ナラカの存在を認知した人達
TOPS「……知らん……誰それ……怖……というか、市政は何をそんな警戒しとんの?」
市長「誰ぇ!? なんか探してた二人に知らない男が生えてて保護者やってるんですけどぉ!?」
結社「誰ぇ!? なんか二人とレミエールが仲良くなってる知らない男が生えてて傍にいるんですけどぉ!?」
新エリー都の外で生えて、単なる余分だからって旧都陥落から好き勝手やってる、そんな主人公。
泣いた時も。
落ち込んだ時も。
もう立ち上がれないと
いつも何も聞かずに。
いつも傍にいてくれて。
いつもお腹いっぱい食べさせてくれたっけ。
気づいてた?
私達には、それだけで十分だったんだよ。
なので、責任を取ってもらいます!
目指せ、夢の三世帯住宅ー!
あ、あと性癖を歪めた責任も一緒に。
朝の挨拶と一緒にするケツ叩きは絶対やめないから。絶対。
「はー♥ 落ち着くー♥ これぞ幸せ……♥」
ナラカの仕事場、その二階でリンは恍惚に耽っていた。
ソファに寝そべり、ナラカの作ったフライドポテトをおやつに、あまり興味のないニュースを垂れ流すテレビを眺める。
だらしない体勢のまま、テーブルへと手を伸ばし、フライドポテトを口へ運ぶ。
ポテトは外はさくさく、中はしっとりほくほく。ナラカ自ら調合したスパイスの香りと塩気とじゃがいも本来の甘味が合わさり、いくらでも食べられそうだった。
これにケチャップやマヨネーズをつけると最早、悪魔的な旨さ。一度食べ出すともう止まらない。
そして何よりも──
「リン! テメェ、人のズボンで手ぇ拭くんじゃねぇ!」
「これはね、手を拭いてるんじゃないの。ナラカの足を撫で回してるだけだから」
「もっと怖い事実でてきたんですけどぉ!」
「どぅへへへへへ……♥」
ナラカの丸太のような脚は、枕としていささか高い。
しかし、しかしだ。
そのバッキバキの見た目に反し、とにかく柔らかい。
力強さと柔軟性を兼ね備えたお太ももの筋肉。その奥にある太く厚い骨の固さ。
もしかしたら、肉食獣の身体はこんな感じなのかな、と撫で回す。
そうしていると、ナラカの大きい手が頭に置かれる。
固い皮に包まれ、人間らしさをすっかりと失った無骨な手の感触に、髪と頭を撫でられるのがリンは好きだった。
「……ふぁぁ♪」
「まったく、甘えやがって。オレやアキラ以外の野郎に甘えろよ」
「えー、やだー、そんな相手いないもーん。因みに、私の理想はナラカよりもエッチで安心感があって、お兄ちゃんより優しい人です」
「オレは兎も角、アキラよりも優しいとか……お前、一生結婚できねーぞ。妥協しろ妥協」
「妥協などしない……! 妥協するくらいなら結婚など、しない……!!!」
「リンさん! そんなに力強く断言しないで! オレを安心させてくれ!」
自分でも意識して作り上げた低い声と強固な宣言に、ナラカは悲鳴を上げる。
彼にしてみれば、養っている二人が手元を離れていくのは寂しくはあるが、それ以上の喜びと安心があるのだろう。
だが、リンには関係がない。
婚期が遠退いていくのは、うすら寒くなるほど感じているが、こればかりは譲れないのである……!
「しかし、世間は騒がしいな。治安局もえらいことになってるし、朱鳶さんは大丈夫かねえ」
「…………うん、そうだね」
穏やかな一時を過ごしていたリンは、気分が落ち込んでいくのを感じた。
テレビから流れるニュースは、ヤヌス区総監選挙へ立候補していた治安局のジャスティン・ブリンガー副長官の不祥事に関して。
ニュースなんてものは、センセーショナルであればあるほど視聴率を稼げるもの。
真の報道を考えず、視聴率だけを追求するならば全てが真実である必要など何処にもない。
事実、大半は憶測で市民の不安と治安局へのバッシングを不要に煽るものばかり。
何故憶測だと言い切れるのか、実に単純な理屈。
リンもまた事件の当事者であり、自らの目で真実を目撃したからに他ならない。
ヴィジョンコーポレーションの旧地下鉄爆破計画。
バレエツインズへの飛行船突入事件。
被告人パールマンへの傭兵襲撃事件。
真の目的であった現代の虚狩り・星見 雅の持つ妖刀奪取。
すべてが繋がっており、それらにはブリンガーの影があった。
更には、そんな彼すらも操る何者かがいるらしく。
『“真の元凶”へと至る幻に溺れるがいい……』
それが、サクリファイスという怪物と化したブリンガーが、今わの際に残した言葉。
リンとアキラにとっても、二人の大切な人達にとっても、新エリー都にとっても、敵でしかない人物の言葉が頭の中で響き続ける。
旧都陥落の折、失われた帰る場所。
其処で目撃したのは、見たこともない武装をした兵士、ブリンガーが呼び出した白い腕の怪物と同じモノ。
それが最愛の人────先生を、カローレ・アルナを連れ去った。
