TSギャルゲー転生主人公逆攻略実況配信 作:一般TS好き
「暇だな……」
カイト先輩とのドキドキ☆デート大作戦が大成功を収めてから少し経った頃。私はと言えば特段変わったこともなく、穏やかな日々を過ごしていた。
穏やかすぎてとても退屈だ。これ本当にゲームの世界か?
◇ドンゴラ 昭和のオッサンか?
◇審判員 あれが大成功扱いなの頭マリアベルすぎるでしょ
配信も一応つけてはいるが本当にやることがないのでただの雑談配信みたいになっている。あれって結局配信者のトークスキルに全てが依存するから難しいんだよな。ラジオ感覚で垂れ流すのには向いてるけど。
◇ミクロコスモス 修羅道かな
◇TS好き好きマン なんでそのアクティブさを攻略に活かせないんだよ
人聞きの悪い言い方はやめてもらいたい。ちゃんと規則に則って決闘を行っているだけだ。ぶっちゃけ戦って意味のある相手は殆どいなかったけど。カイト先輩やアイリス先輩って本当に強かったんだな。
……というか、それよりも。
「よくないな……このままだと私がまるで自堕落な戦闘狂のようになってしまう」
◇ドンゴラ 今更何言ってんの?
「散歩でも行こうかな。街まで出れば何かしらのイベントもあるでしょ」
そう結論づけた私は適当に制服に着替えて寮を出る。幸いまだ日は高く、動ける時間も多い。
何でもいいから何かしら面白いことがあるといいんだけど……。
◆
──なんて。
なんでもいい、なんて言った私が悪かったのだろうか。
「いやっ! は、離して!」
「へへへ、誰も助けになんて来ねぇよ!」
「あ、兄貴、その制服ってゼニス王立魔導学院ですよ……。やっぱいくら金払いがよくても流石に貴族のガキに手ェ出すのはまずいんじゃ……」
「あぁ!? バカが、今更何言ってんだ。それによく見ろ。胸元に花弁の紋章がねえだろ。平民上がりだよこいつは」
王都の路地裏。人通りからは程遠い暗がりに少女の声がこだましている。見れば、ガタイのいいごろつき数人が私と同じ制服に身を包んだ少女の手を掴み、今にも連れ去ろうとしていた。
……えぇ、テンプレすぎるでしょ。
「むぐーっ! もが、むーっ!」
「オラ、暴れんな。どうせ魔術は使えねえんだ、大人しく寝てな」
呆気に取られている内に少女はあっという間に手足を縛られ、ごろつきどもに担ぎ上げられる。
おっと、流石に止めるか。
「その辺でやめときなさい」
「誰だ!」
「私が誰かより、自分たちがこれからどうなるか考えたほうが建設的だと思うけど」
「あ、兄貴! こいつ貴族っすよ!」
取り巻きの一人が叫ぶ。どうやら先ほどリーダー格に叱られたことを律儀に覚えていたらしい。まぁ気づいたからと言って何ができるわけでもないのだけど。
「その子を置いて大人しく投降するなら最低限の罰で済むんじゃない? それとも焼かれる方がいい?」
「チッ……舐めやがって……! 仕方ねえ、貴族に手ェ出すのはマズいが、見られた時点で同じなんだ。テメェら! たたんじまえ!」
リーダーの男の声に合わせ、ほかのごろつきが私を囲むように動いた。どうやら私も同じように連れ去るつもりらしい。
「数で有利なら勝てると思い上がってるのかしら」
だとしたら途方もなく愚かだ。騎士でもないただのごろつきが人数だけそろえて魔術師に勝てるつもりだとは。
まぁ、いくら
「燃えなさ──ッ!?」
指先に集まった魔力が霧散する。発動を無効化されている? いや、それにしては違和感が……。
「オラァ!」
「死ねェ!」
「殺すなアホ!」
思いもよらぬ出来事に驚いている私を見てごろつきたちが襲い掛かってくる。なるほど、何をしているのかは分からないが、魔術師に喧嘩を売るだけあって何かしらの対抗手段は持っているらしい。
◇ミクロコスモス まさか
「むーっ!」
