ネフェルピトーに執着されるだけ   作:おいかぜ

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 まじで書き忘れてましたが、ネフェルピトーは雌というテイで書いています。生殖能力はないのでしょうけれど。

 オリジナル念能力の第一案が『制約と誓約』を念能力にしたゲッシュだったので、感想めちゃくちゃ嬉しかったです。
 制約と誓約は重くはしたつもりですが、言われるほどか?みたいな気持ちでした。摩擦が強すぎるのと、幻獣ハンターは僻地にいるからなと思ったんですけど、この感想の感じなら作者がズレてるんでしょうね。他にも設定はありますが、この感じで皆さんが納得する気がしません。別に本筋でもないし。

 この後も書いてるので制約を変える気はないですが、誓約を軽くする方で考えます。難しい〜!フィードバックありがとうございます。大変勉強になります。
 無難なのは破る度に制約の追加かな。サイレントで変えると思います。ご容赦ください。 
 
 
 
 
 



五話 釣果

 王が生まれ、護衛軍と共に東ゴルトー共和国へと向かった。

 NGLに残ったキメラアント達の降伏を受け入れた俺たちは、当然、王を追いかけて東ゴルトーへ向かう準備を進めていた。

 

 ゴンとキルアはナックル達との決闘兼修行を終え、ゴンはナックルの念能力によって絶状態。ビスケは王との戦いには参加せず、周辺の師団長狩り。カイトは未だ戦闘不能。

 

 そして俺はNGLの隣国、ロカリオ共和国に足を運んでいた。

 カマキリに負わされた手傷も含めて怪我は完治しつつあるが、絶好調とも言い難い。傷跡が薄れても、あれにつけられた印はなお鮮明に残っている。

 

 故に俺は、最終決戦の直前まで合流が許されない。

 俺が誰かの近くで戦い続ける限り、あれに仲間の情報を売り続けることになるからだ。

 ノヴやモラウの能力は原作においてもある程度ピトーにバレていただろうから、まだ致命的ではないだろう。だが、特にナックルの『天上不知唯我独損(ハコワレ)』がバレると不味い。

 

 降りることもできず、共に戦うこともできない。意図しない成果だろうが、見事なまでの分断には辟易する。

 

 まあ、いい。

 

 原作の流れは凡そ決まっている。これから東ゴルトーの国民は、王たちが乗っ取った宮殿に呼び寄せられ、「選別」を受ける。5万匹のキメラアントの軍勢を作るための一大儀式だ。

 

 ネテロ会長一行はそれを阻止するために国民の集結や、キメラアントの処理を続け、最終日に王率いる護衛軍とぶつかり合う。

 

 今頃王は、将棋のチャンピオンを殺めた頃だろうか。

 

 息を吐いた。わざわざこの国に立ち寄ったのは、俺の拠点のひとつがこの国にあるからだ。ロープと杭を補充し、いざ東ゴルトーへ向かおうとした俺の耳に、ニュースが入り込んでくる。

 

 都市部で未確認の生物が民間人および警察官を死傷。政府はハンター協会へ協力を要請。

 

 ニュースの確認と同時に、電話がかかってきた。モラウからだ。用件は聞かずともわかる。

 

『おい、ロカリオにいたよな?』

 

「はい。アリのニュースですよね」

 

『正式な討伐依頼だ。頼んだぞ。後で詳細は送るが、コルトによるとチーターのキメラアントらしい。名前はヂートゥ。軽薄でずる賢いが、オツムの出来は悪いそうだ』

 

 原作の記憶を遡る。……本来はモラウとナックルが対応したはず。俺の方が相性が良いという判断か。

 ナックルの『天上不知唯我独損(ハコワレ)』はこれ以上なく機能するように思えるが、単に殺傷するなら俺の方が向いているとは思う。

 

「受けますけど、後でちゃんと依頼は正式に通しておいてくださいね」

 

