TSギャルゲー転生主人公逆攻略実況配信 作:一般TS好き
「いきなりとはご挨拶じゃない?」
「存外、やる」
身を捩り、飛び退きながら背後から突き出された刃を躱した。しかし完全には避けきれず、制服が切り裂かれる。はらりと布が宙を舞った。
──ッぶねェ~!? ノータイムで殺しにきやがったこいつ!?
戦闘スイッチが入る前だったから正直危なかった。というかさっきまで目の前にいたのに一瞬で背後に回るってどういう理屈だよ、瞬間移動か何か?
「これが最後。エルミナ・ヴァラに近寄るな」
先ほどと同じように、ついさっきまで私が立っていた場所からフードマンが無感情に告げる。
一度目と違うのは漆黒に塗られたナイフをこちらに突き付けていることだ。ここで断れば今度こそ本気で殺しにかかってくるであろうことは想像に難くない。
──だが、私の答えは決まっている。もちろんNOだ。
「制服を切った程度でもう勝ったつもり? そんなに裁断が得意なら裁縫屋にでもなった方がいいんじゃないかしら」
「お前、愚か」
「──ぶっ飛ばすわ」
こいつ今なんつった!? 愚かなのはそっちだろうが! 格の違いを見せつけてやる……!
足元で魔力を爆発させ、一息に踏み込んで炎剣を横薙ぎに振るう──が、刃が届くより先に相手の姿が上へ跳ねた。
「遅い。動きが雑。無駄が多い」
……こいつ今見てから回避しなかったか? 見てから回避余裕でしたってか?
最小限の動きで跳んで炎剣を避けた相手は、そのままふわりと地面に音もなく着地した。
煽りカスの癖にかっこいい動きしやがって……!
◇つっきー☆ これくらい性能のいいポットがウチにも欲しいわ
◇木人 というかこいつは誰?
◇ドンゴラ エルミナルート入るとやってくる凄腕暗殺者
ルートに入った覚えはないんだけどな。助けた後はせいぜい顔を合わせたときに話をしたり、暇なときにからかって遊んだり、退屈がてら連れまわしたりしてただけで。
◇TS好き好きマン これって百合だよな なんでそれを配信しない
◇あふろん 中身男だしNLだろ
◇TS好き好きマン お前精神的BLとか言い出すタイプか? 殺すぞ
なんか気づいたらまたしてもチャット欄でレスバが始まっていた。マジでいい加減にしろよお前ら。今はそれどころじゃないだろ。
そんなことを思いながら、再度距離を詰める。今度は力任せな魔力放出だけではなく、体の動きで距離を短縮する技法──いわゆる縮地を併せて。
炎剣が唸りを上げて振り抜かれる。けれど、刃先が捉えたのは黒いローブの裾だけ。身を沈めた暗殺者が炎の軌道から滑り出るようにこちらの脇を抜けた。
「さっきよりはマシ。でも、まだ遅い」
声と同時に脇腹へ冷たい感触が走る。
咄嗟に身を捻ると、制服の表面を漆黒の刃が浅く裂いて通り過ぎた。
「……ローブの端、焦げ付いてるわよ」
「掠っただけ」
相手が言い終わるより早く、もう一度踏み込む。
しかし、炎剣が空を裂くたびに黒い影がわずかに揺れた。右へ。左へ。あるいは半歩だけ沈む。
刃を潜った暗殺者のナイフがすれ違いざまに喉元へ跳ね上がる。首を逸らして躱せば、今度は返した刃が手首を狙う。炎剣を引き戻して弾いた瞬間には暗殺者はもう間合いの外へ抜けていた。
想像以上に動きが速い──というより、巧い。一つ一つの速さはそうでもないが、体の動きが気持ち悪いくらいに巧みだ。体が精密機械でできてんのか?
攻撃を続けながら考える。どんなにフェイントを入れても一つも引っかからない。それどころか、釣られる素振りすらない。
──やっぱ予測じゃなくて後手で見てから動いているな。
正直信じ難いが、間違いないだろう。
「お前、そこそこやる」
「それはどうも。ようやく私の強さが──」
「でも、私の敵ではない」
いちいち煽らないと会話ができないのかこいつ!?
