TSギャルゲー転生主人公逆攻略実況配信 作:一般TS好き
「見て、マリアベルよ」
「あれが入学初日から先輩に決闘挑んだっていう……」
「しかも無傷で勝ったらしいじゃない」
廊下を歩く俺──私を見てほかの生徒たちがひそひそと小声で話をしている。本人たちからしたら内緒話のつもりなんだろうが、なんかこの身体子供の頃から妙に
というかそういう話は本人のいないところでするものじゃないだろうか。悪口というほどでもないから口に出しては言わないが。あと噂するならせめてポジティブなことも話題に挙げてほしい。私がめちゃくちゃに可愛いとか。
神仏チャット▼ ◇つっきー☆ 入学初日で先輩に喧嘩売ったらそら噂にもなるだろ ◇TS好き好きマン ギャルゲー攻略で喧嘩を売る女 ◇木人 実際ゲーム開始時の主人公ってどのくらい強いの? ◇ドンゴラ 普通に強キャラ ◇あふろん 学院全体で考えれば中の上から上の下って感じ なお成長性EX ◇審判員 なんでこいつ勝ってんだよ ◇つっきー☆ 知りたいのは俺らなんだよなぁ…… ◇マリアベル・レーヴェン こっちはそんな雑談より主人公くんの攻略について考えてほしいんだが 現状名前すら知らないんだよ ◇ロキロキロッキン いやこっちはマジでお前が何で勝ててるのか不思議でならないんだが ◇マリアベル・レーヴェン なんでも何も普通に戦っただけなんだよな ◇あふろん そもそも名前すら知らない相手にいきなり喧嘩売る発想になるのがおかしいだろ ◇TS好き好きマン 見た目はクール美少女なのに中身蛮族なのなに? というか美少女なら美少女らしく話せ ◇木人 ところでマリアベルちゃんって原作だとどんなキャラなの? ◇ミクロコスモス オリキャラ 原作には登場しない ◇木人 オリキャラが主人公攻略とか夢小説かよ | |
【どうしよ】『天墜のソラリス』主人公逆攻略実況配信【勝っちゃった】 | |
好き放題言いやがって……!
ギャルゲーにおいてマイナスの感情から始まって最終的にプラスになるのはよくある攻略方法だろ。この場合は私が女だから乙女ゲーかもしれないが。
まず接点を持つところから始めないと何も意味がない。ゼロと一は天と地ほどの差があるのだ。
正直主人公くんには一ミリも心惹かれない──名前すら知らないし──が、私の充実した来世の為に潔く惚れてもらう必要がある。
◇ドンゴラ 惚れられる努力をしろ
◇つっきー☆ 現状で一番あり得るのってただのライバルルートだからな それすらも蜘蛛の糸みてーなもんだけど
やかましいチャット欄を無視して歩みを進める。決闘で彼をボコボコにぶちのめした上なんかその場のノリで煽ってしまったが、あれはあれで私に対してなんらかの感情は抱いているはずだ。
というか抱くだろ普通。私があんなことされたら普通にムカつくし絶対に許さないもん。
◇ミクロコスモス 思考がギャルゲーヒロインじゃなくてヤクザなんだよな
◇木人 舐められたら殺すとか言い出しそう
◇ドンゴラ 報復じゃなくてデートをしろ
うるさいですね……。最終的に惚れられてればなんだっていいんだよ。なんなら無理やり「好きです」って言わせれば私の勝ちだろ。
うるせ~~~~しらね~~~~!!! 私が勝ちって言ったら勝ちなんだよ!!!
◇TS好き好きマン だからTSしてるなら美少女っぽく話せ
やかましいですわ! ぶち殺しますわよ!
