生きるのに向いてないぼくは地の文になりました 作:あさはかな
「つまり、今私と話してるあなたの正体は銃弾で、意思を持ってその身体に取り憑いたって言いたいわけ?」
気付くとぼくはぼくの部屋にいて、目の前には先程の黒いパーカーに紺色のスカートを履いた少女が座卓を挟んで向かいに座っていた。
少女はこちらを忌々しげに睨んでいて、ぼくの目をじっと見ながらそう語った。毛先が僅かに濡れており、年端もゆかない高校生ぐらいの少女がそこにいて、鋭く見せようとしている瞳の奥は、想定外の事態に対する年相応の怯えと混乱が隠しきれずに揺らいでいるように見える。
人付き合いのない六畳間のぼくの部屋に、そんな年若い少女がいる事自体が異常なのだが、そんな彼女が発した言葉はそれ以上の内容だった。
銃弾? 取り憑く? 何の事だろうと疑問を口にしようとしたところ、ぼくの口はぼくの意識より先に動いた。
「そうなるな。俺が銃弾だった事、それに----」
そう言ってぼくの右腕はこめかみのあたりを指差す。
「この傷を塞いだのも俺がやった。」
そこは、ぼくが拳銃を押し当てたところだった。やや抉れている感触が指先に伝わり、傷口と思われる部位には金属の手触りがあった。そこは間違いなく拳銃の弾丸が貫通したハズだった。
おそらくぼくが拳銃を撃った後に地面に倒れたのだろう。着ているセーターもチノパンも泥だらけでビショビショだ。あれは夢ではなく現実の出来事だったと改めて確信できる。
だが、しかし、ぽっかりと空いたハズの致命的な穴は金属質の何かで滑らかに覆い隠されていた。まるで、ぼくの肉体にそこだけ機械の部品がスッポリと嵌め込まれているようだった。
「そんなオカルト、信じられないわよッ!」
少女は強い口調で否定する。確かにそうだ。頭に撃ち込まれた銃弾が意思を持って形を変え、傷口を丸々塞ぐなんてファンタジーの出来事でしかない。けれど実際、ぼくの意思とは関係なく身体は勝手に話を進める。
「そう言われても、俺は俺だ」
「じゃあ何?元あった人格は飛び散ったって事?」
そう口にした少女は光景を思い出したのだろう。顔をしかめた。
「そうなるな。俺はこの身体の持ち主の記憶を殆ど思い出せない。頭じゃなく、心臓でも撃ち抜いていれば話は変わったかもしれない」
その発想は無かった。そうか、死ぬなら心臓でも良かったのか。最期までミスしたんだな、とぼくは自嘲する。
「で、嬢ちゃんはどうやって俺を手に入れたんだ?」
「……何よ。そっちは憶えてるんじゃなかったの?」
このデタラメな事態に頭を悩ませていたからか、ワンテンポ遅れて少女は返す。
「いいや。俺が知ってるのは自分が銃弾にされた事だけ。大体、嬢ちゃんみたいなのが拳銃を持ってる事自体おかしな話なんだろう?」
この身体の常識がそう言ってる、と目を細めて問いかける。
数秒、悩んで少女は口を開いた。
「……コバルト」
「うん?」
「私の名前よ。あなたに嬢ちゃんって呼ばれたくない」
「そうか、俺はシルヴァレッタだ」
「あなたの名前は聞いて……いや、どっち!?」
残念ながらぼくはそんな小洒落た名前ではない……あれ? そう言えばぼくの名前はなんだっけ? 唐突に湧いた疑問だが、そんな些細な事はお構いなしに話は進んでいく。
「俺の名だよ。言っておくが俺が知ってるのはこれで全部だ」
ぼくのことは殆ど思い出せないと先ほど口にしていたし、ぼくもぼくの名前を思い出せない。なので本当なのだろう。
ぼくの身体--シルヴァレッタと呼ぼう--は身体を起こして冷蔵庫に向かう。中からぼくのお気に入りのみかんレモン水のペットボトルを2本取り出し、1本を少女--コバルト--に渡す。
「何よこれ」
「この身体のお気に入りらしい。冷蔵庫に山積みになってた」
「そう……」
「何なら、これしか入ってなかった」
「ええ……」
コバルトはドン引きした。他に楽しみはなかったのである、ぼく。
「……毒は入ってないわね」
口をつけたコバルトはそう言った。
「分かるのか?」
「まあね。私、暗殺者だから」
なるほど、だから拳銃持ってたんだ。ぼくは納得した。
「暗殺者か……。なら俺を手に入れたのは依頼されたからか」
「そう!それ!聞いてくれる?」
コバルトの話によると、件の銃弾は依頼で手にしたもので、どうやら誰でも良いからそれで人を殺せ、という内容だったらしい。
なんだ、ならちょうど良かった。死んでもいい人間が自分から死んでくれたんだから。そんなくだらない事をぼくが考えていると、シルヴァレッタは口を開いた。
「……その依頼人に会えないか?」
シルヴァレッタはそう提案した。