―――柱合会議が開かれカナエは正式に花柱を引退した。祝いとしてしのぶも誘って外食へ誘った。カレーライス、コロッケ、とんかつが流行っていると聞いたので片っ端から注文して食いまくった。美味かった。
やがて年が明けた。1912年になった。この年は色々あった。7月30日に明治天皇とやらが崩御し元号とやらが明治から大正へと変わった。それに呼応するように柱も増えた。まずは炎柱、煉獄杏寿郎。燃え盛る炎の如し鮮やかな黄色の髪に毛先は赤みがかっている。性格も実直で正義感が強い男のようだ。
煉獄「バージル殿! 貴方のお父上の伝説を聞いて! 感動しました! そのご子息の活躍も! 聞き及んでおります! これからご指導ご鞭撻のほど! よろしくお願いいたします!」
バージル「そう畏まらなくていい。俺も実際のところ自分の年齢がわからん。」
煉獄「それでは…わかった! バージル! これからよろしく頼む!」
バージル「それでいい。」
次は…蛇柱、伊黒小芭内。どうやら鬼に対して並々ならぬ恨みを抱いているようで俺への接触も不信感に満ちていた。奇しくもオッドアイで忌まわしい記憶が蘇った。お互い第一印象はよくなかっただろう。
伊黒「……お前からは鬼に似た気配を感じる。どういうことだ? お前は信用できるのか?」
バージル「説明するのも面倒だからお館様に直接聞け。」
伊黒「ふん、俺はお前を信用しない。」
ふと時透兄弟の様子が気になったので育手らしい不死川に聞いてみた。
不死川「弟…無一郎だったか。『霞の呼吸』なんてものを生み出しやがった。ありゃあマジモンの天才だな。有一郎もいい才能持ってるが今のところ柱に近いのは無一郎の方だ。それなのに『バージルさんみたいに強くなりたい⁉』ってうるせェのなんの…⁉ 師匠の俺の身にもなれってもんだぜ。」
そんな口ぶりだったが不死川の表情は嬉しそうだった。カナエの引退の時に見せた安堵の表情といい不死川の本質が見えた気がする。そして実際に無一郎は柱になった。『霞柱』だ。
無一郎「お久しぶりです! バージルさん! これからよろしくお願いします! 俺、一緒に戦えるようになって嬉しいです!」
バージル「お前ももう立派な柱だ。俺の背中を追いかけなくていいんだぞ。お前のやり方で任務に励め。」
無一郎「はい! たくさんの鬼を倒してたくさんの人を助けます!」
バージル「その意気だ。」
柱が増え、確実に鬼殺隊の戦力は拡大していった。だが―――。
カナエが引退して1年が経とうとしていた冬のある日、強力な鬼の気配を感知した。近くで任務を果たした場所だった。確か…雲取山といったか。そこをイメージして空間を開き、エアトリックを駆使して夢中で追いかけた。人の気配は…もうしない。間に合わなかったが鬼は絶対に殺すと決めた。真っ白のスーツに黒いコートを羽織った紳士を気取った男が雪道を歩いているのが見える。間違いない、こいつだ、鬼は。ノーモーション次元斬・絶で仕掛ける。全身を斬り刻む。
「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁ⁉」
鬼が苦痛の悲鳴を上げる。切断面からいくつもの脳や心臓がぶら下がっているのが見える。その影響かすぐに再生する。鬼が振り向く。瞳には…何も刻まれていない。
バージル「そうか…お前が…鬼舞辻無惨か…。死の覚悟は出来たか?」
鬼の両腕が触手と化し先端が大きな口を開けて襲い掛かる。日輪刀で両断する。五月雨幻影剣で拘束する。素早くベオウルフに切り替えて魔力を溜める。腹に思いっきり叩き込み、ヘルオンアースで魔力が爆発する寸前―――鬼の体が肉片となり弾け飛んだ。数百、いや千以上か、数えるのも面倒なほどに分散した。微細な鬼の気配を感じ取ってはヘルオンアースをブチ込み続けた。やがて1箇所に肉片が集まる。元の形に戻る。息を荒げて立ち上がる。
「お前は一体…何者だ…⁉」
バージル「さあな、自分で調べろ。」
かつて次元斬・絶ではなく絶刀…数十もの次元斬の連発モードを繰り出そうとした時、
「鳴女⁉」
鬼の叫びと弦の音と共にまた逃げられた。ため息をつく。やがてひとりの鬼と人間が走っていくような感覚と、覚えのある気配が近づいているのを感知した。これは…冨岡義勇だ。直感的に急いで追いかけた。辿り着くと少年と少女が倒れていた。その前に冨岡が立っている。
