―――那谷蜘蛛山から帰還して数日後、竈門少年の妹…禰豆子が鬼だとバレたらしい。経緯は不明だが。他の鎹鴉を通じて存在が発覚したとのことだ。緊急で柱合会議が開かれた。例によって産屋敷家に着く。柱は不死川を除き全員集合していた。竈門少年も紐に縛られており地面に転がっていた。とりあえず起こしてから皆に言っておくことがある。
バージル「例の鬼の小娘と彼…竈門少年、鬼を庇っていた隊士の件だが…俺は全力でふたりを守るぞ。」
伊黒「……正気か?」
バージル「当然だ。本来人間の天敵である悪魔の血を引く者が鬼を狩る時代だ。人間を食わない鬼が存在しても不思議ではあるまい。それに鬼を人間に戻す薬を研究中の協力者もいる。禰豆子も竈門少年も失うわけにはいかん。協力者も言っていたが極めてまれで特殊な例だと聞いた。」
悲鳴嶼「バージル…いくら君の意見とてこの件には反対の立場を取る。鬼に例外は無い。」
バージル「常識を疑え。俺の親父なんぞ純粋な悪魔の身で人間に味方して反逆者となって2000年以上も命を狙われ続けてきたんだぞ。そのせいで母親は殺され俺も弟も死にかけたが。鬼にも絶対はないと思え。竈門少年、何か言うことはあるか?」
炭治郎「鬼は俺の妹なんです。俺が家を留守にしている時に襲われ帰ったら皆死んでいて妹は鬼になっていたけど、人を食ったことはないんです。今までも…これからも…人を傷つけることは絶対にしません。」
伊黒「くだらない妄言を吐き散らすな。そもそも身内なら庇って当然、言うこと全て信用できない。俺は信用しない。」
バージル「伊黒…さっきの俺の話を聞いていたか? ならば身内でもない俺が何故庇う?」
伊黒「悪魔の考えることなぞ知るか。大方情に絆されたのだろう。」
バージル「悪魔が情に絆される? ならば何故俺の母親は殺された⁉ 殺すぞ小僧⁉」
伊黒「お前はずっと前から気に食わなかった。俺がお前を殺してやる。」
真魔人に魔人化する。トリガーバーストで不死川と悲鳴嶼を除く柱が吹き飛ばされる。竈門少年に心の中で詫びた。木の枝に寝そべっていた伊黒もバランスを崩して転げ落ちる。何とか足から着地する。その隙を見逃さず峰打ち版次元斬・絶を放つ。力なく倒れそうになる伊黒の髪を掴んで空中に飛ぶ。急降下して顔面から地面に叩きつける。動かない伊黒の後頭部に踵を踏み下ろす――前に
「何やってんだァ⁉ バージルゥ⁉ 次は俺が相手だコラァ⁉」
声の音源の持ち主の背後にトリックダウンで移動する。禰豆子が入っている箱らしき物を素早く奪い、両腕ごと拘束して宙に飛び上がる。回転しながら逆さに急降下する。不死川が顔面を俺の頭部と地面に挟まれながら叩きつけられる。まだ動いている。今度こそ踵を踏み下ろす。何度も。踏みにじり動かなくなる。
バージル「他に文句のある奴はいるか?」
ノイズの混じった声を出しながら全員を睨む。誰も動かない。
バージル「言 い た い こ と が あ る な ら は っ き り 言 え ‼」
ビクッと身を竦ませる。悲鳴嶼も動かない。
「「お館様のおなりです。」」
真魔人化を解き竈門少年を起き上がらせ縁側の前に膝立ちさせる。禰豆子の箱を目の前に置く。
炭治郎「すみませんでした⁉ バージルさん…⁉」
バージル「気にするな。俺が勝手にやったことだ。」
お館様がゆっくりと歩み寄ってくる。
耀哉「騒々しいようだったけど何があったのかな?」
バージル「伊黒、不死川の両名が俺の言うことやることに文句があるようだったので力ずくで黙らせました。庭を汚してしまい申し訳ございません。それから…お館様に先に申し上げたいことがございます。竈門炭治郎及び竈門禰豆子の命は俺が命を懸けて守ります。鬼殺隊を追放されても構いません。」
耀哉「そう焦らないでバージル。炭治郎と禰豆子のことは私が容認していた。そしてみんなにも認めてほしいと思っている。」
悲鳴嶼「ああ…例えお館様の願いであっても私は承知しかねる。」
宇髄「俺も派手に反対する。鬼を連れた鬼殺隊隊員など認められない。」
煉獄「心より尊敬するお館様だが理解できないお考えだ。全力で反対する。」
頭に血が昇る。魔力を集中する。奴らを睨む。俺を中心に風が吹き荒れる。
バージル「さっき『言いたいことがあるならはっきり言え』と言わなかったか? もう忘れたのか? そんなザマで柱が務まるのか? 俺を余程怒らせたいと見える。」
耀哉「落ち着いてバージル。禰豆子が人を食べないと証明すればいいんだね?」
バージル「ならば俺が証明します。おい、起きろ。」
