生きるのに向いてないぼくは地の文になりました 作:あさはかな
ソラハ一号、二号、三号。そう名付けられた三名の少女たちは、生まれながらにして美しくあることを宿命づけられていた。
彼女たちのルーツは、かつて存在したオリジナルである「ソラハ」という一人の少女にある。非合法の研究組織『RGB』は、その美貌を持つソラハの遺伝子解析に成功し、クローン技術を用いて彼女たちをこの世に誕生させた。
本来であれば、彼女たちの人生は悲劇に彩られるようなものではなかった。
オリジナルのソラハがあらかじめ短命になるようデザインされていたのに対し、彼女たちにはその欠陥は設定せず、一般的な生命と同じ寿命を与えていた。恵まれた容姿と健全な肉体を持ち、光の当たる場所で愛され、慈しまれ、順風満帆な人生を過ごせるはずだった。
彼女たちの初期計画では、そのようなモデルケースとして世界に羽ばたくことが期待されていた。
しかし、運命の歯車は無情にも狂い出す。
組織の在り方が、時間と共に醜く歪んでいったからだ。
かつては人類の未来や生命の神秘を探求するという高尚な目的に邁進していたRGBも、他の裏社会の組織の例に漏れず、いつしか、どす黒い金銭欲と権力欲に塗れていった。
誰がどれだけの収益を組織にもたらしたか、利益に貢献したか。
それだけでしか、人間の価値を評価できなくなってしまっていた。
その腐敗しきった組織の論理の中で、一つの決定が下された。
神経系に直接作用し、対象に想像を絶する苦痛を与える拷問器具を作成して、組織に多大な貢献を果たした一人の男がいた。彼の功績に対する報酬として──
あろうことか、三人の少女たちを彼に与えることになった。
彼女たちの自我や尊厳など、誰一人として顧みる者はいなかった。ただの美しい所有物として、彼女たちの人生が暴力と支配、そして終わりのない恥辱にまみれることが、冷酷な会議の場で決定づけられてしまった。
──それから十八年。
安全な場所などどこにもない、地獄のような日々を三人は過ごした。
◆
そして今、一号こと「イチゴ」は、迫害同盟の保護施設の一室にあるベッドの上で、覚醒している間中はずっと、終わりのない地獄の底で苦しみもがく毎日を過ごしていた。
「ああ、ああああ……ッ!」
イチゴは頭を掻きむしり、シーツを固く握りしめて悲鳴を上げた。
安全な環境を与えられ、長年張り詰めていた緊張の糸が切れたことで、抑圧されていた過去のトラウマが一気に噴出したのだ。
重度のPTSDの発症。
鳴り止まない甲高い耳鳴りが脳髄を直接突き刺し、どこからともなく彼女を罵倒し、嘲笑い、脅迫する男の幻聴が絶え間なく聞こえてくる。目を閉じれば、暗闇の中におぞましい記憶のフラッシュバックが鮮明に浮かび上がり、目を開ければ、自分の皮膚の下を無数のウジ虫が這いずり回る、耐え難い不快な幻覚に襲われる。
生きているという実感。
呼吸をしていること。
肌に何かが触れること。
その全てが彼女の敵に回ってしまい、彼女の精神を少しずつ、しかし確実に削り取っていた。
ああ、早く、早く、クロガネに来て欲しい。
イチゴは毛布にくるまりながら、ただひたすらに、それだけを願わずにはいられなかった。
あの、色の濃いサングラスをかけた精神科医の男。彼と至近距離で目を合わせるだけで、意識は強制的に遮断され、深い睡眠の底へと落ちていくことができる。その能力だけが、今のイチゴにとって唯一の救いであり、この耐え難い苦しみから解放されるための甘美な逃避行だった。
起きている事が一秒たりとも耐えられない
カラダだってなんだって捧げる
だから、どうか、早くあの黒い瞳を見せて、私を暗闇へと連れ去って欲しい。
──同じ部屋の片隅に置かれたもう一つのベッドでは、三号こと「サンゴ」が、まるで彫像のように身動き一つとれない状態で座り込んでいた。
