七話 屍は白痴に踊る

【出航一日目・夜】

 

 『纏(テン)』ができるかどうかで、念に対する防御力は格段に変わる。そもそも精孔が開いていなければ念能力による産物を目視することもできず、念使いによる『練(レン)』を間近に浴びるだけで体調を崩し、心が砕けることさえもある。

 

 呪いに対する防御力も、おそらくは向上するはずだ。無防備な人間と警戒し対策が取れる人間、どちらが呪い殺すのに高コストかなんて考えるまでもない。

 

 よって、モモゼ王子が『念』を修得すれば、呪いに対する牽制になる。

 

「即ち、呪いの抗体のようなものと考えれば良いのでしょうか」

 

「その通りです。……そして、もう一つ、モモゼ王子にお伝えしなければならない事がございます。王子の『守護霊獣』についてです」

 

 俺が口にした瞬間、モモゼ王子の背後に念獣が姿を現した。着ぐるみサイズのネズミ型の守護霊獣。その能力は半強制型の人間操作。強力だが、無差別故にこの継承戦では致命的だ。

 

 こいつが出現したのは、言及されたためだろうか。こちらの言葉を聞いて理解している可能性はある。もっと原始的に、意識や視線の集まりを知覚している可能性も。

 

「既に王子の霊獣は、エリア14の護衛の協会員を操り、三名を殺害しています。操られた協会員は同エリアの同僚によって無力化され、軍に拘束されたようです」

 

「私の、守護霊獣が……」

 

「今のところ、守護霊獣の能力はエリア14とベンジャミン王子の私設兵のみに共有されていますが、対策が広まるのも時間の問題でしょう。王子の霊獣の能力は、各陣営に痛手を与えられないまま、能力だけが割れてしまいます」

 

 各陣営に先制攻撃を仕掛けて挑発した挙句に能力もバレる。そうなればこのエリアが大きくヘイトを買うことは疑いようがなく、集中攻撃されかねない。

 

「守護霊獣を制御する手段は?」

 

「おそらく、王子にはありません。例外があるとすれば一時的な消失のみ」

 

「守護霊獣はモモゼ王子のものなんだろう? なら王子にも制御する手段があってしかるべきなんじゃないか?」

 

 ニペイパーが口を挟んだ。

 

「その疑念は尤もだが、少し認識がズレている。守護霊獣は王子に憑いているが、守護霊獣を生み出しているのは王子ではなく壺中卵の儀だ。事前に『王子の指示に従うこと』を念頭に設計されていない限り、王子に操作権は付与されない。そしてこの儀式は蠱毒だ」

 

「殺し合いを加速させるための装置でもあるというわけか……」

 

「トノグラの見解はどうだ? 的外れなことを言っているとは思わないが」

 

「私も同意ですな。リグ殿が想定されている『絶(ゼツ)』による霊獣の一時的な消失も、理にかなっている」

 

 ベンジャミン王子の陣営が自前で検証すればすぐに結果はわかるが、仮に俺の考察が当たっていてもこちらに情報は降りてこないだろう。

 

「トノグラが言うように、『絶』を用いれば守護霊獣の顕現を抑えることが可能になるかもしれません」

 

「……分かりました。私も念を覚えます。しかし、1014号室の講習に私が加わることは難しいのではありませんか?」

 

「指導は私が行います。しかし守護霊獣への対処としては、クラピカが提示した二週間では遅い。よってモモゼ王子には別の方法を使わせていただきます」

 

「正攻法ではないということですね」

 

「元よりクラピカが提示する方法も正攻法ではありません。あれはおそらく、邪法を活用するリスクを抑えるための二週間。そして私たちには、詳細は後日説明しますが、そのリスクを踏み倒す手段があります」

 

「正攻法ではそれほど時間がかかるのですか?」

 

「モモゼ王子の才覚に左右されます。オーラを知覚し纏うだけでも数ヶ月から二年程度を目安に考えるべきかと」

 

 ゴンとキルアでさえウイングの見立てでは一週間弱。

 ツェリードニヒ王子の異常を考えればモモゼ王子も同様のポテンシャルを秘めている可能性はあるが、それにベットできるほどの余裕がない。

 

「皆さんはどの程度かかったのでしょうか」

 

「生まれた時から?」

 

「オーラを知覚するのに一ヶ月でしたな」

 

「十日ほどでした」

 

「……簡単そうに聞こえてしまいますね」

 

「ここにいるのは念使いの中でも上澄みの人間です。自然、才能に溢れた者が集まるわけですな」

 

