―――遊郭で上弦の陸を討伐してから俺は竈門少年に日の呼吸の稽古をつけた。始めは呼吸するだけで精一杯だったがその内慣れてきた。それからひとつずつ12の型を教えた。竈門少年は学習能力が高かった。ひとつ披露した型をほぼ完全に再現した。遺伝なのだろうか初めて見たにしては華麗に型を再現した。まるで体が覚えているように。約2ヶ月が経った。俺の12の型も覚えた。課題は連続で繰り出せるかどうかだった。始めから終わりまで、鬼が再生する間も与えず技を出さなければ意味がない。竈門少年には悪いが徹底的にしごいた。竈門少年は体が覚えている。ならばそれが出来るまで真剣で俺に立ち向かわせた。そして―――刀が折れた。
炭治郎「あっ⁉ ああ…⁉ しまった…⁉ 鋼鐵塚さんに怒られる…⁉」
バージル「鋼鐵塚? 奴なら俺の日輪刀がもし折れたらまた作ってくれると言っていたぞ。」
炭治郎「えっ⁉ そうなんですか⁉ 随分態度が違いますね…⁉ でもそれはバージルさんが凄腕の剣士だからじゃないですか?」
バージル「俺の愛弟子が俺との訓練中に刀が折れたと口添えしてやろうか? あいつも納得するだろう。」
炭治郎「ぜひお願いします⁉ はあぁー良かった⁉ あの人怒ると物凄いんですよ⁉」
バージル「そうなのか…俺の時は技を披露して涙を流して喜んで帰っていったが…。」
炭治郎「バージルさんが披露した技を見せていただいてもいいですか⁉」
バージル「いいだろう。」
それから閻魔刀で使用できるスキルを日輪刀で再現した。
炭治郎「凄い…⁉ 凄いです…⁉ 飛ぶ斬撃も凄いですけど、最後の広範囲の高速斬撃は何ですか⁉ 人間技とは思えませんよ⁉」
バージル「あれは…俺が鬼殺隊に入る前から使用していた秘奥義だ。俺は半分悪魔の血を引いているから使える。いくら呼吸を極めてもただの人間には使えまい。」
炭治郎「確か…バージルさんのお父さんが悪魔でしたよね? どんな御方だったんですか?」
バージル「感情表現に乏しい男だったのは覚えてる。そして…とにかく強かった。俺も幼いながら親父の強さに憧れた。そして誓った、『いつか親父…スパーダを超えてみせる』と。」
炭治郎「今のバージルさんではどうですか?」
バージル「わからん。子供の頃の俺たちでは到底親父を本気にさせることなど不可能だった上に親父が本気で戦ったのは魔帝と悪魔の軍勢をたったひとりで返り討ちにしたというお伽話くらいしか知らん。俺もかつて魔帝に挑んだが惨敗だった。あの時に比べれば成長したがそれでも親父に追いつけたかは確かめようがない。魔帝は弟が魔界の深淵に封印してしまったしな。」
炭治郎「えっ⁉ 魔界の帝王を弟さんが封印しちゃったんですか⁉ 弟さんも物凄く強いんですね…⁉」
バージル「俺も魔帝に操られて弟と戦ったが負けた。忌々しいが力を認めざるを得なかった。」
それから『俺の愛弟子、竈門炭治郎の日輪刀が折れてしまったので鍛えてやってほしい。』とグリフォンに刀鍛冶の里へ言伝を頼んだ。それから1週間後、竈門少年は刀鍛冶の里へ旅立つこととなった。
バージル「鋼鐵塚に会ったらよろしく言っておいてくれ。お前の鍛えてくれた日輪刀は立派に鬼狩りの役に立っていると。」
炭治郎「わかりました! バージルさんにはお世話になりました! ありがとうございました!」
隠に背負われた竈門少年が元気に別れを告げる。その表情に僅かな陰りが見える。死相には程遠いが嫌な予感がした。秘匿されているはずの里が鬼に所在がバレてしまったのだろうか。上弦が出没する可能性を考えて戦う心構えはいつでもしておいた。