「……、…………」
彼女の唇は微かに震えているものの、言葉は一切発せられない。焦点の定まらない虚ろな瞳は、部屋の壁の模様を見つめているようでいて……実際には何も見てはいなかった。
外からその様子を見ただけでは、ただ静かに黙って考え事をしているようにしか見えない。
しかし、彼女の内部で吹き荒れる嵐、味わっている苦痛の質においては、のたうち回っているイチゴ以上と言えた。彼女の思考は、過去十八年間にわたって刻み込まれた虐待や日常的に繰り返された性的暴行の記憶によって完全に塗りつぶされていた。
脳裏には一斉に、これまでの地獄のような苦痛の記憶が時系列も因果関係も無視して濁流のように押し寄せている。脳が処理しきれないほどの圧倒的な情報量と恐怖に晒され、精神が防衛反応として完全に機能不全に陥ってしまったのだ。
いわゆる「凍りつき反応」
彼女は今、安全な施設にいながらにして、男の足音に怯えていたあの瞬間に閉じ込められ続けているのだった。
そんな絶望的な空気が支配する二人を安置している部屋の扉が──
静かに開かれた。
「ど、どうも」
おずおずとした、しかしどこか芯のある声とともに部屋に来訪したのは、一人の少女だった。暗殺者として育てられ、裏社会を生き抜いてきた少女、コバルトだ。
クロガネから「彼女たちを励ましてやってほしい」と頼まれ、覚悟を決めてやってきたコバルトだったが、部屋に入った瞬間、伝え聞いていたよりも遥かに酷い惨状を目の当たりにし、思わず絶句してしまった。
血の滲むような悲鳴を上げて暴れるイチゴと、完全に外界との接触を断ってしまったサンゴ。医療の専門家でもない自分に、一体何ができるというのか。
しかし、コバルトの目は死んでいなかった。かつて人の命を奪うことしか考えられなかった彼女の瞳には今、この二人を何としても救い出すのだという、強い気概と覚悟が満ち溢れていた。
「誰よ、アンタ……」
乱れた髪の隙間から、イチゴが血走った目でコバルトを睨みつけた。イチゴの目には、コバルトの姿がひどく残酷なものに映っていたからだ。
コバルトの顔は、自分たちと同じ「ソラハ」をモデルにしているからこそ、瓜二つと言っていいほど似通っている。
自分たちを幼くしたようなその姿。しかし、その顔には自分たちのような絶望の影はなく、五体満足で、自由な意志を持ち、健康的な生気を放っていた。その事実が、イチゴの神経を逆撫でした。
「私はコバルト。……ねえ、話を聞かせてくれないかしら?」
コバルトは可能な限り声を潜め、警戒心を解くように優しく、ゆっくりと言葉をかけた。しかし、その気遣いこそが、イチゴにとっては耐え難いものだった。自分は今まさに地獄の業火に焼かれているというのに、同じ顔をしたこの少女は、安全圏から余裕のある態度で手を差し伸べてくる。その圧倒的な立場の違いに、無性に腹が立った。
「何なんだよアンタはッ!」
イチゴはベッドから身を乗り出し、喉が張り裂けんばかりの声で叫んだ。
「わたしたちと同じ顔のくせに、どうしてそんな幸せそうにしていられる!? わたしたちとアンタで、一体何が違うってんだよ! なんでアンタだけが、そんな普通の顔をして立ってられるんだ!」
イチゴの暴言は、刃のようにコバルトに突き刺さった。しかし、コバルトは表情一つ変えることなく、その場に立ち尽くし、じっと耐えた。
それが、イチゴの置かれた過酷な境遇から来る、行き場のない怒りの発露だという知識があったからだけではない。コバルトは、自分がここで彼女の怒りを真正面から受け止め、耐えなければならない運命にあるという事を、魂の奥底で理解していたからだ。
