TSギャルゲー転生主人公逆攻略実況配信 作:一般TS好き
アイリス先輩と決闘をしてから数日後。約束通り呼び出された私は、カイト先輩へ謝罪するために二年の廊下へとやってきていた──のだけど。
「あんた、何の用? 一年よね確か」
「というかあんなことしておいてよく顔出せたわね」
今の私は三人組の先輩たちに絡まれていた。何故……?
胸元には私と同じく花弁を象った印がついていることから恐らく貴族だろう。しかし、当然面識はない。
「別学年の廊下を通ってはいけないという決まりはないはずですが」
「そういう意味じゃないでしょ」
「バカにしてんの?」
「していませんが」
本当にしていない。むしろ絡まれているのに誠実に対応している私を褒めてほしい。
「では、何故……?」
「いや、普通同級生ボコって嫌味言った一年が来たら気分悪いでしょ」
「なんでそんな『心底不思議です』みたいな顔してんのよ」
「顔が整ってるせいで小首傾げてるだけであざといわね……」
…………あっ、そういうこと!?
思ったよりもカイト先輩は人気者らしい。ボコられると気分が悪くなるくらいには。……チッ、イケメンは違うなやっぱり。
とはいえ、このまま絡まれているのも都合が悪い。彼女たちも悪気があるわけじゃないから無理に突破もできないし、どうしたものか……。
そんな風に悩んでいた時、背後から聞き覚えのある声が響いた。
「来ないと思ったらこんなとこにいたのね。何やってるの?」
「ぐ、グランツローズ!?」
「ええ、私がなにか?」
声の正体は案の定アイリス先輩だった。どうやら時間になっても現れない私を探しに来たらしい。謝罪の約束をしておいて遅刻するってだいぶ印象悪いのでは? まぁ私のせいではないから許してほしい。
「というか、なんであなたがこいつを探してるの?」
「エルンストと仲良いでしょ、あんた」
「その辺はもう話をつけてあるの」
どうやら詳しく説明するつもりはないらしく、端的にそれだけ言って私の手を取るアイリス。三人の先輩も渋々といった表情で「まぁあなたがそう言うなら……」と零すと私をチラ見して去っていく。
待て、何で見た。
「あんた、それ直した方がいいわよ」
「それとは?」
「そういうとこ」
だから「そういうとこ」じゃなくて具体的に言えやオラ?! 察して文化は絶滅するべきだと思う。言うべきことは言葉に出そう!
神仏チャット▼ ◇審判員 偉そうに言ってるけど八割くらいお前が悪いからな ◇あふろん お前本当に前世人間社会で暮らしてたの? ◇ドンゴラ ノンデリア・レーヴェン ◇ミクロコスモス 上級生貴族が絡んでくるイベントで絡む側の方が正しいことってあるんだな ◇つっきー☆ 人の心とかないんか? ◇ロキロキロッキン ああ、 ◇マリアベル・レーヴェン 好き放題言いやがって……! | |
【謝罪配信】『天墜のソラリス』主人公逆攻略実況配信【全てをお話します】 | |
◇
「着いたわ」
アイリス先輩に連れてこられたのは人気の少ない訓練場だった。随分と奥まった場所にあるそこには私とアイリス先輩の他に数人の生徒しかおらず、閑散とした広場に訓練の音だけが響いている。
「こんな場所があったんですね」
「使う人が少ない割に設備がいい穴場よ」
「なんで少ないんですか?」
「校舎から遠いから」
身も蓋もない理由だった。
「それで、カイト先輩はここに?」
「そうだけど……なんで名前?」
「いえ、グランツローズ先輩が呼んでいた名前しか知らないので」
「名前も知らないのに喧嘩売ってたの!?」
アイリス先輩が目を丸くしてこちらを見る。待ってくれ、それだけ聞くと確かに私がヤバいやつみたいだけど本当はいい感じに接戦を演じて勝つつもりだったんだって。
そうすればほら「なんだあの一年は……」みたいになるじゃん。ね?