『そこは抜かりねぇよ』

 

 どの道、俺ができることは多くない。

 宮殿までの足がかりを作ることや、東ゴルトーの国民を助けるために大々的に動くことも不可能だ。最大の仕事は、あれに監視されながら、ひたすらに元師団長を含むキメラアントを狩り続けること。

 ヂートゥのハントは、それに沿う。

 

 討伐軍の面々と合意した仕事を全うするだけだ。

 

 

 

 ヂートゥが暴れた現場に向かい、周辺を調査する。

 被害状況を確認し、ヂートゥが移動した経路を測ることは容易かった。次の町へ移動するルートも、概ね予想がついた。待ち伏せは可能だ。問題は、追いつけるかどうかだったが、その懸念も今払拭された。

 

 森を抜け、道路を滑走すること谷筋二つ分。もう一度森へ入ったところで、音より先に気配が円を横切った。速い。半径五十メートルの直径を、約一秒。

 

 黄色の毛皮に、黒の斑。二足歩行の豹。モラウの情報と記憶を照らし合せる。ヂートゥで間違いない。

 発は確か『鬼ごっこ』。異空間に引きずり込まれ、制限時間内に鬼が捕まえられなければ死。ただしこの時点でまだ能力は持っていないはず。

 

 故に、警戒に値する。

 

 左肩の印が俺の慢心を嘲笑していた。あいつらは念の達人じゃない。覚えたての念は容易く他者に影響され、本来作るはずだった発を容易くねじ曲げる。

 ヂートゥの発はナックルに大きく影響されたものだったはずだ。そして俺の目の前にいるこいつは、まだナックルに出会っていない。

 

 俺が追い詰めれば、予想外の反撃に遭うかもしれない。

 あらゆる想定外を想定し、そのうえで最も安全な択を採る。

 

 即ち、初見殺しによる速攻。

 

 

「へえ?」

 

 木の上から声がした。逆さにぶら下がって、尻尾だけが機嫌よく揺れている。

 

「随分と警戒するじゃん。縄使いの人間が西の森にいるって聞いてきたんだけどさぁ。オマエだろ?」

 

「そうだと言ったら?」

 

「狩れって言われてないけど、オレと人間が出会ったらやることはひとつだよな」

 

 聞いて来た。

 さあ、誰に? 

 

 想定外が増えた。

 左肩の傷が熱を持った。

 

 深く考える間もなく、ヂートゥが落ちてきた。

 

 森の中の戦闘は、あれよりも遥かにやりやすかった。あちらが0と100の緩急をつけた速さだとすれば、こいつはただ捷いだけだ。打撃は軽く、緩急は曖昧で、木々や下生えが茂る森の中の動きに最適化されていない。

 

 俺の立体機動もどきよりは遥かに速いが、それだけだ。

 

 ロープを切るのには一呼吸が必要で、走る軌道を考えるのには思考が必要だ。

 

 俺が絡め取るのは時間の問題だった。しかもこいつは、それにさえ気が付いていない。思うように走れない苛立ちにのみ思考が囚われている。

 

 鉤爪の風切り音に聴覚で反応している。後何度か同じサイクルを繰り返した後、奇襲を掛ければ通るだろうと計算する。

 

 しかし、俺が測り間違えたのは相手の忍耐力だったらしい。

 

「あーもう、せっまいなァ!」

 

 ヂートゥはフラストレーションを隠さなかった。

 

「こんなとこじゃ、本気が出ねェんだよ」

 

 その姿が掻き消え、三十秒後に戻ってきたとき、その小脇には若い女が抱えられていた。

 街を歩くような装いだ。この森を歩いていた民間人だとは思えない。遠出をしてわざわざ人間を攫いに行った。

 

 ……誰よりも速さにこだわりそうなこいつが、わざわざ荷物を背負った? 