更に1週間後の深夜、強力な鬼の気配を感知した。しかもふたつ。本来ならばこの移動法は御法度だろうが緊急なので許してほしいとお館様に内心で詫びた。寝室で日輪刀を振り異空間を開く。目の前に広がるは温泉地。迷わずくぐった。至るところに雑魚鬼の気配がする。エアトリックを駆使して片っ端から両断した。里は静かになったが…外れの方に強力な鬼の気配はまだある。そして…覚えのある気配…これは…無一郎か…かなり危険な状態と見た。全力で走る。目を凝らす。水の牢獄のようなものに閉じ込められている。ある程度接近してから無一郎に当たらぬように狙いを定めつつジャスト次元斬3連発を放ち開放する。刺さっている毒針らしきものを素早く抜く。
バージル「戦えるか?」
無一郎「はい! 俺ひとりで充分です! バージルさんはもうひとりを追ってください!」
バージル「任せたぞ。」
無一郎「はい! お任せください!」
バージル「いい返事だ。」
思わずニヤリと口角が吊り上がる。無一郎も呼応するように笑う。この調子なら大丈夫だろう。無一郎を背中に竈門少年たちがいる方向…もうひとりの上弦がいる場所へ向かった。辿り着く。竈門少年に禰豆子に…もうひとり鬼殺隊隊士らしき見覚えのない者と…ひとり…いや血鬼術の類か小僧の姿をした鬼と本体らしき小さい反応を感知した。
「弱き者をいたぶる鬼畜…不快不愉快…極まれり。極悪人どもめが。」
小僧が太鼓を鳴らすと本体らしき鬼が木の幹に包まれる。
炭治郎「待て!」
小僧のひと睨みで竈門少年たちが怯む。
「なんぞ? 貴様わしのすることに何か不満でもあるのか? のう…悪人どもめら。」
炭治郎「ど…どうして…どうして俺たちが悪人…なんだ?」
「弱き者をいたぶるからよ。のう、先ほど貴様らは手のひらに乗るような小さく弱き者を斬ろうとした。なんという極悪非道、これはもう鬼畜の所業だ。」
炭治郎「小さく…弱き者? 誰が…誰がだ。ふざけるな! お前たちのこのにおい、血のにおい!食った人間の数は百や二百じゃないだろう。その人たちがお前に何をした? その全員が命をもって償わなければならないことをしたのか! 大勢の人を殺して食っておいて被害者ぶるのはやめろ! ねじ曲がった根性だ、絶対に許さない! 悪鬼め…お前の頸は俺が斬る!」
「言うことはそれだけか? わしが食った人間どもに貴様の身内でもいたのか?」
炭治郎「いいや…⁉」
「では貴様に関係なかろう。」
炭治郎「関係あるとかないとかじゃない! そのような人を…このあと同じ思いをするような人を…俺はこれ以上出させない!」
「そいつらとも貴様は関係なかろう。」
炭治郎「人が人を助けることに何の理由がいる! そんなことも分からないお前の方こそ鬼畜だろう!」
小僧が太鼓を鳴らすと背後に控えていた樹の龍が襲い掛かる。そろそろ頃合いだろう。
バージル「Not interested in your bullshit.」(貴様の戯言なんぞどうでもいい。)
ノーモーション次元斬・絶で小僧の頸ごと5体の龍を斬り落とす。
バージル「竈門少年、ひとつ忠告しておく。鬼との問答ほど無意味なものは無いと知れ。俺も鬼舞辻無惨と少し会話したがまるで話が通じなかったぞ。鬼と人間は価値観が全く異なる。覚えておけ。」
炭治郎「はい…⁉」
小僧の頸が再生する。やはり本体は木に包まれた方のようだ。それが森の奥に移動する。
バージル「竈門少年、本体を追え。お前なら嗅覚で追えるだろう。この小僧と雑魚の龍どもは俺が相手をする。」
炭治郎「わかりました⁉ 禰豆子⁉ 玄弥⁉ 行こう⁉」
本体を追う竈門少年たちを1匹の龍が追う。次元斬で斬り落とす。
バージル「鬼舞辻無惨からまだ話は聞いてないのか? だとしたら呑気なものだ。」
「そうか…⁉ 貴様があの御方が言っていた西洋の鬼狩りか…⁉ この極悪人が…⁉」
バージル「大体合っているのが耳の痛いところだな。」
小僧が左右の手に持つ道具で太鼓を打ち鳴らす。5匹の龍が雷撃、超音波、衝撃波と多彩な攻撃を放つ。トリックドッジで最小限の回避で済ませる。その間に2匹の龍が俺に迫る。ドライブ&オーバードライブで両断する。ついでに次元斬で小僧の頸を落とす。覚えのある気配が背後から迫ってくる。