◇つっきー☆ ね? じゃねえんだわ
◇木人 ホント顔だけはいいなコイツ
「……まぁそれはもういいじゃないですか。大事なのはこれから先をどうするかですよ」
「なんか不安になってきたわね……。大丈夫? ちゃんと謝れる?」
小学生が謝りに行くときのお母さんみたいなこと言いだしたな。
「大丈夫です、任せてください」
◇数式の妖精 安心できる要素が皆無
「本当にそうだといいけど……。ここよ。カイト!」
アイリス先輩が声を張ると、一人で木人に向かい剣を振るっていた生徒がこちらへ振り向いた。艶やかな黒髪に、切れ長の瞳。どことなく幼さを感じさせつつも、造形は間違いなくイケメンと言える顔。紛れもなく
結構な時間自主訓練を行っていたのか、訓練着を着た体からは汗が滴っている。……絵になるな。
「アイリス……と、君か」
「どうも」
こちらを認識したカイト先輩へ一応会釈を返す。これはどうだ……? なんかそこまで険悪な感じではないっぽいが。
「アイリスから聞いたよ。この間の決闘について話があるんだって?」
「はい。その節は、あー……すみませんでした。悪気はなかったのですが」
「あれで?」
「はい」
「それは……意外だね?」
私の謝罪を受けたカイト先輩が珍妙な物を見る目で私を見る。失礼な、こんな美少女を捕まえてその表情はないだろう。
◇眠たい ツラの良さだけで全てを乗り越えようとするな
◇ドンゴラ 謝罪って知ってるか? 許してもらうことだよ
ここぞとばかりに煽ってくるチャット欄。ふ、甘いな。この程度で私が謝罪イベントを終わらせるわけがないだろ。
──そう、ここで、
「ところで先輩、言葉だけでは誠意は示せないと私は思っています」
「え。ああ、うん。俺としては構わないんだけど……。アイリスからも聞いてるし……。」
「ええ。そういうわけで先輩────私と、デートをしましょう」
◇ドンゴラ イカレを超えたイカレ女来たな
◇あふろん 無礼の詫びがデートってマジ?
「…………はい?」
私の言葉を聞いたカイト先輩は口をぽかんと開けて呆けた表情でこちらを見た。その隣に立っているアイリス先輩はこれ見よがしに眉根を寄せて溜息をつき、睨みつけるように私を見ながら「あんた何言ってるの?」と口にした。
「ですから、デートです。言い換えればお出かけ、ですね」
「言葉の意味を聞いてんじゃないわよ」
デートである。付き合ってないのにデートとはこれいかにと思うかもしれないが、男女が二人で出かければそれはもうデートだろう。付き合ってるのに異性と二人きりで出かける奴は浮気クソ野郎なので処刑したほうがいい。それくらい二人で出かけるということは大きいのだ。
◇木人 そこだけ令嬢っぽいの笑う
「まぁデートと言うと少し大げさですが、お詫びに食事でもいかがですか、ということです」
「……ああ、うん。ごめん、ちょっと驚きすぎて声が出なかった」
「当たり前ね」
思ったよりも好感触っぽい反応を返してくるカイト先輩。それにしても思ったよりのんびりとしているな、決闘の時は結構ガツガツ攻めてくる感じだったけど。
お前それでも思春期男子か? こんな美少女がデートに誘ってるんだからもっと飛びついて来るべきだろ。
「それで、どうでしょう。今度の休みにでも」
「いや、さっきも言ったけど俺は別に──」
「まさかとは思いますが、貴族令嬢が勇気を出して誘っているのに無下にしたりは……しませんよね? 先輩」
少しだけ顔を伏せて微笑を浮かべ、ちらりと横目でカイト先輩を見て言葉を遮る。すると先輩は案の定というべきか、少し慌てたような顔をして「いやいや、そういうわけじゃ」と弁明している。……やっぱチョロいなこいつ。
「どの口が言ってんのよ」
「酷い先輩ですね。後輩が信じられないんですか」
「まだ数日の付き合いのくせに厚かましいわね」
私の様子を見たアイリス先輩が呆れたように口にする。どうやらバレているらしい。健気な後輩を相手に酷い言い草だ。
◇つっきー☆ 全国の後輩キャラに謝ったほうがいい
◇ドンゴラ 丁寧語で先輩って言ってりゃ許されると思うなよ
どこからどう見てもクール系美少女後輩だろ。小柄な炎髪美少女だろ。メロンパンでも食ってやろうか?
