ネフェルピトーに執着されるだけ   作:おいかぜ

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感想・評価・ここ好きありがとうございます。
大変モチベになっております。

引き続き荒れそうな話を書いていきますが……どうにか許されますように、という気持ちで投稿していきます。
 
 
 
 



二十七話 Stick or Slip

【特戒令から1時間】

 

 ピトーの『円』が再度展開されている。船全体を覆う円は、逆にピトーの詳細な位置を特定させない。

 

 このオーラの中では心身が弱っている者ほどダメージを負うだろうが、真っ当に王位継承戦に向き合っているピトーに対して、協会員から警告することはできないだろう。

 ハンター協会も継承戦には不干渉の構えを取っている。

 

 ピトーが幻影旅団のフィンクスとフェイタンを殺害したのを見届け、視界の共有が途切れた。

 俺は相変わらず、1012号室に閉じ込められている。

 

 部屋の中ではベンジャミン王子の命令を受けた国王軍が四名、俺を見張っている。そのうち念使いは一人もいない。

 この部屋を制圧することも逃げ出すことも容易だが、とりあえずは上層でできる限り情報を集めるために待機を選んだ。それも時間の問題で、その内下層に追い出されることだろう。

 

「ベンジャミン王子の返答は?」

 

「王子は別件に対応中だ。待たれよ」

 

 ピトーのお陰でモモゼ王子は無事だし、あの調子ならすぐに害されることもないだろう。となれば俺は上層に残り、モモゼ王子を対象にしたソエモノ探しをしたいところだが……あまり現実的では無い。

 

 俺の知識の中でソエモノだと明言、あるいは示唆されているのは、ロンギ、ヒュリコフ、サルコフ、そして顔も登場していないマカハ。

 それ以外を特定するにも、対象の協力を得た上での『凝』による視認が必要だし、そもそもこの船に全員が乗っているとも限らない。

 

 ソエモノへの対処は、条件の未達により呪いそのものを無くすしかない。

 

 

 では次点で掴んでおくべき情報が何かと考えると、ハルケンブルグ王子の動向だろう。俺がオーラの鳴動を感じた回数と同じだとすると、彼は既に四回、能力を使用している。そのうちの一回はベンジャミン王子の私設兵であるシカクに使用され、シカクは自害させられた。これは事情聴取の騒動があったことから間違いない。

 

 あとの三回がどうなったかは分からないが、特殊戒厳令の最中で誰かが緊急搬送されたことは聞き取った。それがハルケンブルグ王子だとすれば、彼は既に肉体を捨て、入れ替わりながらベンジャミン王子と戦う段階に入っていることになる。

 

 TSK-17──生物兵器を使用されたのだとすれば、能力の一回はベンジャミン王子の私設兵隊長、バルサミルコに使われたと見るべきだろう。

 

 そして特殊戒厳令が発令されている今、ベンジャミン王子も同じくTSKに罹患している。ハルケンブルグ王子が炙り出されるのが先か、ベンジャミン王子が力尽きるのが先か。

 ハルケンブルグ王子が勝てば、継承戦の時間切れに王手がかかると言っても過言では無い。まあ、もう止まってくれない可能性もある訳だが。

 

 

 ピトーがモモゼ王子に武器を与えた以上、王子が継承戦の勝利を望むのなら積極的に手助けせざるを得ない。

 

 モモゼ王子の誘拐という手段を取ったカチョウ・センリツ陣営についても警戒する必要がある。

 

 個人的には空間移動能力は得難く感じてしまうが、あそこまで動かれてしまうと、容赦できる段階を超えている。クラピカと同盟を結ぶことを考えれば、センリツを害することは悪手になる訳だが……既に火蓋は切られている。

 

 できることは少ない。ルズールス王子を手早く確保して取引の材料にすることが目指すべき次善か。カチョウ王子に大きく貸しを作った上での関係修復になる。

 クラピカを挟んでのやり取りが望ましいが、それもモモゼ王子がオイト王妃をどこまで好意的に見ているかに依る。オイト王妃への情が、モモゼ王子の判断を曲げる程強いかどうか。

 

「1014号室に電話をかけても良いか?」

 

「認められない」

 

「だよなぁ」

 

 クラピカとの情報共有くらいはとも思ったが、特殊戒厳令中に許可が下りるはずもない。

 期待はしていなかったが、少々落胆する。

 

「だが、ベンジャミン王子より三層への移動要請があった。これより我々に従って移動してもらう。我々の指示に従わない場合は、強硬手段を取らせてもらう可能性があるので留意してくれ」