ブリンガーが何かを知っていて、何らかの繋がりがあったのは間違いない。
間違いないのなら、最後の言葉も、散り際に放った苦し紛れの負け惜しみでは────
「何だ、随分落ち込んでるじゃないか」
「わわ! もー、髪の毛ぐしゃぐしゃにしないでよー!」
暗く落ち込んだ気分でいると、ナラカに勢いよく頭を撫でくり回される。
折角セットした髪も、これで台無し。
髪は女の子の命なんだぞ、と思いながらも、先生とも兄のそれとも違う手荒く雑ながらも、気持ちだけは籠った掌の感触が愛おしい。
初めの内はその掌から逃げようとした記憶がある。
無力感と罪悪感から、褒められること自体を忌避していた。
伸ばされる手から頭を逃がし、迫る掌を自分で反らさせて避け続ける日々。
『いい加減にしとけよ、お前ら。大人しく撫でられとけ』
『わー、わー! これ撫でてない! 撫でてない!』
『こ、こんなの虐待だー!』
そんな日々の中、面倒臭い、と無表情ながらも青筋を立てたナラカに頭をむんずと片手で掴まれ、兄と一緒に持ち上げられた。
以降は、もう逃げる気力さえも奪われて。
力では絶対に敵わないというのが分かったし、それ以上にむず痒さと心地良さに自分から頭を差し出すほどで。
ボロボロになった心と身体が、癒えていくのを感じた。
けれど、今日ばかりは、気分は落ち込んだまま。
『……私は信じられませんでした。店長さんが、私達を騙しているなんて……』
事件の最中、ナラカの口に上がった朱鳶から浴びせられた視線と言葉。
深い失望と悲しみの色で染まった瞳は、リンの心を曇らせるには十分だった。
プロキシ業は、非合法の裏稼業。
治安局、ひいては秩序側に属する朱鳶に、その正体を明かせるはずもない。
ただ、それはリン側の意見。
朱鳶にしてみれば、信頼には信頼で返して欲しかったのだろう。
彼女は優秀な治安員で少々頭の固いところがあるが、柔軟な対応ができないわけではない。
少しでも自分達が誠実であったのなら、もっと別のやり方があったのではないか。
そう、思わずにはいられない。
結果として、朱鳶を傷つけ、自分はこうして落ち込む羽目になっているのだから。
「…………さて、と」
「あぅ。もー、もっと枕になっててよー」
「もう昼飯時だからな。何が食いたい? 好きなもん作ってやるよ」
すると、ナラカはリンの頭を持ち上げ、自らの脚の代わりにクッションを差し込んで立ち上がる。
折角の極上マクラが安物のクッションに代わってしまい、リンは文句を漏らしたが、彼の言葉を聞いて目を輝かせた。
「じゃあ! あ、待って! いや、うーん! えーっと!」
「言っとくが、材料がなけりゃ、出来ねえもんは出来ねえからな?」
「いや、大丈夫! ナラカは材料買いに行っても作ってくれるから!」
「お前ねぇ…………まあ、買いには行くけどさぁ。これはオレが甘やかしてきたのが悪いかぁ……」
リンは知っている。
ナラカがこうして食べたいものを聞いてくるのは、自分達が落ち込んでいる時。
どんなものをリクエストしたとしても、面倒くさい面倒くさいと呟きながらも、必ず出してくれる。
これまでの積み重ねが、リンに疑いを持たせることさえさせなかった。
彼女の頭に浮かんでくるのは、これまでの美食の数々。
簡単な家庭料理から、外食でも滅多に見れない手の込んだ一品、更には聞いたこともない料理まで。
その中で気分と共に思い浮かんだ一品を口に出す。
「オムライス、今日はオムライスがいい……!」
「まあ、それくらいなら簡単な部類だな」
「但し、卵を三個使ってオムレツにして、チキンライスの上に乗せて開くやつで! ソースはデミグラスソースにした、一流ホテル風……!」
「急にハードル上げてきた!」
別に普通のオムライスでも味は大して変わんねーだろ、と文句を言いながらも、ナラカは冷蔵庫の中から食材を取り出し始めた。
ソファの背もたれに向き直って頬杖をついて、その背中を眺める。
自分や兄と比べても大きい背中に、様々な思い出が蘇ってきた。
街のチンピラに絡まれた時、前に出て壁のように相手を阻んでくれた昼下がり。
気晴らしに遊びに行った海で、遊び疲れてしまい、背負われて帰ってきた夕暮れ。
疲れて家に帰ってきても、必ず台所で調理に勤しんでいる後ろ姿を見せる夜。
特別など何一つない、誰もが一度は体験したであろう日常。
それが、どれだけ心を軽くしてくれたか。
それが、どれだけ喜びを与えてくれたか。
ナラカには分からないだろうなぁ、とリンは玄人ぶりながら首を振った。
(しかし、ナラカめ。今日もTシャツ、ピッチピチじゃん! ジーンズも脚もお尻もパツンパツンなんですけど? 何? そんなに服を虐めて楽しいの? この家族、スケベすぎるッッッ!!!!)
