―――巨大な氷の仏像が襲い掛かってくるのをじっと待つ。手刀を摺り足で後ろに下がりかわす。仏像の吐息で天井から壁やら床まで凍り付く。バックステップして距離を取りながら身を屈め右籠手に魔力を蓄積させる。日の呼吸の影響か蓄積する速度が速い。3段階目まで堪ったジャストタイミングで思いっきり踏み込みながら右ストレートを放つ。その1発だけで氷像の下半身が粉々に砕けた。落下してくる上半身を両籠手のラッシュで同じく粉々にする。
童磨「ば、化物め…⁉」
バージル「What's wrong? Is that all you've got?」(どうした? それで終わりか?)
鬼が後ろに下がる。五月雨幻影剣で拘束する。素早くトリックダウンで背後を取る。
バージル「Time to die!」(そろそろ死ね!)
日輪刀を両手でしっかりと握り斜め上段に構えてから横へ一閃する。あっさりと上弦の弐の頸が転がる。体も塵になって消える。さて…これからどこへ行くべきかと気配を探っていると覚えのある気配が猛烈な勢いで俺に向かってくる。そいつは壁を破壊して俺の前に現れた。
「見つけたぞ…⁉ 西洋の鬼狩り…⁉ 殺す…⁉ 殺して喰ってやるぞ…⁉」
バージル「お前は…上弦の壱か…。すっかり獣らしくなったな。もう侍を気取るのも止めたか。」
羽織袴姿に帯刀していた姿はどこへやら、今の鬼は何も身に纏っていなかった。全身を皮膚が変質した鱗に覆われている。口は開きっ放しで涎を垂れ流しながら荒い息を立てている。かつての強者然とした立ち居振る舞いも気品も迫力さえも微塵も感じなかった。見るに堪えなかった。かつての俺の半身、悪魔として魔界に君臨していた姿を嫌でも思い出させられた。
姿を変える前よりも素早い速度で鋭い爪で抉りにかかる。念のためにトリックダウンで後退する。手を振りかぶった位置から空振りして手を止めた位置まで鮮やかな月の模様が散りばめられた軌跡が残っていた上に飛んできた。すかさずトリックドッジで避ける。
バージル「どうやら退化したようではなさそうだ。俺を落胆させるなよ。」
離れた所から出鱈目に腕を振りまくる。月の模様の斬撃が幾つもの束になって飛んでくる。瞬時にミラージュエッジに持ち替えてドライブ&オーバードライブでかき消し鬼に魔力の斬撃が食い込む。鬼の体が4等分になる前に切断面から血が吹き出て体を繋ぎ合わせる。
「こんなものでは俺は死なん⁉ どうした⁉ 悪魔の姿になれ⁉ 今のお前を殺したところで俺は決して満足せん⁉」
バージル「俺に勝つ気でいるのか? 愚かだな…。」
言われた通り真魔人化した。歪んでいる鬼の表情が更に歪む。呼吸も荒くなる。
バージル「さっきまでの威勢はどうした? 俺を殺すのではなかったのか?」
黒死牟「そうだ…⁉ お前を殺して喰って…真の最強になって見せる⁉」
また無数の斬撃を放つ。敢えて避けなかった。頑強な鱗に傷はつくが血は流れなかった。今度は噛みつきに飛び掛かって来た。ベオウルフに切り替え無言でカウンターのアッパーを顎に叩きこむ。頭上に吹っ飛ぶ鬼に合わせて俺もジャンプしながら飛び膝蹴りをぶち込む。髪を掴んで急降下して床に顔面を叩きつける。角が折れる。右足の具足で後頭部を踏み砕く。頭蓋骨が砕け脳ミソが飛び散る。狙いを頸に変える。ひたすら踏みつけ頸が千切れていくのを眺めながら魔力を蓄積させた籠手を振りかぶり再生する頸に向かってヘルオンアースを思いっきりぶち込む。大爆発が起きる。鬼の上半身が消失する。千切れた下半身の傷口から徐々に再生を始める。もうウンザリだった。赤く染まる日輪刀で日の呼吸をしながら下半身を細切れにする。ついでにノーモーション次元斬・絶でただの肉片にする。塵になって消える。ここに上弦の壱、弐の討伐は完了した。次は…この空間を創り出している元凶である鬼を殺すことに決めた。
部屋から飛び降りる。じっと動かない鬼の気配を目指してエアトリックを駆使して接近する。近づくにつれて縦横無尽に建物が飛び出てくる。その度に次元斬で破壊し足場にしスティンガージャンプで接近する。正座して琵琶をかき鳴らす女の鬼の姿が見えた。建物が出現する頻度が激しくなる。直接斬るのは止めて空中ジャスト次元斬を3連発放つ。鬼の頸が落ち塵となって消える。やがて視界が目まぐるしく乱れる。そして…見覚えのある光景…廃墟となって焼ける産屋敷邸が見えた。鬼舞辻無惨の気配を探る。奴は動かない。周囲に大勢の鬼殺隊隊士らしき気配を感知した。グリフォンを呼んで急いで避難勧告の命令を下すように頼んだ。全力で走って現場へ急行する。大勢の鬼殺隊隊士たちとすれ違う。避難勧告の指示が行き届いていたようで安心した。辿り着いた。繭のようなものに覆われてずっと動かない。日の呼吸をしながらノーモーション次元斬・絶で細切れにした。