甘露寺「バージルさん!」
バージル「甘露寺か、ここは俺に任せて本体を追え。森の奥だ。先に竈門少年たちが向かっている。」
甘露寺「わかりました!」
華麗な身のこなしで森の奥へ進む。その間に小僧の頭部が再生する。
バージル「出し物は終わりか? 貴様の攻撃はつまらん。」
「貴様…⁉ 貴様ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
太鼓を打ち鳴らし今度は小僧も飛び掛かってくる。口を開けて何かを放とうとしている。ノーモーション次元斬・絶で細切れにする。延々と繰り返した。やがて日が昇る。小僧は塵と化して消えた。俺のやることは終わったと判断して異空間を開いて蝶屋敷へ戻った。
それから日が沈んだ深夜、鬼舞辻無惨程ではないが奴に近い強力な鬼の気配を感知した。全力で走った。街中の道のド真ん中でひとりの鬼に対してひとりの鬼殺隊隊士らしき者が土下座している。瞬時にエアトリックでふたりの間に割って入り後ろ回し蹴りで隊士を吹っ飛ばしつつ居合斬りで鬼を斬りつける…が避けられた。
バージル「また会ったな上弦の壱、確か…黒死牟といったか。」
黒死牟「その呼吸…日の呼吸か…久しいな…。ついてこい…。」
ついていった。どこかの山に入った。
黒死牟「ここなら…邪魔は…入るまい…。」
バージル「同感だ。思いっきり暴れられる。」
鬼から「ホオオオ」と呼吸音が聞こえる。
バージル「その呼吸…お前…元鬼殺隊隊士か…。」
黒死牟「その通りだ…人間の寿命は…短い…。鬼になれば…更に鍛錬を重ね…強くなれる…。故に…鬼となった…。」
月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮
素早い踏み込みからの居合斬り、と共に鮮やかな月の模様の剣閃が散りばめられる。日輪刀で受けず摺り足で後退して避けた。
黒死牟「いい判断だ…よくぞ避けた…。」
バージル「お前の太刀筋は1度見た。刀で受けず回避することが最善だと判断した。」
トリックアップからの兜割りでこちらから攻めた。
月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月
斬り上げからの三連の斬撃が飛んでくる。キャンセルしてトリックダウンで着地し後退する。
月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り
薙ぎ払いから無数の斬撃が飛んでくる。咄嗟にドライブ&オーバードライブで相殺した。斬撃が消え次第、疾走居合で間合いを詰めながら攻撃に転じる。途中で刀で受け止められる。
月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦
直感で鬼から間合いを取った。正解だった。鬼を中心に円形の剣閃が弧を描くように飛んでいく。
月の呼吸 陸ノ型 常夜孤月・無間
間髪入れずに斬り払いと共に無数の斬撃が飛んでくる。円陣幻影剣でかき消そうとしたが無理だった。トリックダウンで後退しドライブ&オーバードライブと次元斬で相殺した。エアトリックで間合いを詰め、日の呼吸と同時に斬り上げと斬り下ろしの怒涛のラッシュで攻める。鬼の刀が折れた。好機と見たが鬼の刀が大太刀に変化した。また鬼の周囲を無数の剣閃が飛んでいく。さっきとは比較にならない程の範囲だった。ジャンプ、トリックアップ、閻魔刀飛翔斬・弐、次元斬3連発で滞空して凌いだ。
黒死牟「見事だ…。ここまで…私の技を…避けきったのは…お前が初めてだ…何者だ…?」
バージル「化物は鬼だけではないということだ。よく覚えておくんだな。」