私の魔術が無効化されたのを見た少女が、縛られた口から悲鳴を漏らした。自分の方が悲惨な状況なのに優しいのか、呑気なのか。
……まぁなんにせよ、だ。
「この程度で勝てると思われているのなら、非常に不愉快ね」
向けていた指先を戻し、真っ先に飛び込んできた男の腕を取ってその勢いを殺さず体を沈める。そのまま腰を支点にして投げ飛ばせば、宙を舞った巨体が後ろから迫っていた二人目へまともに激突した。
「ぐぇっ!?」
「うおっ!?」
二人まとめて地面を転がる。残る一人が一瞬そちらへ目を向けた。
──遅い。
路地の壁を蹴り、一息に頭上まで跳び上がる。驚いて顔を上げた男と目が合った。
「な──」
「一人目」
回転と落下の勢いを乗せた踵を頭頂部へ叩き落とす。鈍い音とともに男の体が地面へ沈んだ。
「ってぇ……このガキ……!」
最初の二人が起き上がろうとしている。
なので、その前に終わらせる。
「ふっ!」
二人目。起き上がりかけた顎を靴の先で蹴り抜いた。白目を剥いて崩れ落ちたのを確認するより先に、その勢いのまま半回転。
「がっ──」
最後の男の顎も蹴り抜く。
どさり、どさりと二つの体が地面へ転がった。
「はい、おしまい」
服を軽く叩いて汚れを落とし、残ったリーダー格の男へ目を向ける。男は少女を担いだまま目を丸くしてこちらを見ていた。
「……」
「……もが」
◇つっきー☆ ゴリラ令嬢じゃん
失礼が過ぎるだろ。この程度、ある程度体術の心得がある人間なら誰でもできる。
「で、まだやるの? お仲間は全員伸びちゃったけれど」
「……く、来るな! こいつがどうなっても知らねえぞ!」
「お手本のようなセリフをどうも」
形勢不利を悟ったのか、男は取り出したナイフを少女の首元につきつける。彼我の距離は十数歩分といったところ。普通に考えれば届く前にナイフが突き刺さってしまうが……。
「お、おい! これが見えねぇのか!?」
「……」
無言で近づく。男が焦り、大声を上げた。
「脅しじゃねえぞ、止まれ!」
「……」
あと数歩。
「クソが……! 死──」
「遅い」
体の力を抜き、数歩分を一息に詰める。突き刺そうとしていたナイフを蹴り飛ばし、勢いのままに体を跳ねさせ回し蹴りを叩きこんだ。
「あなたがバカで助かったわ」
本当に。問答無用で刺そうとしてきたらちょっと面倒だった。日和ってくれてよかったな。
◇木人 人質ガン無視じゃん
いや、このタイプの人質戦法って取り合ったほうが負けでしょ。こいつには人質なんて意味ないのかもって思わせて判断を遅らせないと。
相手のペースに乗ったら人質が有効だってバラしてるようなもんだし。
◇あふろん 言ってることは正しいけどさぁ……
それに見られたのに私のことも攫おうとしてた辺り、なるべくなら殺したくないんでしょこいつら。
……と、それよりも。
「むー! むー!」
未だにむーむー唸っている少女へ目を向ける。花弁が入っていない以外は私と同じ制服を着ており、肩ほどまで伸ばされた茶髪が健康的だ。琥珀色の瞳がこちらをじっと見つめている。
「む? むむー!」
少女は縛られた体をぐねぐねと動かして何かを訴えている。……あ、スカート捲れた。
「んんー!?」
……なんかこの子面白いな。
◇審判員 加害者が変わっただけで草
それは流石に言いすぎでは? まぁいい加減助けてあげるか。そう思い少女を縛っている縄をほどいてあげて──。
「ぷは!」
「どうも」
「どうもありがとうございますでももっと早く助けてくれてもよかったんじゃないですかというかパンツ見ないでくださいあっち向いてほらってマリアベル・レーヴェン!???!?!」
なんかこの子面白いな。
猿轡を取った途端まくしたてるようにお礼と文句を言ってきた少女はどうやら私のことを知っていたらしく、名前を叫ぶと引きつった表情をして数歩後ずさった。命の恩人に対してその反応は失礼では?
