TSギャルゲー転生主人公逆攻略実況配信 作:一般TS好き
カイトがラシャードを下す、その少し前。ラシャードの妨害を通り抜けたマリアベルはそのまままっすぐに進み、目的である王座の間に辿りついていた。
「近づけば近づくほど気持ち悪いわね……」
遠くから感じ取っていた魔素はより一層濃さを増しており、澱んでいる。マリアベルは思わず燃やしたくなった。というか、指先に炎を灯していた。
「物騒なことはやめてもらえるか」
「……黒幕登場、と言ったところかしら」
王座の奥から声が響く。
ほどなくして、奥へ続く扉が静かに開くいた。硬質な床を踏む足音ががらんとした王座の間へ一つ、また一つと響く。
現れた青年には追い詰められた者の焦りも、侵入者に対する怒りもない。
ただ、随分と待たせた客を迎えるような穏やかな笑みだけが浮かんでいた。
「初めまして、マリアベル・レーヴェン」
青年──第二王子リオン・レギンレイヴ・エルスヴァルトは、そう言ってわずかに目を細めた。
年の頃は二十前後。整った顔立ちに淡い金髪。薄いレンズ越しに銀灰色の瞳がマリアベルを射抜いている。
華美ではないが仕立ての良い服装と、その胸元に刻まれた王家の紋章だけが彼の身分を雄弁に物語っていた。
「私はリオン。リオン・レギンレイヴ・エルスヴァルト。来ると思っていたよ」
「……初めまして。そして──さようならよ」
言葉とともにマリアベルが襲い掛かる。一切の予備動作なく振るわれた炎剣は寸分違わずにリオンを捉え──。
「物騒なことはやめてほしい、と言ったはずだよ」
直撃する寸前、音もなく掻き消えた。
◇
防御──じゃないな。何かに遮られた感じもしなかった。どちらかというと、魔力そのものが散らされた感覚に近い。やっぱあのごろつき共を雇ってたのはこいつか。
「随分苛烈な挨拶だ。最近の貴族子女の間ではこういったものが流行っているのかな」
「あら、失礼。怪しい相手の話は聞くなと育てられたものだから」
「一応、第二王子なのだけれどね」
「身分を笠に怪しさを打ち消そうとするの、どうかと思うわ」
第二王子──第二王子かぁ。王族に連なる誰かだとは思っていたけど、思ったより大物が出てきたな。せいぜい王位継承権の低いヤツが簒奪のために暗躍してる程度だと思ってたけど。
「エルミナはどこ」
「そこの部屋に。最早彼女に用はない、好きに連れて帰るといい」
「そうさせてもらうわ。……あなたをぶちのめした後で、ねッ!」
魔力放出とともに一足で踏み込み、掌底を打ち込む。紙一重で躱される。チッ、王族の癖に動けるな。
「エルミナ嬢は無事だ。儀式の影響で衰弱はしているが、命に別状はない。戦う理由はないはずだが」
「勝手に攫って、勝手に奪って、勝手に帰れって? 王族らしい傲慢さね、吐き気がするわ」
ついでに言えばお前を止めないと世界が終わるんだよ。
そう毒づきながら攻撃を続けるが、リオンは避けるだけで反撃をする素振りすら見せない。ところどころわざと隙を晒しているのに。あるいは、誘いだと気づかれているのか。
「退く気はないのかな」
「愚問ね」
「全くだ」
──ダメだな、全く当たる気がしない。風に揺れる布を殴っている気分だ。
「それで? おとなしく投降してくれると楽なんだけど」
「それはどちらかと言うとこちらのセリフじゃないかな? 侵入者くん。──とはいえ、潮時か」
その言葉とともにリオンは後ろへ跳躍し、私から距離を取る。
攻勢に出るつもりか。
なら丁度いい。手の内を見極めて──。
「
何かが起こる。
そう思った瞬間には、視界が反転していた。
「──ッ!?」
胸元で何かが弾けた。
肺から空気が強制的に吐き出され、足が床を離れる。視界の中で王座がぐるりと回り、次の瞬間、背中から硬い床へ叩きつけられた。
「ふむ、存外あっけなかったな」
頭上から声が響く。視界が赤い。世界が揺れている。口の中に鉄の味が広がる。
理解が追いつかない。
今、
攻撃の瞬間が見えなかった。いや、それ以前に──何かが飛んできた感覚すらない。
──魔術では、ない。
魔術なら魔力が動く。
どれだけ巧妙に隠そうが、発動した瞬間には必ず流れが生まれる。だが、今の一撃にはそれがなかった。
「もう、勝ったつもりかしら?」
「まだ動けるか。流石だな」
床へ手をつき、身体を起こす。
傷口へ炎を灯せば、次の瞬間には無傷の肌が破れた制服から覗いていた。
致命傷でないのならどうとでもなる。
問題は、何をされたのかさっぱり分からないということだ。
攻撃が速いとか、そういうレベルじゃなかったぞ。
「……不死鳥の逸話を基にした改変術式による再生か。随分と器用な真似をする」
「一目で見抜かないでくれる? これ作るの苦労したんだけど」
◇ロキロキロッキン というか、今の攻撃やばくない?
