ネフェルピトーに執着されるだけ   作:おいかぜ

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前話もっとぶっ叩かれると思ってました。
室内でモモゼを庇いつつ先手のカウンターも決められないピトーなら、不意打ちで一撃くらい貰うかなというのが作者の肌感です。傷は深くなりますが、リグがいなくても勝っていたとは思います。
まあこの辺は絶対に意見が割れるところなので、作者の感覚が読者の皆様とめちゃくちゃ乖離していない限りはあまり弄る気がありません。

ツェリの能力名は刹那の10秒(エンペラータイム)だと確信していたんですが、普通に違いましたね。ムテキングは伏線じゃなかったか……
次で原作も休載に入るはずですが、オリチャー発動して継承戦終了までぶち抜くか大人しく止めるか考え中です。


十八話 覚醒

【名前】トノグラ=サニデイン

【系統】具現化系能力者

【性別】男

【年齢】39

【所属】正規国王軍 ベンジャミン=ホイコーロ私設兵

【性格】冷静沈着/慇懃/軽薄

 

【能力】

『罪と罰(タリオ)』具現化系能力(強化系複合)

 

 特殊なオーラを纏ったサーベルを具現化する。

 刃を向けた相手の「人間の殺害数」を能力自体が判定する。値に比例して、刃の斬れ味と重量、および使い手の振る速度と身体能力が増す。

 この上乗せは、振り始めの動作から振り終わりまでの間に限る。値は接触ごとに更新され、戦闘中の殺害も即座に反映される。

 判定は人間のみを数え、獣やキメラアントは含まない。値は使い手だけが知覚できる。

 

 制約と誓約

 ・人を殺したことのない者を斬った場合、使い手は即座に死亡する。

 ・非生物は斬れない。ただし殺人者のオーラを纏った物体は、その殺人者と同じように扱う。

 

 


 

【出航二日目】

 

『プロハンターともあろうものが警護兵を見殺しにするとは……モモゼ王子に取り入ろうとしているのではないかね? 浅ましい護衛が考えそうなことだ』

 

「はぁ。お言葉ですが、我々の任務はモモゼ王子の警護です。警護兵の護衛ではありません」

 

 受話器越しに響く怒声に肩を竦める。第7王妃(セヴァンチ)所属の兵隊長ウェルゲーは露骨にハンター協会員を毛嫌いしているらしく、感情的でまともに話が進まない。

 

「……とにかく、モモゼ王子にいくらか護衛を派遣していただきたいのですが」

 

『ならん! エリア13から護衛を減らすことはできない』

 

「ではせめて、セヴァンチ王妃にモモゼ王子とお会い頂けませんか」

 

『それもならん。とにかくお前達は全霊を賭してモモゼ王子をお守りするのだ!』

 

 ウェルゲーが言い放ち、内線が切られた。既に俺の彼に対する心証は最低を割りつつある。

 

 エリア12で行われた聴取は、ひどく簡素なものだった。死体の回収、リビングの清掃、家具の再配置、それら作業のついでのように簡易な事情聴取が行われ、裁判になることすらなく話が済んだ。

 

 ベンジャミン王子はカミーラ王子(第二王子)と係争中だったか? そうなると司法局の心証が悪くなることを避けたかったのかもしれないし、単に裁判で勝てる目が薄いと考えたのかもしれない。

 

 確か原作においてもエリア14のビンセントの襲撃、死については裁判を起こしていなかったような覚えがある。

 

「ウェルゲーは護衛の派遣を認めなかったでしょう?」

 

「ええ、エリア13にも何か喫緊の事情があるのかと」

 

「いいえ、そういうわけではないでしょう。お母様はマラヤームを守るのに必死なのです」

 

 だからといって姉を死地に放り出して見捨てるような行いは、母親としてどうかと思うが。

 

 どうにも情が移る。オイト王妃も同様の心境のようで、政敵どころかこれから殺し合う敵だというのに、モモゼ王子を心配そうに見つめている。

 

 モモゼ王子はその視線に戸惑っているのか、むず痒いのか、落ち着かなさそうに居住まいを直していた。

 