 ピトーは例外としても、念の習得にかかった日数は念使いの技量を測る物差しにならない。

 

 一先ずの方針が決まったところで、あとはクラピカの講習と、彼との交渉次第で詳細を詰めることになった。

 

「念の訓練は明日からにしましょう。疲労が溜まっているようです。本日はお休みになってください」

 

「はい」

 

「それと、ピトーを寝室の警護のために立ち入らせる許可を頂けますか?」

 

「……ええ、お二人であれば、許します」

 

「光栄に存じます」

 

 実際には、こちらもリスクを背負う形になった。就寝中にモモゼ王子が暗殺されれば、容疑者は俺たちになる。

 

「なぁ、ピトー。念の指導に覚えがあったりしないか?」

 

「オーラを込めてぶん殴る、とか?」

 

「……はぁ、分かったよ」

 

 ピトーが基本的な念の目覚めや四大行について知らないはずはないのだが、指導を見たこともなく受けたこともないだろう彼女に求めるのは酷だ。

 

「ボクに教えたのはリグなんだから、キミが教えてないことは知らないよ」

 

 彼女は俺の左手に尻尾で触れてから、モモゼ王子の寝室へ引っ込んでいった。

 

「お熱いことですな。私には理解しかねるが」

 

「……黙ってくれ」

 

 クラピカの念の講習に合わせてシフトを調整し直し、俺とナゴマムが先に休むことになった。護衛用の居室でスーツを脱ぎ、簡易な食事を取りつつ寝る準備を進める。

 

 各陣営の勢力図と、原作についての記憶を遡りながら、モモゼ王子が生き残ったことによって原作の動きがどう変わるのかを考えてみる。

 やはり一番大きいのは王子の霊獣の躍動だ。早めに抑えるに越したことはない。

 

「なあ、さっき、俺が宿直室から出たとき、床が滑るようになっていたのも『念』の産物なんだろ?」

 

「そうだ。ああ、今更だが、転ばせて済まなかったな」

 

「緊急時だし、それはいいんだけどよ。あれって、誰にでもできるもんなのか?」

 

「得意不得意はあるが、鍛えればこの世に起こる大抵の事はできるな。ただし無敵の超能力ではないから、大きなリターンを齎すには相応のリスクを背負う必要があるし、規模が大きくなれば個人では届かない」

 

「そうか……」

 

「不安か?」

 

「いや、ここまで来てしまったからには、モモゼ王子のお役に立ちたいと思っただけだ。俺には王族を暗殺するなんて度胸もないからな」

 

「クラピカは善良で優秀な協会員だ。『念』は覚えられるだろうし、適性を見つつそこから考えれば良い」

 

 ベッドに滑り込む。念使いともなれば不眠不休でもかなり動けるとはいえ、当然眠らないとパフォーマンスが下がるし健康も害する。少しでも体力を温存しておきたい。

 

 

 

 ♦

【出航二日目】

 

 

 翌日に開かれたクラピカの講習は、原作通りの顔ぶれで開かれた。増えたのは俺とナゴマムの二人だ。

 基礎に至る前の段階なので、俺にとっても新しい知見は少ない。

 

 バビマイナがエリア14に派遣されていることを確認し、あの嫌な感じのオッサンと代わってくれないか交渉したくなった。後任にヒュリコフが来るのも御免だ。どう考えても獰猛で有能なタイプだから。

 

 講習会で俺がやることはあまりない。出来れば原作では犯人がわかっていない暗殺能力『11人いる! (サイレントマジョリティー)』の詳細を分析したかったが、原作通りに一人が殺されて終わってしまった。

 

 俺やピトーが狙われる分には大して恐ろしい能力でも無さそうだが、王子や護衛兵が狙われた場合判断が遅れれば即致命傷だ。

 

 相応の制約はあるはずだが、予想が付かない。原作の情報からして、誰かに念獣を憑かせる必要があることと、殺せなかった時にしっぺ返しがあることくらいか。加えて射程や手順を制約にすれば、大体あの程度の性能には収まりそうだ。

 

 犯人として個人的に怪しんでいるのはベレレインテだが、動機や立ち位置には見当がつかないから当てずっぽうでしかない。

 

 そして俺達の陣営に関しては、どうやら第1王子の陣営以外からはまだそれほど警戒されていないらしい。

 ピトーの脅威は、念使い以外には大きく映っていないということだろう。

 

 同じく協会員が多く派遣された陣営が警戒を露骨にしないのは、俺と彼女に一定の信用が置かれたからだと判断する。

 

