TSギャルゲー転生主人公逆攻略実況配信 作:一般TS好き
「着きました」
カイト先輩を伴ってやってきたのは、学園からほど近い王都に店を構える知る人ぞ知る食事処だった。というか知る人が少なすぎて客がいない。今もガラガラである。立地が悪すぎるんだよな。
「ええ……」
「確かに立地と客ウケは悪いですが味は保証しますよ」
昼前にも関わらず客が一人もいない店内を見てカイト先輩が不安げに呟く。
まぁ人は少ないけどここマジで美味いから。グルメ漫画的に言えば死人が生き返るくらいには美味い。それでいて値段もある程度良心的なのだ。なんでこんなに客がいないんだろうな。
「いらっしゃ──マリアベルちゃんじゃねえか。そっちは……コレか?」
入店した私の姿を認めた店長が挨拶をするとともに、ニヤニヤしながら小指を立てて聞いてくる。見た目はイケオジだから妙に様になってるのが癪に障るところだ。
それにカイト先輩については将来的には──不本意ながら──そうなることが目標ではあるが、いざ他人からそういわれるとなんというか……。
──非常にムカつくな。
「いえ、学院の先輩です」
「どうも」
努めて無表情のまま首を振り、言葉を否定する。店長も本気で言っていたわけでないのか「なるほどねぇ」などとつぶやいた。
「いやぁまさかマリアベルちゃんが友達、それも男を連れてくるとはね。おじさんびっくりだよ」
「私だって人付き合いくらいしますよ」
腕を組んだ店長が一人でうんうんと頷きながらそんなことを言ってくる。普通に失礼だろ。人を何だと思ってるんだ。
◇ドンゴラ 知り合いにもボッチだと思われてるのかよ
◇審判員 てかこの段階でここ解放してるのマジ?
◇木人 え、ここってただの飯屋じゃないの?
◇ミクロコスモス このゲーム飯食うとステータス上がるんだよ。で、この店はそれが最高数値に設定されてる
◇審判員 その分必要能力値も高いから大体最終学年くらいで解放されるはずなんだけどな
え、そんな設定あったの。というかギャルゲーなのにステータス育成とかあるのかよ。
というか、もしかして客が少ないのってそのせいか?
◇つっきー☆ ぶっちゃけ道楽でやってる店だからなここ、客がいなくても問題ない
道楽でやってるくせにあの美味さなのは反則だろ……!
「ま、とりあえず座りなよ。メニューはどうする?」
店長に促され、適当な席に着く私と先輩。先ほども言った通り店内の客は私たちだけなので、どこに座ろうと一緒なのだが。
「私はいつもので」
「俺は……彼女と同じものを」
「おう、いつものふたつね!」
注文を受けた店長が厨房へ引き返す。残されたのは私とカイト先輩の二人だけなのだが……。
「……」
「……」
なーんも話すことねえな。何が好きとかも知らないし。あと食事中に話すやつって私嫌いなんだよね、まだ食べ始めてはないけどさ。
いや、デートと言えば取りあえず食事みたいなとこない?
「……君は」
「はい?」
と、そんな風に私が窓の外を眺めながら考え込んでいた時。前の席に座っているカイト先輩が急に声を掛けてくる。自分で言うのもなんだが、よく話しかけようと思ったな。
「君は、どうしてあんなことを?」
「あんなこと、とは」
「決闘だよ」
まぁ、それ以外にはないか。正直どうして、と聞かれても困る。
馬鹿正直に「あなたが攻略対象なのでそのために決闘を挑みました」なんて言った日には狂人認定待ったなしだからな。
◇ドンゴラ もしかして偽物か?
