固有魔法『メス化』のTS魔法少女   作:文月二三

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1話①

 

 人の理解を超え、人間を喰らう生命体、魔獣。そしてそれに対抗する、人の理解が及ばぬ力を持ち、人々を守護する10代の少女達、魔法少女。

 

 人間が初めて恐怖した日から続く両者の闘いは、何の力も持たない人間達との長い歴史を経て現代にまで続いていた。

 

 かつてはその強大な力に対して迫害もあったものの、現在では二度の大戦の後に組織された世界魔法少女連盟の下、各国で運用されていた魔法少女は一つの組織とそれに承認された下部組織に纏められ、その力を人類の守護、魔獣の殲滅の為だけに使われることとなった。

 

 今では一部の戦闘が庶民も楽しめる娯楽として放送され、何故か誰もが見目の整った魔法少女達は半ばアイドルのように扱われ、現代に馴染みきっていた。

 

 そんな世界で俺は、魔法少女をしていた。 

 

 元男にも関わらずだ。

 

 『日本魔法少女管理局から魔法少女チェンジャーへ。担当区域に魔獣が発生しました。至急対応してください』

 

 耳タブに埋め込まれた通信機から指令が聞こえてきた。声の向こう側では他のオペレーターの声や、キーボードの打鍵音が聞こえてくる。

 

 今日も魔獣は元気にしていて、魔法少女は大忙しのようだ。

 

 「了解」

 

 無線を聞いた俺は、直ぐ様変身アイテムを取り出して、魔法少女へと変身する。

 履いていた黒のスキニージーンズは淡い光となって消えて行き、代わりにフリフリのスカートが現れる。短く切り揃えた髪は、腰まで届くロングヘアーに。男から女に変えられてしまったことを自覚させるように、あんまりにも年頃の女が好む姿へと変えられる。

 

 魔法の力で空を飛び、風がふわりとスカートを持ち上げると同時に足を撫で回す感覚に悪態を吐きながら、速やかに魔獣がいる方向へと向かう。

 

 爆音、悲鳴、轟音。近づくにつれてその音は大きくなった。

 

 偶々近くに武装警察が居たのか、少し注意を引き寄せる事しかできないライフルの発砲音も何重かに聞こえてくる。

 

 現場では、散乱する死体と瓦礫。ぶよぶよとした皮膚と、大きな顎を持つ四足歩行の、よく見るタイプの魔獣のうちの一体が暴れまわっていた。

 

 市民の犠牲を少しでも減らそうと命を賭けていた武装警察達は、俺の姿を見ると、徐々に現場から離れて行った。

 

 「魔法少女チェンジャー。討伐に移る」

 

 再度耳の無線越しにオペレーターへ報告する。魔獣は俺に気づくと、大きな顎から涎を垂らし、一直線に飛びかかろうとしてきた。

 

 焦らずに左手を魔獣に向ける。この程度の魔獣を倒す時には長ったらしい魔法の言葉も、武器や己の拳で戦う魔法少女のように血と汗に塗れる必要もない。

 

 ただ一言だけ

 

 「feminization」

 

 何の捻りもない魔法の言葉を言うと、大暴れしていた魔獣はピタリと動きが止まり、やがて苦しみ出す。

 

 「#limt#vgdmz)?p?mhv/ih!!!!!」

 

 ボコベキと音を立て、膨れ上がり収縮する魔獣の体、人語どころか既存の獣にもない未知の鳴き声を上げながらのたうち回る。

 

 「Ah.a.あだ、」

 

 この世界で俺に与えられた呪いであり、一般的には祝福とされる魔法はメス化。対象の性別がオスである場合、強制的にメスにすることができる。

 

 対象となった生物は、俺が体験した物と同じ手法でメスの体に作り替えられる。対象はメスになるときの痛みに耐えられずに死ぬ。そういう魔法だ。だから戦闘後にはこぎれいなメスの死体だけが残る。

 

 今も随分と小さくなった目の前の魔獣は動かなくなり、メスの魔獣へと変化していた。

 