 

 結局上層で何かをする前に刻限が来てしまった。

 ロープの携行は許されたので、普段持ち歩いている鉤爪付きの6mのロープを選んだ。

 

 戒厳令の中、俺が早々に三層への移動を許されたのはピトーのせいだ。ハンター協会にも国王軍にもピトーを止めることはできないが、だからといって完全に野放しにもしたくないだろう。

 

 特に協会は、ピトーがしがらみをかなぐり捨てて民間人の虐殺や王族の皆殺しに走らないかをかなり警戒しているはず。それを防ぐための楔として俺をピトーと合流させたがるのは当然予想ができた。

 

 協会と国王軍の思惑が合致した結果として、特殊戒厳令中の移動が許されたのだと思われる。

 

 国王軍に従い、四方を兵士に囲まれた状態で廊下に出る。このままハンター協会の本部へと移送されるのだろう。

 

 兵士達が向かったのは二層への最短経路ではなく、カジノを通る迂回路だった。おそらくはベンジャミン王子の軍事行動を妨げないためだと思われるが……都合が悪い。

 

「なあ、経路を変えられないか? 最短ルートでいいだろう?」

 

「移動経路も指定されている。変更はできない」

 

「そうか……」

 

 原作ではカジノにヒソカが滞在していた。

 原作通りの動きをヒソカがしていれば、鉢合わせることになるが……さて、どうにも嫌な予感がしてならない。ヒソカがボノレノフと遭遇してそちらを追いかけていてくれると有難いのだが。

 

「せめて端を通ってくれ」

 

「承知した」

 

 カジノに足を踏み入れると、国王軍の兵士の死体が転がっていた。

 首元が鋭利な武器で裂かれている。これだけで判断はできないが、俺にはトランプだとしか思えない。

 

「言ったろ? 通報して迂回の許可を取ってくれ」

 

「そうしよう。……おい、マイト曹長に連絡を」

 

「はっ!」

 

 兵の一人がカジノから退出し、連絡へ向かう。

 直後、高速で打ち出されたスロットが、兵士二人を押し潰した。肉片が飛び散り、血の臭いが立ち込める。

 

 最後に残った兵士と俺に向けてトランプが飛んできたのを、ロープで受け止める。案の定だ。

 

「さっきの兵士と一緒に増援を呼んできてくれ。念使いの凶悪殺人鬼が暴れていると言えば伝わる」

 

「わ、分かった……」

 

 俺も逃げたかったが、ここで捕捉されてしまった以上は難しいだろう。兵士を逃がし、直後、扉にポーカーテーブルが突っ込んでくる。瞬間的に躱すと、俺の背後にあった扉が損壊した。

 

「凶悪殺人鬼呼ばわりとは……酷いじゃないか♦」

 

「訂正が必要か?」

 

「いいや、当たってるからね♠」

 

 逃げるよりは戦った方がマシだ。どうせ兵士を見捨てて逃げても、制約が俺を制止する。それにまあ、この手の相手に逃亡を選ぶ方が怖い。

 

「初めまして、ヒソカ=モロウ。会いたくなかったよ」

 

「ボクを知ってるのかい? 光栄だね♥」

 

「天空闘技場のフロアマスターは有名人だろう」

 

 殺人ピエロは天井から降りてきた。遠慮のない殺気に、和解の目はなさそうだと悟る。ドレスコードを守っているのが憎たらしい。

 

「ここに王子は来たか?」

 

「いいや、ボクが待っている間は来ていないよ♣ 目当てがいたのかい?」

 

「目当て……まあそうとも言えるか。来てないならいい。気にしないでくれ」

 

 ピトーの『円』の中で死んだか。ベンジャミン王子かピトーに確認すれば分かるだろう。ツェリードニヒ王子の能力の性質上、ピトーの『円』は天敵中の天敵だ。

 

『絶』状態では念に目覚めていない一般人よりも他者のオーラに無防備な上、感覚を研ぎ澄ませる『絶』の原則上、そのダメージを鈍化させることも困難。

 たとえ目の前の殺人ピエロであっても、この『円』の中で長時間の『絶』を保つことは困難だろう。況んや、念に目覚めたての王子をや。

 

「問答もキライじゃないけど、待ち切れないや♦」

 

 ヒソカは大袈裟にトランプを構えた。

 ピトーのオーラに晒されているせいか、興奮気味で話が通じる気がしない。嫌な副作用だ。ヒソカにしか影響しないだろうが。

 首の傷が熱を持った。ピトーに視界が共有される。まあ、今回は見ているだけだろう。ピトーの出番はやってこない。

 