「わたしたちはな! 物心ついた頃から自由なんて一日だってなかった! 痛いと言って泣き叫んでも、誰も止めてくれなかった! 男たちの言う『可愛い』って言葉が、何よりも、何よりも気持ち悪かった! ……解るか!? それが、わたしたちの人生の全てだったんだよ!」
イチゴの叫びは、もはや要領を得ていなかった。ただひたすらに、己の内に溜まりに溜まった不満、怨嗟、理不尽への怒りを撒き散らしたいというだけの、稚拙で、しかし血を吐くような魂の叫びだった。
その言葉の一つ一つが、コバルトの胸に重く、冷たくのしかかった。
泣けるのなら今すぐ一緒に泣いてしまいたかった。その理不尽な悲しみを共有し、抱きしめてやりたかった。
しかし、コバルトは奥歯を噛み締め、涙を堪えて耐えた。
今、自分が彼女の前で泣いて同情を示すことは、何の救いにもならない。
──耐えるべきだと思ったのだ。
自分が今ここにいる理由は、ただ一緒に悲しむためではない。彼女たちを過去の泥沼から引き上げ、未来へと向かせるための言葉を紡ぐためだ。だからこそ、どれだけ罵倒されようと、決して怯むことなく毅然としていなければならない。
「何とか言えよ、おい! 偉そうに見下してないで、言ってみろぉぉぉ……ッ! ゴホッ、ゴホッ!」
最後にひとしきり叫び散らしたイチゴは、突然激しくむせ返り、ベッドの上に崩れ落ちた。ここ最近、極度の無気力状態で運動を一切しておらず、食事も点滴に頼りきりの生活だったため、彼女の肉体はすでに限界を迎えていた。体力を使い果たし、激しい咳き込みが止まらなくなる。
咳き込み続け肩を震わせるイチゴの元へ、コバルトは静かに、そっと近づいた。そして、シーツを握りしめているイチゴの痩せ細った手を、自らの両手で優しく、しかし力強く包み込んだ。
イチゴが驚いて顔を上げるのを待って、コバルトはポツリと語り始めた。
「私ね、孤児だったの。物心ついた時から、冷たいコンクリートの施設にいたわ」
その声は、どこまでも澄んでいて、凪いだ海のように優しかった。
「その施設は、『ジュエル』っていう暗殺者を育てるための、実力主義の塊のような場所だった。そこには、味方なんて一人もいなかった。子供たちはみんな生き残るために必死で、蹴落とし合って。……私はずっと、一人だったの」
コバルトは、自身の過酷な過去を、まるで遠い異国の昔話でもするように静かに語った。
「誰にも負けない。絶対に、一番で居続ける。それが私という人間の存在意義だった。周りの子供は全て敵だと思ってたわ。……ううん、そう思わないと、あの地獄のような環境では生きていけなかったんだと思う」
コバルトは、自身の才能を早くから自覚していた。生き延びるために感情を殺し、成果を出し続けた。彼女が所属していた二期生の中で中間の年齢層にいながら、年上のマラカイトやクロム、そして規格外の怪力を持つラピスラズリを差し置いて、実技トップの座に君臨したのは、その強烈な孤独感と生存本能によるものだった。
「でもね……ある日、そんな私たちの前に、一人の少女が現れたの」
コバルトの瞳に、優しい光が灯った。
「その子は『シナバー』っていうんだけど、とってもマセた子でね。年下のくせにいっつも生意気な事を口にしてた……でも、どれも癪に障るくらい正論だったから、誰も彼女に反論できなかった」
思い出を語るコバルトの口調は、どこか親しげで、それでいて失われた宝物を慈しむような、温かい響きを持っていた。イチゴは咳を落ち着かせ、いつの間にかコバルトの言葉に引き込まれるように耳を傾けていた。
「それでね、ある年の十一月三十日に、シナバーが突然こんな事を言ったの」
コバルトは、当時の光景を思い浮かべるように目を細めた。
「『十二月一日にボクがこの施設に来たんだから、みんなの誕生日もそれにしよう。明日は、みんなで姉妹パーティだ!』ってね。……その時、私は雷に打たれたような衝撃を受けたわ」
