生きるのに向いてないぼくは地の文になりました 作:あさはかな
「久しぶりね。まずは仕事の話をしましょうか。おとなしく後ろにいる弾丸を置いていってくれれば、可愛い後輩の命までは取らないであげるから」
コバルトが姉と呼んだモデル体型の女性、マラカイト。彼女の手には、この平和な国に住んでいればおよそ似つかわしくない、凶悪な大口径の拳銃が握られている。
「……弾丸って何の話かしら」
コバルトはすっとぼける。でも、確かにそうだ。弾丸というなら普通は拳銃の弾なんかを指す言葉だ。けれど先程の狙撃の狙いは確かにシルヴァレッタを狙っている。どうして彼女はシルヴァレッタを狙ったのだろう。
「とぼけても無駄よ。昨日の夜その男が自分で頭を撃ち抜いていたでしょう?」
その後動き出したのにはわたしもたまげたわ、と彼女はポツリと洩らす。
「……ずっと私を見張ってたの」
「そういう依頼だったからね。貴女が撃ち込んだ弾丸を回収するって」
「……ッ!そうやって!また私に情けをかけたの!?」
コバルトは激昂する。確かにそうだ。コバルトが撃ち込むのを待つ、だなんて手間をかけなくたって彼女自身を先に狙撃してしまえは弾丸の回収は容易だったハズだ。そう考えると、コバルトのプライドを逆撫でしており彼女が怒りに燃えるのは当然の帰結だ。
「ちがうちがう。そういう依頼だったのよ」
「そんなわけないでしょ!」
「……これはクールダウンが必要ね。ねえ、そこの冴えない貴方」
そう言って今度はシルヴァレッタに話しかける。
「聞こえた限りの話だけど、今の貴方は弾丸そのものなんでしょ?」
「ああ、そうだ」
「弾丸を取り外したら死ぬのかしら?」
「おそらく」
その言葉を聞いてコバルトは目を見開いてコチラを見る。その返答を聞いて長身の女性--マラカイト--は微笑む。
「ね、聞こえたでしょコバちゃん。この男は既に死んでいる。だから気に病むことはないわ。大人しく渡してちょうだい」
「……断るわ」
数秒の葛藤の後、コバルトは震える声を必死に押し殺して言い放った。
「私の依頼はまだ終わってない。だって、だって……ッ!」
まるで駄々をこねる幼児のように頭をブンブンと振りながら、否定を口にする。その様子をマラカイトは微笑みながらゆっくりと見守っていた。
「ふふっ。だって。……なぁに?」
「だって!」
コバルトは叫んだ。
「まだ私は撃ってない!」
その言葉にマラカイトとシルヴァレッタはポカンと呆気に取られた。
なるほど確かに。ぼくが撃ったな。一理ある。
「依頼は!私が撃てって話だった!私は撃ってない!だからマラカイト姉さんの依頼は始まってすらいない!」
ソリティアが横行しているカードゲームの複雑なルールのような言い分を口にするコバルト。けれどその言い分は決して間違っていない。
「な、何言ってるの貴女?」
「姉さんはタイミングを逃した!」
「本当に何!?」
マラカイトは呆れたように息を吐くと、凶悪な銃口を滑らかな動作でコバルトたちへと向けた。
「意地を張らないで、コバちゃん。私の仕事は単純なの。彼の頭に埋まっているソレを、ちょこっと取り出したいだけ。腕は鈍ってないわ、痛みなんて感じる間もなく一瞬で終わらせてあげるから」
「……姉さんがそのつもりなら」
コバルトはキッとマラカイトを睨み、シルヴァレッタの前に立つ。
「コイツの価値がそれほどあるんだったら、きっと姉さんの身だって危なくなる。得体の知れない組織の片棒を姉さんに担がせるわけにはいかない!」
「組織?何を言っているの、ただの証拠隠--」
「二人の生命は私が救う!」
「あーダメねこれ」
D.O.Eか、はたまた別の組織がシルヴァレッタというファンタジーな存在に価値を見出している。愚鈍なぼくには想像もつかないが、不老不死といった夢物語も叶えてくれる存在なんだろう。その黒い思惑にマラカイトは気付かずに利用されている。それを止めたいと思うコバルトは、きっと正しい。
二人の譲れぬ思いが激突する。