◇審判員 心に棚を作るのが上手すぎる
もう許さん。泣いて謝っても許さん。
……が、しかし。
──謎の超速移動に、見てから回避できる技量。このままだと負けはしないが勝てもしない、か。
非常に、非ッッッッ常にムカつくけど近接戦闘の技量はあっちの方が上なのは事実だ。もちろん総合的な実力では天と地ほどの差があるが、認めるべきところは認められる人間なのだ、私は。
◇つっきー☆ 相手の土俵で戦う意味無くね?
このタイプ相手だと確実に当てられる場面以外での遠距離攻撃は逆に悪手だぞ。遠隔で燃やしたところで、こいつなら魔力の起こり見てから普通に抜けて終わりだ。
その癖こっちは魔術にリソースを割かないといけなくなる。面制圧の大火力ならいけるだろうけど、それだと周囲に被害も出るし何より──。
負けを認めたみたいでムカつくだろ! とにかくあいつは一発ぶん殴る、細かい話はその後だ。
問題はどうやってぶん殴るかなんだけど……。
「今度はこちらの番」
「まだ考えてる──」
言葉とともに、暗殺者の姿が再度掻き消える。だが、今度は見失うことはない。人ひとり分の熱源が左後方に出現したのを感じ取り、振り向きざまに剣を振るう。
「──途中でしょ!」
「考えても、無駄」
無感動な言葉とともに熱源が移動し、頬に一筋の熱が走った。遅れて血が伝う。
──あっぶな。今の、首を狙ってやがったな。
◇数式の妖精 アクティブソナー……ってより、サーモソナーか 人間赤外線探知機じゃん
◇ミクロコスモス 炎熱魔術の応用なんだろうけど……
これで位置は割れた。後は殴るだけだが……。
見てから反応してるってことは、だ。
──試してみるか。
轟、と手に持った炎剣の火力を上げる。局所的な上昇気流が発生し、ばたばたと髪がたなびいた。熱された空気の向こうで、暗殺者の輪郭がわずかに揺らぐ。
「予言してあげる──あなたはこの後、私によってぶっ飛ばされるわ」
「できるものなら」
「減らず口もここまで──よっ!」
言葉とともに、再び足元から魔力を放出して相手へ突っ込む。炎剣を横薙ぎに振るえば、初手の焼き直しのように相手は上へ跳ねた。そうだよな、お前はそう動く!
着地した瞬間を狙い、顔面目掛けて手に持った炎剣を投擲する。当然当たらないが視界が塞がれた一瞬の隙を突いて距離を詰め、握りしめた拳を勢いのままに振るう。
暗殺者はすぐにこちらを捉えた。
迫る拳を見切り、紙一重で顔を逸らす。そうして私の拳は、今までと同じように空を切る──。
「ふ、き、と……べェェェエエエ!!!」
「当たら──ガッ!?」
──ことはなく、確かな手応えとともに深々と顔面へと突き刺さった。一瞬の間を置いて暗殺者が空を舞う。
そしてそのまま落下するかと思ったが、空中で体勢を整えて着地した。猫みたいだな。
◇ドンゴラ 完全にヤンキー
喧しい! 勝てばいいんだよ勝てば!
「何、故……完璧に避けたはず」
「わからないの? いいわ、説明してあげる。何故なら今の私はとっても気分がいいから!」
スカしたツラに拳を叩き込んだことで気分爽快だ。タネに全く気付いていないのもいい。
「物がどうやって見えているかは知っているかしら」
「は?」
「万物は光を反射することで実像を映しているわ。そして、光とは熱によって曲げることができるの。……まぁ具体的には違うけど、概ねそういう理解でいいわ」
コツコツとつま先で地面を叩きながら説明を続ける。
「それが、なんの……ッ! お前、まさか」
「やっと気づいたの? 思ったよりも頭の回りは遅いのね。そう、私の実像をズラしたわ。
◇つっきー☆ 言動は脳筋の癖に戦闘は頭脳派なの頭おかしくなりそう
◇審判員 作るだけならともかく意図した見え方させてるのはおかしいだろ
暗殺者だけではなくチャット欄までもが驚いている。気分がいいな。
「油断。だが、次はない」
「ええ。
言葉とともに魔力を励起する。ぶん殴るという目標を達成した今、近接戦闘にこだわる必要はない。
「
言葉を紡ぎ、魔力を流す。詠唱に気が付いた暗殺者がこちらへ向かっているが、解説をしていた時に仕込んでいた炎に阻まれここまで辿り着くことはできない。対策もしないで長文詠唱なんてするわけないだろ。
