―――新手の鬼を倒して蝶屋敷へ帰る。
カナエ「おかえりなさい、バージルさん。」
バージル「今日、十二鬼月とかいう妙な鬼に出会ったぞ。始末したが。」
カナエ「えっ⁉ ちなみに今の階級は何ですか?」
バージル「知らん。どうやって調べるんだ?」
カナエ「えっ⁉ 知らないんですか? では…『階級を示せ』と呟いて右手をギュッと握ってください。手の甲に階級が表示されるはずです。」
言われた通りにやった。『甲』と表示されている。
しのぶ「もう甲になってますよ⁉ 一体どれだけの鬼を倒したんですか⁉」
バージル「始めの任務で40体…それから先は数えてない。そして今日下弦の陸とやらを倒した。どうやら奴らに目を付けられているらしい。」
しのぶ「そうなんですか…でも鬼は群れるのを嫌いますからね…。十二鬼月がまとめて一気に襲ってくるということは無いでしょう。あと一体十二鬼月を倒せば柱に昇格ですよ⁉」
バージル「『柱』とは何だ?」
しのぶ「鬼殺隊に属する鬼殺隊士の最高位に立つ剣士達の総称ですよ。まあ…幹部みたいなものですね。」
カナエ「ちなみに私は花柱です!」
ふふんと胸を張って自信満々に告げるカナエ。胸の主張が激しい。愛嬌のあるやつだと思った。
バージル「お前…そんなに偉い身分だったのか…。もっと偉そうにしていいんだぞ。」
カナエ「最初に腕試ししてバージルさんの方が強いって確信しましたからそんなこと出来ませんよ。」
しのぶ「初めて出遭って約1日経ってから最終選別で7日経ってそれから約1か月眠っていたから…実質1か月も経たずに柱に昇格するかもしれませんよ⁉ 姉さんの言った通り大出世ですよ⁉しかも異例の速さで⁉」
バージル「そうなったら今までの礼をさせてもらうとしよう。」
カナエ「いいんですよ! 私も柱ですからお金には不自由していませんし!」
バージル「そうは言われてもな…借りは返さんと性に合わん主義でな…。たまには女らしく着飾ってみたらどうだ?」
カナエ「でしたらしのぶに宝石でも買ってあげてください!」
しのぶ「なっ⁉ 姉さん⁉ 私はそんなつもりじゃ…⁉」
バージル「そうだな。俺の柱就任記念としてもらってほしい。いいか、しのぶ?」
しのぶ「は、はい…⁉」
いつものしかめっ面はどこへやら、顔を赤くしてニヤケたい表情を我慢しているようにも見えた。
バージル「それと…カナエが纏っている羽織も特注品か?」
カナエ「そうなの⁉ どう⁉」
バージル「綺麗で似合ってると思うぞ。」
カナエ「でしょう⁉ ふふっ嬉しいな! バージルさんも元々着ていた羽織を元にして注文したらいいと思うわ!」
バージル「そのつもりだ。」
翌日、グリフォンに呼ばれ付いていくまま走りまくった。奴曰く東京府を出て丹沢山という場所に行くらしい。グリフォンに任務を任される頃には日が沈んでいた。ひとりの鬼が鬱蒼とした木々の間からやってくる。まだしのぶよりも若い小娘といったところか。鬼は長寿で外見の変化がないので数百年生きている可能性もあるが。目を凝らすと片目に『下肆』と刻まれている。ため息をついた。
バージル「何故十二鬼月とやらはひとりでやってくるんだ?」
「お前如き殺すのに他の者の力なぞ必要ない。」
バージル「下弦の陸とやらも同じような事を言っていたぞ。」
「あんな雑魚と一緒にするな。」
バージル「わからんのか。お前も雑魚だ。」
「ほざくな⁉」
着物の上半身をはだけて半裸になる。色気の欠片もないので目を背ける必要もなかった。鬼の肌から大量の血が吹き出て霧になり周囲を包む。視界を遮られ物音も聞こえない。背後から鋭い爪を生やした手を振りかぶって襲ってくる。半身になって避ける。そのまますれ違いざまに居合斬りで頸を落とした。
バージル「殺気くらい隠せ。潜んでいたつもりだろうがバレているぞ。」
「そ…んな…⁉ お前…⁉ 柱…なのか…⁉」
バージル「惜しいな。お前を倒して柱になる予定の者だ。」
「畜生…⁉ こんな…はずじゃ…なかったのに…⁉ 悔しい…⁉」
涙を流しながら塵になって消えた。鬼でも泣くらしい。悪魔とは大違いだなと思った。次の目的地は結構近いらしい。鍋割山という場所に着いた。地中から鬼の気配、伸びた両手が地面を抉って飛び出てきた。トリックダウンの連続で回避した。
「チッ⁉ やるな…⁉」
バージル「お前は…下弦の参か。肆ならさっき殺したぞ。」
「知ってる。だからこうしてお前を殺しに来た。」
バージル「何故ふたり纏めてかかってこない?」
「競争相手に獲物を横取りされては叶わんからな。」