コバルトは、イチゴの手を握ったまま、自分の胸にもう片方の手を当てて、その時の込み上げるような喜びを表現した。
「『姉妹』……その言葉に、私は深く胸を打たれたの。敵同士だと思っていた私たちが、家族になれるかもしれない。孤独じゃなくなるかもしれない……多分、あの場にいたみんなも、同じ気持ちだったと思う」
血の繋がりなどなくとも、同じ運命を共有し、互いを思いやることができる存在。コバルトにとって、それは暗闇の中に差し込んだ一筋の希望の光だった。
コバルトは、まっすぐにイチゴの目を見つめ返した。
「ねえ、イチゴ。……姉妹って、家族って良いわよね?」
その純粋な問いかけが、イチゴの心の奥底にあった、分厚い氷の壁をピシリとひび割れさせた。
「あ……」
イチゴの虚ろだった瞳に、微かな光が灯る。
怒りと絶望で狭まっていた視界が、パッと開けていくのを感じた。
自分の人生は、確かに暴力と支配に塗れた地獄だった。
けれど、その地獄の中で、自分は決して一人ではなかった。
右を見ればサンゴがいて、左を見ればニゴがいた。苦しみに耐えかねて泣き叫ぶ夜、互いの手を握り合い、体温を寄せ合って生き延びてきた。彼女たちがいたからこそ、今日まで精神を崩壊させることなく、ギリギリのところで生きてこられたのだ。
イチゴはハッと息を呑み、視線を部屋中に巡らせた。部屋の隅には、未だに過去の恐怖に囚われ、固まって動かないサンゴの姿があった。
「……なあ、コバルト」
イチゴの声は、先ほどまでの刺々しさを失い、切実な懇願へと変わっていた。
「お願いだ。……わたしを、サンゴのところまで連れてってくれ!」
「ええ、もちろん」
コバルトは優しく微笑み、快諾した。そして、衰弱しきって自力では一歩も動けないイチゴの脇に体を潜り込ませ、しっかりと肩を貸した。コバルトの体温と、力強い歩みに補助されながら、イチゴは一歩、また一歩と、サンゴの元へと歩みを進めた。
部屋の隅で膝を抱え、石のように硬直しているサンゴの前に辿り着くイチゴ。
「なあ、サンゴ。わたし、気づいたよ」
イチゴは、震える声でサンゴに語りかけた。
「…………」
しかし、サンゴは反応しない。脳の処理が追いつかず、外界の音が彼女の意識に届いていないのだ。
それでも、イチゴは諦めなかった。サンゴの冷え切った両手を自分の手で包み込み、耳元で、はっきりと、魂を込めて囁いた。
「わたしには、サンゴとニゴっていう、姉妹がいるんだって。どんなに辛くて、苦しい地獄の中でも、ずっと一緒だった姉妹がいるんだって。何があっても代わりのきかない、かけがえのない家族が、ここにいるんだって」
その言葉は、十八年間の地獄を共に生き抜いてきた者同士にしか響かない、特別な波長を持っていた。
「……、あ」
サンゴの虚ろな瞳が、わずかに瞬いた。閉ざされていた彼女の意識の殻が、イチゴの温かい言葉によって、内側からそっとノックされたのだ。
「だからさ、サンゴ」
イチゴは、涙で視界を滲ませながら、最高の笑顔を作って言った。
「これからも一緒にいよう。姉妹みんなで、ずっと一緒に」
そう言って、イチゴはサンゴの手を強く、強く握りしめた。
「……イチゴ?」
サンゴの瞳に、ついに明確な光が灯った。
過去の幻影から引き剥がされ、安全な部屋にいるイチゴの姿を、その目がしっかりと捉えた瞬間だった。サンゴの目から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「イチゴ……っ、あ、ああ……っ!」
サンゴがイチゴの体にすがりつき、声を上げて泣き始めた。イチゴもまた、サンゴの背中を抱きしめ、声を上げて泣いた。
その時、バタンと部屋の扉が開き、一人の少女が駆け込んでくる。