◇審判員 よくねえだろ
えぇ……。自分で言っておいてなんだけど合格のラインが低すぎるだろ。
そんな風に
「あんたがマリアベル・レーヴェン?」
「ええ。確かに私はマリアベル・レーヴェンですが、あなたは?」
「私はアイリス。アイリス・グランツローズ。あんたが昨日ボコボコにしたカイトの友人よ」
透き通るような空色の髪に、つんと吊り上がった藍色の瞳。美少女と言ってもなんら差支えのない少女が、学院指定のダークブルーの制服に身を包み腰に手を当ててこちらを睨んでいる。
そして──。
「ちょっとツラ貸してもらえるかしら」
──とてもではないが似つかわしくないセリフを口にし、私の腕を掴んだ。
◇
神仏チャット▼ ◇眠たい このゲーム初見 アイリスって誰? ◇あふろん 主人公の幼馴染の貴族 ◇木人 へー、強いん? ◇ドンゴラ バカ強キャラ ◇ミクロコスモス 最終的に作中最強の一角になる まあそれは主人公もそうだけど ◇審判員 器用万能って感じ ◇木人 てか普通に話してるけどこれギャルゲーなんだよね? なんでバトル前提の話なの? ◇あふろん 別によくある話だろ ギャルゲーで宇宙崩壊は ◇眠たい ギャルゲーこわ | |
【どうしよ】『天墜のソラリス』主人公逆攻略実況配信【勝っちゃった】 | |
「それで、何の用ですか? こんなところまで連れてきて」
アイリス先輩に連れてこられたのは人目の少ない決闘場だった。昨日私と主人公くん──カイト先輩というらしい──が戦った場所とは随分と違い、設備も何だか寂れている。
ひび割れた石床からは雑草が顔を出し、観客席は蔦に覆われていた。廃墟マニアにはたまらないかもしれないが決闘場としては終わっている。
「こんなところとは随分ね。私は結構気に入ってるんだけど」
「このボロ──失礼、趣のある決闘場を?」
「正直に言っていいわよ」
「こんなクソオンボロな決闘場気に入ってるんですか?」
「正直にもほどあるわね後輩」
正直に言えって言われたから言ったのにそれは理不尽じゃないか? だから私は最初言葉を濁したのに……。
知ってるに決まってるだろ。
◇ドンゴラ 貴族としての教育はどこ? ここ?
安全圏から煽り散らかしやがって……許せねぇ……! 私だって建前を使うべき時には使うに決まってんだろ。今は別にそういう時じゃないし「正直に言っていい」って言われたから取り繕わずに言っただけで。
「ま、正直に言えって言ったのは私だしそこはいいわ。ここがボロいのも事実だしね」
「それはどうも」
ほら見ろ。アイリス先輩だって気にしてない。
負けてないが!?
「それで、あんたを呼んだ理由だけど──なに? どうかした?」
「ああ、いえ。すみません。少し考え事を」
「そう。で、呼んだ理由だけど──」
アイリス先輩はそこで一度言葉を切ると、私のことを足元から頭までじっと舐め回すように観察する。そして、再度私の目を見つめて口を開いた。
「簡単に言えば敵討ちってとこかしら」
「まあ、先輩の口から昨日のことが出てきた時点でそうだろうなとは思ってましたが」
「勘違いしないでほしいのは別にあいつがボコられたのが気に入らないってワケじゃないのよ。あいつが負けたのはあいつが弱かったからだし」
「じゃあ、何故?」
「負けるのはいい。勝負だもの。でもね、その敗者を愚弄することは許さない」
愚弄……愚弄? あのぐらいの口プはありふれていると思うが……。まぁムカつくのは確かだけど当人以外が出てくるほどか?
◇ドンゴラ 敗者を煽り散らかしたお嬢様がいるってマジ?
えぇ!? ダメなの!?
◇ロキロキロッキン 現代インターネットに毒された悲しきモンスターじゃん
ダメなんだ……。悪いことしたな。私としてはファンメや対面煽りくらいのレベルでそんな尊厳がどうのってまで行くとは思ってなかったんだけど。
「私としては愚弄したつもりはありませんでしたが、そのように受け取られたのでしたら謝罪します。もちろん、本人に」
「言われるまでもなく謝罪はしてもらうわ。私があんたを叩きのめしたあとに、ね」
「謝罪はしますが、先輩が勝てるかどうかは別問題ですよ」
挑発とも取れる私の言葉に、アイリス先輩が目を細め腰の剣に手をかけた。
◇つっきー☆ 戦闘に対してだけアクティブすぎるだろ、それを恋愛に活かせ
◇ドンゴラ バトルになった途端ウキウキになるの何? 一応前世一般人だよな?
