GEIS   作:カルラリハ

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## 第9話 成長

 

 

 

――修行開始から二週間。

 

午前四時。

 

契約者育成学校、第三訓練場。

 

「――っ!」

 

一ノ瀬遥人の拳が空を切った。

 

その先。

 

ルシファーが僅かに首を傾ける。

 

拳が頬のすぐ横を通過。

 

『遅い』

 

「まだ!」

 

遥人は拳を引かない。

 

身体を回転。

 

蹴り。

 

ルシファーが腕で受ける。

 

――ドン!

 

衝撃が訓練場に響いた。

 

『軽い』

 

「だったら!」

 

遥人の右腕に黒炎が灯る。

 

『ほう』

 

黒炎を纏った拳。

 

ルシファーへ振り抜く。

 

しかし。

 

掴まれた。

 

「っ!」

 

『力に頼ったな』

 

「しまっ――」

 

視界が回転。

 

――ドン!!

 

「ぐはっ!」

 

遥人の身体が地面へ叩きつけられた。

 

「いってぇ……!」

 

『十九秒』

 

ルシファーが言う。

 

「……昨日は?」

 

『十七秒』

 

遥人は地面に倒れたまま拳を握った。

 

「二秒伸びた!」

 

『喜ぶところか?』

 

「二週間前なんて一秒も持たなかっただろ!」

 

『私が本気なら今でも一秒以下だ』

 

「それ言ったら終わりだろ!」

 

遥人は起き上がる。

 

息を整える。

 

二週間。

 

毎日。

 

朝三時。

 

走る。

 

殴る。

 

避ける。

 

倒される。

 

また立つ。

 

何度繰り返したか分からない。

 

でも。

 

確実に。

 

変わっていた。

 

「もう一回」

 

『休まないのか?』

 

「今の避け方、なんか掴めそうなんだよ」

 

ルシファーの黄金の瞳が僅かに細くなる。

 

『……来い』

 

遥人が構える。

 

黒炎は――出さない。

 

まず。

 

自分の力で。

 

地面を蹴る。

 

ルシファーへ迫る。

 

右拳。

 

避けられる。

 

想定内。

 

左。

 

防がれる。

 

これも。

 

想定内。

 

なら。

 

「――ここ!」

 

一歩踏み込む。

 

肘。

 

ルシファーの頬へ。

 

あと数センチ。

 

『甘い』

 

手首を掴まれた。

 

「うわっ!」

 

再び地面へ。

 

――ドン!

 

「くっそぉ……!」

 

『だが』

 

ルシファーが遥人を見る。

 

『今のは悪くない』

 

「……!」

 

遥人が笑う。

 

「もう一回!」

 

『好きにしろ』

 

◇ ◇ ◇

 

午前八時。

 

教室。

 

「…………」

 

遥人は机に突っ伏していた。

 

「遥人」

 

「…………」

 

「遥人?」

 

「…………」

 

朱音が遥人の肩を揺らす。

 

「死んでる?」

 

「……半分」

 

「また三時?」

 

「三時」

 

「何時まで?」

 

「七時」

 

「……毎日?」

 

「毎日」

 

朱音が呆れる。

 

「ルシファーって悪魔の王なんだよね?」

 

「そうだけど」

 

「契約者を殺そうとしてない?」

 

「最近俺も疑ってる」

 

『聞こえているぞ』

 

「聞かせてるんだよ」

 

朱音が笑った。

 

そして。

 

遥人を見る。

 

「でも」

 

「ん?」

 

「ちょっと変わったね」

 

「何が?」

 

「身体」

 

遥人が固まる。

 

「え?」

 

朱音が腕を見る。

 

「前より筋肉ついた」

 

「マジ?」

 

遥人が腕を曲げる。

 

「おお……!」

 

『毎日あれだけ鍛えれば当然だ』

 

「成果出てる!」

 

遥人は嬉しそうに腕を見る。

 

朱音はそんな遥人を見て。

 

小さく笑った。

 

「……よかったね」

 

「おう!」

 

その時。

 

教官が入ってくる。

 

「席につけ」

 

生徒たちが移動する。

 

「今日は予定を変更する」

 

教官が端末を操作。

 

訓練場が画面に映る。

 

「契約者同士の模擬戦を行う」

 

教室がざわついた。

 

「組み合わせはこちらで決めた」

 

名前が表示されていく。

 

遥人は自分を探す。

 

そして。

 

止まった。

 

**一ノ瀬遥人**

 