 

 人質に効果があるかさえ、こいつは知り得ないはずだ。

 

「街でやろうぜ。走りっこはさァ、広いところでやるもんなんだよ」

 

 女が悲鳴を上げた。助けて、と。

 同時に、ヂートゥが女の脇腹を深く裂く。鈍い悲鳴が上がった。

 即死はしないが、手当をしなければ数分で手遅れになる。森林の匂いに、金臭さが混ざる。

 

 俺の脚は、思考より先に出ていた。

 二度目の説明は要らないだろう。『滑走路』の制約。俺は、助けを求める声に背を向けられない。

 

 岩棚では、この一文は俺にリスクを払わせただけだった。

 今日のこれは、利用だ。

 

 こいつが見抜いたわけではないはずだ。……試されている。

 こいつの裏に、操り糸を持っているやつがいる。

 

 

 街は空だった。住民は避難している。これはハンター協会の仕事だろう。普段であれば迅速な対応に感謝するところだが、治療が間に合わない可能性が増した。

 石畳の大通りが、まっすぐ東西南北に伸びている。

 

 広場に、五人が転がされている。さっきの女、親子、警備員二人。

 子供が悲鳴をあげ、警備員が応急処置を始めていた。出血は抑えられている。先程の目測よりは持ちそうだが……

 

「ルール説明でーす。オレを捕まえたら勝ち。お前が転んだら、一人ずつ食う。簡単だろ? んで、あんまり遅いとあの女が死ぬ。死んだら次はぁ、ガキにしようかな」

 

 俺は答えず、空間の断絶を待った。

 

 来ない。

 

 視界は繋がったままだ。空は空で、石畳は石畳だ。ルールはただの口約束で、世界は書き換えられていない。

 

 原作で使用されていた能力はまだ持っていないと確定する。

 補充したばかりのロープを惜しみなく張る。あれやカマキリには容易く切られ続けたが、こいつにはこの上なく有効だ。

 

 市街地でも、完全な平地でなければ俺のロープは機能する。街灯、街路樹、ゴミ箱、標識。暴走族を引っ掛けるには十分。

 

 爪が俺を掠める。あいつは、街中を縦横に駆け回りながら加速していく。

 一周目。速い。だが、視認できる。

 二周目。視界の端で辛うじて拾える速さだ。

 三周目。風が大通りを往復する質量を教えてくる。

 

 加速が、落ちない。

 止まらず走り続ける限り、こいつは速くなり続ける。上限は見えない。助走を燃料にする発だ。

 

「お、お、おぉ! こうすりゃ良かったんだ!」

 

 ……こいつ、今思いつきやがったな。

 

 森の中の戦闘というフラストレーションが更なる加速を願ったのだろう。

 

 面倒だが、チャンスだ。発は強みであり、長所をより尖らせる必殺。だから、まだ使いこなせていない今のうちに始末する。

 

 四周目の途中で、こいつは遊びを思いついた。

 

 大通りから広場へ、針路が折れた。切っ先は五人の山。掠めて怖がらせるだけのつもりか、本気か。区別する必要はない。俺のやれることは決まっている。

 

 俺は足元をゼロにして滑り込み、五人の前で膝の摩擦だけを噛ませて静止した。突っ込んでくる爪の軌道には、周を巻いたロープを一本を割り込ませた。摩擦を操作すれば、ロープは硬い棒のように振る舞う。

 あいつにとっては遊びだったのだろう。でなければ、俺では間に合わない。

 

 爪とロープが噛み合って、火花に似た音がした。

 滑らないロープは、切れない。

 

「へえ、堅っ」

 

 擦れ違いざまの声だけ残して、質量は大通りへ戻っていった。速度は落ちていない。だが俺も、血の一滴も落としていない。

 

 それからの俺は、殴打の雨に沈む必要があった。周回を重ねる毎に速度が増していく。速度が増すということは、威力が増すということだ。

 拳は鋭く、爪は深く、俺の足下を揺らす。

 