「言っておくけど、俺とやっても本当につまらないぞ」

 

「まさか。キミ程のご馳走、見逃せるワケないだろ♥」

 

「幻影旅団で我慢しとけよ」

 

「機会は逃さないことにしたんだ♣ 旅団も、キミも、この『円』の主も、ね♥」

 

「ああそう」

 

「そうそう♠」

 

 今のピトーにヒソカが興味を持つかは分からない。原作ではキメラアントに興味が無さそうだったが、今のピトーであれば、とも思う。

 ……殺せるか? 欲をかいた思考が過ぎって、すぐさま意識的にそれを沈めた。

 

 直後、二台目のスロットマシーンが死角から飛んでくる。事前に『伸縮自在の愛(バンジーガム)』を付けて仕込んでいたのだろう。

 

 俺はそれを躱し、『凝』で周囲を確認した。とんでもない量の『伸縮自在の愛(バンジーガム)』が張り巡らされている。

 

「それはズルくないか?」

 

「キミなら凌げるだろ♥?」

 

 ロープをしならせる。ヒソカを直接狙ったスウィングは回避され、そのまま鉤爪で引っ掛けたテーブルをヒソカに向けて叩き付けた。ヒソカは最小限の動きで回避し、もう一度スロットを俺に向けて飛ばしながら接近してくる。

 ロープの接地に合わせて仕掛けた『滑走路(プルージック)』は目視されていない。

 

 俺はロープを引き戻し、半身に構えた。

 スロットが俺に直撃し、そのままなんら痛痒を与えることなく後方へ滑っていく。ベルの絵柄が3つ揃っていた。

 

 その挙動を確認してヒソカが笑みを浮かべた直後、彼は足を滑らせ、体勢を崩した。『凝』が疎かだ。とはいえ、今のは俺自身を注視したが故だろう。人間である以上は引っかかる。

 

「ワォ♥」

 

 顔面を蹴り飛ばすが、『硬』による防御が間に合っている。滑ったまま距離を取ろうとしたところを『滑走路(プルージック)』で摩擦を大きくすることによって引っ掛け、逃がさないままストンプを入れる。

 

 それなりに習熟した変化系同士、オーラ量や攻防力に開きはない。圧倒的に有利ポジションを取ったのもあって、そこそこのダメージを入れることに成功する。

 しかし骨折やらの致命打を入れる前に、ヒソカは背中のゴムを駆使して高速で離脱した。

 

「良い能力だ♠」

 

「よく言われるよ」

 

 初見殺しでそのまま終わらせられたら良かったのだが、さすがに戦闘巧者には易々と通用しない。

 

 どうせどこかしらに付けられているだろう、と自分の身体を確認すると、右足に『伸縮自在の愛(バンジーガム)』を付けられていた。『滑走路(プルージック)』で摩擦を小さくすることで外す。

 

 ヒソカはそれを意外そうに見つめ、それから人差し指を立てた。

 

「摩擦の操作。変化系の能力だろ♦?」

 

「大体正解だ。ゴンにはお前(ヒソカ)みたいだって言われたよ」

 

「ゴンの友達か……なるほど♠」

 

「つまらない理由は分かったろ? 他の相手を探してくれよ」

 

「キミほどの念使いはなかなかいない……そうつれないことを言うなよ♥」

 

「いるだろ、幻影旅団とか」

 

 ヒソカはトランプの投擲を選んだ。それら全てを払い落とすと同時に、先程躱したスロットマシーンが返ってくる。それをもう一度摩擦で躱すと、触れた場所に『伸縮自在の愛(バンジーガム)』が付着する。面倒になったので、足裏等を除くほぼ全身の摩擦を小さくした。

 

 俺が摩擦の操作をするための条件を、ヒソカはまだ割り出しきってはいない。が、それも時間の問題だ。

 

 俺がロープを滑らせながら罠を散りばめ、ヒソカはロープを躱しながら、着々とそれを見抜いていく。

 

 俺が摩擦を小さくした絨毯の上を、ヒソカが踏んだ。──だが、彼は滑らない。

 

 これも予想通りだ。『伸縮自在の愛(バンジーガム)』を足に貼りつけていれば、ヒソカは滑らずに歩くことができる。

 

「摩擦と粘着は近似の概念だ♦ 粘着には分子間力やアンカー効果、界面拡散などが関わってくるが……キミのその能力は、分子間力をゼロにするのに等しい♣」

 

 俺は肯定も否定も返さなかった。

 