対戦相手。

 

**九条朱音**

 

「…………」

 

遥人が隣を見る。

 

朱音も見る。

 

数秒。

 

「……マジ?」

 

「みたいだね」

 

朱音が笑った。

 

◇ ◇ ◇

 

第一訓練場。

 

観客席にはクラスメイト。

 

中央。

 

遥人と朱音が向かい合っている。

 

「なんか変な感じだな」

 

遥人が言う。

 

「何が?」

 

「朱音と戦うの」

 

「昔はよく喧嘩したじゃない」

 

「小学生の話だろ!」

 

「遥人、弱かったよね」

 

「今それ言う!?」

 

朱音が笑う。

 

だが。

 

その後ろ。

 

炎が生まれる。

 

巨大な翼。

 

炎の鳥。

 

第37魔神。

 

**フェニックス。**

 

空気が変わった。

 

遥人も表情を変える。

 

『油断するな』

 

ルシファーが言う。

 

(分かってる)

 

朱音は強い。

 

ずっと。

 

遥人より先を歩いていた。

 

「遥人」

 

「ん?」

 

「手加減したら怒るから」

 

「…………」

 

遥人は笑う。

 

「そっちこそ」

 

開始音。

 

――ピッ!

 

朱音が手を上げる。

 

「フェニックス!」

 

炎。

 

「うおっ!」

 

遥人が横へ飛ぶ。

 

炎が地面を走る。

 

熱い。

 

「いきなり!?」

 

「手加減しないって言ったでしょ!」

 

フェニックスが上空へ。

 

火球。

 

三つ。

 

遥人へ降る。

 

一発目。

 

避ける。

 

二発目。

 

身体を低く。

 

三発目。

 

「――っ!」

 

右手。

 

黒炎。

 

振り払う。

 

――ボン!

 

火球が弾ける。

 

観客席がざわめく。

 

「黒炎だ!」

 

「あれがルシファーの……!」

 

遥人は右手を見る。

 

黒炎。

 

以前とは違う。

 

暴れていない。

 

自分の意思で。

 

必要な分だけ。

 

『ようやく形になったな』

 

「二週間毎日燃やされればな!」

 

「遥人!」

 

朱音が迫る。

 

速い。

 

拳。

 

遥人は受けない。

 

避ける。

 

次。

 

蹴り。

 

身体を引く。

 

「!」

 

朱音の目が僅かに見開く。

 

以前の遥人なら。

 

今ので倒れていた。

 

「……本当に強くなった」

 

「まだまだ!」

 

遥人が踏み込む。

 

右拳。

 

朱音が防ぐ。

 

そこから。

 

左。

 

避けられる。

 

追う。

 

「くっ!」

 

朱音が距離を取る。

 

フェニックスが炎を放つ。

 

遥人の周囲。

 

炎の壁。

 

「逃げ場――」

 

朱音が止まる。

 

黒炎。

 

遥人の足元から広がっている。

 

だが。

 

爆発させない。

 

薄く。

 

身体を包む。

 

炎の中。

 

遥人が走った。

 

「なっ……!」

 

『《憤怒》を防御に回したか』

 

ルシファーが呟く。

 

遥人が炎を突破。

 

朱音の目の前。

 

「取った!」

 

拳。

 

朱音の頬。

 

その直前。

 

――止まった。

 

「…………」

 

遥人の拳が。

 

朱音の数センチ手前で止まっている。

 

静寂。

 

朱音が瞬きをする。

 

「……なんで止めたの?」

 

「いや」

 

遥人が困った顔をする。

 

「顔は殴れないだろ」

 

「…………」

 

朱音の眉が動く。

 

「手加減したら怒るって言ったよね?」

 

「え?」

 

「フェニックス」

 

「ちょっ――」

 

――轟!!

 

「うわああああああ!?」

 

◇ ◇ ◇

 

数分後。

 

「……負けた」

 

遥人は床に座っていた。

 

髪の毛が少し焦げている。

 

「自業自得」

 

朱音が隣に座る。

 

「幼馴染の顔を本気で殴れるかよ」

 

「戦闘なら殴って」

 

「無茶言うな」

 

「敵に私と同じ顔の能力がいたら?」

 

「…………」

 

遥人が止まる。

 

『ほう』

 

ルシファーが笑う。

 

『良い指摘だ』

 

「お前まで……」

 

朱音が立ち上がる。

 

そして。

 

遥人へ手を差し出す。

 

「でも」

 

「ん?」

 