◇ロキロキロッキン お前の学院での行動振り返ってみろ
模範的な優等生だが? なんなら学年首席なんですが?
「私のことを知ってるの?」
「え!? ああいや、まぁ噂で同級生にイカ……すごい子がいるってちょこ~っとだけ聞いたことがあるというか、クラスメイトが何人も決闘でぼろ負けしてたというか、入学数週間で決闘数が数十を超えてるのはヤバいっていうか……」
「そんな噂になってたのね」
「あ、これってもしかして不敬だぞとか言われて無礼討ちされる感じですか?」
「結構余裕あるわね」
恐る恐るといった様子で顔を窺ってそんなことを言ってくる少女。ビビりなのか図太いのかよくわからんタイプだ。
「というか、呑気に話してる場合じゃないんじゃない? ここで転がってるやつらも何とかしないといけないし」
「……それもそうですね」
魔術が使えなかった件についても話を聞かなければならない。そう思い、気絶しているリーダー格の男を起こすために腹を蹴り飛ばす。
「えぇ……」
「ほら、起きなさい。……起きないわね」
ちっ、男のくせに軟弱な。男子たるもの顎先を揺らされたくらいで気絶してどうする。
◇木人 気絶させといて文句言うの、やりたい放題すぎる
何度か足で揺らすが起きる気配がない。……うーん、こいつら起こさないと話も聞けないし、そもそも放置するわけにもいかないしどうしたものか……。
「あ、あの……なんで起こそうとしてるんですか? 衛兵に通報とかじゃ……」
「そんなことしたら私が話を聞けないでしょ。魔術がどうして使えなかったか、あなたは気にならないの」
「なりますけどぅ……」
にしても本当に起きないな、そこまで強く揺らしてないはずなんだが。チンピラの癖に貧弱すぎないか? そう思いながらさらに強く揺らすと──。
「ッ! ゲホッ! な、なんだ?!」
「あら、やっと起きた。少しでも動いたらすり潰すからそのつもりで聞きなさい」
「テメェは──すり潰す!?」
◇あふろん 誰も聞いてねーよカス
◇TS好き好きマン お嬢様の姿か? これが
「なんでこの子を狙ったの?」
「……」
「言いなさい」
言葉とともに足を男の股下へ叩きつける。ガツン、と石畳を蹴りつける音が路地裏に響いた。
「こ、琥珀色の瞳を持った茶髪の女を探してるって言われたんだ! 生かしたまま連れてきゃ遊んで暮らせるほどの金がもらえる!」
「依頼者は」
「知らねえ! ……本当だ! 仲介人しか知らないし、仲介人の顔も見たことはねえ! よくあることなんだよ!」
顔も名前も知らない相手の依頼で子供を攫う。なんとも気分の悪いものだと思う。だからと言って私に何ができるわけでもないのだけど。
精々がウチの領地でそういうことをしたやつは晒し上げて抑止する程度である。
「で、金に釣られて攫おうとした、と。まぁそれはいいわ。次が本命。魔術が使えなかったのは何故?」
「い、言えねぇ! それだけは!」
「思ったより根性あるのね。まずは片方から行きましょうか」
「ま、待て待て待て待て!」
大慌てで手を振り、私を静止する男。それを無視してゆっくりと足に力を入れていき──。
「言ったら殺されるんだ!」
「──はぁ、これ以上は無意味みたいね」
足をどけ、再度顎先を揺らして気絶させる。ここまでやって吐かないのなら、それこそ本当に死ぬレベルで拷問しなければ意味はないだろう。
そして、そんなことは流石にやりたくないのでこれ以上は無意味ということだ。それに、情報を得るなら目の前のこいつの他にもアテはある。
◇ロキロキロッキン これなー、言っていいのか?
