主人公は12歳前後を想定しています
飛行機から降りると、軍服を着た人間が立ち並んでいた。銃を持つ男達と、10代の少女達が混在している。
和やかな雰囲気は無く、少し張り詰た空気がする。歌って踊って笑顔を振り撒く事すらある日本の魔法少女とは大違いだ。
目の前にいる彼女達は、兵士のようだった。
「兵士のよう、では無くて兵士よ。それと、通訳は不要」
立ち並んでいた少女の中から1人、俺の前にまで出てきた。咄嗟に通訳に入ろうとした外交官を止めて。
目の前の少女はロシア語を喋っていた筈なのに、正確に意味が理解できた。それに、俺が心の中で思っていた事が、何故か会話として成立していた。微かに警戒を覚える。
「初めましてチェンジャー嬢。私はロシア連邦国、第二特別魔法少女大隊所属、パスラーニエ魔法少尉よ。私の魔法の対象者は、言語によらず意思疎通を図れるようになるから安心なさい」
それも伝わっていたのか、少女は直ぐ疑問に答えた。俺たちがいる間、魔法を使い続けなきゃいけないと考えると、少し気の毒だ。
「そりゃ、ご丁寧にどうも。それと、一つお願いがあるんだが、嬢呼びはやめてくれ」
パスラーニエに非はないが、女扱いは嫌だ。
「そう。記憶しておくわ。貴方がロシアに滞在する間、私たちが貴方達の世話をする。それと…ディサムネジアも一緒に来ると聞いていたのだけれど」
そう言って少しだけ俺の周りを探るような目になる。さっきみたく頭を覗けば一発だろうが、その苦しみも理解しているからとやかくは言わない。
「アイツなら後から来る。飛行機の集合場所を忘れちまったんだとさ」
そう言うと、ああ、と納得した表情を見せた。
「それにしても、あんたら魔法少女なのに軍人なんだな。日本じゃ男を作るなくらいしかたいした管理もされないのに」
「逆よ。魔法少女だから軍人なの。魔法が使える化け物を野放しにしている、日本やアメリカが異常なの。いや、アメリカだって裏ではCIAが動いてるんだから」
「その化け物を縛り付けて、ストレス溜めさせる方が危ない気もするけどな」
「規律の下で力は有効活用されるの。それに、私たちはトラウマと向き合う時間は必要なの。貴方も魔法少女ならわかるでしょ?」
「…」
俺は何も答えなかった。理屈はわかるが、ただでさえ魔法少女になってしまったのだから、全員が自由を楽しんでもいいはずだ。
俺達は恐怖と戦わなきゃいけないからこそ、それを忘れる時間があっていい。
「少し、話しすぎたわね。長旅で疲れたでしょう。宿舎に案内するわ」
パスラーニエは話を切り、俺たちをそれぞれの部屋へと案内した。
護衛役として選ばれた自衛官と、外交官達の相部屋に挟まれた部屋で俺は1人だった。
ベッドと机に椅子、簡素な部屋だった。
来たばかりでする事も無い。一先ず荷物を置いてベッドへ横になる。思い返されるのは、今日見た魔法少女達。
髪型にこそ多少の差異はあったものの、同じズボン、同じシャツ、同じジャケットを着込んだ少女。
俺の知らない世界だ。やっぱり気の毒に思う気持ちがある。ロシアの奴らと、上手くやれるだろうか。
そんな事を考えていた時だった。
『魔獣発生!魔獣発生!』
甲高いサイレン。鐘を鳴らす音。外から微かに聞こえる怒号。魔獣が突然出るのは、どこの国も変わらないみたいだった。
勝手に外に出ていいものか悩む。さっきの飛行場での事を思い出すに、この基地にはそれなりに魔法少女がいた。変に助けるのもアレかもしれない。
それでも一応外に出る。
扉を出て廊下を見ると、誰かが走ってきていた。あの時飛行場にいた気がする。
「チェンジャー殿。伝令です。とう基地から東に12キロの村で魔獣が発生。住民は少数、一個魔法少女小隊が出動しますので、お部屋でくつろいでいただいても大丈夫です」
走ってきた魔法少女は、淡々と情報を伝える。
「それは俺も付いて行っちゃダメか?」
「…確認します」
そう言って耳元に手を当てて誰かと話す。耳に埋め込んだ通信機は共通らしい。一言二言話すと、耳から手を離して俺の方を向く。顔が変わらないから、許可が取れたのか取れてないのか読み取れない。
「許可が出ました。外に案内します。上空で待機しているそうなので、合流してください」
そう言われて、走り出した目の前の少女の後ろをついていく。玄関、靴を履き替える時間も惜しく感じて、変身して姿を変える。
扉を潜り抜けたと同時に空に飛び上がると同時に、4人の似た様な格好をした魔法少女の元へ向かう。心が強く反映される筈なのに、ロシアの魔法少女はそれすら同じらしい。
