少女が魔法を使った瞬間、周りで木に刺されていた男達が一斉に苦しみ出した。皮膚が変色して盛り上がり、今日、この山に来る前に見た化け物へと見た目が変わる。
魔獣だ。
「これが私の魔法だよ!この数、お兄ちゃんなら倒せるけど、いっぱい魔法を使うのは辛いでしょ?頑張ってね」
「待て!魔女は何処にいる!」
「さあ?どうだろうね。でも、ロシアに来たらわかるかもね」
そう言って目の前の魔法少女は瞬時に消える。それが魔女の仕業なのか、他の魔法少女の仕業なのかはわからない。考えたい事、言いたいことはいっぱいあった。それでもどうにかしなきゃいけないのは周りの魔獣だった。
「feminization!」
1番近くまで襲いに来てた魔獣に魔法をかける。次に魔力を込めた拳で、その次と、更に次に来ていた魔獣を殴り飛ばす。
そしてまた魔法を使う。呼吸が荒くなるのを感じる。それでも今は止められない。魔法の練度を保つ為だと言い聞かせる。それでもできるだけ、できるだけ殴り殺す。
もう少しすれば、増援が来るはず。戦闘中は通信機が音を拾っているはずだから、管理局の奴らも事の大きさに気づいてるはず。
実際、一体、二体、更にもう一体と倒しているうちに、空から別の魔法少女が飛んできた。敵では無い筈だ。
空から大きな魔力を感じた後、周囲に残っていたいくつかの魔獣が穴だらけになって死んでいた。少なくとも俺だけで半分は殺してる。ここまで来れば後は任せてしまえ。
「大丈夫?これ飲んで」
俺に心配した顔を向ける魔法少女はすれ違い際に錠剤を投げてこようとする。思わぬ出来事に心を揺さぶられながら、拒否をする。その様子を見て増援の魔法少女は何かを察して一直線に魔獣に突っ込んでいった。
それから数時間後、俺は管理局に呼び出された。理由は当然、あの魔女に関する事。
都心部から少し離れた場所にある、七階建ての大きな施設に向かう。一見すれば病院に見えるそこは、日本魔法少女管理局の本部だった。正面の入り口から入って、そのまま迷う事なく進む。
向かうのはこの国の魔法少女全てを管理する男の元。
そして俺がかつて魔女の実験体だったことを知る人間の1人だ。
ドアをノック、「入れ」と言う言葉で扉を開ける。壮年のオールバックの男が、頑丈な木製机の向こう、革張りの椅子に座っていた。
「早速だが報告してもらおう。いや、先にこれを飲め」
そう言って、さっき俺が魔法少女から断った錠剤を渡してくる。俺はそれを受け取って、飲み込む。薬の即効性に感謝しながら俺は再度男に目を合わせる。
「落ち着いたか。さて、今回の件一応全て把握はしているが、お前の口から聞きたい。お前の目の前に現れた魔法少女は、本当に魔女に関係するやつだと思うか?」
「あの魔法少女は、明確に魔女の目的を知っている様子だった。それに、俺の家族の事を知っているのなんて、当時救出された俺の身元を調査するよう指示したアンタと、その直接の部下くらいだろ」
「そうか。彼女の魔法については?魔獣をその場に出現させたそうだが」
「さあな。魔女の事なんて理解したく無いが、代わりに魔獣と戦わせれば解決だとでも思ったんじゃ無いか。それでその哀れな犠牲者があの魔法少女だったんだろ」
「随分冷たいな。それに、あの環境にいたお前からすればあの魔法少女は憎い魔女の手下だろうに。少なくとも犠牲者だなんて可愛い物じゃないと思うがね」
「あの環境にいたからだよ。あんなの誰だっておかしくなる。ほら、なんかあるんだろ。心を守る為に、犯罪者のこと好きになるみたいなやつ」
「まあ、今はそういう事にしようか。さて、実は本題は別にある」
男はそう言って一枚の紙を机の上に置いた。そのままさっと目を通せば、大きな文字で辞令の二文字。詳細は下に書かれているようだ。
「この件は既に上の組織である世界魔法少女連盟にも行っていてね。この短時間で君のロシアへの移動が決まってしまった」
「随分と動きが早いな」
「2年前、多くの魔法少女を喪った脅威なんだ。尻尾をわざわざ自分から見せたなら、例え罠でも掴みにいかねばならない。もっとも、君のロシア行き自体は止めたかったが。向こうからのご指名と来たからにはね」
「それは、どういう事だ。俺がどれだけ魔女を憎んでいるか知ってるだろ」
「それはもちろん。だがね、私は心配しているんだ。君がロシアに行って魔女の罠にハマり、奴の研究の最後のピースになるのでは無いかとね。それとは別に単にロシアを信用できないのもあるが」
「信用?」
「君が思うほど、各国の連盟下部組織は仲良く無いのさ。いつか暗部を知る事になれば教えてあげよう。出立は2日後だ。飛行機は手配しておくよ」