バージル「それでひとりずつ殺されては元も子もあるまい。」
「俺を下弦の陸や肆と一緒にするな。」
バージル「一緒だ。お前も雑魚だ。」
「ほざけ⁉」
伸ばした脚で回し蹴りを放つ。木をなぎ倒して俺の頭目掛けて横から向かってくる。エアトリックで間合いを詰めて斬り上げで縦に真っ二つにする。手首を返して頸を十字に斬る。納刀すると共に4等分された頭が無言で落ちる。塵になって消える。下弦とはこんなものかとため息をついた。グリフォンが降りてくる。
バージル「今日の任務は終わりか?」
グリフォン「おう! この調子で頼むぜ! お館様に報告だ! あばよ!」
日輪刀に魔力を込めて空間を斬り裂く。向こう側に蝶屋敷が見える。安心して空間をくぐる。一応ノックしてから玄関の扉を開いた。
バージル「帰ったぞ。」
「「おかえりなさい⁉」」
姉妹揃ってニコニコ顔で出迎えてくれた。しのぶの笑顔は初めて見た気がする。
しのぶ「鎹鴉から聞きましたよ⁉ 下弦の肆と参を倒したって⁉」
カナエ「明日にはお館様からお呼びがかかるんじゃないかしら⁉」
バージル「期待せずに待っておくか。」
その晩の食事はやたらと豪勢だった。今度食事にでも誘おうかと思った。
翌日、早朝。
カナエ「バージルさん⁉ お館様がお呼びですよ⁉ 隠の方と一緒に付いて行ってください⁉」
バージル「『隠』とは何だ?」
カナエ「最終選別が終わった後、バージルさんの武器と玉鋼を運んでいった黒装束の方々がいたでしょう。生存者の救出や保護、遺族への対応、戦闘区域が明確な場合は周辺住民への対応や避難誘導など雑務をこなし、重傷で動けなくなった鬼殺隊士への応急処置や搬送、身に着けている隊服の縫合など、様々な裏方仕事を現場でこなし、鬼殺隊を支えている縁の下の力持ちですよ。お館様が住まわれている場所は超極秘なので目隠しと耳栓をして隠の方に背負われて移動して、何度も交代したり回り道したりと尾行を防ぐためでもありますので時間が掛かっても変に抵抗しないでくださいね。」
バージル「……わかった。」
俺が元々着ていた黒コートを羽織り外に出る。
「はじめまして、バージルさんですね。お館様がお呼びです。しゃがんでください。」
女の声だった。言われた通りにしゃがんだ。
「目隠しと耳栓をさせていただきます。私の背に乗ってしっかりと掴まってください。」
身長を遥かに上回る俺を軽々と背負って走り出した。延々と。息も切らさずに。どこかで交代する。今度は男の声だった。また背負われて運ばれた。それを何度も繰り返してようやくお館様とやらが住むらしき屋敷に辿り着いた。カナエも来ていた。
カナエ「バージルさん! こっちですよ!」
屋敷の縁側にあたる場所に案内された。
カナエ「突然ですがバージルさんは敬語を使ったことありますか?」
バージル「ない。」
カナエ「他人に頭を下げたことは?」
バージル「ない。」
カナエ「……どうやって生きてきたんですか?」
バージル「所謂裏社会で雇われて汚れ仕事という奴をやってきた。時には俺を雇った組織を壊滅させて金を奪って生活の糧にした。以上だ。」
カナエ「……はあ、そうですか…。お館様はとっても偉い方なので無礼は禁物ですよ。他の柱の方々と喧嘩になるかもしれませんし、いらっしゃったら私の真似してください。あと敬語は可能な限り使ってください。」
バージル「……善処しよう。」
カナエ「絶対ですよ⁉」
「そいつが悪魔と人間の合いの子って奴か? 胡蝶。」
カナエ「宇髄さん…。悲鳴嶼さん…。」
ふたりとも筋肉質でひとりは明らかに俺よりデカくて筋肉もとてつもない男たちが現れる。
バージル「何だ貴様ら。」
「俺か? 俺は宇髄天元、音柱だ。よろしくな後輩。」
そう言って髪をクシャクシャにして前髪を下す。居合で日輪刀を喉元に突き付ける。
バージル「馴れ合うつもりはない。死にたいならそうと言え。2度は言わん。」
天元「テメェ…⁉」
カナエ「バージルさん⁉ 止めて⁉」
「宇髄が無礼な真似をして済まない。バージル殿。私の名は悲鳴嶼行冥、岩柱だ。これからよろしく頼む。」
バージル「話がわかる奴もいるものだな。よろしく頼む、悲鳴嶼。」
ゆっくりと納刀する。宇髄とやらが俺を睨む。無視した。
「「お館様のお成りです。」」
聞き覚えのある少女の声、素早くカナエが縁側の前に移動し片膝をつき首を垂れる。慣れないが俺も真似をした。
「おはよう。いい天気だね。私の子どもたち。君がバージルだね?私は産屋敷耀哉。産屋敷家九十七代目当主にして鬼殺隊当主だよ。おめでとう、君も今日から柱だ。」