バージル「何があった?」
冨岡「少女は鬼になった。だが人間である兄を食わずに逆に俺から守るように戦いを挑んできた。だから気絶させた。俺は鬼が人間に戻る可能性に賭けた。お前はどうする? 本部に連絡するのか?」
バージル「どうもせん。半分悪魔の血を引く人間が鬼を狩る時代だ。鬼が人間に戻る可能性もあるかもしれん。お前の話に乗る。俺は遺族の埋葬の準備をする。」
事件現場に戻った。感覚ではわかってはいたものの生存者はいなかった。母親と見られる女性、幼い男女の子供たち、合計5人の遺体の血を拭きとり、外に置いてあった鍬で黙々と墓のための穴を掘った。また守れなかった。忌まわしき記憶が蘇りそうになるのを我慢した。代わりに怒りで血が煮え滾りそうな激情に襲われる。夢中で穴を掘った。いつの間にか人数分の穴を掘り終わっていた。遺体を丁寧に運び穴の前に並べる。さっきの少年が妹を背負って歩いて向かってくるのが見える。
バージル「……最後の別れをしろ。」
少年が妹を地面に寝かせてひとりずつ手を合わせて祈る。5人分全て終わると
バージル「では埋葬するがいいか?」
少年が無言で頷く。丁寧に穴へ運んだ後、土を埋めていく。全て埋め終わり手頃な石を見つけて5個それぞれ置いた。最後に少年の仕草を真似して両手を合わせた。
バージル「行く宛てはあるのか?」
「いくつか山を越えた狭霧山という所に鱗滝さんという方がいらっしゃるそうです。その方を頼って今後のことは決めます。」
バージル「俺は鬼殺隊隊士闇柱バージルという。姓は無い。何か困ったことがあったら声をかけるがいい。」
「ありがとうございます。死んだ家族の埋葬もしていただいてありがとうございました。」
少年が頭を下げる。
バージル「礼には及ばん。せめて鬼だけでも殺したかったが逃げられた。せめてもの罪滅ぼしだ。」
「えっ、鬼に出会ったんですか…⁉ どういう鬼でしたか…?」
俺は外見的特徴と見につけていた服装など詳細に伝えた。
「そうですか…。ありがとうございました。それでは妹…禰豆子と一緒に狭霧山へ向かいます。」
バージル「お前の名は?」
「竈門炭治郎といいます。さようなら。」
バージル「元気でな、竈門少年。」
僅かに微笑んで妹共に去って行った。俺は空間を斬り裂き蝶屋敷へ戻った。グリフォンを呼び鬼舞辻無惨らしき鬼と遭遇したと連絡してほしいと頼んだ。すぐに柱合会議に呼ばれた。産屋敷家に辿り着く。
煉獄「鬼舞辻無惨と戦ったそうだな! 無事か!」
バージル「ああ。詳しいことはお館様がいらっしゃってから話す。」
お館様がおなりになって俺が使ったスキルを実演しながら戦闘の詳細を説明した。
耀哉「脳や心臓が体内にいくつもあるというのは間違いないのかい。」
バージル「はい。俺が先程お見せした斬撃で切断面からいくつもぶら下がっていたので間違いございません。頸を斬ろうとしても無駄でしょう。」
耀哉「千以上もの肉片に分裂したというのも?」
バージル「はい。先程お見せした技が爆発する寸前に分裂しました。僅かな気配を頼りに虱潰しに先程の技を連発した後にやがて1箇所に肉片が集まり再生しました。相当披露している様子でしたが上弦の弐の時と同じように弦の音と共に消えました。どうやら鬼の首魁としての誇りや意地と言ったものは持ちあわせていないようです。」
耀哉「それは厄介だね…。その一瞬で鬼を移動させる配下の者を倒さないと同じことが繰り返される…。」
バージル「俺もそう思います。」
耀哉「わかった。貴重な情報をありがとう。ご苦労だったねバージル。それでは今日の柱合会議は終わりとしよう。」
お館様が奥に下がる。
悲鳴嶼「君の技を見せてもらったがあれだけの攻撃を食らって生きてるとは…相当厄介だな鬼舞辻無惨という鬼は…。」
バージル「それ以上に逃げる方が厄介だぞ。特に肉片に散らばるのは追いかけるのに難儀だった。山中だったから思いっきり技を放ったがひと気のあるところでやられたら追うのは不可能だ。悪魔より質が悪い。自分が不利だと察知したら迷わず逃げるんだからな。」
不死川「悪魔は違うのか?」
バージル「悪魔なら自分が死んでも敵を道連れにしようとするものだからやりやすい。まさか鬼の首魁が迷わず逃げるとは思わなかった。」
伊黒「どうすればいいものか…?」