黒死牟「わかった…。お前を殺す前に…正体を…聞くとしよう…。」
月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映え
5つの斬撃が地を這うように正面、斜め方向に飛んでくる。隙間を縫って回避しようとしたが隙間にも月の剣閃が発生している。地上に逃げ場はないと考え、またジャンプ、トリックアップ、閻魔刀飛翔斬・弐、次元斬3連発で滞空して凌いだ。
月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾
最初に見た居合斬りの薙ぎ払いバージョンだがリーチが増大していた。いくらトリックダウンで後退しても追いかけてくる。エアトリックに切り替え間合いを詰める。と共に鬼が大太刀を振り下ろす。
月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面
大太刀は受け止めたが斬撃が頭上から降り注いでくる。トリックダウンで背後を取り回避しながら居合斬りを放つ。振り向き様に大太刀を振り払い受け止められた。
月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・蘿月
回転鋸のような形状の斬撃が飛んでくる。すぐさま、またトリックダウンで背後を取り回避しながら居合斬りを放つがまた薙ぎ払いで受け止められた。
月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月
周囲を埋め尽くすほどの剣閃の波に襲われる。地上では分が悪い。滞空して次元斬を放つ。頸に当たったはずだが怯みもしない。相当硬いと見た。着地と同時に
月の呼吸 拾陸ノ型 月虹・片割れ月
斬り払いと共に頭上から無数の斬撃が降り注ぐ。さっきの技より数も範囲も上だった。連続してトリックダウンで回避する。鬼の表情が歪む。
黒死牟「お前を見ていると…嫌でも思い出す…⁉ 忌まわしき…双子の…弟を…⁉」
バージル「お前にも双子の弟がいたのか。奇遇だな、俺にもいる。そして何度も敗北した。お前も俺と同類か?」
黒死牟「黙れ⁉」
激昂しているせいか隙だらけだ。ノーモーション次元斬・絶で斬り刻む。頸は斬れなかったが両腕を斬り落とし大太刀を折った。絶好の機会、両手でしっかりと柄を握り頸に日輪刀を振り下ろす。硬い。日輪刀が途中で止まる。ミラージュエッジを手にしてトリックアップからの兜割りで追い打ちをかける。日輪刀が食い込む。鬼が咆哮を上げる。全身から刀が飛び出し斬撃が放たれる。トリックアップで回避しながら兜割りを続けて叩き込む。5連続で叩き込み日輪刀が頸を切断する。それでも鬼の動きは止まらない。再生した左右の手で体から生えた刀を抜き攻撃してくる。頸を落としても死なない…。さてどうしたものか、上弦の参のようにヘルオンアースで塵にしてしまえば死ぬのだろうか。ベオウルフに切り替えている間に鬼が異形の姿に変わる。進化した。だが…
バージル「醜いな…。それがお前が望んだ姿か?」
黒死牟「黙れ⁉ 俺は死なん⁉ 絶対に負けん⁉」
バージル「そういえば俺が何者か知りたがっていたな。褒美だ。見せてやる。」
真魔人化する。
黒死牟「何だ…⁉ その姿は…⁉」
バージル「世界は広い。悪魔という化物もいるということだ。」
黒死牟「悪魔…だと…⁉」
バージル「今のお前の姿は見るに堪えん。消し去ってやる。」
黒死牟「う…⁉ う…⁉ うおおおおおぉぉぉぉぉぉ⁉」
以前より素早いが単調な動きだった。ヘルオンアースを叩き込もうとした。弦の音と共に鬼は消えた。またこのパターンかとため息をついた。グリフォンに上弦の壱を仕留めそこなったと報告しておいてほしいと頼んでさっさと蝶屋敷へ帰った。