「ボクの能力『伸縮自在の愛(バンジーガム)』は、ガムとゴム、二つの性質をオーラに纏わせるもの♠ このうちガムの性質は、キミの能力と打ち消し合う……♥ そしてゴムの能力も同様、キミは完璧に滑らせていなす……♦」

 

「しょっぱい試合だろ?」

 

「うーん、否定できないな……♣ だけどボクはこういうのもキライじゃないよ♥」

 

 ヒソカは戦闘のリズムを変え、ゴムの張力を活用して瞬時に距離を詰めてきた。

 

 俺が対ヒソカの戦闘において思い描いていた通りの流れを取っている。俺が無理に勝ちに行かない限り、ヒソカが取れる手は二つ。

 

 一つは『伸縮自在の愛(バンジーガム)』による弾幕を俺に打ち込み続け、俺が息切れするのを待つこと。

 

 もう一つは、ひたすらに肉弾戦を仕掛けること。摩擦による回避は、自分よりも極端に面積が大きい物質には有効に働かない。例えば俺の真上に突然船が降ってきた場合、その場に留まって回避することは不可能だ。その場合でも、全身の摩擦を極限まで小さくして射出されるように回避することは可能だろうが、隙は生じる。

 

 スロットマシーンやテーブル、バーカウンターなんかの設備を俺にぶつけながら格闘戦に持ち込めば、俺に有効打を入れられる可能性はあるだろう。

 

 そして、ヒソカがまだ検証しきれていない手がある。

 即ち、「ガムを纏った腕は俺の身体で滑るのか?」。こればかりは俺にも確信があるわけではなかったが、現実は俺の予想通りに動いた。

 

 ヒソカの右腕は俺の肩を掠め、俺のカウンターブローがヒソカの胴体を打ち付ける。

 

 つまり、『伸縮自在の愛(バンジーガム)』を用いても俺の身体を無条件に攻撃することはできない。

 

「予想通りだな。自分に能力をかけるより、相手に能力をかける方がハードルが高くなるのは自然だ」

 

「キミの能力は『摩擦』だろ♦? ボクの能力と同じように、二物体の間にはたらく作用のはずだ♠」

 

「じゃあ単に能力の強度の差なんじゃないか? 『粘着』と『弾性』だろ? 良いとこ取りしやがって。一つに絞れよ」

 

「よく言う……♥」

 

 言いながら、ヒソカは俺から視線を切らない。

 まだ諦めてはいないはずだ。当然油断はできない。原作において人類最上級の念使い相手に気を抜けるはずがない。

 

「しかし、困ったな……♦ どうしてそんなにやる気がないんだい? ボクの勘に拠れば、キミも相応の戦闘狂のハズだ♣ でなければそこまで能力を戦闘用に磨くことはない♠ ただの臆病者にも見えないしね♦」

 

「戦わないことこそ最強の護身術だそうだ。……という冗談はさておき、俺も旅団とは敵対していてね。積極的に戦う意義がない」

 

「ボクじゃ昂らないって♣?」

 

「そう言ってるんだよ」

 

 ヒソカの殴打を躱し、カウンターを試みる。しかしさすがに警戒されている。クリーンヒットはしてくれない。

 フィジカルではヒソカが上。身のこなしも向こうに軍配が上がる。

 

 ヒソカはトランプによる攻撃に切り替えた。トランプを手に持ち、『周』によって強化する。

 『滑走路(プルージック)』への対応としては間違っていない。斬撃であっても刃筋を綺麗に立てなければ切れないのは同じだが、殴打よりは幾分やりやすくなるはずだ。

 

 シャンデリアが降ってきた。それを回避すると同時に、正確な刃筋でヒソカのトランプが俺の左手に突き立とうとする。

 

「……ズルくないかい♠」

 

 ロープの摩擦を大きくして刃を止められるのなら、肉体を使っても同じことができる。カードそのものがそれほど鋭利でないことも重なって、ヒソカが手にしたカードは薄皮一枚を切っただけに終わった。

 ただの物理的な斬撃であれば、ある程度は摩擦で対応出来る。トノグラのようにオーラごと切断しにくるような武器は天敵だが、ヒソカがその手の能力者ではないことは分かっている。

 

 ヒソカはカードを手放し、反撃を躱す。

 

 相性不利。

 ヒソカはそう切って捨てた。

 

 俺の初見殺しである『滑走路(プルージック)』はヒソカの『伸縮自在の愛(バンジーガム)』のせいで通用しない。そしてその逆も然り。千日手だ。

 