伊黒と不死川の後頭部を蹴り上げて強引に目を覚まさせる。髪を引きずって縁側の前に正座させる。
バージル「黙って見ていろ。」
禰豆子の入っている箱を屋敷の日影まで運んで開ける。禰豆子が出てくる。コートを脱ぎ隊服をはだけて腹を晒す。左わき腹に日輪刀を突き刺す。そのまま右わき腹まで裂く。激痛で眩暈がする。途中で止めるわけにはいかなかった。臓物が溢れ出る。それを掴んで禰豆子に突き付ける。
炭治郎「バージルさん⁉」
バージル「世にも珍しい半人半魔の臓物だ。どうだ? 食いたくないか?」
禰豆子のくわえている竹から涎が溢れ出る。必死で我慢している。顔を背ける。
耀哉「どうしたのかな?」
「バージル様の血まみれの臓物を前にしても鬼の女の子はそっぽ向きました。」
傷が塞がってしまったのでまた裂いて臓物を腹に突っ込んだ。
耀哉「ではこれで禰豆子が人を襲わないことの証明ができたね。炭治郎。それでもまだ禰豆子を快く思わない者もいるだろう。証明しなければならない。これから炭治郎と禰豆子が鬼殺隊として戦えること。役に立てること。」
竈門少年が慌てて頭を下げる。
耀哉「十二鬼月を倒しておいで。そうしたらみんなに認められる。炭治郎の言葉の重みが変わってくる。それから…バージル。無茶をしてはいけないよ。」
バージル「はい…。お前ら…俺と同じ真似ができるなら認めてやる。わかったか。」
コートを羽織って列に並ぶ。伊黒と不死川の視線が突き刺さる。
バージル「何だお前ら…命があるだけ俺に感謝しろ。お前らは只の柱の穴埋め要員だ。それだけのくだらない存在だ。覚えておけ。」
耀哉「そこまでにしてあげてバージル。」
燻ぶった怒りを抑えたままお館様の言葉に従った。隠ふたりが竈門少年を抱えて立ち去っていく。
炭治郎「ありがとうございました⁉ バージルさん⁉」
耀哉「炭治郎…珠世さんによろしく。」
確かに聞いた。『珠世』と。
バージル「お館様、珠世をご存じなのですか?」
耀哉「うん、会ったことはないけどね。バージルは会ったことがあるのかな?」
バージル「はい、浅草で鬼舞辻無惨と上弦の壱に逃げられた後、竈門少年に案内されて会いました。鬼を人間に戻す薬を研究中だと聞きました。蝶屋敷と協力して研究していただくように取り計らっていただけませんか?」
耀哉「そうしたいところだけど…彼女たちの居場所が判明しなくてね…。現在鎹鴉を使って捜索中だよ。」
バージル「承知いたしました。」
今回の柱合会議は珍しく夜まで続いた。産屋敷家のとある一室。
耀哉「皆の報告にあるように鬼の被害はこれまで以上に増えている。人々の暮らしがかつてなく脅かされているということだね。鬼殺隊員も増やさなければならないが、皆の意見を。」
不死川「今回の那谷蜘蛛山の一件ではっきりした。隊士の質が信じられない程落ちている。ほとんど使えない。まず育手の目が節穴だ。使える奴か使えない奴くらいは分かりそうなもんだろうに。」
バージル「人が増えれば増える程制御統一は難しくなっていくものだ。今は随分時代も様変わりしているのだろう。」
悲鳴嶼「愛する者を惨殺され入隊した者、代々鬼狩りをしている優れた血統の者以外にそれらの者たちと並ぶ、もしくはそれ以上の覚悟と気迫で結果を出すことを求めるのは残酷だ。」
煉獄「それにしてもバージルは入隊後間もなく十二鬼月と遭遇しているとは引く力が強いように感じる!中々相まみえる機会のない我らからしても羨ましいことだ。」
バージル「鬼舞辻無惨や上弦の壱と弐にも遭遇しているがな。俺に勝てないようでは到底奴らには敵わんぞ。幸運だったな。」
伊黒「ぐっ…⁉」
不死川「テメェ…⁉」
耀哉「小芭内も実弥も落ち着いて。バージルも悪気があって言ったわけではないんだから。」
「「御意。」」
耀哉「しかしこれだけ下弦の伍が大きく動いたということは那谷蜘蛛山近辺に無惨はいないのだろうね。浅草もそうだが隠したいものがあると無惨は騒ぎを起こして巧妙に私たちの目をそらすから。なんとももどかしいね。しかし鬼どもは今ものうのうと人を食い力をつけ生き長らえている。死んでいった者たちのためにも我々がやるべきことは1つ。今ここにいる柱は戦国の時代…『はじまりの呼吸』の剣士以来の精鋭たちがそろったと私は思っている。私の子どもたち皆の活躍を期待している。」
蝶屋敷へ帰還後、思わぬ来客たちが訪れた。
バージル「雁首揃えて何用だ?」
悲鳴嶼「お館様はああ仰ったが、私たちももっと強くならなければならないと思った。だから力を貸してほしい、バージル。」
バージル「具体的には?」
無一郎「あの悪魔の姿になって俺たちと戦ってください! お願いします!」