「ふむ……」
どう答えたものか。今は割とチャンスのはずだ、ここでの答えで来世が近づくか遠のくかが決まる……のだけど。
──なんか面倒くさくなってきたな。
言っちゃダメなことは言わないで、出来る限りぶっちゃけていく方針で行くか。
「噂で強いと聞いたので」
「だから決闘を?」
「学院入学前にも何人かの貴族子弟や教官と手合わせをする機会はありましたが、どれも拍子抜けでした。学院のレベルは高いと聞いていましたし、そこで噂になっているのであれば、と思ったので」
「それは光栄だね」
「まあ、実際はそうでもありませんでしたが」
「……わ、悪かったね」
あ、やべ。思わず。
「いえ、そうはいっても今までの相手の中ではかなりまともでしたよ」
「一応、誉め言葉として受け取っておくよ」
カイト先輩がヘコんでしまった。流石にな~、わざわざ話しかけてくれたのに「お前思ったより弱かったわ」はちょっと可哀想だよな。いくら事実でも。
「そういう先輩は何故受けてくれたんですか?」
「他でもないレーヴェン伯爵家の嫡女だからね。それに、強くなるために基本的には断らないようにしてるんだ」
「何か目標でもあるんですか?」
思ったよりもオラオラ系なのかな。
「それは……まあ、またの機会にってことで」
曖昧な笑みを浮かべながらそう答える先輩。窓から差し込む日差しが逆光になっており、口元以外はよく見えない。何やらただならぬ事情がありそうな雰囲気だった。
それを聞いて、私は──。
「あ、そういうのいいので」
「え」
◇TS好き好きマン アホすぎる
◇木人 これって逆攻略実況なんだよな?
いや、こういう匂わせって嫌いなんだよ。あるならある、ないならない。言うなら言う、言えないなら言わない。
いかにも「何かありますよ」とか匂わせるだけ匂わせて答えを引き延ばすのってエンタメならともかく人間関係でやられるとめんどくさいだけだって。
「言いにくいならそういう『おいおいね……』みたいな感じじゃなくて普通に断ってもらっていいですよ」
「いや、普通に断ったつもりだったけど」
「…………」
◇ドンゴラ 過剰反応して自爆したわけだけどどんな気持ち?
◇つっきー☆ 自爆で千載一遇の機会を逃すアホ令嬢
は? 今のはどう見ても過去エピ匂わせルート展開だっただろどう見ても。それをいきなり「普通に断っただけだけど」とか後出しで言ってくるのは卑怯だよな? つまり後出しじゃんけんじゃん。じゃあ私は悪くない。悪いのは勘違いするような言い方をした
◇あふろん この量の言い訳が一瞬で出てくるの、知能の無駄遣い過ぎる
「こほん。料理遅いですね」
「さっき頼んだばかりだよね」
「ちょっと暑くないですか?」
「まだ四月だね」
「…………」
いちいちいちいち細かいところを気にしやがって姑かお前はよォ~!?
◇ロキロキロッキン 会話デッキが貧弱すぎる
…………よし、泣くか。
◇ドンゴラ 待て待て待て待て
目を閉じて涙腺に意識を集中させる。数秒もしないうちに瞼の内側に涙が溜まり、そのまま目を開こうとして──。
「お待たせ!」
料理を持ってきた店主の声を受けて涙を引っ込めさせる。ち、命拾いしたな。
「相変わらず美味しそうですね」
「この……なんだい? これは」
「ラーメンというものです」
「初めて見る料理だな……」
◇あふろん なんであるんだよ
◇木人 元からあるわけじゃないのかよ
◇つっきー☆ そりゃそうだろ、一応は西洋世界観だぞ
何度かこの店に来て店長とも打ち解けてきた時「なんか食べたいものとかある? 最近マンネリでさあ」と聞かれたので答えたらなんか出てきたのだ。冷静に考えてなんで作れたんだろうこの人。
……まぁいいか。異世界でも美味しいラーメンが食べられる、それだけ分かれば十分だ。
「料理も来たことですし、早速食べましょうか」
「そうだね」
髪が垂れないように後ろにまとめ、一房に結わう。まずはスープからだ……!