「俺の反応速度をぶっちぎって戦えば勝てるぞ」

 

「ククク……言ってくれるね♥ 否定はしないケド♣」

 

 トランプによる攻撃を躱しながら、チクチクと反撃を入れていく。両手のトランプ以外が致命打足り得ないのなら、トランプだけを警戒しておけばいい。ヒソカの攻撃の密度は大きく低下し、その代わりに俺のカウンターも通りづらくなる。

 

 そして時間は俺の味方だ。

 

「どうしたらキミをやる気にさせられるかな♦」

 

「俺は幻獣ハンターだ。人間辞めてくるんだな」

 

「……ボクのこと、キライかい♣?」

 

「趣味が合わん。遥か高みの存在に挑む瞬間こそが楽しいのに」

 

「ボクもそういうのはキライじゃないんだけどな♠ 見ようによっては、今もそんな感じだろ♦?」

 

「露骨にテンション下げといてよく言うよ」

 

「それはキミがつれないから♥」

 

 互いが互いの能力を封殺する構図故に、本気で殺し合えば互いがリスクを取らざるを得なくなる。

 俺は摩擦を攻撃に割く必要があり、ヒソカはそこを隙として有効打を入れることに全力を注ぐだろう。神経を削るし、一手読み違えるだけで死にかねない。逆に一手読み勝てばヒソカとてリカバリーは難しいだろう。

 

 俺にヒソカを殺す動機がない以上、こうやってお茶を濁していればそれだけで勝ちだ。

 

 

 そしてヒソカのタイムアップはすぐにやってきた。兵隊の足音が聞こえる。

 

「残念♦ 次こそはキミをやる気にさせてみせるよ♥」

 

 ヒソカは崩壊させた扉の方へ視線を向け、『伸縮自在の愛(バンジーガム)』を用いてカジノの奥の方へと高速で跳び去っていった。つくづく便利な能力だ。

 

 しかし、面倒なのに目を付けられてしまった。今回は事前情報の差もあってダメージトレードで若干優位だったが、次からはそうはいかないだろう。何か対策を持ってきそうだ。

 

 旅団と共倒れしてくれるのがベストだが……なんならクロロに肩入れしたっていい。ピトーが旅団を二人殺害しているのが問題といえば問題だが……嗚呼、本気で面倒なことになった。

 

 瓦礫を退けて、国王軍がカジノへ入ってくる。その筆頭がヒュリコフだった。私設兵の中でも極めて有望株だろう彼をわざわざこんなところに送ってくるとは、ベンジャミン王子も人材難らしい。

 

「ヒソカ=モロウは逃走した。国王軍が捕縛に動いてくれるのか?」

 

「対応はするが、オレの任務はアンタを三層に送ることだ」

 

「そうか。よろしく頼む」

 

 ヒュリコフとはソエモノに関する情報共有をしたいところだが……彼に情報を与えれば進展するだろうか? 

 ベンジャミン王子の陣営で考察が進んだ上で秘匿される可能性が高い。意義は薄いか。

 

 そうなると、二進も三進もいかない。

 モモゼ王子の味方を増やしているピトーの方がよっぽど有能だ。悲しくなるが、俺には結局盤面を大きくひっくり返すだけの力も頭脳もないということなのだろう。

 

 今度はヒュリコフを先頭にして隊列を組む。カジノを抜ける間、ソエモノについて少々考えていたが、俺もスタンスを変えることにした。

 ただ待っているだけで情報が降りてくるとも思えない。部外者であっても積極的に巻き込まれに行くべきだ。

 

 そして、原作知識が残っている今この瞬間こそがその最後のチャンスだろう。

 

「なあ、ソエモノって言葉を聞いたことはあるか?」

 

「……なんで部外者のアンタがそれを知ってる?」

 

 ヒュリコフが振り向き、訝しげにこちらを見た。

 

 余命わずかのベンジャミン王子を思えば、彼がソエモノの対策にリソースを割くかは微妙なところだが、ヒュリコフは今後も生き延びるだろう。であればベンジャミン王子の死後も、彼の守護霊獣に従って動くと考えられる。

 

 そこまで先を考えてくれれば、分の悪い取引にはならないはずだ。

 

「それは言えないが、俺も王子の護衛である以上は目障りだと思ってるんだ。そこで提案なんだが、俺はソエモノ候補の人間について数名、名前と所属を知っている。それを教える代わりに、ツェリードニヒ王子の遺品をいくつか、ハンター協会のミザイストムとクラピカに融通してくれないか」

 

「待て、王子に確認を取る」

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