 魔法を使うたびに、見たくも無い記憶を思い出す。自分もかつてあんなふうだったのかと思うと胃液が込み上げる。だが、泣き言は言えない。

 

 家族を殺して自分を女に変えた、魔女を殺すと決めているから。

 

 「チェンジャーから管理局へ、対象の討伐に成功。後処理を頼む」

 

 『こちら日本魔法少女管理局からチェンジャーへ、了解した』

 

 付近では逃げ遅れたのか、負傷して泣く泣く置いてかれたであろう民間人が何人か居た。その眼は全部俺を魔獣と変わらない化け物を見ているようだった。

 

 他の魔法少女のように、炎で焼き尽くしたり、凍らせたり、沢山の銃を背後に召喚して戦うような、見栄えの良い魔法じゃ無いからしょうがない。

 

 だけどそれもすぐに忘れる。

 

 魔力を感じて、その方向を見ると、1人の魔法少女が空を飛んでこちらにくるのが見えた。白や灰色、明るめの無彩色でデザインされた服を纏っている。その魔法少女は、俺みたいに一般人の魔法少女に対するイメージを下げるような魔法しか使えない魔法少女の為に、日本に限らず世界中を飛び回るロシア出身の魔法少女。

 

 忘却の魔法少女、ディサムネジア。

 

 魔法の能力は、対象の生物から記憶を失わせること。

 

 「あー、えーっと。覚えてる。まだ覚えてるよ!チェンジャーちゃん!久しぶり!」

 

 大声を上げながら近づいてくるディサムネジア。周りの民間人は、新しい魔法少女に、微かに安心した様子を見せた。

 

 「とりあえず、急いで仕事しちゃうね!」

 

 そう言ってキラキラした杖を周囲の民間人に向けて、手当たり次第に白くて細い光を放つ。当たった民間人の上下に、マトリョーシカの半分が出現して、バツン、と言う音と共に閉じ込めた。

 

 「これでオッケー!私!忘れちゃう前に次のところ行くね!」

 

 そう言ってディサムネジアは嵐のように去っていった。残されたマトリョーシカ達は、光の粒となって消えていく。そこに残された民間人。

 

 何が起きたのか、そもそも何で今日ここにいるのか分かっていない。体の怪我に気付き、悲鳴をあげたり呻き出したりしている。さっきまで化け物を見ていた目で、救世主を見るようにこちらを見ている。

 

 「大丈夫です。直ぐに医療班が来るので安心してください」

 

 外面よく、適当なことを言いながらそっとその場を離れていく。民間人は、ちょうど遠くから聞こえてきた救急車のサイレンの音で少し安心したように見える。

 

 空中に戻り、決められた地区を適当に飛ぶ。

 

 さっきまでいた場所から、二駅離れれば普段通りの生活をしている。戦後すぐの頃は、まだ魔獣も少なくて、いちいち広範囲に避難命令が出てたらしいが、良くも悪くも慣れきっている。

 

 人気の無い路地に降りて変身を解き、そのまま近くにあった喫茶店に入る。コーヒーを一杯頼んでカウンターに座る。喫茶店の一角には、少し古い型のテレビが吊り下げられている。

 

 『私達は、いつも隣に。魔獣災害の際には魔法少女管理局へ』

 

 『可愛いだけじゃ無い!カッコいい魔法少女特集!』

 

 テレビには魔法少女のCMが、近くの客の手には、魔法少女を特集した雑誌が。

 

 何処へ行っても、どんな場所にも魔法少女がある。それが当たり前。世界の為に10代、場合によっては10歳に満たない少女が、心に大きな恐怖を抱えて戦っている。そんな当たり前のことを多くの人間が当たり前になり過ぎている。それは、魔法少女(当人達)でさえも。

 

 『日本魔法少女管理局から魔法少女チェンジャーへ』

 

 ちょうどコーヒーが目の前に出された時、また通信が来た。今度の通信は、何処か焦りのような物が伝わってくる。

 

 『貴女から数キロ離れた地点、千鳥山で登録の無い魔法少女の魔力を確認!至急急行して可能であれば確保を!』

 