 まだ彼女の脅威を盾に膠着を狙う段階ではない。どころか、他陣営との同盟も組めるかもしれない。

 考えるべきは、7,10,11,14王子……3か5が拾えれば理想だが、クラピカ以外に胸襟は開かないだろう。モモゼ王子が王になることを諦めていないのも考慮する必要がある。彼女を説得することも難しいだろうが、試みるべきか。

 

「クラピカ。第9王子(ハルケンブルグ)私設兵の後で構わないから、少し話がある」

 

「わかった」

 

 講習が終わり、俺の用事を済ませるためにクラピカに声を掛ける。先にナゴマムをエリア12へと戻らせた。

 

 意図的に取り入るのは苦手だ。その相手が子どもと言っていい年齢なら尚更、利用している感覚が付きまとって離れない。

 

 一度部屋の外に出る。第9王子(ハルケンブルグ)私設兵達の相談内容は何となく覚えているから、居残ることによる情報アドバンテージも薄い。安い信用でも買った方がマシだ。

 

 第9王子私設兵達の相談は長引いていた。廊下で待つ間、考えるのは今後のことだ。

 

 利用、牽制、策略、交渉、取引。不得手な自覚があるのに、どうしてこんな環境に飛び込んでしまったのか。せめて自陣営にクラピカがいれば……それは贅沢すぎるか。

 

 モモゼ王子の護衛が引き剥がされ、俺が相対的に一番まともな護衛の位置についてしまったのがまずい。

 

 そんなことを考えていた時だった。

 

 

 ──瞬間的にオーラが鳴動した。

 

 俺と接続したピトーの心拍数が急激に上昇し、ピトーの視界が流れ込んでくる。

 同時に、俺はエリア12の方へ駆け出していた。

 

 遅れて脳が理解する。襲撃、トノグラによる奇襲──

 ピトーの視界にはサーベルを振るうトノグラが映っていた。ピトーはそれを躱すが、回避がやっとの有様。

 

 ちらりと映ったピトーの胴体が真紅に染まっていた。

 

 ──キメラアントにとっても致命傷か? 

 判断がつかない。

 

 トノグラのサーベルの挙動がおかしい。その他の所作と比較して、ピトーに振るう瞬間だけ異様な速度で振るわれている。その上、ピトーの『堅(ケン)』による防御をものともせずに切り裂いている。

 特定の相手に性能が上がる類の武器の挙動によく似ていた。

 

 三手でピトーは壁際に追い詰められた。モモゼ王子の位置が分からないが、おそらく立ち位置からしてピトーの背後。

 

 ようやく状況を理解した警護兵達がトノグラへ発砲する。だが、9mmパラでも熟練の念使いに致命傷を与えることは難しい。片手間に拳銃で撃ち返され、四人とも即死した。トノグラは軽傷。銃弾が幾つか掠めた程度だった。

 

 歯を食いしばる。

 やはり部屋を離れたのは失策だった。……俺はまたも判断を誤っている。

 

 たった十数メートルの距離が遠い。永遠にも感じられる数秒の後、エリア12に辿り着く。ドアが解錠される。開けたのはナゴマムの死体だった。中へ飛び込む。

 

 ピトーの視界に俺が映り、俺の視界に凄惨な殺戮現場が映る。

 ピトーは胸部から脇腹にかけて袈裟に斬られていた。……血を流し続ければ死ぬ。

 

 トノグラを縫いとめているのは、ピトーによって操作された警護兵達の屍だった。ニペイパー、ブラッヂ、ラロック、ナゴマム……全員が『踊屍不想(ミルタ)』によって立ち上がり、トノグラへ機械的に銃を撃つ。

 

 トノグラは最も近くにいたニペイパーの死体を殴り砕き、その動きを止めた。骨が砕けた死体が崩れ落ちる。

 

「……早すぎる。どうにも運が悪い。それとも、その印が情報伝達を担っているのか」

 

「リグ、気を付けて。そいつの能力は、殺人者に反応する能力だ」

 

「御明答。獣風情と思ったが、判断が早い。初撃の不意打ちで殺し損ねたのが痛いですな。しかしその傷ではしばらく動けないでしょう」

 

 死体たちの拳銃が沈黙し、トノグラがサーベルを構える。その間にロープを経由し、トノグラとピトー、モモゼ王子の間に『滑走路(プルージック)』を張り詰めた。

 

「リグ=ファウラー殿。今までに殺した人間の数は?」

 

「8だ。今から9になる」

 