バージル「今蝶屋敷は那谷蜘蛛山の負傷者の治療、看護で手一杯だ。これ以上仕事を増やすわけにはいかん。」
不死川「俺たちの怪我は俺たちで何とかする。だからテメェは何も考えずに戦えばいい。」
バージル「死んでも知らんぞ。」
伊黒「構わん。」
バージル「庭に出ろ。」
庭に移動した。真魔人になる。柱全員が俺を囲む。
バージル「纏めてかかってこい。俺を鬼舞辻無惨だと思って戦え。」
宇随、不死川、悲鳴嶼、煉獄の俊敏性の高い4人が両斜め前後から突っ込んでくる。他の4人は頭上から襲ってくる。円陣幻影剣を展開する。地上の4人の脚が止まる。急襲幻影剣と次元斬で空中の4人を迎撃する。連続して五月雨幻影剣を放ち拘束する。奴らの中央に立ちヘルオンアースを地面に叩きこむ。吹っ飛ぶ奴らに次元斬・絶でギリギリ臓物が飛び出ない程度に浅く斬って追撃する。地面に倒れて意識のある奴は片っ端からエアトリックで接近して顔面に踵を踏み下ろす。残るは沈黙。真魔人化を解く。日輪刀を鞘に納め正面でクルリと回転させてから腰に携えその姿勢を維持する。次第に消費した魔力が充填される。魔力も溜まり姿勢を解く。ため息をつきながら前髪をかき上げる。
バージル「You`re wasting my time….」(時間の無駄だな…。)
起き上がろうとする柱を見つけては動かなくなるまで顔面に踵を踏み下ろした。
「バージル、どうしたの?」
バージル「しのぶか、どうもせん。俺の悪魔の姿で戦ってほしいと頼まれたから戦ったが…このザマだ。期待外れだな。」
しのぶ「柱全員…よね。私もバージルの悪魔の姿見たいって言ったら見せてくれる?」
上目遣いで懇願するしのぶ。美しいと思った。トリガーバーストで吹き飛ばされないように抱き留めて真魔人化した。
しのぶ「凄い…⁉ 伝説の龍が人の形をしたみたい…⁉ それに…凄い迫力…⁉ よくみんな戦えたわね…⁉」
バージル「俺ひとりに敵わないようでは上弦どもに遭遇しても通用するかどうか…というところだ。ましてや鬼舞辻無惨なんぞ論外だ。全滅だな。それから奴らの治療は一切しなくていいぞ。自分の傷は自分でどうにかするらしい。」
しのぶ「わかった…。殺さないでね。」
バージル「奴らに言えばいい。手加減するのも中々難しい。」
奴らが起き上がるのをひたすら待った。ようやく全員起き上がった。
バージル「待ちくたびれたぞ。退屈しのぎにもならん。真魔人になるまでもない。」
悲鳴嶼「『真』魔人ということは通常の魔人の姿もあるということか?」
バージル「ああ、長らく使っていないが。」
悲鳴嶼「ではそちらの姿でもう1度手合わせしてほしい。出来るか?」
真魔人の時のように魔力を凝縮するのではなく体全体に薄く張り巡らせるように意識した。
バージル「Now, I'm motivated!」(少しだけ、本気を出してやろう!)
両腕両脚、胴体を見る。真魔人程ではないが鱗に覆われている。蒼コートも鎧の如く、頭部を触る、兜の如く変質している。上手く調整出来たようだ。
バージル「Let`s have some fun.」(遊んでやろう。)
幻影剣を指先で回転させながら砕く。言葉は通じていないだろうが意図は伝わったようだ。
不死川「舐めんじゃねえェ⁉」
また同じく4人が突っ込んでくる。円陣幻影剣を展開する。斬り刻まれても構うことなく刀を振ってくる。だがこの程度の攻撃で俺は止まらない。4人から攻撃を受けながらミラージュエッジを手にラウンドトリップを至近距離で回転させる。空中の4人もまとめて吸い込まれる。ランダム式の絶刀を繰り出す。死なない程度に威力を調整する。悲鳴嶼だけが耐えて踏ん張る。ジャスト次元斬3連発を叩きこむ。奴も倒れる。
バージル「Huh…disappointing….」(はぁ…つまらんな…。)
魔人化を解く。じっと奴らを眺める。起き上がる気配はない。放っておいて蝶屋敷へ帰った。しのぶが出迎えてくれた。
しのぶ「どうだった、バージル?」
バージル「最後は意地は見せたが結果は変わらなかった。弟と殺し合っていた方が余程時間を潰せた。」
しのぶ「えっ⁉ 弟さんと殺し合ってたの⁉ どうして⁉」
バージル「どちらが強いか、単純に知りたかった。決着は付かなかったが。」
しのぶ「弟さんに会いたい?」
バージル「いや…そうなればお前と別れなければならなくなる。それは御免だ。」
しのぶ「ふふっ嬉しい! ねえ一緒にお風呂入ろう!」
一緒に風呂に入った。一緒の布団で恋人同士の営みもした。燻ったストレスはどこかへ消えた。