「もう一つの『用事』とやらの話に移ろう。モモゼ王子の念能力の修得に関してだと予想しているが、間違いないだろうか」

 

「ああ。その上で言っておかなければならないことがある。モモゼ王子の守護霊獣についてだが……」

 

「サイールドとカートンの件だな」

 

 全ては守護霊獣がやったことであり、王位継承戦の舞台装置による事故である。同時に俺達の陣営はそれぞれ敵同士であったのだから、殺し合うのも必然だった。

 

 心情的にはどうあれ、モモゼ王子がまだ王を目指すつもりでいるなら、俺が勝手に謝罪することも、モモゼ王子に頭を下げさせることもならない。

 

 モモゼ王子とオイト王妃の視線が交わる。モモゼ王子は目を逸らさなかった。

 

 クラピカが言葉を続ける。

 

「モモゼ王子の守護霊獣の能力は、半強制型の操作系能力。念の知識がない人間が多いこの継承戦では、想像以上の被害を齎しかねない」

 

「ああ、だから、モモゼ王子には制御する手段を覚えてもらいたい」

 

「『絶』か」

 

 クラピカもそれは分かっているのか、護衛の死に対しての謝罪を求めては来ない。

 俺がモモゼ王子に念を教えたがっている理由も、クラピカなら察しがついているだろう。

 

 これまでモモゼ王子に念の修得を勧めてきた背景には、守護霊獣の抑制の他に活性化も含まれている。『絶』で切れることが前提なら、強い霊獣は札になる。

 

 エリア14で一人操っただけでガス欠するような守護霊獣では、防衛機構としても心許なく、いざという時の手札としても数えにくい。

 

「あなたが推察しているように、私の能力でモモゼ王子の精孔を開くことは可能だ。だが、『絶』を覚えるのにどれほど時間がかかるかは未知数。守護霊獣の抑制は間に合うのか?」

 

「そこはボクの能力でサポートするから問題ないニャ。リグが懸念してた『纏(テン)』に手間取って消耗するリスクもゼロ」

 

「……強制型の操作系能力か」

 

「正解!」

 

 今更ながら、モモゼ王子をピトーが操るのはかなりの綱渡りである。背に腹はかえられないが、倫理及び王室の規定に背きそうな行いではある。

 

「なら修行も早く進むだろう。……さて、一つ問題がある。私の能力は特質系貸与型だ。条件を満たした誰かの能力を借り、さらにそれを又貸しすることができる。また、能力を持たない者を半強制的に覚醒させる副次効果がある」

 

「能力を貸し与え、使用させることによって精孔を開くというわけだな。そして、貸し与えるための能力が必要だと」

 

「その通りだ」

 

「俺の能力を使えばいい。手やオーラが触れた場所の摩擦を操作する変化系の能力だ。大きな癖もない」

 

 俺が『滑走路(プルージック)』を貸し出すと告げると、クラピカは目を丸くした。俺とピトーがあっさり能力の中身を話すからだろうか。

 まあ、ピトーはタネが割れる前提の能力であるし、俺はクラピカとビルを信用している。さほど痛くは無い。

 

「オレにもバラして良かったのか? 念使いの生命線だろ」

 

「割り切りと信用が半々だな。ワブル王子の護衛として残っているだけで、ビル、君も大概お人好しだよ」

 

 ビルは頬をかきつつ、少し後ろめたそうに視線を落とした。

 それを尻目にクラピカが続ける。

 

「モモゼ王子も、よろしいですか? ここまでの説明で分からない点も多かったと思いますが、端的に言えば、リグの能力をモモゼ王子に貸与し、補助付きで行使してもらうことで『念』の目覚めを促します」

 

「はい。詳しくは今後リグ様に習いますし、今は皆様に委ねます」

 

 モモゼ王子が頷いた。オイト王妃が彼女に手を重ね、そっと握り返す。

 

「では、失礼致します」

 

