TSギャルゲー転生主人公逆攻略実況配信 作:一般TS好き
「詳しい説明は省きますが、このままだと世界は滅亡します」
「な、なんだって!?」
光の方角──王都へ向かう道すがら、先輩に事情を説明する。というか、誘っておいてなんだけど特に事情も聞かずについてきてるあたり、相当お人よしだな。
「あの光は──まぁ私にもよくわかりませんが、悪人が力を手に入れた合図のようなものです。そして、それを野放しにすると色々とよくないことが起こるわけですね」
「だいぶ大雑把な説明だな……。まぁ何かを止めるのはわかったけど、どこに向かってるんだい?」
「王城ですよ」
「王城!?」
エルミナの秘密を知っているのは、私たちの学長か、王族の限られた人間だけ。そして光は王都の方角から放たれた。
誰が犯人か? 考えるまでもない。王族の誰かだ。
「え、待って待って。王城って……あの王城だよね?」
「王都にあるエルスヴァルト城以外にこの国に王城があるのであれば違いますが」
「……そこに行って何をするつもりなのかな?」
何を? そんなの決まっている。
今更そんなことを聞いてくる先輩に少し呆れ、緩やかに顔を振りながら口を開く。
「悪い人をぶっ飛ばすんですよ、先輩」
にっこりと笑って告げたそれを聞いた先輩の顔は、まるでこの世の終わりのような表情だった、とだけ言っておく。
◆
「止まれ!」
何やら慌ただしく騎士が行き来している城下町を抜け、王城へと辿りついた私とカイト先輩。
そのまま中へ入ろうとするが、当然門番に制止される。何かの間違いで行けるかと思ったが、やはりダメだったか。
◇ミクロコスモス ノータイムで王城にカチこむ女、勇ましすぎる
◇TS好き好きマン バトりの判断だけは早い
「今は少々立て込んでおり、城内は立ち入り禁止である。即刻立ち去りなさい」
う~ん、まともだ。自身の職務に忠実で、真っ当な兵士。多分何も知らないんだろう。
声色もどこか心配そうだし、視線も訝し気ではあるがまっすぐにこちらを見つめている。
「で、どうするの? マリアベル」
カイト先輩が小声で囁く。こそばゆいからやめてほしい。それに、どうするか、なんて。
そんなの──決まっている。
「
「お前、何を──ッ!?」
言葉とともにいつもの炎剣を顕現させ、乱雑に振るう。突然の出来事に兵士たちは対応できず、勢いのままに吹き飛び動かなくなった。一瞬の静寂の後、周囲がにわかに騒がしくなる。
◇つっきー☆ テロ行為に躊躇いがなさすぎる
◇あふろん ガンガンいこうぜしかコマンドがないのか?
「マリアベル!?」
「大丈夫ですよ、先輩。峰打ちです」
「いや峰とかないよね!? 全然両刃だし、というかそもそも刀身が炎だよね!?」
「細かいことはいいんですよ。要は非殺傷ですから。そんなことより、ほら。来ますよ」
私の言葉と同時に城壁の上の見張りが鐘を打ち鳴らし、城の奥から続々と兵士たちが湧き出してくる。
「さて、突破しますよ。先輩」
「い──や、いやいやいや! なんで!?」
「時間がない。言葉もない。敵は奥にいて、リミットはもうすぐ。なら──押し通るのみ、ですよね」
「でもッ──。……あぁ! もう、責任は取ってもらうよ!」
「安心してください。失敗したら全員死ぬだけです」
「何一つ安心できない!?」
言いながら、こちらに殺到する兵士たちを捌いて進む。炎剣は非殺傷──物理損傷を起こさない設定にしているが、それでも万が一はある。できる限り痛めつけないように、迅速に、丁寧に、一撃で意識だけを刈り取っていく。
「侵入者は二名! どちらも学生です!」
「騎士の応援はない! ここで食い止めろ!」
「少女だけでなく、少年にも注意しろ!」
次から次に湧き出てくる兵士を処理しながら、周囲の魔素を探る。王城にいるのは確定っぽいけど、実際どこにいるのかはまだわからないんだよな。
「この……あとは!?」
剣を地面に刺し、迫りくる兵士の足を凍らせながら先輩が聞いてくる。やっぱこういう時氷系は便利だよな。私は合わないのか使おうとするとめっちゃ疲れるからダメなんだけど。
「今探してます」
更に周囲へ意識を広げる。無数の人間の魔力、王城を覆う結界、そこへ紛れるようにして──いや、隠す気すらない。ひとつだけ桁の違う魔の奔流が、城の奥で渦を巻いている。
「捉えました」
「どこ!?」
「あちらです」
明らかに異常な量の魔素が集まっている場所。私たちが目指すべき終着点を指さした。それは──。
「王座の間じゃないか!?」
「つまり、そういうことですよ」
やはりというべきか、この国の象徴なのだった。