 躱すたびに後退し、後退した先の街灯に、雨樋に、荷車の轅にロープを張っていく。手元は見ない。結びは指が覚えている。厄介な観客に配る手札は、逃げ回る獲物の背中だけ。

 

 こいつは上機嫌だった。

 直線で加速し、壁を蹴って折り返し、掠めるたびに笑った。

 掠った爪は、下げた摩擦の上を滑って逃げていく。

 血の代わりに、上着の糸だけが減っていった。

 防戦一方の俺に、時間差で笑い声が降り注ぐ。

 

 七周目。もう眼では追えない。風と音と、身体を打つ感覚だけだ。

 

 

 それでいい。速度に追いつく必要はない。見切る必要さえもない。軌道さえ貰えれば。

 

 走り続けなければ速度を維持できない発は、裏返せば、走る道筋を先に約束する発だ。こいつの旋回点は三つに固定されて久しい。速い獣ほど、勝っている間は道を変えられない。

 

 八周目。第一旋回点。

 

 蹴るはずの壁が、氷になった。

 

「おっ」

 

 空転。だが落ちない。この速度域では、瞬間的に滑っても軌道は立て直せるらしい。着地して、加速し直して、大通りの直線へ──

 

 更に加速する。

 

 九、十、十一、十二周目──

 

 人間なら、長期間の訓練を受けずとも時速100キロ程度までの車を制御できる。サーキットならそれ以上の速度の車体を駆ることもできるが、それはあくまでサーキットだからだ。制御というのは、路面が裏切らないという前提の上にしか立たない。水たまり一つで人は死ぬ。

 

 ヂートゥならば、制御できる速度の上限は大きいだろう。時速300キロ、時速500キロ、もしかするとそれ以上。だが、念能力による強引な加速は、間違いなく身の丈以上の速度を齎す。

 訓練で克服できる程度かも知れないが、今は──

 

 

 ──最期の加速。こいつが何を考えたのかは分からない。

 

 踏み超えれば滑る足場を引いた。言うなればレールだ。

 摩擦ゼロ。加速も、減速も、旋回も、この世から消える。残るのは慣性だけだ。時速いくつかも分からない質量が、レールに載った。

 

 レールの終点目掛けて影が射出された瞬間にロープを引くと、首の高さにロープが持ち上がる。

 

 制御を失った音速に近い大質量が、動かないロープに衝突するとどうなるか。実に教科書通りのことが起き、鈍い音が鳴った。それだけだ。

 支柱にしていた街灯がへし折れた。

 

「バカで助かった」

 

 返事は無かった。

 

 

 助けた五人を治療する。警備員が救急を呼んでくれたので、女性の処置は出血を抑えるに留めた。素人判断だが、内臓の損傷は大きくない。救急隊に引き渡せば俺の仕事は終わりだ。

 

 左肩の熱は退いている。

 精算の時は近付いてきていた。

 

 あれが、俺を測っているのだとすれば。終わりはそう遠くない。

 カイトを助ける代わりに支払ったこの傷は、死神にツケられている。

 

 あの月夜で、あれは俺の『滑走路』の残滓を確かめ、ロープの端を引いた。今日、俺の制約を釣った。次は? 

 

 俺たちが獲物の痕跡を確認し、移動経路を割り出し、行動パターンを読み、罠を仕掛けるように。あれは俺という一個体を測り切ろうとしている。

 

 俺はスマホを取り出し、モラウに電話を掛けた。

 

「こちらリグ。終わりましたよ」

 

『相変わらず仕事が早いな。よし、東ゴルトーで合流しよう。ただしお前さんは……』

 

「合流のタイミングと、顔を合わせるメンバーについては任せます。だから半端に降ろさないでくださいよ」

 

『わかってるよ。お前さんの実力を頼りにしてる。それが全てだ』

 

「さすがベテラン。口も上手い」

 

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