 手持ちのロープは常に携帯している6mのものが一本。先端の鉤爪も、東ゴルトーに持ち込んだ物より小さく、殺傷能力に欠ける。

 

 トノグラの能力は、仮定『対象の殺人数に応じて威力を増すサーベル』を具現化する能力。もしくはサーベルに纏わせたオーラを変化させている変化系能力かもしれないが、どちらでもさほど変わらない。

 

 制約はおそらく、非殺人者を斬れないこと。ペナルティがあるのか、単に斬れ味が皆無なのかは不明。

 希望的観測だが、俺のロープも切れない可能性がある。この手の制約は、物質の切断にも掛かっていることが多い。俺のオーラを纏っていれば別だが、ただのロープなら制約に引っかかるはず。

 

 武器の相性は悪いが、トノグラの能力の出力はそれほど高くない。ピトーの殺人数は少なく見積っても4万5000人。能力の性能として想定されている上限を遥かに突破した数字のはず。それでもなおピトーを殺せていないということは、殺人数一人あたりの上昇幅は微々たるものだ。0か1かは顕著だろうが……

 

 そこまで考えて、思考を断ち切った。搦手はなし。

 右腕にロープを巻き付け、簡易の防具にする。

 

 付近にあったイスを蹴り飛ばし、トノグラの反応を確認する。サーベルで切断せず、回避していなした。

 

 もう一脚に鉤爪を引っ掛け、『滑走路(プルージック)』で固定する。遠心力を乗せて振り回すと、トノグラは『凝(ギョウ)』を用いた防御を余儀なくされる。

 防戦一方のままトノグラは後退していく。オーラを纏わせていない椅子は斬れないらしい。

 

 全身を何度か打ち付けた後、トノグラは殴打で椅子を砕いた。

 次の椅子を引っ掛けるための隙に、トノグラは俺に向けて発砲した。

 

 9mmパラ程度であれば『堅』と『滑走路(プルージック)』でいなせる。右手の防御の上を弾丸が滑っていった。

 

 長期戦は選べない。チャンスだと分かればトノグラの側に援軍が来かねない上、ピトーの消耗が大きくなる。

 

 距離を詰めてきたトノグラが、床に仕込んだ『滑走路(プルージック)』を視認し、回避する。一手遅れて振りかぶられたサーベルを、ただ巻いただけのロープで防ぐ。そのままもう一方のロープの端で鹵獲を試みると、トノグラは一度サーベルを消して再度具現化した。

 

 サーベルを振るう速度には流石に目を見張るものがある。俺と同練度の強化系くらいの威力に見受けられた。

 

 直接戦闘に特化した具現化系。ハマれば厄介だが、タネが割れれば地力の比べ合いになる。

 トノグラの格闘能力は侮れないが、接近戦でも俺が勝る。……詰めに行ける。そう判断した。

 

 俺の思考を読んだわけではないだろうが、ピトーがナゴマムを操作し、残していたであろう最後の一発を放った。それに反応してトノグラが一歩、俺から距離を取る。

 

 ロープを、床すれすれに滑らせた。トノグラは跳躍し、直後に失敗に気がついた。着地地点に『滑走路(プルージック)』を置き、即座に距離を詰める。トノグラは足からの着地ではなく受け身を取っての回避を選んだが、それでも瞬時に逃れることは不可能。

 

 ストンプを叩き込み、腕の骨をへし折る。起き上がることを諦めた蹴撃による抵抗を『滑走路(プルージック)』で受け流し、そのまま大腿骨も踏み折った。

 

「うぐっ……」

 

 顔面への一撃は躱されたが、代わりに襟元の通信機が砕けた。

 逃れられないように四肢の骨を揃えて砕き、ロープを巻き付けて拘束する。

 

「見事だ。しかし、仕事も果たせずか……」

 

 自害を防ぐために猿轡を噛ませようとした瞬間、トノグラはサーベルを口の中へ具現化しそのまま床へ倒れ込んだ。刃が脳幹を断ち切り、即死する。

 自害だけは防ぎたかったが、失敗した。俺達を殺せる能力がベンジャミン王子に継承されたかもしれない。

 

 俺の数字は増えず、死体だけがひとつ増えた。

 

「ピトー!」

 

 負傷しているピトーの元へ駆け寄る。立ち尽くしたままのモモゼ王子に配慮する余裕もなく、ピトーの傷を確認する。

 傷はかなり深く入っているが、内臓までは達していない。問題は出血だが、縫合で凌げるかどうか。

 

「モモゼ王子」

 