◇
マリアベルたちが城門で大立ち回りをしている、その時。
王座の間の奥に位置する王子の執務室には、城門から響く警鐘が遠く届いていた。
「侵入者は二名。いずれも学院の学生と思われます」
報告を受けている部屋の主──第二王子であるリオン・レギンレイヴ・エルスヴァルトは書類に目を落としたまま穏やかに口を開く。
「随分と賑やかだね」
「申し訳、ございません」
「ああ、いや。すまない。守備兵たちを責めたわけではないんだ」
縮こまるように頭を下げた兵士に対し、リオンは薄く笑いながら訂正する。次いで、書類から顔を上げて言葉を続けた。淡い金髪の下、細い縁の眼鏡越しに色素の薄い瞳が兵団長を見据えた。
「近衛の主力は父上と兄上に随行している。残っていた騎士も、先ほどの光を受けて王都の結界や主要施設の確認に回っている。今城にいるのは守備兵がほとんどだ。彼らでは卓越した個人の相手は厳しいだろう、下げた方がいい」
「は……、しかし、通すわけには……」
兵士は食い下がった。当然だ。城を、城主を、守るべきを守ることが兵士の本懐。それが、守るべき相手に守られるなど──。
「構わない、と言っている。君も、僕の強さは知っているだろう? 兵団長」
諭すように発せられた言葉を聞いた兵士──兵団長は何か言いかけ、しかし結局その言葉を飲み込んだ。握り締めた拳だけが、命令への不服を物語っている。
「……御意に」
扉が閉じる。
遠く響いていた警鐘だけが、再び執務室に残った。
「ラシャード」
「ここ」
音もなく、朧気な影が立ち上がる。
「足止めをしろ」
「了解」
短く告げられた命令を受け、霞のように姿を消すラシャード。
リオンはそれを見送ることもなく、手元の書類へ視線を落とした。
一方、兵士たちを切り伏せながら城内を進んでいたマリアベルたちは途中からある違和感を覚えていた。
「マリアベル、これは……」
「はい。誘導されてますね、それも王座の間に」
先ほどまでは真正面から行く手を塞いでいた兵士たちが、いつの間にか道の左右へと分かれている。
槍を構え、こちらを睨みつけてはいる。だが、踏み込んでこない。
まるで、先へ進めと言わんばかりに。
「こちらとしては好都合ですが……」
「流石に不気味だね」
「ええ、そうで──危ない!」
会話の途中、通路の出口に差し掛かった時。突如としてマリアベルがカイトを蹴り飛ばし、手に持った炎剣を虚空へ振るった。
「先手、必勝……ならず」
虚空から振るわれたラシャードの刃が、マリアベルの炎剣を受け止める。僅かに拮抗を見せたそれは、しかし力に逆らうことはせず、弾かれるようにして宙を舞った。
ラシャードはくるくると回り、音もなく着地する。
「あら、数日ぶりね。また負けに来たの?」
「負けてない」
「穏やかな知り合い……では、なさそうだね」
蹴り飛ばされていたカイトが体勢を立て直し、マリアベルの隣に立った。
「先日撃退した暗殺者です」
「これ以上、進ませない」
「生憎だけど、一度倒した雑魚にかかずらってる暇はないのよ」
出口前に陣取るようにしてゆらりと立ち、ナイフを構えながらマリアベルたちを睨みつけるラシャード。対するマリアベルは、隣に立つカイトへ顔を近づけ何かを呟くと、調子を確かめるように手に持った炎剣を数度振るった。
そして。
「だから──」
そのまま爆発的な速度でラシャードに接近し──。
「おとなしく先輩のレベル上げでもしてなさい!」
刃が触れ合う直前に刀身を床へ叩きつける。弾けた炎が一瞬ラシャードの視界を覆い、その反動を利用してマリアベルが頭上を通り抜けた。
「逃がさ──」
「君の相手は、俺だ」
ラシャードも即座に反応し、飛び上がろうとしたが足が動かない。足元へ視線をやれば、どこからか伸びていた氷が靴と床を薄く縫い付けていた。一瞬、されど十分すぎる拘束。
カイトが生み出した僅かな隙を逃すことなくマリアベルは通り抜け、ラシャードが氷を壊し動けるようになる頃には姿は見えなくなっていた。
それだけではない。マリアベルが通り抜けた直後、同じ氷が通路を這い上がり出口そのものを白く閉ざしていく。瞬く間に通路を覆ったそれは、先ほどの拘束とは比べ物にならないほど強固に道を閉ざし、通路を分断していた。
「……不覚」
「俺のことは眼中になかったかな」
「……」
凍えた出口を背にしたラシャードと向き合うカイト。先に動いたのは、ラシャードであった。
◇
──先輩、私は先に行くのであいつの相手をお願いします。何、先輩なら大丈夫ですよ。相性もいいですし。
(どこが?!)