 クラピカが人差し指の鎖を伸ばし、俺の腕に突き刺した。今更だが、クラピカの『人差し指の絶対時間(ステルスドルフィン)』は、『滑走路(プルージック)』と『手綱(タグライン)』のどちらかを選んで奪えるのだろうか。

 

 オーラが減る感覚とともに鎖が引き抜かれ、今度はモモゼ王子に鎖が刺さる。

 

「床に向けて『発動』と念じていただけますか」

 

「はい」

 

 モモゼ王子が触れた所を中心として、床に『滑走路(プルージック)』が広がる。クラピカが確認のために靴先で触れると、滑って大きく体勢を崩した。流石に転びはしなかったが。

 

「……かなり汎用性のある能力だな。戦いたくはない」

 

「光栄だと思っておくよ」

 

 滑走路が帰ってくる。能力を貸し出す、乃至奪われる経験は初めてだったが、かなりの違和感だ。当然ながら、俺が滑走路を失えばほとんど使い物にならなくなるだろう。不得手な操作系の『手綱(タグライン)』だけが残っても、ただのロープ使い以上のものではない。

 

 特に戦闘は『滑走路(プルージック)』を軸に組み立てることが多いせいで、かなりの不利を被ることは間違いない。

 

「さて、モモゼ王子。身体の周りに吹き上がるオーラが見えますか?」

 

「はい。これが『念』なのですね」

 

「正確には、『念』に使われる生命エネルギーです。我々はオーラと呼んでいます。深呼吸をしながら、毛穴を閉じるようなイメージでオーラの流出を抑えてみてください。体の周りにオーラを薄く纏うように」

 

 モモゼ王子のオーラ量は、なんの瞑想修行もしていないにも関わらず、目を見張るものだった。既に『練』の修行に移行していると言われても信じてしまうかもしれない。

 

 ピトーが操るまでもなく、拍子抜けするほど無事にモモゼ王子は『纏(テン)』を修めた。

 

「活力が漲ってきます。これは……知っているのと知っていないのではまるで違いますね」

 

「私もかつて『纏』を覚えた瞬間が一番感動しました」

 

「そういうもの?」

 

 これだからナチュラルボーン上位種は。

 クラピカの発言に首を傾げるピトーに呆れる。

 

「成功したところで恐縮ですが、そのまま『絶』に移ってしまいましょう。身体から力を抜いて、端からオーラを閉じていくような感覚で……ええ、その調子です」

 

「この感覚は、あまり好ましくありませんね」

 

 流石に、すぐさま『絶』の修得とはいかない。最初こそ身体の末端から閉じられたものの、閉じようとしたオーラが別の部位に集まり、寧ろ『凝』に近いような挙動になっている。

 原作の第4王子(ツェリードニヒ)もそれなりに苦戦していたし、王族は気配を断つことに馴染みにくいのかもしれない。

 

「感覚は掴めています。閉じた分を別の場所に寄せるのではなく、身体の中に閉じ込めるような感覚です。息を潜め、気配を消すように」

 

 クラピカの指導の下、30分程度試みたが、完全な『絶』には至らなかった。守護霊獣は依然としてモモゼ王子の背後に居座っている。

 

 既に数時間が経っているが、長らくエリア14の四人を拘束しておくのも悪い。クラピカに礼を言って一度解散しようかと考えたとき、ピトーが口を開いた。

 

「とりあえず『絶』で守護霊獣が姿を消すかどうかだけ確認する?」

 

「私としてはそれが望ましいが……」

 

「モモゼ王子は? 試すってことは、ボクに操られるってことだけど」

 

「それは、警護兵達のように、ですか?」

 

「んー、意思は奪わないけどね? そういうこともできるよ。キミを使って、誰かを殺させることも、都合の良い遺書を書かせることも」

 

 正しくモモゼ王子が受け止めるべきリスクだが、言い方が悪い。誰に似たのやら。

 

 守護霊獣はしきりにピトーのことを気にしていた。

 操作系の念獣だけあって、持ち主であるモモゼ王子にも操作系に対する耐性がついているかもしれない。モモゼ王子自身が念使いとして覚醒したことも相まって、ピトーでも同意なしに生きたまま操作することは難しいだろう。