「わ、私にできることはありますか?」

 

「エリア14へ内線を掛けてくださいますか? 協会員のクラピカという男を呼んでください。借りを作りますが、ピトー抜きで我々が生存する目は有りません。飲んでいただきたい」

 

「分かりました」

 

 すぐさま針と糸を用意し、消毒する。

 ピトーは浅い呼吸のまま、オーラを回復に集中させていた。

 

「これくらいじゃ死なないよ」

 

「放置したら死ぬだろう。黙ってろ」

 

「えへへ、酷い顔。……ちょっといい気分」

 

 俺はどんな顔をしていただろう。

 ピトーは得意に笑った。

 

 

 受話器を置いたモモゼ王子が戻ってきて、少しだけ持ち直した様子で言う。

 

「クラピカ様は来て下さるそうです。他になにか……」

 

「ありがとうございます。そして、お願いしてしまい申し訳ございません。モモゼ王子も襲われたばかりですから、少し休んでください」

 

「いえ、そういうわけには」

 

「ではこの場にいてください。クラピカとの交渉の場にいてくださると心強いです」

 

「……分かりました」

 

 圧迫で止血をしながら縫合を始めるべきか迷っている間に、クラピカとビルはすぐに駆けつけてくれた。来るかもしれないトノグラの後任に対する抑止力としても、一人動ける人間が増えるだけでかなり安心材料が増える。

 

 ただ一つ予想外だったのは、彼が第14王子(ワブル)と第8王妃(オイト)を伴ってきたことだった。

 ただ、それも頷ける。ビルを残すにしても、エリア14に王妃と王子を残してしまえば、バビマイナに命令が下った際に対応ができなくなる可能性がある。

 

「襲撃か?」

 

「ベンジャミン王子の私設兵に襲われ、対処した。だが、ピトーが負傷した。治療能力にアテはないか? もし知り合いがいれば協力して欲しい」

 

 クラピカの能力を知っていることは匂わせられない。努めて平静を保つ。

 オイト王妃がモモゼ王子の手を取り、寝室のソファに座らせた。彼女と目が合い、王妃が頷く。モモゼ王子のことは一度任せることにして、クラピカに向き直る。

 

 クラピカはピトーの傷を見て、それからモモゼ王子を見た。最後にオイト王妃へ視線を送る。王妃は迷いなく頷き、クラピカは逡巡の後、口を開いた。

 

「私が治療系の能力を持っている。……治療の対価に、私の目的に協力してもらいたい。構わないか?」

 

「俺個人で済むのであれば飲む」

 

「それで構わない。王子を巻き込むことまでは考えていなかった」

 

 クラピカの目が緋色に染まる。

 彼の親指の鎖がピトーの傷に触れ、まるで時間を逆再生したかのように傷を癒した。

 

 クラピカ自身のオーラはかなり目減りしているが、劇的な速度と治療性能だ。

 

「……念能力とは、そこまでできるものなのですね」

 

「ええ。念能力はハイリスクハイリターン。帳尻が合えば、時に奇跡のような事象さえ引き起こせるようになります」

 

 クラピカが自分から能力を開示してくれたことに安堵する。こちらから引き出す形になれば、対価はこんなものでは済まなかったはずだ。

 

「治療に感謝する。本来の用事の話をしたいが、その前にクラピカの目的を聞こう」

 

「私は第4王子(ツェリードニヒ)と接触したい。そのための手段や機会を探している」

 

「ツェリードニヒ……人体収集家だっけ。治療のお礼に、ボクも協力しようか? 晩餐会か何かでボクの姿を見れば興味を持つんじゃない?」

 

「……有難い申し出だが、まだ焦る段階では無いと考えている。今暫くは情報収集で構わない」

 

「そう? でもそれって、ボク達に何も要求してないのと同じでしょ? ボク達はこれからもう一つ要求しようと思ってるんだけど」

 

「その内容にも予想はついている。その上で私が付ける条件は変わらない」

 

 ピトーが珍しく自ら進んで話し掛けた。彼女が提案した内容は間違いなくクラピカにも有用な提案のはずだが、ピトーの背負うリスクの大きさを勘案したのか、本気で時期尚早だと考えているのか分からない。

 

「本来の用事は、死体の処理が済んでからとしよう。ピトー、君は着替えて貰えないか。私の能力はできる限り隠しておきたい」

 

「りょーかい」

 

 肩の力を抜いて息を吐く。クラピカがこちらを見て、それから俺の首元の傷跡に視線を落とした。

 

 肩を竦める。

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