ラシャードの攻撃を捌きながら、カイトは心中で絶叫した。目の前では、ラシャードらしき影が縦横無尽に通路を駆け巡っていた。
頬を浅く裂かれる。
次の一撃は肩口。剣で受けたはずなのに、いつの間にか制服の袖が裂けている。
脇腹へ走った冷たい感触を反射的に氷で弾けば、遅れて氷中に血が滲んだ。
(速い──来ると思った時には既に振り抜かれている! 動きの
辛うじて致命傷は避けている。避けているが、それだけだ。こうして凌いでいる間にも、全身には数々の裂傷が刻まれている。
(このままじゃジリ貧だ。かといって、俺のスピードではとてもではないが当てられない……!)
「お前、弱い。諦めて通すべき」
「冗談!」
通路の出口を氷で塞ぎ、その前に陣取ったおかげで何とか足止めはできている。役割はしっかりと果たせている。後はマリアベルが事態を解決するまで耐えればいい──。
(なんて! 後ろ向きの考えでいいわけないだろう!)
一度息を吐き、カイトは剣を顔の前へ引き上げた。刀身を横へ寝かせ、切っ先をラシャードへ向ける。霞の構え──と、マリアベルは言っていたか。
(落ち着いて思い出せ。彼女は
そう。マリアベルが勝てると言ったのなら、必ず勝ち目はあるはずだ。
息を吸い、吐く。その度に思考が冷えてゆく。模擬戦の時、マリアベルが言っていた言葉が脳裏を掠めた。
「先輩は──攻めに向いてませんね。なんて言うか、根っこの部分では甘ちゃんです。冷静と言えば聞こえはいいですが、思い切りがないとも言えます。つまり受けですね、掛け算で言えば右側です」
(後半の意味は分からなかったが、言いたいことはわかる。つまり、
吐き出した息が白く消えていく。気づけば廊下は一面が氷に覆われ、極低温の空間が出来上がっていた。
(冷気を感じろ。どんなに速く動いても、人である以上温度はある。急激に冷えた空間に入ってくる熱源。それであれば、見なくても感じ取れる)
カイトが取った戦法は、奇しくもマリアベルと同じものだった。熱源による探知。見えないのなら──見なければいい。
「……諦めた?」
「────」
カイトは答えない。目を閉じ、剣を構えたまま微動だにせずに立っている。後の先を狙っていることはラシャードにとっても明らかであったが、しかし攻めあぐねるわけにもいかなかった。
一歩。ラシャードの姿が掻き消える。
同時に、カイトの左側で僅かに冷気が揺らいだ。
(そこ──!)
カイトが目を閉じたまま刃を走らせる。瞬間、金属が擦れる甲高い音が響いた。
「──チッ」
短い舌打ちとともに、ラシャードが跳ねる。手に持った刃には薄い氷が張っており、持ち手にまで届かんとしていた。
(捉えた──が、それだけだ。焦るな。相手は攻撃せざるを得ない)
再び冷気がブレる。半ば無意識に刃を走らせ、先ほどの焼き直しのように甲高い音が響き──それと全く同時に、カイトの脇腹を鋭い刃が貫いた。
「ッグ!?」
強烈な痛みに足から力が抜け、カイトは片膝をついた。傷口から溢れた血が制服を濡らし、凍りついた床へ赤い雫を落とす。
「カウンター、バレバレ。バカ正直に行くヤツなんていない」
「だからって……投げたナイフと同じ速度で走れる人間も……そうはいないと思うけどね」
「訂正。私はナイフより速い」
そんな間の抜けた返答とともに、三度、ラシャードの姿が掻き消えた。
(まずい──次、急所を刺されたら流石に耐えきれない。どう来る……投擲か、フェイントか、それとも直接か──)
時折牽制のように投げつけられるナイフを打ち落としながらカイトは思考を巡らせる。
(……待て)
また一本。冷気の中を切り裂いて飛来した刃を、カイトの剣が弾き落とす。
(今、俺はこのナイフをどう防いだ?)
見て、考えて、剣を振った──わけではない。
そもそも今のカイトは、ラシャードが次に何をしてくるのかを考えていた。飛んでくるナイフなど意識の端にすら置いていなかった。だが──体は動いた。
(……そうか)
脳裏に蘇るのは、ここ数週間、嫌というほど繰り返した訓練。
合図を聞いてからでは遅い。
考えてから魔術を使うのでは遅い。
必要になった瞬間には、既に身体が動いていなければならない。
(違う。何をしてくるかなんて、考える必要がない。
膝をついたまま、カイトの動きが止まる。周囲を覆う冷気は一層強くなり、髪の先すら凍り始めていた。そして、一瞬の静寂の後。ラシャードが再度攻撃を仕掛ける。四方からナイフがカイトを囲みこんだ。そして──。
「感謝する」
「なッ──!?」
「認めるよ、俺は──弱い。でも──」
凍ったのはナイフだけではなかった。とどめを刺さんと背後から襲いかかっていたラシャードの、その腕。握られたナイフの切っ先から浸食する氷が、ラシャードそのものをも絡め取っている。
「この勝負は、俺の勝ちだ」
カイトの勝利宣言とともに、ラシャードの体が完全に氷へと包まれる。残ったのは、氷像と化したラシャードと満身創痍のカイトだけだった。