「……」
いつも通り美味い。ラーメンと言えばスープが八割と言っても過言ではないと個人的に思っているが、店長のスープは満点に近い味わいだ。
続いて麺を啜る。
「ええと……」
チャーシュー。歯ではなく舌で押しただけでホロリと崩れるほど柔らかいが、箸ではしっかりと摘まめる絶妙な弾力をしている。味の染み具合もちょうどいい。
「どうやって食べるんだこれ」
そしてまたスープ。スープ、麺、トッピング、スープ。このサイクルこそがラーメンの黄金比。そう、今ここに宇宙は完成したのだ……ッ!
「ふぅ。……ん? どうしました?」
ある程度食べ進め、人心地ついているとカイト先輩が何やらこちらを見つめていることに気が付いた。
食事中の女性をジロジロとみるのは流石にマナー違反じゃないか? 私はそんな気にしないけど、普通に失礼だと思う。
「いや、食べ方がわからなくて」
「そんなの普通に──あっ」
あー、そうじゃん、この世界箸とかないじゃん。ついでに言えばうどんもそばもないから啜る麺料理も少ないしな。すっかり忘れていた。
一人納得しながらカイト先輩を見れば、見様見真似といった具合で私の動きを参考に食べようとしているようだが、慣れない箸のせいで持ち方すら危なっかしい。仕方ない、教えてあげるか。
「この棒は箸と言って、先端で食べ物を挟んで食べる食器です。ほら、こうやって持つと──」
先輩の背後に回り、肩口から手を伸ばして右手同士を重ねる。指を取って、箸を持つ正しい動きを一緒に覚えさせるのだ。まぁ一朝一夕では難しいだろうけど、多少不格好でも食べるくらいならすぐにできるようになるだろう。
「それで、こう動かすと物が摘まめるので──聞いてますか?」
「……えっ。ああ、うん。聞いてるよ」
「では、後は食べてみてください。冷めるといけないので」
なんか上の空だったけど大丈夫か? 人がせっかく教えてあげてるのに。
◇数式の妖精 初めてヒロインっぽくなったな
◇あふろん ツラだけはいいからな
別に箸の使い方教えただけだろう。何も特別なことはしていない。
◇つっきー☆ このままはダメだろ
◇TS好き好きマン それはそうだわ
文字通り手取り足取り教えてあげたおかげか、漸くラーメンを食べ始めるカイト先輩。動きは拙いがちゃんと食べられているあたり、やはり戦えるヤツは体の動かし方がわかるものなんだろう。
「これは……美味しい……!」
思わずといった様子で先輩が呟く。ふ、そうだろうそうだろう。ラーメンをこの世界に齎した私にもっと感謝したほうがいい。
ぶっちゃけ私は料理の構造と見た目を伝えただけで何もしていないのだけど。マジで店長はなんで作れたんだろう。
──それにしても。
食べ終わって手持ち無沙汰なので胸の前で腕を組み、その上に顎を乗せて食べている様子を見ているのだがなかなかいい食いっぷりだ。食ってる途中にベラベラ話さないのもポイントが高いな。
「ええと、なにか?」
視線に気づいたのか、カイト先輩が顔を上げ私の視線とぶつかった。先輩の動きが止まる。どうやら少し見すぎたらしい。
……よくわかんないけどとりあえず意味ありげに微笑んどくか。
「お気になさらず」
「そ、そう」
とはいえ見すぎていたことに変わりはないので私も視線をずらし、窓の外を眺める。既に日は頂点近くまで昇っており、路地から見える大通りでは多くの住民が行き来している。
というか、なんか日差しが気持ちよくて眠くなってきたな……。
「ふ……」
思わず出かかったあくびを途中で止めるが、眠気は止まってくれない。
そしてそのままうつらうつらと考えもまとまらなくなっていき──。
◇
「すぅ……」
「えぇ……」