「強くなったね」

 

「…………」

 

遥人はその手を見る。

 

ずっと。

 

朱音の背中を見ていた。

 

契約できなかった自分と。

 

フェニックスに選ばれた朱音。

 

遠いと思っていた。

 

でも。

 

今日は。

 

届いた。

 

「……まだ負けたけどな」

 

「次は分からないよ」

 

遥人は笑う。

 

その手を取った。

 

「次は勝つ」

 

「楽しみにしてる」

 

◇ ◇ ◇

 

放課後。

 

遥人の端末が鳴った。

 

「……御影さん?」

 

メッセージ。

 

**AEGIS日本支部へ来てほしい。**

 

そして。

 

その下。

 

**天使について話がある。**

 

遥人の表情が変わる。

 

◇ ◇ ◇

 

一時間後。

 

AEGIS日本支部。

 

会議室。

 

遥人。

 

朱音。

 

御影。

 

三人がいた。

 

「なんで朱音も?」

 

「私も当事者だから」

 

「九条さんにも関係がある」

 

御影が端末を操作する。

 

画面。

 

あの日。

 

学校を襲った天使。

 

「解析が終わった」

 

御影が言う。

 

「結論から話す」

 

遥人が息を呑む。

 

「この天使」

 

御影の目が細くなる。

 

「学校を襲うことが目的ではなかった可能性が高い」

 

「……どういうことですか?」

 

「行動経路を解析した」

 

地図。

 

天使が出現した場所。

 

移動した方向。

 

すべてが表示される。

 

「無差別に人間を殺すなら、もっと人口密度の高い場所があった」

 

御影が線を引く。

 

「でも無視している」

 

「じゃあ……」

 

朱音が呟く。

 

「何かを探してた?」

 

「その可能性が高い」

 

遥人の背筋が冷える。

 

御影が。

 

遥人を見る。

 

「そして」

 

画面が切り替わる。

 

「君と遭遇した瞬間」

 

天使の行動が変わった。

 

映像。

 

遥人を見る天使。

 

その後。

 

一直線に攻撃。

 

「偶然かもしれない」

 

御影は言う。

 

「でも」

 

沈黙。

 

「一ノ瀬君」

 

「……はい」

 

「天使は――」

 

その瞬間。

 

――ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 

警報。

 

「!?」

 

御影が立ち上がる。

 

『緊急警報』

 

機械音声。

 

『天使反応を確認』

 

遥人と朱音の表情が変わる。

 

『出現地点――』

 

場所が表示される。

 

御影の目が細くなる。

 

「……またか」

 

遥人が画面を見る。

 

契約者育成学校。

 

――ではない。

 

今度は。

 

AEGIS日本支部から数キロ。

 

市街地。

 

『天使反応――複数』

 

「複数!?」

 

朱音が立ち上がる。

 

警報が続く。

 

『三体』

 

御影が上着を脱ぐ。

 

「九条さん」

 

「はい」

 

「一ノ瀬君を連れて地下へ」

 

「え?」

 

遥人が御影を見る。

 

「待ってください!」

 

「駄目だ」

 

「俺も戦えます!」

 

「知ってる」

 

「だったら!」

 

御影が遥人を見る。

 

その目は。

 

今までとは違う。

 

S級契約者。

 

戦場に立つ人間の目。

 

「だからこそだ」

 

「……?」

 

御影が言う。

 

「もし」

 

一瞬。

 

間を置く。

 

「奴らの目的が、本当に君だったら?」

 

遥人が黙る。

 

御影は扉へ向かう。

 

「確認してくる」

 

「御影さん!」

 

御影が振り返る。

 

少しだけ笑った。

 

「心配しなくていい」

 

そして。

 

影が揺れる。

 

『やっと仕事?』

 

ベリアルの声。

 

御影が答える。

 

「ああ」

 

扉が開く。

 

「行こう、ベリアル」

 

『了解』

 

S級契約者。

 

御影慧。

 

その姿が消える。

 

◇ ◇ ◇

 

市街地。

 

空。

 

三つの白い影。

 

天使。

 

その中央。

 

一体だけ。

 

他の二体とは違う存在がいた。

 

四枚の翼。

 

そして。

 

その天使が。

 

ゆっくりと目を開く。

 

「――確認」

 

人間の言葉。

 

「対象の反応を検出」

 

別の天使が尋ねる。

 

「対象名」

 

四枚翼の天使は答えた。

 

「一ノ瀬――遥人」

 

 

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