「で、カイト。どうすんの」
「どうするって言ってもな……」
「断っていいんじゃない? 面倒だし」
私がレスバをしているうちに、アイリス先輩がカイト先輩を説得しようとしていた。油断も隙もあったもんじゃない。
「では先輩。次の休み、校門前でお待ちしています」
「え、まだ行くとは──」
「
有無を言わさずに笑顔で黙らせる。そのまま返事を受け取る前に踵を返し、自分の教室へと戻った。背後で何か言い合っていたような気もするが、まぁどうでもいいだろう。
あの手のタイプは押しに弱い。確定事項として無理やり約束を取り付ければなんだかんだ言っても足を運ぶはずだ。来ないなら来ないでそこを攻めていけばいい。
「ふ──
◇TS好き好きマン 恋愛攻略が脳筋すぎる
◇あふろん 共通ルートでこんなの出てきたらクレームもんだろ
真の勝負は週末──最高のデートを見せてやろう。
最後までうるさいなこいつら。
◆
そうして迎えた週末。私は宣言通り校門前で朝から待機をしていた。学校は当然休みなので恰好は制服ではなく、実家から適当に持ってきた私服を身に纏っている。
スカート履いたりするのには流石にもう慣れて何も思わないけど実家の服ってやたらひらひらしてるし素材は高級だしで動きにくいんだよな。汚したら面倒だし。
まぁその分おかしな格好にはなっていないはずだ。私は美少女だから何着ても似合うだろうし。美少女ってズルい。
「来ませんね……」
既に待ち始めてから十数分が経過しているが、一向にカイト先輩が来る気配がない。まさか読み違えたか……? あのタイプはごり押しが正義だと思ったんだが。
「まぁ、もう少し待ちますか」
とはいえ待っている間は暇なので、雑談がてら配信をつけることにする。本来はデートが始まってからつける予定だったが、まぁいいだろう。そんなことを考えながら、脳内で配信枠を立てチャット欄を見る。
神仏チャット▼ ◇ミクロコスモス てか実際のところどうなん? この間の決闘でも世界改変してたっぽいけど ◇審判員 本人が気づいてないのが一番ヤバいんだよな ◇数式の妖精 一応上位世界の魂だからか? ◇審判員 それはある ◇ミクロコスモス あと「魔法ってこういうもんだろ」みたいな魂の思い込みとか? ◇ロキロキロッキン その辺は調整して転生されるはずじゃないっけ ◇TS好き好きマン あっ ◇ミクロコスモス あっ、じゃねえよ ◇審判員 まさかお前忘れてた? ◇TS好き好きマン いやその……あの時は割と勢いで転生させちゃってェ…… ◇ドンゴラ キモ ◇あふろん かわいこぶってんじゃねーよハゲ ◇TS好き好きマン ハゲてないが!? | |
【ドキドキ】『天墜のソラリス』主人公逆攻略実況配信【デート回】 | |
「えぇ……」
なんか待機所で考察してると思ったらコメント同士でレスバが始まってる……。
◇ドンゴラ そういやデート(笑)当日か
◇TS好き好きマン うおっワンピース姿が可愛すぎる
◇ミクロコスモス マリアベルちゃん可愛いンゴねぇ
「キッショ……」
なんだこいつら急に気持ち悪いな。
……というか、そんなことよりもなんか重要っぽい話してなかったか?