ラーメンと呼ばれた謎の料理を食べ終わったカイトが目を上げると、マリアベルは窓枠に体を預けた状態ですっかり寝入ってしまっていた。黄金色の瞳は今は閉じられ、一つに結っていた赤い髪はいつの間にかほどけていた。絹のように垂れた髪は、窓から風が吹き込むたびはらりと揺れる。マリアベルはそのたびに煩わしそうに眉をひそめているが、目を覚ます気配はなかった。
カイトから見て、マリアベルは余りにも謎に包まれた存在だった。
新入生首席。レーヴェン家の秘蔵っ子。赤い髪の天才。入学初日にして様々な評価を受けていたマリアベルが、何故いきなり決闘を挑んできたのか。
本人は「強いと噂を聞いたから」と言っていたが、それなら自分よりも強い生徒など大勢いるはずだ。もちろん自分が弱いと言うつもりは毛頭ないが、胸を張って強いと言えるわけでもない。
そんな微妙な男をわざわざ指名して決闘するというのは、それこそ噂で聞いていたマリアベルのイメージに合わなかった。
(アイリスは「どうせなんも考えてないわ。そういうタイプよアレは」とか言ってたけど)
「んぅ……」
何か夢でも見ているのか、僅かに唇を釣り上げて笑うマリアベル。その寝姿からは、とてもではないが以前見た燃え盛る劫火のように苛烈な少女の姿は想像もできない。
(強かったな──とても)
手も足も出なかった。魔術は発動する前に全て潰され、近接戦闘は掠らせることすらできず、気が付けば地を舐めていた。
これまで、カイトの中で最も強い人は誰かと聞かれれば間違いなくアイリスだった。しかし、マリアベルはそれを何段も飛び越えていきなり頂点に君臨したのである。
(アイリスが聞いたら怒りそうだ)
脳内に激怒している幼馴染の姿が浮かび、カイトは思わず苦笑した。しかし、訂正するつもりもなかった。
(彼女──レーヴェンは強い。今の俺など足元にも及ばないほどに。そんな彼女が理由はわからないが俺と交友を持とうとしてくれている)
ならば、それを使わない手はない。それが、カイトが今日やってきた一番の理由でもあった。
もちろん、日付だけ指定して去っていった嵐のような少女が少し心配だったというのも嘘ではないが。
しかし。
「わたしが……さいきょ~……」
「どんな夢を見ているんだ……?」
果たしてその判断が正解だったのか。それが分かる日は、まだどこか遠い日なのかもしれない。
◇
意識が浮上する。思考に靄がかかっている。体がポカポカとして気持ちいい。
──あれ、わたし何してたんだっけ。
そう、今日は確か好感度を稼ぐためにデートを取り付けて……デートじゃん!?
やっべ。窓の日差しが気持ち良すぎて普通に寝落ちしちゃったな。令嬢としてあるまじき失態だ。
いや待て、まだワンチャン先輩にはバレてない可能性も──。
「あ、起きた」
全然無理だったわ。そりゃそうだろ、二人しかいない店内で目の前の人間が寝だしたら気づくだろ普通。
さて、どうやってリカバリーしたものか……。まずは軽めに謝罪から行くのがセオリーか?
「んっん……。失礼しました、先輩」
「随分と気持ちよさそうだったね」
「それはも……こほん」
ッッッぶねェ~、誘導尋問とか卑怯では? 寝起きの頭に効果が抜群すぎるだろ。
◇あふろん お前催眠術とかに弱そうだよな
◇TS好き好きマン 催眠マリアベル……閃いた!
◇木人 キッショ
そのキモコメントはライン越えだろ。私じゃなかったらBANされてるぞ。
「それで、この後はどうするの?」
「この後?」
「せっかくの休日だし、ご飯食べただけだともったいないでしょ」
「……それもそうですね」
ぶっちゃけラーメン以外は予定なんも組んでなかったけど、まぁなんとかなるだろ。というか、相手から誘ってくるとかこれはもう攻略完了では?
寝ちゃったときはどうなることかと思ったけどなんかいい感じじゃん。よかったよかった。
「で、どこ行くんです?」
「君が誘ったんだよね!?」
なんだかんだ言いながら王都を案内してくれたあたり、やっぱりチョロいと思う。