◇TS好き好きマン まぁ一応この世界で十数年過ごしてるから とはいえ頭おかしいのはそうだけど
なにやら失礼なコメントがちらちら見えるが今は
どうやらこの決闘場も見た目はボロいが機能は生きているようで、先輩が端末へ魔力を流すと途端に開始カウントを示す光球が頭上に出現した。
「制限時間は十分、致命傷を負いかねない攻撃は反則、それ以外はなんでもありでどう?」
「構いませんよ」
光球がひとつ消える。
「さっきも言ったけど、私が勝ったらカイトにちゃんと謝ってもらうわ」
「先ほども言いましたが、謝罪はしますよ。勝つのは私ですが」
ひとつ、またひとつ。
「言うじゃない、後輩」
「事実ですので」
「そういうところが憎たらしいって言ってんのよねぇ」
そして、やがてその数がゼロになり──。
「
「
私が放った炎と、先輩の放った風が激突した。
◇
爆風と土煙が決闘場を包み込み、その奥から白煙が立ち上った。互いの姿が覆い隠され──次の瞬間、ゆらりと煙がぶれる。
煙の中から銀光が閃き、アイリスの肩へ迫ったが──。
「見えてるわよ」
「残念、これで決めようかと思ったんですが」
余裕をもって差し込まれたアイリスの剣がそれを受け止めた。
金属の擦れ合う鈍い音が響き、二人の剣が鍔迫り合う。
「
足を止めたマリアベルに対し、アイリスが再度詠唱を行った。すると、風が幾重もの帯となって足首へ巻きついてゆく。踏み出そうとするたびに締めつけが強まり、マリアベルの両足を石床へ縫い止めた。
足元に気を取られた一瞬の隙を逃さず、マリアベルの剣を跳ね飛ばすアイリス。
そして──。
「案外あっけなかったわね」
武器を失ったマリアベルの首筋へ剣が突き付けられた。
「もう勝ったつもりですか?」
「武器は遠く、足は動かない。対して私はあんたの首を切るのに一秒もいらないわ。誰の目にも明らかだと思うけど?」
「まぁ、そうですね」
「なら──」
「私でなければ」
その言葉とともに、マリアベルを拘束していた風の縄が焼き切れる。思わず目を見張るアイリスだが、すぐさま突き付けた剣を振り抜く。しかし──。
「惜しかったですね」
いつの間にかマリアベルの手に握られていた炎剣によって阻まれた。
「魔力の具象化……あんた、本当に一年?」
「一年生ですよ。若々しいでしょう? 先輩」
「……そこはかとなくバカにされてる気分ね」
呆れた声を出しながら距離を取り、警戒を続けるアイリス。対するマリアベルは炎剣を握った右手をだらりと垂らし、悠然と構えている。
「ところで、どうやって拘束を解いたのかしら。流石に早すぎるわ」
「ああ、あれですか。式は複雑で込められた魔力も多い。確かに正面から解くのは一苦労でしょうね」
「褒めてもらえて光栄ね」
「ええ。ですので
「……は?」
「隙あり、ですよ」
マリアベルの身体が前へ倒れる。そのまま地面へ落ちるかと思った瞬間、激しい土煙と共に姿が掻き消えた。
瞬きの間にアイリスへ肉薄したマリアベルが、手に持った炎剣を横薙ぎに振るう。
「ッ!」
アイリスもすぐに気を取り直すと炎剣の腹を叩いて軌道を跳ね上げ、一歩下がり距離を取る。しかし、マリアベルは即座に手首を回転させると前へ踏み込み、勢いのまま炎剣を振り下ろした。
辛うじて剣を差し込み、マリアベルの攻撃を耐えるアイリス。しかし、止まらないマリアベルの攻撃によって徐々に押し込められていき──。
「形勢逆転、ですね」
マリアベルが手にした炎剣がアイリスの眼前へ突きつけられる。チリチリと髪先が燃える音だけが決闘場に響いた。
「あら、もう勝ったつもり?」
「まさか。勝利とは相手を完膚なきまでに叩きのめした時だけを言うんですよ」
「……私が言うのもなんだけど、あんたも相当にアレね」
「そうですか? 普通だと思いますが」
マリアベルが首を傾げながら返した。アイリスは呆れた表情でため息をついている。
「間違いなく普通ではないわね」
「私が普通と言えば普通なんですよ」
「あ、そ。……ところで油断しすぎじゃない?」
アイリスがそうこぼすや否やマリアベルのうなじ近くで空気が逆巻き、透明な矢じりが音もなく現れる。それも一つではなく、複数が。