「
ようやく炎を突破したのか、所々焦げ付いた様子の暗殺者が正面から突撃をしてくる。最早死角を突く余裕もないらしい。あるいは、詠唱中の魔術師ならその必要もないと考えているのだろうか。
だが──遅い。
「
ナイフが届く前に詠唱が完成する。それと同時に魔術が発動し、辺り一帯を透き通るような青い炎が包み込んだ。
ぶっつけ本番で組み立てたけど、うまくいったみたいだ。
「熱くない。失敗した?」
「いいえ、成功よ」
「なに──を?」
がくり、と暗殺者が膝を折る。咄嗟に手をついて体を支えるが、その腕からもすぐに力が抜けてしまい地面へと倒れ込んだ。
「動か……ない?」
「でしょうね。だってこの炎、中身を焼く炎だもの」
ゆらゆらと揺れる熱のない炎を手の中で弄りながら答える。面制圧の魔術は周囲が燃えてしまう。かといって、点攻撃ではよけられて終わりだ。
ならどうするか。
簡単な話である。
「これはね、気力とか、精神力とか、意志力とか──とにかくそういうものを燃やす炎なの。私がそうやって設定した」
「お前、おかしい」
「心外ね」
◇ミクロコスモス 「心外ね」じゃねえんだよ
◇審判員 精神を燃料に燃える炎って何?
「まぁ、もう殆ど動けないでしょう? わかったら大人しく──」
「まだ、負けてない」
神共にキレながらも、暗殺者を拘束しようと近づいたその時。呟かれた言葉とともに、暗殺者が身に纏ったフードローブの内側から大量の煙が噴き出してくる。即座に熱源探知をオンにするが、何故か複数の熱源がバラけており判別ができない。
「悪あがきを……!」
やはり即興だから粗があったのか、あるいはあいつの精神力が尋常ではなかったのか。理由はわからないが、まだ動けるとは思わなかった。
苛立ち交じりに零しながら炎剣を顕現させ、煙を切り払う。しかし──。
「……」
既に深緑色のフードローブはかけらも見当たらず、あるのは散乱した発熱筒だけ。つまり。
「に、逃げられた……!」
はぁ!? 普通あの状態から動けると思わないだろ、敵対する意思そのものを燃やして──。
──あっ。
……いやだってあそこから逃げるとは思わなくない?! あんなに殺意マシマシでやってきておいていざとなったら尻尾巻いて逃げるってどうなんだよ!
「つ、次会ったら覚えときなさいよォ~!」
思わず叫び声をあげ、ずんと地面を踏み鳴らす。
うっさい!
◇
マリアベルが虚空に向かって叫び、チャット欄に怒りを露わにしていた頃。
どうにか逃げ出したフードの暗殺者は、懐から四角い箱のようなものを取り出すと地面に置いた。少しして箱から映像のようなものが投射され、暗い影のような人物が映し出された。
「終わったか」
影が口を開く。その声は無感情であり、心情は読み取れない。
「……任務、失敗」
「構わない。所詮物のついでだ」
「訂正する。あいつは、危険。頭がおかしい」
そう言いながら、目深に被っていたフードを乱暴に脱ぎ捨てる。月明かりに照らされた中性的な顔には、あの非常識な令嬢から受けた鈍痛の痕が赤く腫れ上がっていた。
「へえ、君が攻撃を受けたか」
「油断、次はない。問題はその後」
短くそう告げた後、マリアベルが使った魔術について話していく暗殺者。物を燃やさず、精神だけを燃やす青い炎。長く暗殺をしていた彼──あるいは彼女からしても、あんな魔術は初めて見るものだった。
「なるほど……物的な炎ではなく霊的な炎。中々に珍しいが、それだけだ」
「油断大敵」
「随分と恐れるじゃないか。拳がよほど堪えたのかな?」
「……」
「冗談だ、そう硬い顔をするな」
くつくつと楽しそうに笑う影。対するフードの暗殺者は、無表情ながらもどこか不服そうな空気を醸し出している。
「確かに強いだろう。だが、それも世界の枠で考えた時の話だ。計画さえ成れば、問題ではない。それに──」
影はそこで一度言葉を切ると、何かに思いを馳せるように視線をズラす。しかしすぐに前を向き、言葉を続けた。
「──その程度、打倒できなくては意味がない」