◇ドンゴラ あんなの原作で使ってきたっけ
チャット欄がざわめいている。
どうやら神共にとっても予想外の何からしい。
ホント使えねえなお前ら。
「うん? 何を見て────なるほど、そういうことか」
「何を勝手に納得してるのかしら」
リオンの視線が、ほんの僅かに私の顔から外れる。
チャット欄を追う私の視線。その先に何があるのかを探るように。
「すまない。戦う理由がないといったが、あれは撤回しよう。君は殺さなければならない」
来る。
今度こそ見逃さない。
足を開き、重心を落とす。魔力を周囲へ広げ、空気の流れ、床を伝う振動、微細な熱の変化、その全てへ意識を向け──。
右肩が爆ぜた。
「ッ──!?」
身体が強引に横へ弾かれる。まだだ。
空中で身を捻り、床へ炎を叩きつける。爆発の反動で軌道を変えた、その直後。
今度は腹部。
「ガッ……!」
体がくの字に折れる。
吹き飛ばされながら炎を噴射し、無理矢理姿勢を立て直す。着地──する寸前、更に背後から衝撃。抵抗する間もなく王座の間を横断し、そのまま柱へ激突した。
石材に亀裂が走り、頭上からは瓦礫が降り注いだ。
「……再生するからと言って、痛いのに変わりはないんだけど」
「まだ動けるか。驚嘆に値する。その術式、魔力消費も相応のはずだが」
口元の血を拭いながら立ち上がる。
考えろ。なんのタネもなく、こんな攻撃ができるはずがない。絶対に何かある。
最初と今の攻撃。共通点を探せ。思考を止めるな。
「考えても無駄だ──と言っても、君は止まらないのだろう」
「当たり前でしょう」
「ああ、
リオンが僅かに右手を上げる。
「故に、死ね」
「同じ手を何度も──!」
踏み込む。
炎が床を舐め、一瞬で王座の間へ広がった。
熱せられた空気が揺らぎ、私の姿をいくつにも歪ませる。
そのうちの一つが右へ走る。
もう一つが左へ。
本体である私は一歩遅れて中央から踏み込み──直前で考えを変えた。
──上だ。
床を蹴り、身体を宙へ投げ出す。
これなら、私自身ですら一瞬前までどこへ行くか決めていなかった──。
「グゥッ!?」
なのに。
上へ飛び込んだ瞬間、そこへ待ち構えていたかのような衝撃が背中を打ち抜いた。
身体が床へ叩きつけられる。
──クソ……なら!
着地と同時に右へ。
「ッ!」
左。
「ガッ──!」
後ろ。上。前。
どれだけ方向を変えても、その先、その先、その先へと、見えない何かが正確に飛んでくる。
「無駄だ。諦めて受け入れろ」
再び衝撃。
床を転がりながら、私は無理やり身体を起こす。ポンポンポンポン弾きやがって、私はピンボールじゃねえんだぞ。
「……げほっ──ふぅ……」
おかしい。
いくらなんでもおかしいだろ。
私がどこへ動くのか、まるで最初から分かっているみたいじゃないか。
そんなもの、未来でも見えてなけりゃ──。
『神託とか予知夢とかってみんなは言ってました』
──あ。そうじゃん。
「あなた、視えてるわね」
「気づくか、当然だな。むしろ遅いくらいだ」
馬鹿かよ、私は! エルミナの力を奪ったんなら当然
「でも、それだけじゃない。それだけならこの攻撃の説明がつかない」
「言うと思うかい? 君は何も知る必要はない。何故なら、ここで死ぬからだ」
クソが……上から目線で見下しやがって……。今に吠え面かかせてやるから待ってろよ。
◇つっきー☆ というか、明らかに強化されてて笑う
◇あふろん 原作だと精々超人的な先読みくらいだったよな
間違いなく力の源はエルミナの能力だ。未来を読んでるとして、それがどう攻撃に影響する。攻撃の起こりも何もなく、ただ攻撃が当たったという結果だけが──。
結果だけが?