そう考えると、同じロシアなのに、ディサムネジアは個性的だ。
「チェンジャー。このまま作戦区域に急行します。詳細は空中で」
「もちろんだ。アンタらの後ろについていく」
パスラーニエを先頭に、それなりのスピードで動き出す。ロシアの魔法少女達は、一定間隔を開けて、三角形を作る様に空を飛んでいた。普段他の魔法少女と飛ぶ時なんて、その場のノリで飛んでるから、酷く新鮮に見えた。
『チェンジャー。ついて来れていますか?』
『ああ。問題ない。ロシアは飛ぶ時も行儀いいんだな』
『軍隊ですから。今回の作戦を共有します。ここから12キロ離れた村で、魔獣が発生しました。魔力反応は大したことはありません。この場にいる全員が、1人で倒せます』
『その程度の魔獣に4人も向かうのか?』
『我々の基本戦略は、一体の魔獣に、必要な魔法少女を、必要以上に、です。それに、我が国は他国に貸し出せるほど魔法少女が多いですから』
言葉が引っかかる。
『なあ。おかしくないか』
『我が国はヨーロッパからユーラシアの多くを国土に含む超大国。人口も多いですから』
『人口が多い方がそりゃ魔法少女も出やすい…だが、そう単純な話じゃないだろ。お前らまさかッ』
嫌な考えが頭をよぎる。パスラーニエはつまらない表情でちらりとコチラを見た。
『今はその話は置いておきましょう。貴方には見せるつもりですから。さて、魔獣が見えてきましたよ。各員散会!!!」
『『『ダー!!!』』』
動き出すロシアの魔法少女達。散会の一声で、一糸乱れず動き出す。魔獣に対して、上、左右、正面。それぞれに位置した魔法少女達は、それぞれが手をかざす。
梨の様な形をした鉄の器具が、魔獣の口へと飛んで十字に裂ける。
小さなギロチンが、魔獣の四肢に現れて落とす。
鉤爪の様な刃が、魔獣の表皮へと突き刺さって、中から臓器を引き摺り出す。
トラウマを思い出すから、苦しい筈なのに、辛い筈なのに、ロシアの魔法少女達は誰1人顔を歪めない。淡々と、指令をこなす事しか頭にないような…
普通に生きてて、こんな限定的な使い道の道具が魔法になるわけがない。最悪だ。これじゃ、人間も、魔女と変わらない。
目の前の魔獣は既に生き絶えた。
魔法少女達は地上へと降りて魔獣の死体の近くで変身を解いた。すると、飛行機を降りて直ぐに見た時と違い大きなリュックを背負っている。
魔法少女達はパスラーニエの指示を聴きながら中身を取り出していく。尖った鉄の棒に、リングがついた物を魔獣の周りに刺して、もう1人がビニールテープで繋げていく。
普段見ることのない、魔獣を殺した後始末だった。
俺はそんな魔法少女を横目に、パスラーニエへ詰め寄ろうとした。言いたいことはたくさんあった。パスラーニエの真後ろまで行き、肩を掴もうとした時だった。
「痛った!」
何かを頭にぶつけられた。飛んできた方向を見ると、この村の村人らしき老人が、持てるだけ石を持って次の石を投げようとしていた。それも、1人どころじゃない。
「やめてください。我々魔法少女に対する理不尽な攻撃は、政府に禁じられています」
俺と村人の間に入る様に、パスラーニエは立ち、村人に言う。そう言われた村人は、顔を赤くして、更に石を投げてきた。
「うるせえ!この悪魔ども!」
「帰れ!」
「正義ずらしてんじゃねえぞ!」
どんどん増える石。気がつけば魔法少女達はヘルメットを被っていた。そのうちの1人が、俺にも手渡してくる。
「少尉。立ち入り禁止のテープは貼りました。後は男の兵士に任せるだけです」
「わかったわ。チェンジャー。基地に戻るわよ」
そう言って飛び立つパスラーニエに言われて、急いで変身して空に飛ぶ。パスラーニエも、他の3人も何も言わない。いつもの事なのか、それとも兵士だから何も言わないのか。
俺にはわからなかった。
「貴方に見せるつもりの物と、これは関係してる。今はびっくりしたでしょうから、今日は来たばかりなのもあるから、明日見せるわ」
基地に戻ると、外交官と自衛官が心配そうに近づいてきた。俺には魔法少女として愛想良くすることもできずに、適当な言葉を返して部屋に戻る。
男の体を作り替えて、俺を女にして魔法少女にした魔女、恐らく、魔法少女を人工的に作っているロシア。
魔女の目的も知っている俺には、同じものに見えてしまった。
魔法少女の苦しみに支えられているこの世界。日本と同じ様に世界中で良く思われていると思ってた。たまに見る批判だって、女の子を戦わせるのは良くないみたいなもんで、国が変わるだけで、石を投げられて悪魔と言われてた。
俺は、わからなかった。