―――上弦の壱を仕留め損なった一報からすぐに緊急柱合会議が開かれた。病状が悪化して起き上がることも出来ないお館様に代わってあまね様に仕切っていただいた。
バージル「確かに日輪刀で頸を斬り落としましたが…それでも鬼は体から生えた刀を抜き攻撃を仕掛けてきました。そして…新たに頸が生えると共に鬼は姿を変えました。あれを進化と言っていいのかは不明です。爪は鋭くなり口からはみ出る程の牙を生やし額にも2本の角が生え、上半身からは幾つもの刃が生えました。背中にも刺のついた太い管が4本ほど生えていました。姿が変わる前は素早い踏み込み、刀の振りから生じる剣閃が脅威でしたが今となっては不明です。もう1度頸を斬り落とせば死ぬのか、それも不明です。申し訳ございません。」
あまね「承知いたしました。ご苦労様でした。」
悲鳴嶼「むう…頸を斬り落としても生き延び、その上進化するとは…厄介な存在だな上弦の壱とやらは…。」
バージル「さっさと塵にしてしまえば良かったと反省している。」
ベオウルフを見せてそう告げる。
不死川「実際に鬼舞辻無惨と殺り合った時は塵やら気化した血が一か所に集まってたんだろ? 上弦の壱もそうならねェとは限らねェ。バージルは悪くねェよ。」
バージル「そう言ってくれると助かる。」
伊黒「とにかく琵琶を操る鬼をどうにかしない限り不毛な戦いが続く。」
バージル「そうだな。鬼舞辻無惨と上弦の壱と弐も夜明けまで戦うつもりだったが弦の音と共に逃げられた。先日、上弦の伍と肆が逃げられる前に始末できたのは幸いだった。そういえば…禰豆子が日光を克服したらしいな。」
甘露寺「そうなんです⁉ 運悪く日光を遮るものがない場所に出てしまって始めは日光で肌も爛れてもう手遅れかと思ったんですけど急に回復してびっくりしました⁉」
バージル「……となると鬼舞辻無惨の狙いは禰豆子か?」
悲鳴嶼「だろうな…。禰豆子の血肉を食うために血眼で探すに違いない。」
バージル「今どこにいるんだ?」
悲鳴嶼「蝶屋敷で保護している。君の寝床だし好都合だろう。」
バージル「まあ…そうだな。鬼舞辻無惨どもの襲撃を待てばいいのか?」
悲鳴嶼「その前にやるべきことがある。現在、鬼の出現は皆無に等しい。今のうちにやらなければならない。鬼殺隊隊士の戦力の底上げは必須だ。よって『柱稽古』を行うことになった。」
バージル「具体的には?」
悲鳴嶼「それは―――――。」
バージル「……分かった。第一、第二に宇髄と煉獄で基礎体力向上訓練、第三に無一郎が高速移動技術体得訓練、第四に甘露寺の柔軟訓練、第五に伊黒の太刀筋矯正訓練、第六に不死川の持久力向上の打ち込み稽古、第七に俺の集団戦闘訓練、第八に悲鳴嶼の筋力強化訓練、最後に冨岡の1体1の戦闘訓練、これでいいんだな?」
悲鳴嶼「よろしく頼む。」
柱合会議は解散となった。蝶屋敷の鍛錬場で鬼殺隊隊士が来るのを待ちながら日の呼吸での各種武器のスキル確認を行った。やはり魔力の蓄積速度から効果範囲に速度に威力、何から何まで格段に増していた。エアトリック系のスキルも試した。まさに瞬間移動と言っても差し支えない速度、移動距離、隙の少なさだった。早く鬼殺隊隊士たちで俺のスキルを試したかった。待った。ひたすら待った。約2週間後、予想通りの面子が揃った。
炭治郎「よろしくお願いします! バージルさん!」
カナヲ「よろしくお願いします…。バージルさん…。」
善逸「…お願いします……。」
伊之助「よろしくな! 銀髪蒼羽織!」
バージル「俺の訓練は集団戦闘だ。作戦会議くらいはするがいい。」
炭治郎「それならもう済ませました! 早速訓練お願いします!」
