環状世界短編集 作:王新
「陛下、流石に次要求するレベルを下げるべきでしょう。」
王宮の廊下にて、側近が
「なぜだ?」
「現状、国王陛下のお力により王国は安定的な統治を行えています。しかし、近年カルディア王国とヴァレンシア共和国の間に亀裂が入っています。」
「そんなもの以前からそうだろう。そもそも宰相を募集している理由はなんだと心得る?」
「それは....陛下の負担を分散するためではないのですか?」
ウエルダ3世は思い出したかのような顔をしながら話す。
「...そういえば貴君には言っていなかったか。宰相を募集するさらなる理由を。」
「....理由....ですか?」
「あぁ。」
「私の負担を分散させる。確かにそれは正しい。だがそんなもの二の次だ。」
「君は私のことをどう思っている?」
「えっ....先代国王の優秀な血を引く...」
「そんなご機嫌取りと世辞はいらん。本心を話せ。」
側近は少し考え込み、少し短絡的な答えを離す。
「...言うなれば優秀で聡明なお方だと思っています。」
「そうか。だからか。」
彼は納得した。
「私が宰相を募集する理由がわからない理由を理解したよ。」
「...私が理由を理解できないのは何故ですか?」
「簡単な話だ。君は私だけでこの国を統治できると思っているから。」
「だが実際は違う。私には未来のビジョンが見えない。何か導いてくれる存在が必要なのだよ。」
「なるほど...だから妥協は行えないと。」
「理解が早くて助かるよ。」
「でもそんな人、本当に出てくるんですか?」
「いずれ出てくるさ。それが今か、数十年後か、はたまた私の死後かはわからないけどね。」
北歴3159年11日9日。その日は突然現れた。誰かが彼の執務室をノックする。
「入れ。」
「失礼します。」
「何の用だ?」
「宰相を希望する者が外に居ます。」
「そうか、客人用の部屋へ案内しろ。」
「承知しました、陛下。」
ウエルダ3世は宰相希望者が居る部屋へ向かう。
(今度はどんな人間が現れるのだろうか。)
(私の期待に答えてくれるものだろうか?)
ウエルダ3世はドアを開く。
「...君が....宰相希望者だね?」
「お目にかかれて光栄でございます。国王陛下。」
「えぇ、その通り。私が宰相を希望する者でございます。」
(なんということだ。私と同年代ではないか。)
「貴殿の名は?」
「カール・ノワール・ポムソンと申します。」
「ポムソンというのだな。齢は?」
「3142年生まれの17歳です。」
(私より1歳年下....面白そうだ。)
「ポムソンよ。君が宰相に就任してまで行いこととはなんだ?」
「世界征服でございます。」
ウエルダ3世は失望する。世界征服などただの戯言だ。幾度となく世界中の英雄たちが世界統一を目指した。
しかし偉大なるハーンにより建国されたダムール帝国も、
世界を経済で支配したイクシス合衆国も、
レフタ大陸を支配し字の通り世界中と戦闘したカラマンス帝国も、
無限大に思える国力や魅力を持つ国々であってもそれは叶わなかった。
「君は歴史を何と心得る?
有史以来、数え切れぬほどの英雄が跋扈した。
しかし世界を征服した者は一人としていなかったではないか」
「お言葉ですが、実例がございます」
ウエルダは眉を上げる。
「どこに?」
「
「世界はGAMAと呼ばれる巨大な企業の群れによって支配されていたと聞きます」
確かにそれは事実だった。科学文明の黄金時代期にはあらゆる企業が生活必需物資や娯楽を供給した。その力は次第に膨れ上がり、国家と対等以上に渡り合うまで成長した。
「しかし私は王で、ここは国家だ。企業ではない」
「何の違いがありましょう。
人々の生活の奥深くへと入り込み、それなくしては生活でき得ぬほどの関係を築く。
国であれ企業であれ理想とするのは同じこと」
「GAMAを真似れば世界征服ができるとでもいうつもりか?」
「ええ。十分に可能です」
「しかし、GAMAは突如として娯楽を供給することが不可能になり廃れた。GAMAを目指すなら我々もそのような末路になる。」
「それは国家連合やそれを恐れる国家により引き起こされたものです。我々が世界を統一すれば対抗できるものなど存在することが出来ません。」
「GAMAが人々に与えただけのものを、与えられるのか?
黄金技術の欠片も持たない我が国が?」
「なければ奪うまで」
「それでは今、各国がやっていることと同じだろう?結局は同じだ。」
「各国の持つ技術などたかが知れております。
しかしそれらを結集し、掛け合わせたとき、その技術は黄金時代に匹敵するものとなるでしょう。
「人々は、我々の提供する素晴らしい技術から、逃れられなくなりますよ」
「黄金時代末期の天昌と同じように。」
「そのための世界征服か」
「そうです。先に述べた世界征服は、手段に過ぎません。
千年に及ぶ戦乱を清算し、再び科学文明の黄金時代を地上にもたらすための。」
ウエルダ3世は内心では興奮していた。今までは期待に答えられる者や将来を導く者さえも来なかった。
しかし目の前の男はどうだろうか。世界征服さえも過程と発言する。
「面白い提案だ。衣装は私が用意しよう。」
「今日はもう帰って風呂に入れ。明日、またこの王宮に来い。」
「つまり、私は認められたということでいいのでしょうか?」
「そう思って構わないさ。」
世界を統一する。それは今までどんな国家も為し得なかった、非現実的な行為。
しかし、彼となら出来る気がする。
それは決してただのいっときの気や杞憂でも無い。ましてや恋なんかでもない。
心の底から湧き上がる自信は確実に彼の事を捉えていた。
それはポムソンが王宮から去った数時間後でも同様。
彼の計画は非常に面白い。その計画に興奮しすぎて、もう夜中だというのにウエルダ3世は少したりとも眠気を感じていない。
「今日は一睡もできそうにないな。」
ウエルダ3世はボソッとつぶやいた。