◇数式の妖精 気にしたところで意味ないしな
◇ロキロキロッキン それに確定したわけじゃないし
あ、そう。ならいいや。
それより大事なのはデート当日だというのにカイト先輩が来ないことだ。主人公の癖にヒロインを待たせるとか自覚が足りないんじゃないのか?
◇つっきー☆ 普通来ないよ
◇木人 お前はヒロインじゃなくて妨害キャラだろ
どこからどう見てもヒロインだが!? 完全無欠に美少女だが!?
◇ミクロコスモス 詐欺もいいとこだろ
クソが……これだから童貞どもは見る目がない。というか、大事なのは私のことじゃなくて先輩が来ないことなんだって。
◇つっきー☆ 動揺しすぎだろ
◇眠たい というか時間指定してないんだからいつ来るかわからなくない?
…………あっ。
◇ミクロコスモス 待ち時間も返事も聞かずにデート場所に来る狂人
い、いやいやいやいや。休日のデートって言ったら大抵朝からでしょ。よしんば朝じゃないにしても昼前には来るはずでしょ。
ぐ、ぐぬぬぬ……。まさか本当に来ないのか……? いやまぁ来ないなら来ないで「どうして来てくれなかったんですか?」とか言いながら涙でも流せばいいんだろうけど、わざわざ早起きして着替えまでしたのに待ちぼうけ食らうのは普通にムカつくな。
なんで私が好きでもない男のためにこんなに心の割合を割かなきゃいけないんだ……?
◇あふろん こんなモンスターに目をつけられてるカイト君が可哀想すぎる
◇ドンゴラ 当たり屋にもほどがあるだろ
元はと言えばお前らの娯楽のためだろうが……! ふざけたこと言ってんじゃねえぞ……!
元はと言えばあなた達の暇つぶしのためですわよね……!? ふざけたことを仰らないでくださる……?
◇審判員 ありがとうじゃねえだろ
と、そんな風に会話をしていた時。コメント欄に集中していた私の背後から「あの~」と控えめな声がかけられる。
振り向くと、そこには。
「や、やあ。時間聞いてなかったし、一応来るだけ来てみたんだけど……大丈夫?」
シンプルな黒シャツに藍色のデニムというラフな格好をしたカイト先輩が、片手をあげてこちらを見つめていた。
ちょっと心配そうな目で。
「ええ、何も問題ありません」
「あ、そう。……ところで、その恰好は」
「? ああ、はい。流石に制服を着てくるわけにはいかないのでこうなったのですが……ダメでしたか?」
物珍しそうにこちらを見るカイト先輩に対し、服の裾を摘まんでひらひらと揺らしながら答える。一応気を付けてるみたいだけどちらちらとスカートの裾に目線が行ってるのモロバレだぞ。
「あ、いや。似合ってると思うよ」
「それはどうも。そういう先輩は随分とラフですね」
「正直服にはあまり頓着しないタチでね」
気持ちはわかる。正直着れれば割と何でもいいよな。それなのに社交界とか出るときはやたらと露出度の高いドレスとか着させられて非常に面倒だった。すぐに出るのやめたから数えるほどしか着てないけど。
「まぁ別にそこはいいです。今日行く予定のお店はドレスコードとかもありませんので」
「行くのは確定なんだ」
「だから来たのでは……?」
「…………まぁ、いいか」
「当然ですが、代金はこちらが持つのでご心配なく」
流石にこっちが誘った──しかも名目上は謝罪として──のに金を出させるわけにはいかない。まぁ腐っても貴族令嬢なので金なら余るほどあるし。
「では、行きましょうか」
それだけ告げて、案内をするように先輩の前を歩き始める。少し遅れて背後から足音が聞こえたので、問題なくついてきているらしい。
本番はここからだ。今日、このデートで私は一つ好感度を稼いでみせる。そしていずれはウキウキ☆酒池肉林バラ色アフターライフを送るのだ……!
「ふふ……」
「?」
──さあ、