バージル「ならばいつでもかかってこい。」
正面に黄色い少年、左に猪頭の少年、右に竈門少年、背後にカナヲと配置につく。黄色い少年が特殊な呼吸をしながら居合の姿勢をとる。恐らくとんでもない速度での攻撃が繰り出されるのだろうと直感的にそう思った。思った通りだった。途轍もない速度での居合斬りを放ってきた。透き通る世界、日の呼吸を会得していなければ対応出来なかっただろう。木刀を振り下ろし黄色い少年の居合斬りの木刀を叩き落す。半身になって突進もかわす。
バージル「少し痛い思いをするが我慢しろ。」
善逸「えっ⁉ ぎゃ―――――――――ッ⁉」
木刀を叩き落されバランスを崩す黄色い少年の片足を掴んで振り回す。遅れてかかってくる残り3人の木刀を黄色い少年の体を使って叩き落とす。用済みになったので少年を空中に放り投げる。着地くらいは出来るだろうと思って適当に扱った。
その後、黄色い少年が左右、後方に立ち一番手で攻撃を仕掛けてきたが結果は同じだった。
善逸「もうやだよ――――――ッ⁉ 何で俺ばっかり⁉」
バージル「すまんな。どうしても試してみたかった。」
炭治郎「ちょ、ちょっと作戦会議してもいいですか⁉」
バージル「好きなだけしろ。」
4人が隅に集まって何やら話しをしている。次はどう来るか楽しみに待っていた。話はついたようだ。また前後左右に配置に並ぶ。今度は4人ほぼ同時、正面にカナヲ、疾走居合を仕掛ける。1撃目は耐えたが2撃目で体勢を崩し3撃目で木刀を弾き落とす。すかさず拾い上げ二刀流に変える。その隙に黄色い少年が凄まじい突進からの居合斬りを繰り出すが木刀を逆手に持ち二連鞘当てに見立てて木刀を叩き落とす。今度は俺が突進しながら左右の木刀を振り回す。猪頭の少年はどうにか持ちこたえるが最後の横回転からの木刀の叩きつけを木刀を交差して防御するが遭えなく二本の木刀が床に落ちる。背後に竈門少年の気配、逆にトリックダウンで背後を取る。振り向く前に木刀で足払いをして宙に浮かせる。居合の姿勢を取り左から右へ腰の回転と共に振り抜く。逆さに宙に浮いた竈門少年が力強く木刀を正面に構える。竈門少年は木刀を落とさなかった。だが…折れた。衝撃はそのままに吹っ飛ぶ。どうにか受け身を取る。予備の木刀をカナヲと竈門少年に放り投げる。
バージル「お前たちの力はこんなものではないだろう? 俺を楽しませて見せろ。」
4人が唾液を飲みこむ音が聞こえる。言葉通りだった。怪我や後遺症が残る程の無理はしてほしくないがまだまだ4人は本気ではないと見た。きっかけは翌日、他の鬼殺隊隊士も来て8人同時に相手をした時だった。他の隊士を吹っ飛ばし一瞬視界が遮られたところを日の呼吸によるひとつの型で攻撃してきた。俺は木刀で受け止めた。そして互いの木刀が折れた。
バージル「合格だ。お前たち全員悲鳴嶼の下へ行け。」
「えっ⁉ 俺たちも…ですか⁉」
バージル「俺は不死川の訓練のおまけのようなものだ。あいつの訓練をくぐって来た者たちならば誰か合格者がひとり出た時点で次へ行かせるつもりだった。それに…俺も用がある。残念だが俺の柱稽古はこれで終わりだ。」
実は隠の者からお館様に呼び出しを受けている。今すぐにでも産屋敷家へ向かわなければならない。嫌な予感がした。お館様の余命はごく僅かなのだろうか。柱合会議ではないらしい、俺個人に用があるようだった。隠の者に運ばれ産屋敷邸へ行く。走って人の気配のする場所へ向かった。床に伏せるお館様とあまね様がいらっしゃった。
バージル「馳せ参じました、お館様、あまね様。」