ソラハ二号──ニゴだった。
彼女は扉の外で、コバルトとイチゴのやり取りをずっと聞いていたのだろう。涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、抱き合う二人に駆け寄った。
イチゴは、そんなニゴに向けて、力強く、はっきりとした声で宣言した。
「ニゴ、生きよう。わたしたち、三人で……生きていこう」
それは、過去の絶望との決別であり、未来への宣誓だった。
「イチゴ、サンゴ……ッ!」
ニゴは堰を切ったように泣き叫び、そして、三人は固く抱き合い、部屋中に響き渡る声で、ただひたすらに号泣した。それは、過去の悲しみを洗い流し新たな絆を確かめ合うための、浄化の涙だった。
コバルトは、その美しい姉妹の抱擁を、温かい眼差しで静かに見守っていた。
◆
「人間の脳には、『ミラーニューロン』という機能が備わっています」
ところ変わって、保護施設の広いホール。
ステンドグラスから差し込む光を見つめ、クロガネは「何故コバルトを呼んだか」その理由を説明する。
「自分と似たような姿、あるいは似たような境遇の者の行動や感情を見て、それをまるで自分自身のことであるかのように深く理解し、共鳴する機能です。……正直なところ、一歩間違えれば彼女たちのトラウマを悪化させかねない、危険な賭けではありました。ですが、私はコバルトさんの持つ『人徳』と、彼女の『経験』に託したいと思ったのです」
クロガネの顔には、専門家でありながら自らの手で彼女たちを救いきれなかったことへの、深い悔恨の念が浮かんでいた。
「コバルトさんも、決して良い環境で育ったわけではありません。過酷な暗殺組織の中で、生きるか死ぬかの境遇に置かれていました。ですが、彼女はその地獄を抜け出し、今のような優しく、気高いパーソナリティを獲得するに至った。そのプロセスをコバルトさんが彼女たちに身をもって示すことができれば、もしかしたら……閉ざされた心に、良い影響を与えてくれるのではないか。そう思ったのです」
クロガネは、言い訳をするように、自らの不甲斐なさにぎりっと唇を強く噛み締めながら説明した。自分の言葉ではもう、彼女たちの心には響かない。彼女たちと同じように地獄を知り、それでも光を見出した少女の言葉でなければ、この呪縛は解けなかったのだと。
その言葉を聞いて、シルヴァレッタはクロガネへと優しく言葉を投げかける。
「コバルトなら大丈夫だ」
シルヴァレッタは、何の迷いもない、確信に満ちた強い口調で信頼を口にした。
「彼女は……あの子は優しくて、賢い。他人の感情の機微を深く理解し、『何をすべきか』ではなく、その人にとって『何が良いか』を自分の頭で考え、心で寄り添える、聡い子だ。きっとあの子なら、三つ子の前を塞いでいる絶望の道を切り開いてくれる」
シルヴァレッタは、誇らしげにそう語った。そして、力強い手でクロガネの肩をポンと叩いた。
「コバルトは、彼女たちの心を未来へと向けてくれるだろう。だからクロガネ、ここから先の心のケアと、社会への復帰の手助けは、専門家であるお前の出番だ。……任せたぞ」
シルヴァレッタの真っ直ぐな激励に、クロガネは目を見開き、やがて憑き物が落ちたように穏やかな微笑みを浮かべた。
「……ええ。お任せください。シルヴァレッタさん」
クロガネは、深く、静かに頷き、力強く答えた。
窓の外では
長く厳しい冬が終わりを告げようとしていた
山々の頂を覆っていた冷たい雪は
暖かな春の陽射しを浴びてゆっくりと溶け出し
幾筋もの清らかな水となって大地を潤していく
かつて凍りついていた少女たちの時間もまた
その雪解け水のように少しずつ、少しずつ
確かな温もりを伴って
再び流れ始めていくのだろう──