 

「受け入れます。ピトー様はそれほど面倒なことを画策なさらないでしょう」

 

「そうだけど、リスクは正しく数えるべきだ。例えばボクの能力には同意が必要で、モモゼ王子を操るためにいろいろと我慢していた、とかかもしれないよ?」

 

「それも含めて受け入れます。私は、ピトー様を信頼します」

 

「……ふうん。後悔しないといいね」

 

 ピトーがモモゼ王子の肩に触れる。

 瞬間、彼女の背後には黒い単眼の念獣が出現し、操り糸でモモゼ王子の全身を結んだ。

 

『踊屍不想(ミルタ)』。原作では自動操縦でとんでもない距離と数の人間を操っていた能力だが、手動操作(マニュアル)も利くらしい。

 

「感覚はある?」

 

「はい」

 

「じゃあ今からオーラを閉じるよ」

 

 ピトーがモモゼ王子を操り、『絶』状態にする。王子が居心地悪そうにし、守護霊獣が姿を消した。

 

「オーラの供給が無いと消えるらしいな」

 

「少なくとも、これで緊急時に守護霊獣の動きを止められることは確認された」

 

 検証が終わり、ピトーが能力を解く。モモゼ王子は『絶』を数秒維持し、それからゆっくりとオーラを解放した。

『絶』が解かれるのに合わせて守護霊獣がもう一度姿を現す。

 モモゼ王子が今度は一人でオーラを閉じ始め、30秒ほどかけてゆっくりと『絶』に成功した。また守護霊獣が消える。

 

「できていますか?」

 

「ええ、流石です。念の修行はこんなにテンポよく進むものでは無いんですがね」

 

「出たり消えたり、なんか面白いね」

 

 異常な才能だ。1000万人に1人クラスの才能があるキルアやゴン並み。ツェリードニヒ王子と合わせて考えると、カキンの王族が念能力の才能に溢れていると予想するのが自然だろう。カキンは幾代にも渡って、この壺中卵の儀により自らの血筋で蠱毒を行ってきた家系であり、また代々の王も念使いであったと考えられる。

 

 念の才能も他の身体的才能と同様に遺伝するものだし、念に関する適性が凄まじい血統ではあるのだろう。

 

 もう一つ、王子に憑く守護霊獣が王子の念の修得を助けている可能性もある。こちらも儀式の加速装置だと思えば不思議では無い。

 

 検証が終了したところでクラピカが切り出した。

 

「それでは私たちはエリア14へ戻る。オイト王妃、参りましょう」

 

「ええ」

 

「オイト王妃、クラピカ様、ビル様……ワブル王子。ありがとうございました。心より感謝申し上げます」

 

「モモゼ王子……私たちが揃って船を降りられることを願っています」

 

 四人が部屋を去り、1012号室には俺たち三人だけになった。

 ベンジャミン王子の私設兵も補充されては来ない。そもそも人数が足りないか。兵隊長を除いて私設兵は14人。既に三人が殺されているから、王子が全員生き残っている現時点では既に人手が足りていない。

 

 第一王妃所属兵ならばと思ったが、念が使えないならこの部屋に送ってもピトーに操られて終わりだと考えたのだろう。その判断は正しい。

 

 モモゼ王子はしばらく扉の方を見つめていたが、俺とピトーが改めて部屋の中を確認し始めるとリビングに戻ってきた。

 亡くなった警護兵達の私物が幾つか残されている。それには手を付けず、部屋の端に寄せた。

 

「リグ様。念も重要ですが、まずは今後のことを考えたいです。私に知恵を貸してくださいますか?」

 

「私で宜しければ」

 

 モモゼ王子が新たに設置されたソファに腰掛け、俺に着席を促した。ピトーがキッチンに移動し、湯を沸かし始める。ブラッヂが死んでしまったから、給仕も俺たちで行う必要がある。

 

「では、リグ様。私が王になるにはどうすれば良いでしょうか」

 

 モモゼ王子は真っ直ぐに俺を見て、そう尋ねた。

 

 

 

 

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