耀哉「よく来てくれたね…バージル…。伝説の魔剣士スパーダの息子…君に会えて本当に良かったと思っているよ…。聞いてほしい…。これから一週間以内に…ここに…鬼舞辻無惨が…やってくる…。この屋敷一帯に…大量の火薬と…大量の忍具が…埋め込まれている…。私たちは…屋敷と共に自爆する…。奴が少しでも負傷している間に…攻撃を仕掛けて…足止めしてほしい…。その隙に…珠世さんたちが…開発した薬を…彼女が直接…奴に注入して…弱体化させる…手筈になっている…。どうか…後のことは…頼んだよ…。」
バージル「……屋敷と共に自爆すると仰いましたが…そこまでなさる必要があるのですか? 鬼舞辻無惨さえやってくれば足止めは俺だけで充分ですが。手の内も見ました。後…『珠世さんたち』と仰いましたが、他に協力者がいるのですか?」
耀哉「僅かでも…勝利の可能性を…高めておきたい…。私たちのことは…気にしないで…鬼舞辻無惨を倒すことだけを…考えてほしい…。珠世さんなら…蝶屋敷で…研究中だよ…。」
バージル「彼女と話をしてもよろしいでしょうか?」
耀哉「いいよ…。珠世さんによろしく…。」
バージル「かしこまりました。失礼します。」
異空間を開き蝶屋敷へ移動する。確かに覚えのある気配がする。何故今まで気付かなかったのだろうか。珠世の気配のする部屋へ向かう。ノックする、返事を待たずして中へ入った。
バージル「邪魔するぞ。」
しのぶ「えっ⁉ バージル⁉ ええっと…こちらの女性はその…⁉」
バージル「警戒なら無用だ。珠世とは既に会っている。少し彼女と話してもいいか?」
しのぶ「なぁーんだ⁉ そうなの⁉ 今まで心配して損した⁉ 珠世さん、いいですか?」
珠世「私なら構いません。部屋の外へ出ましょう。」
珠世と共に廊下に出る。
バージル「お館様から鬼舞辻無惨を弱体化させる手筈は聞いたが、鬼は強い奴ほど皮膚の上から捕食すると聞いている。薬を注入した後のことは考えているのか? お前も食われるぞ。」
珠世「……覚悟の上です。」
バージル「自分だけ死んで楽になる気か? 大体愈史郎とやらはどうなる? 少し会っただけだがお前に惚れてるだろう。あいつを残して自分だけ死ぬのか? 残された者の身にもなってみろ。」
珠世「私は…鬼舞辻無惨によって鬼にされ…夫と幼い息子を食い殺しました…。それに…自暴自棄になって大勢の人間を殺して…食べました…。いつか償いをしないといけないと思っていました…。遂にその時がやってきたのだと思います…。」
バージル「償いなら今やってるだろう。それでも足りないと言うなら生きて償い続けろ。そして愈史郎とやらと添い遂げろ。お前は絶対に死なせない。鬼舞辻無惨は絶対に殺す。約束する。」
珠世「……不思議ですね。さっきまで死ぬつもりだったのに今は生きようと思いました。これが『悪魔に魅入られる』ということなのでしょうか…?」
バージル「俺にそんな力はない。お前の気が変わったと言うならそれはお前の意思だ。人間とはそういうものではないのか?」
珠世「貴方も…私に『人』という言葉を使ってくださるのですね。そして助けようとしている。何故そこまでしてくださるのですか?」
バージル「この世界に来てから俺も色々考えた。俺に出来ることは何か考えた。鬼を殺すこと以外にも、死に急ぐ人間を助けようと思った。それよりお館様曰く鬼舞辻無惨は一週間以内に産屋敷邸へ来るらしい。薬の開発はどうなっているんだ?」
珠世「薬は後2日もあれば完成します。4種類の薬を開発中です。鬼を人間に戻す、老化、分裂阻害、細胞破壊です。」
バージル「そいつは素晴らしい。」