バージル「いつまで寝ているつもりだ。とっくに上弦の壱と弐も琵琶を鳴らす鬼も倒したぞ。今度はお前の番だ。」
無惨「また貴様か…⁉ どこまで私の邪魔をすれば気が済む⁉」
バージル「わかり切ったことを聞くな。お前が死ぬまでだ。神や仏がいるのか知らんが祈れ。お前に出来ることはそれだけだ。」
無惨「ふざけるな⁉」
全身の管が一斉に襲い掛かる。またノーモーション次元斬・絶で1本残らず切断した。管の再生が遅れる。日の呼吸をしながら12の型を連続で仕掛けて体内の脳や心臓を全て斬る。最後に頸を切断した。速度こそ遅いが着実に再生は行われている。ヘルオンアースをぶち込み塵にする。次第に塵が集まりひとつの体になろうとしていた。延々と続けた。塵が俺から離れて集まり始めた。恐らく俺から逃げようとしているのだろうが、往生際の悪い奴だとため息をついた。日の出の時間が近い。急激に再生速度が上がった。巨大な赤ん坊の姿になり口を大きく開け俺を食おうと襲い掛かる。顔面にヘルオンアースを叩きこむ。綺麗に頸から上が消失する。残った体に再度叩き込む。また全身が消失する。日が昇る。塵が集まることはなかった。ここに1000年に亘る鬼と人間の争いに終止符が打たれた。
新たな産屋敷邸で恐らく最後になるであろう柱合会議が開かれることになった。お館様の遺児であり当主である輝利哉様、くいな様、かなた様にお礼と今日を以て鬼殺隊の解散を告げられた。柱合会議が終わり柱の皆に別れを告げた後、輝利哉様に別室に呼び出された。
輝利哉「鬼殺隊及び民間人の皆さまが少数の被害で済んだのは偏に伝説の魔剣士スパーダ様の御子息、バージル様のご活躍があってのことと存じ上げます。誠にありがとうございました。」
バージル「俺は…元の世界では人間に仇なす大罪人でした。そしてこの世界に迷い込み…俺に出来る事を考えました。かつて親父がやったように…人間に仇なす鬼を退治すると決めました。全ては俺の意思でやったことです。礼には及びません。」
輝利哉様から再度お礼を言われ最後の報酬として荷物を受け取った。産屋敷邸を出る。
「バージル!」
聞き慣れた声のする方向へ目を向ける。しのぶだった。彼女の腹は妊婦のように膨らんでいる。いや実際に妊婦なのだから当然なのだが。歳を重ねる度に美しくなり成熟していく彼女の肉体に溺れた。避妊も何もしていないのでいつかはこうなるとは思っていたが意外と早かった。
しのぶ「お館様は何て言ってたの?」
産屋敷邸での経緯を話した。
しのぶ「そっか…鬼がいなくなったんだもんね…。寂しくなるね…。」
バージル「いつでも会える。生きていればな。俺の記憶が正しければこれから約25年後、1940年を境に世界を巻き込む大規模な戦争に日本も参戦することになる。親父なら人間同士の争いには静観を決め込むだろうが、俺はこの国を無様な敗戦国にしたくはない。鬼ではなく人を殺すことになるがそれでも一緒にいてくれるか?」
しのぶ「当然よ! お国のために戦って何が悪いのよ! 私はバージルについていく!」
バージル「……すまんな。体調は平気か?」
しのぶ「私は大丈夫よ。バージルこそ今までお疲れ様。元の世界には帰りたくないの?」
バージル「お前と子どもを残して帰る気にはならん。この世界も結構気に入った。それに…俺の力でどこまで歴史が変わるか興味がある。」
しのぶ「そう…良かった! これからもよろしくね、バージル!」
バージル「ああ、よろしく頼む。」
1941年、太平洋戦争前夜、とある島にて。
バージル「お前たちまで来なくても良かったんだぞ。」
「何言ってるのよ⁉ 伝説の魔剣士の息子の娘として見過ごせるわけないじゃない⁉」
「「「そうよそうよ⁉」」」
俺に興奮気味に抗議する4人の娘たち。全員俺としのぶとの間に生まれた娘だ。最初は双子の娘が生まれた。その次の年にまた双子の娘が生まれた。全員カナエとしのぶを足して割ったような顔立ちと肉体をしている。父親の贔屓目無しでもいい女に育ったと思う。だが体に流れる血は俺の遺伝子を色濃く受け継いでいた。どこで聞いたのか俺が剣士だったのを知って剣技を見せるようにしつこくせがまれた。恐ろしい程に覚えが良かった。俺が見せた閻魔刀のスキルだけでなくベオウルフ、ミラージュエッジのスキルも自在に操った。俺が使うスキルを片っ端から自分のものした。いつ頃か不明だが魔人化にまで覚醒していた。今では俺が魔力で精製した閻魔刀、ベオウルフ、ミラージュエッジを全員に持たせている。
バージル「これだけは言っておく。死んで母さんを悲しませるようなことはするなよ。俺も悲しい。それに…後で俺が母さんに怒られる。わかったか?」
「「「「わかった⁉」」」」
その言葉を最後に太平洋戦線に散らばった。かく言う俺自身も戦闘に飢えていた。妻と子宝に恵まれても俺の本質は変わっていなかったと自覚した。