バージル「鬼の血鬼術を無効化出来る方法があればいいのだが…。とりあえず蝶屋敷のカナエとしのぶにも報告してみる。何か手がかりが得られるかもしれん。」
今日は解散となった。隠の者に運ばれ蝶屋敷に帰る。玄関をノックして入る。しのぶが出迎えてくれる。
しのぶ「どうしたの? 凄い怖い顔してるけど…?」
バージル「今日は散々だった。母親を含む幼い子供たち5人が犠牲になった。生存者の内のひとりは鬼になるし、しかも鬼舞辻無惨には逃げられるしで何もいいことがなかった。」
しのぶ「えっ⁉ 鬼舞辻無惨と戦ったの⁉」
バージル「ああ。強力な鬼の気配に瞳には階級が何も刻まれていなかったから間違いないだろう。」
その後、鬼舞辻無惨の能力を詳細に説明した。
しのぶ「……わかった。姉さんにも伝えてみる。」
バージル「頼む。」
それから風呂に入って晩飯を食ってさっさと布団に入った。襖が開く音、いい匂いがする。
しのぶ「バージル、起きてる?」
バージル「ああ…。」
しのぶ「今日の事なら誰も悪くないわ。私はバージルが無事に帰ってきてくれて安心した。どうか焦らないでね。」
バージル「ああ…。ただ…人間の死体を見るのに飽いた。」
しのぶが一緒の布団に入る。背中を抱きしめてくれる。
しのぶ「こっち向いて。」
向きを変える。唇を重ねられる。
しのぶ「もっと恋人同士らしいことしたい。駄目?」
妖艶な笑み、美しかった。引き寄せられるように抱きしめて続きをした。
早朝、目が覚める。隣にはしのぶ。髪飾りを外して下ろした美しい髪と美しい裸体を見せたまま眠るしのぶ。俺は死ねない。どこにも行かない。しのぶを置き去りにしたまま。そう決意した。
それから約1年と半年が経った。1914年、大正3年の夏に入る頃、新たな柱が加わり定員の9名に達した。単純に柱になる条件なら有一郎がとっくに満たしていたはずだが、同じ呼吸の使い手は柱になれないのか階級が甲のまま足踏み状態の有一郎が気の毒に思えた。新たな柱の名は甘露寺蜜璃
『恋柱』という炎柱の煉獄の弟子らしい。美人でスタイルもいいが髪がピンクで毛先が緑色という奇妙な髪の持ち主である。その上見た目に反して怪力の持ち主だということも判明した。柱の空席が埋まったことで戯れに腕相撲と足の速さ勝負をした。両方とも俺が1位だった。半分悪魔の血が入ってる上に全集中の呼吸も会得しているので身体能力には自信があった。意外だったのは足の速さで悲鳴嶼が3位だったというところだった。あの身長と筋肉の塊で俊敏性にも長けてるとは人は見かけによらないと思った。
そして更に約1年が経った。1915年、大正4年。いつの間にかカナヲが最終選別に合格していた。カナエもしのぶも一切何も教えてないと聞いた。呼吸は花の呼吸だという。カナヲが見たのは俺が保護した翌日に見せたたった1度きりの各武器の試し振りだけだ。それから数か月後にカナエが引退するまでカナエの呼吸法を見ただけで覚えたということになる。密かに鍛錬は続けていただろうが恐ろしい学習能力だと思った。それから数か月後、ついに奴の気配を捉えた。場所は浅草。
現地に向かうと路上が騒がしい。あの竈門少年が男を取り押さえている。近くに鬼舞辻無惨の気配
竈門少年に小声で伝えた。
バージル「竈門少年、俺だ、バージルだ。鬼舞辻無惨は俺が追う。お前は男を取り押さえていろ。」
炭治郎「お願いします⁉ バージルさん⁉」
奴を追う。妻と娘らしき者を車に乗せて見送っている。上手く人間社会に溶け込んでいる。だが俺の感覚は誤魔化せない。ひとりで歩く奴の背中に日輪刀の刃先を突きつける。
バージル「久しぶりだな。俺を覚えているか? 西洋の鬼狩りだ。」
「貴様…⁉」
バージル「また逃げるか? それもいいかもな。そうなったら鬼に出会い次第『鬼舞辻無惨は負けそうになると背中を見せて逃げる度胸無しで根性無しの臆病者だ』と鬼どもに言いふらしてやるぞ。お前らの食料になっている人間たちと本質は何も変わらない弱者だと。どんな反応するだろうな? さあ…どうする?」
「ついてこい…⁉」
バージル「言われなくても裏路地に引きずってでも強引に連れていくつもりだ。」
鬼舞辻無惨が裏路地に入っていく。すかさず俺から距離をとる。
バージル「逃げないのか?」
「お前はここで殺す⁉」
バージル「やってみろ、出来るものならな。」
居合の姿勢を取った。