珠世「完成次第、貴方と行動を共にします。それでは…開発に戻ります。」
珠世の言う通り2日後に薬物は完成し4本の注射器を持って俺の前に現れた。それから5日間、産屋敷邸の塀の外で鬼舞辻無惨を待ち続けた。屋敷にはお館様とあまね様、2人の御令嬢がいる。お館様の話では跡継ぎは長男であらせられる輝利哉様に決まったとのことだ。今は他の屋敷で妹君のかなた様、くいな様と共に待機中らしい。
そしてお館様が仰った通り1週間最後の日に鬼舞辻無惨は現れた。奴は護衛も着けずひとりでやってきた。その表情は余裕たっぷりといった様子だ。ゆっくりと歩いて屋敷の中へ入る。お館様と何を話しているかは分からない。ただ待ち続けた。やがて大爆発が起きた。爆風をやり過ごしてから行動を起こした。鬼舞辻無惨だけの気配を感知する。
バージル「しっかり掴まっていろ。」
珠世「はい…⁉」
珠世が俺にしがみついたのを確認してエアトリックで急接近する。足元に四肢欠損し顔面も吹っ飛び頭蓋骨まで露出した鬼舞辻無惨が転がっている。五月雨幻影剣で拘束する。すかさず珠世が持っていた注射器の内、2本を注入する。珠世が残り2本を注入したのを確認する。
バージル「急いでここから離れろ。俺のことは気にするな。ひたすら走れ。」
珠世「後はお願いします…⁉」
珠世が走り去る。集中する、透き通る世界に変化した。片っ端から体内で移動し続ける脳と心臓を赤く染まった日輪刀で斬り刻む。ついでに頸も切断した。それでも再生は止まらない。五月雨幻影剣で拘束し地面に磔にしながら延々と繰り返す。
無惨「きさ…ま……⁉」
バージル「やはり陽光に照らす以外にお前を殺す方法はないらしい。夜明けまで付き合ってもらうぞ。」
覚えのある気配が集結する。見渡す、柱全員に竈門少年が塀の上に立っていた。
「「「「「バージル⁉(さん⁉)」」」」」
バージル「こいつが鬼舞辻無惨だ‼ 脳や心臓を破壊し尽くしても死なん‼ 陽光に照らす以外にこいつを殺す方法は無い‼」
俺の叫びに呼応するように怒りの形相で鬼舞辻無惨に殺到する。奴に目を向ける。ニヤリと笑った…気がする。弦の音が鳴った。浮遊感に包まれる。無数の建物が乱立する空間に視界が覆われる。ミラージュエッジに切り替え空中スティンガーで壁に突き刺し落下を防ぐ。ミラージュエッジを足場にして呼び戻しながら再度エアトリックで接近を試みる。縦横無尽に建物が生えてきて邪魔をする。ディープスティンガーを上方に展開して建物を貫通して足場に乗る。僅か上に鬼舞辻無惨が立っている。
バージル「高みの見物とはいい御身分だな。」
無惨「これで私を追い詰めたつもりか? 貴様らがこれから行くのは地獄だ! 目障りな鬼狩りども…今宵皆殺しにしてやろう!」
バージル「やってみろ。出来るものならな。」
3度、エアトリックで接近しようとしたところにまた弦の音が鳴る。視界が闇に包まれる。どうやら強制的に移動させられているのは俺の方らしい。やがて冷気の漂う和室に着いた。
「君に斬られかけた頸の傷が酷く痛むよ。まだ治らないし…お礼に殺してあげるよ。男は好みじゃないけど残さず食ってあげる。」
バージル「上弦の弐か…再会早々に悪いが俺は今忙しい。さっさと死ね。」
童磨「それは俺の台詞だよ。この前のが本気だと思わないでね。」
バージル「言葉を返すようだが俺も本気ではなかったぞ。」
童磨「……君は一々癪に障るね。もういいよ、早く死んで。」
二対の扇を素早く振り払った。
血鬼術 霧氷・睡蓮菩薩
巨大な氷の仏像が現れる。ベオウルフに切り替える。強く握り赤く染まる。
バージル「どこぞの犬を思い出すな。」
僅かな時間、思い出に耽った。