「随分と隙だらけだぞ」
「ちぃ────!」
咄嗟に防御を固める。私の考えが正しいのなら、こいつの攻撃に
衝撃が頭部を襲う。集めた魔力が抵抗しているのを感じる。視界がチカチカと明滅した。そして──。
「──全ッ然! 効かないわね!」
「……顔が血まみれだぞ」
「血も滴るいい女でしょう!」
◇眠たい 血濡れの顔面から瞳が覗いてるの完全にホラゲーじゃん
喧しい! だけど、タネは割れた。要はこいつ、攻撃してるけど攻撃してないんだ。
◇木人 いよいよ戦闘でもアホになってきたか?
戦闘
◇数式の妖精 で、どういう意味?
クソが……後で覚えてろよ、絶対に分からせてやる。
で、だ。攻撃してるけど攻撃してないっていうのは、つまり過程と結果の話なんだよ。
「読めたわ、もうその攻撃は通用しない」
「ほう」
「あなたは──詳しい原理はわからないけど──"攻撃が当たった"という結果だけを押し付けている。だから攻撃の発生もないし、当たっているのだから避けられない。違う?」
「……驚いた。まさか、見抜かれるとは思いもしなかった」
◇審判員 厳密には違うっぽいけど
◇ロキロキロッキン もう通用しないっていうのは?
ふふん、今に見ていろ。次の攻撃でこいつは詰みだ。
「だが──わかったからと言って、防ぐ方法はない」
「試してみたら?」
「是非もない」
リオンが手を振るう。
次の瞬間、右足が爆ぜた。
「ッ──!」
骨まで響く衝撃に膝が落ちかける。だが、耐える。今度は防がない。散らさない。全身の感覚を、攻撃を受けた一点へ集中させる。
──見つけた。
ほんの一瞬。痛みとともに、そこには本来存在するはずのない
魔力でもない。空間でもない。細く、遠く、どこかへと続いている──見えない継ぎ目。
「捉えたわ」
「な──」
消えるより早く、炎を叩き込む。
右足から噴き上がった火が傷口を焼き、そのまま行き場を失うことなく
「一方通行だとでも思った?」
炎が走る。未来から現在へ結果を運んできたその接続を、今度は私の炎が逆向きに駆け上がっていく。
「──ッ!?」
初めて、リオンが後退した。
靴底が硬質な床を擦り短い音を立てる。即座に右手を振るい、何かを断ち切るような仕草を見せる。
だが、遅い。
一度食いついた炎は消えない。
目には見えない何かを焼きながら、なおもリオンへ向かって伸びていく。
「さっきは何をされてるのかさっぱりだったから無理だったけど──タネさえ割れればこっちのものよ」
解析は私の十八番だ。
「あり、得ない……!」
それまで一度として崩れなかったリオンの顔から、初めて穏やかな笑みが消えた。
「これは世界の外の──!」
伸び続ける炎を見つめ、リオンの瞳が大きく見開かれる。
「──いや、違う。外側の存在だからこそ……君だからこそ──」
「勝手に納得しないでもらえます?」
世界の外とか内とか、中二病か? そういうのは学生のうちに卒業しておいた方がいい。
◇数式の妖精 マリアベルが焼いたおかげでようやくわかった
◇TS好き好きマン やばいじゃん
◇数式の妖精 やばいよ
リオンを警戒しながらチャット欄をチラ見していると、何やら重要そうな情報が流れていた。なんか知らんがやばいらしい。
「……認めよう。確かに、君は強い」
「当たり前ね」
「だが、だからこそ理解できない。
「…………」
会話から薄々察してたけど、こいつ認識上限上がってないか? もっと言うとメタ認知を持ってないか?
そんな風に私が訝しんでいると、リオンが意を決したかのように口を開く。
「君は──神の指先に触れたことがあるね」