バージル「……はい、ありがとうございます。」
顔を向ける。額から左目にかけて怪我…いや病気か…何かしらの毒に侵されている。
耀哉「突然だが、かつて約1900年程前に人間界を支配しようとした悪魔の帝王と悪魔の軍勢を相手にたったひとりの悪魔が反旗を翻し魔界の帝王諸共蹴散らして人間界を救った英雄…伝説の魔剣士スパーダの逸話を知っている者はいるかい?」
「「「いいえ。」」」
バージル「……俺の…父親です。」
カナエ「えっ⁉」
天元「何⁉」
行冥「何と…⁉」
耀哉「やはり…バージルはこの世界にどうやって来たんだい?」
バージル「失礼します。」
日輪刀に魔力を込めて空間を斬り裂く。やはり無意識に斬り裂くと闇に包まれるようだ。
バージル「以前はこの空間を利用して遠くへ移動しました。ですが…魔界での終わりのない悪魔たちとの戦いにも飽きて魔界から脱出するために空間移動を試みましたが…何故かこの世界に行きつきました。もう1度空間移動を試みようとしましたが、ご覧の通り行き先は闇に包まれどこへ行くのかも不明です。だから考えました。この世界に来た意味を…丁度鬼に襲われて磔にして陽光で塵にしたのでやるべきことは鬼の抹殺ではないかと考えました。そして今に至るまで鬼狩りを続けています。」
耀哉「父上…スパーダ殿は存命なのかい?」
バージル「わかりません…。俺が幼い時に突然行方不明になり生死も不明です。その時に悪魔たちに襲撃され人間である母親は殺されました。俺も死にかけましたが親父の血を引いてるので傷は治りましたが…弱い自分を呪いました。そしてひたすら力を求めて悪魔として生きる道を選びました。ですが人間の心を捨てきれなかったようです。」
耀哉「……そうだね。君の過去を詮索するつもりはないけど、君の凄まじいまでの鬼との戦いはまるで必死に罪を償おうとでもしているように見えるよ。そして十二鬼月に目を付けられ下弦を3人討ち取った。これから鬼との戦いは激しくなるだろうね。君はそれでもひとりで戦い続けるつもりかい?」
バージル「親父が通った道なら俺が通れぬ道理はないと存じ上げます。」
耀哉「でも鬼たちは君だけを狙ってはくれない。今もこの国のどこかで鬼に食べられている人間がいるだろうね。それは分かってくれるかな?」
バージル「……はい。」
耀哉「それならもっと仲間を頼ってほしい。それが人を助け鬼を倒し君の罪の償いに繋がるはずだからね。話が長くなったが…せっかくの新しい柱の誕生だ…。君の父上の異名にちなんで『闇柱』というのはどうだろう。」
バージル「謹んで拝命いたします。」
耀哉「ではこれからもよろしく頼むよ。みんなもご苦労だったね。今日はこれで解散とするよ。」
「「「「はい。」」」」
お館様が奥への部屋へ下がっていく。
カナエ「バージルさん⁉ やれば出来るじゃないですか⁉ あー心配して損した⁉」
バージル「何というか…お館様の声を聞いている内に自然と言葉が出てきた…。」
天元「悪魔ってのは見たことねえが、お前は誰よりも人間らしいと思うぜ。よろしくな!」
宇髄と握手をした。これでさっきの揉め事もチャラになったと見ていいだろう。
行冥「伝説の魔剣士の息子の力、とくと拝見させてもらおう。」
バージル「親父の名誉のためにも俺は誰にも負けん。」
悲鳴嶼とも握手した。ついでに隠の者に俺の黒コートを渡して柱の羽織について注文させてもらった。後、買い物がしたいので纏まった金が欲しいから蝶屋敷に届けてほしいとも頼んだ。それからは来た時と同じく隠に背負われてどうにか蝶屋敷に着いた。
しのぶ「どうでした⁉ 会議の様子は⁉」
バージル「無事に正式に柱に任命された。俺の親父の異名『Legendary Dark Knight』にちなんで闇柱を名乗ることになった。改めてこれからもよろしく頼む。」
しのぶ「こちらこそよろしくお願いします! あ、そういえば隠の方が鞄を届けてくださいましたよ。」
鞄を渡される。開けると札束がギッシリと入っていた。これなら買い物には困るまい。
バージル「では買い物へ行くか。案内を頼む。」
しのぶ「えっ⁉ もうですか⁉ それでは…銀座へ行きましょう!」
女の買い物は長いとどこかで聞いたがしのぶも例外ではなかった。だがおかげでダイアモンドを拵えた指輪をプレゼントできてしのぶも喜んでくれて何よりだと思った。
下弦の鬼の血気術はバジリスク〜甲賀忍法帖〜の忍の忍術が元ネタです。 陸:風待 将監
肆:朱絹
参:小豆 蠟斎
弐:蓑 念鬼
といった具合です。