◇審判員 少しならいいんじゃない
◇数式の妖精 そもそもこのタイミングでこのイベントが起きてるのがおかしいし
やはり何か知っているらしい。オラ、とっとと教えろ!
◇つっきー☆ 魔術が使えないのは……詳しくは言えないけど要は空気中の魔素が散らされてたからだ
◇つっきー☆ いくらマシンがイカれた性能しててもガソリンがなけりゃ走れないだろ それと一緒
◇ロキロキロッキン つーか本来ならもうちょっと先で起こるはずのイベントなのに、何故か前倒しされてる
ふむふむなるほど。この子はヒロインで、チンピラたちは何かしらの手段でこの周辺の魔素を散らしていたと。で、このイベントは本来ならまだ起きるはずがなかった。
……ほぼ情報ゼロじゃねえか!?
◇ロキロキロッキン お前にとって大事なのはヒロインじゃなくてカイトくんをどう攻略するか、だろ?
◇あふろん 他のヒロインがどうなろうが関係はないよね
◇審判員 一応こっちでも少し調べてはおく
結局これ以上は教えてくれないらしい。……まぁ、確かにそんな気にすることでもないか。そう思いながら視線をチャット欄からずらし、未だにおずおずとこちらを見ている少女へ声をかける。
「さて、後はこいつらを衛兵に突き出すだけなわけだけど、あなたはどうするの?」
「……えっ! あ、はい! ご一緒します!」
「……まぁ、被害者がいた方が話も早いかもね」
言って、路地を出た通りを歩いている適当な人を捕まえて衛兵を呼びに行かせる。
ちょっとしたイベントでも起こればいいなと思って散歩にきたらとんでもないイベントに巻き込まれてしまった。それでいて攻略には何も関係ないのが最悪だ。徒労に終わったな。
──それにしても。
ちら、と隣へ視線を向ける。一応は落ち着いたのか、どこか間の抜けた表情をしたままぺたりと地べたへ座り込んでいる少女。ヒロインの一人ということを鑑みれば、男たちが探していた「琥珀色の瞳を持つ茶髪の少女」は間違いなくこの子だろう。
そしてこのゲームの世界観を考えると狙われた理由もそれなり以上に穏やかではない理由のはず。
──なんだけどなぁ。
「? どうしました? ……ッ!? わ、私と戦っても楽しくないですよぅ、弱っちいので!」
「あなたの中の私がどういう人間なのか少しばかり問い質したいところね……」
チラ見しただけでその言葉が出てくるって何? 人を血に飢えた戦闘狂のように扱わないでほしい。
「……まぁ、いいわ。それよりもあなた、名前は?」
「名前?」
「何不思議そうな顔してるのよ、自己紹介もできないのかしら」
「あぁ! そういえば言ってませんでしたね」
いい加減「少女」だとか呼んでいるのも面倒になってきたし、そもそもとしてあっちは私を知っているのに私はあっちを知らないのは普通にムカつく。
「エルミナ・ヴァラと言います! ……家名はあまり好きじゃないので、エルミナと呼んでもらえると……」
「そう。知っているようだけど、私はマリアベル・レーヴェン。よろしくするかどうかは……まあ今後次第ね」
「正直あんまりよろしくはしたくないですね……」
「無礼討ちとかってした方がいいのかしら」
こいつヤバすぎだろ。
とぼけた表情でこちらを見るエルミナを見ながら、私はため息をついた。