「なんだ、やっぱり先輩もできるんじゃないですか」
「嫌味? あんたほど速くはないわ」
「そうですか。では、終わらせましょうか」
マリアベルはそれだけ言うと、背後に突き付けられた風の矢を意にも介さず腕を振るう。当然アイリスも間髪入れずに矢を射出するが、マリアベルは僅かに体を傾け背後から迫る矢を躱した。矢は制服だけを切り裂いてから虚空に消え、炎剣がアイリスへ迫り──。
「引き分けですね」
時間切れを示す無機質なアラート音が決闘場に響いた。
◇
あー、間に合わなかったか。ちょっと話し過ぎたかな。
◇数式の妖精 やっぱお前頭おかしいよ
◇審判員 なんで背中から迫る透明な矢をチラ見すらせずに避けれんだ
透明って言っても魔力を具象化してるんだから感覚でわかるだろ。むしろ魔力の塊である時点でただの矢よりよっぽどわかりやすい。
チャット欄とそんな話をしながら手の炎剣を消し、弾き飛ばされた剣を拾う。思ったよりも遠くに飛ばされてるな。
「引き分けね……負けたようなもんだわ」
「ルールはルールですよ」
「気持ちの問題よ」
「損な性格ですね」
ストイックというかなんというか。負けなかったんだから次勝てばいいだろう、負けてあげるつもりはないが。
というか恥ずかしいのは私の方だよ。「勝つのは私ですが」とかドヤ顔で言った癖に引き分けって、あまりにもダサくないか?
◇あふろん イキリベル・レーヴェン
ぶち殺すぞ!?
おぶち殺しますわ!!
「それで、最初の話だけど──なに? やっぱ引き分けに納得いかないの?」
「ああ、いえ。少し考え事を」
「また? 凄い顔してたけど……」
「お気になさらず」
コメントにキレているところを見られてしまったようで、怪訝な表情でこちらを見つめてくるアイリス先輩。しかしすぐにどうでもよくなったのか、表情を戻して言葉を続ける。
「引き分けた後に言うのもなんだけど、謝罪はしてほしいわけ」
「最初に言いましたが、結果に関わらず謝罪はするつもりでしたよ」
その方が接点も持てるし、これって要は決闘後の好感度イベントみたいなもんでしょ。入学初日にボコってきた美少女と後日再会、そしてそのまま──みたいな。その美少女が自分で男を攻略するのはぶっちゃけキモいが。
「そ、じゃあまた今度呼ぶから。片付けはやっとくから帰っていいわよ」
「はい」
ひらひらと手を振りながら決闘場の奥へ消えていくアイリス先輩。言葉に甘えて私も決闘場をあとにし、寮への帰路につく。
歩きながら考えるのは、当然
攻略って言ってもなあ。謝ることである程度接点は持てるだろうけど、その後どうするかが問題だよな。なんも知らないし。現状知っているのは思いのほか弱いということと黒髪のイケメンであるということだけだ。
◇ミクロコスモス 戦闘IQと差が大きすぎる
まぁ性格云々はおいおい知っていけばいいのかもしれないが、時間をかけるのは正直面倒くさい。別にカイトくんのこと好きじゃないし。
……もういっそのことキスでもしたら惚れてくれるんじゃないか? どうせ童貞だろ。童貞はチョロいんだよ、実体験で知っている。その辺の男相手にキスするのはぶっちゃけキツいし勘弁してほしいが、イケメン主人公様相手ならまぁ万歩譲ってギリ許容範囲と言えなくもない。
◇あふろん 恋愛チンパンジーかな
ごちゃごちゃとうるさい
……自分で言ってて気分が悪くなってきたな。配信切るか。
「終わり、と」
脳内の接続を切る。視界の隅に見えていたチャット欄が一瞬にして消え去り、煩わしかった読み上げも止まる。先ほどまでの喧騒が嘘のように静けさが周囲を包んでいた。
──いや、最初から静かだったか。本当は。
「……はぁ。帰ろ」
柄にもなくセンチメンタルな気分になってしまった。それもこれもアホの神共のせいだろう。なんかムカついてきたな。
「やめやめ。考えてどうしようもないことを考えたところで意味はないんだから」
かぶりを振って考えを追い出す。視界の端で赤色が揺れた。
なんにせよ、大事なのは謝罪とその後だ。そこからどう持っていくかで今後が決まる。
「そう、全ては私のバラ色の来世のために……!」