 お金を財布から出してカウンターに叩きつけて、高い座高の椅子から降りる。困惑して止めようとする喫茶店のマスターの目の前で、無言で変身して見せれば、察したのか何も言わなかった。

 

 周りの客が騒ぎ立てる声に苛立ちながら、急いで店を出て、空へ上がる。高く高く、トップスピードで現場に向かう。

 

 魔法少女になる女は見分けられない。何となく、傾向こそあるが、心の内に大きく起因するせいで、魔法少女になることを期待された女が何も無く、普通に見えた女の子が急に変身する。

 

 そして初めて魔法少女になった場合、大抵は不安定だ。なまじ魔獣よりも強いせいで、被害も大きい。

 

 新しい戦力を確保するつもりが、逆に確保に向かった魔法少女が殺されて、新たに生まれた魔法少女も殺処分にされる事も多々ある。

 

 僅か数キロの距離、近づけば、大抵魔法少女が暴れてすぐわかる物だが、山は不気味なほど静かだった。しかし、魔法少女特有の魔力は感じる。無気力になっているのか、何なのか。

 

 「チェンジャーから管理局へ、現場に着いた。魔力は感じるが木のせいで上からじゃ魔法少女が暴れている様子は確認できない」

 

 『こちら魔法少女管理局から魔法少女チェンジャーへ、対象の魔法少女の魔法を確認したいので山中に入り魔力を頼りに捜索し、少しでも情報を』

 

 「…了解」

 

 気は進まないが地上に降りる。

 

 山中、木々が生い茂っていて、昼なのに薄暗い。体の感覚を研ぎ澄ませて、山中に微かに漂う魔力を追う。普通、新しく生まれた魔法少女は扱えない魔力を撒き散らして場所が分かりやすいもんなのに、制御されているように感じる。

 

 それでも微かに漂う魔力を追って、更に奥まった所へと向かう。

 

 呻き声が聞こえてくる。女の声じゃない。魔法少女ではない。だとすると魔法少女の被害者だ。

 

 目の前にあった藪を無理やり突破すると、そこにあったのは木の枝に刺された男が数十人いた。

 

 そしてそんな木に囲まれるように、1人の少女が立っていた。黒を基調にしたドレス、左手には紫の宝石が嵌められた長い杖。俺より少し幼く見えるのに、大人びた様相だ。それがかえって幼さを強調しているようだった。

 

 「はじめまして。チェンジャー。私は…残念ながら魔法少女。名前は秘密だけど、魔女様の手下って言えば、興味を持ってくれるかな」

 

 『魔女』、その言葉を聞いて俺は深く奥歯を噛み締めた。目の前の少女に目を合わせないようにしながら、静かに構える。

 

 「今日はね、お兄ちゃんを迎えに来たの」

 

 知っている。俺が元男なのを…いや、当然だ。こいつは、手下だと言った。俺を、女の体に変えた張本人の。

 

 「俺に妹なんていない。お前は何者だ」

 

 ずっと姿を見せていなかったアイツの…俺が憎むアイツの手がかり。少しでも、少しでも情報を聞き出したかった。

 

 「ふふ、血の繋がった妹じゃないよ。お兄ちゃんの妹は、魔女様に殺されてるもんね。そうじゃなくて、お兄ちゃんの次の成功例が私だよ」

 

 「アイツは、アイツはまだあんな実験を続けているのか!?」

 

 「んーん。アプローチを変えてみたんだってさ。お兄ちゃんを見て。だから私は正真正銘女の子だよ?お兄ちゃんと違ってね」

 

 俺は飛び出した。目の前の魔法少女との距離はわずか数十メートル程、魔法少女ならすぐに辿り着ける。

 

 女が相手じゃ、俺の魔法は使えない。だが魔女を殺す為に、誰よりも格闘戦を鍛えた。他の暴れる魔法少女を、加減して取り押さえられるほど。

 

 「あは、ごめんねお兄ちゃん。今日は顔を見に来ただけなんだ。だからこれでバイバイ。その代わり、私の魔法も見せてあげる」

 

 そう言って、目の前の少女は魔法を使った。

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