そもそも、自分の周りには男も女もスケベな人が多すぎる……!
邪兎屋、白祇重工、治安局特務捜査班、都市秩序部、ヴィクトリア家政、カリュドーンの子、H.A.N.D。
どの陣営も、視覚をぶん殴ってくるクソつえービジュから繰り出される貧・大・巨・爆乳、ロリ、おね、おに、ママ、メイドに執事、ドジっ子、警官、アウトロー、モフモフ、獣耳と尻尾、草食から肉食、果ては海洋生物まで網羅されていてケモナーすらも大歓喜。
何これ? スケベの博覧会? 性癖の詰め合わせセットなの? これ以上私の性癖を歪ませるつもり? あ、ニコは別。ニコだから。
もうリンの性癖と性欲は限界である。
しかし、彼女は自ら掲げた“Yes、視姦! Noタッチ!”を標榜とする淑女を自認していた。
なので、今日も今日とて家族にして、性癖崩壊のキッカケであるナラカで発散すると心に決める。
静かにソファから立ち上がり、抜き足差し足忍び足で近づいていった。
「とーつーげーきー……!」
「おいおい、料理している時に────なあ、なんで人の胸揉んでんの?」
「スキンシップ! 家族のスキンシップだから! おっほほほ♥ このでっけぇ雄っぱい♥ やわらかっ♥」
「当にスキンシップの範疇を超えておりますがぁ!? いってぇっ! 今度はケツ叩くんじゃねえ!!」
「この音っ♥ この張りっ♥ この感触っ♥ ぷりっぷりなのにキュッと引き締まって、こんなのもう引っ叩かなきゃ失礼でしょ♥」
「そんな礼、聞いたことないんですけどぉ!!」
「“ある”のがいけない! “ある”のがいけない!!」
そうして淑女リンちゃんは、明後日の方向を向きながら髪をかき上げ、もう一方の手で思う存分にスパンキングセクハラッシュを叩き込むのであった。
「おらよ、お待ち」
「ほぉぉ♥ これこれ♪ 卵が、オムレツが、黄金に輝いているよぉ~~~~!」
テーブルに座ったリンの前に出されたのは、リクエスト通りのオムライスと付け合わせのサラダとオニオンスープ。
綺麗に形を整えられたチキンライスの上には、黄金色に輝くオムレツが乗っている。
そして、いい加減セクハラッシュにキレたナラカによる拳骨によって出来たタンコブがリンの頭にも乗っていた。
オムレツの焼き加減は完璧。焦げ目一つなく、破れどころか繋ぎ目さえも見当たらない。
テーブルに置かれた時の軽い衝撃でぷるぷると揺れ、途方もない柔らかさが伝わってきた。
「そして、こう……!」
「おぉ、おおぉぉぉぉ……!」
ナラカがオムレツにナイフを滑らせて中央に切れ目を入れただけで、何もせずに自重だけで左右に開く。
艶のある半熟卵の幕が皿全体に広がり、もうこれだけで涎が止まらなくなる。
「更に、これで完成……!」
「ふぉぉ、う、美しい……!」
「泣くほど? 泣くほどか?」
最後に、小鍋からお玉で回しかけられるデミグラスソース。
市販の缶詰を使用したものであるが、玉ねぎのスライスと牛こま肉を入れて煮込み、ナラカが味を調えたものであり味もグレードアップされている。
己の考える最高のオムライスが目の前に現れ、思わずリンの目から涙が零れ落ち、頬を伝った。
「じゃあ早速、いただきまーす! あーむっ!」
蕩ける卵にデミグラスソースをたっぷりとかけ、スプーンで掬い上げて一口。
そのまま飲み込めるのではないか、と思うほどとろとろふわふわの卵とデミグラスソースの芳香が鼻いっぱいに広がり、自然な甘味が広がっていった。
噛めば、ソースの中に入った玉ねぎと牛こま肉の旨味が優しく
チキンライスはケチャップではなく自家製のトマトピューレを使用し、しっかりと水分を飛ばしたため、酸味も抜け、べちゃついた印象もなかった。
デミグラスソースの濃い味わいを楽しむために、味付けは控えめであったが、その分だけ素材の旨味が生きている。
時折混ざる歯応えはピーマン、ニンジン、玉ねぎの微塵切り。ピーマンの僅かな苦味が、ニンジンと玉ねぎの甘味をさらに際立たせていた。
「美味しい。美味しすぎる……! よぉし、今こそお前はキングオブオムライス……!」
「何? お前、師匠か何か? 何を継承させたの? このまま握りつぶされるの? そのまま爆散するの?」
「はぐっ! はむっ! んぐぐっ、ごくんっ! はむはむっ!」
「毎度毎度思うんだが、落ち着いて食えよ。料理は逃げないだろうに」
一瞬、スプーンを握ったリンの右手に、摩訶不思議な紋章が浮かび上がったかのように見えたが、気のせいだろう。
噛み締める度に食の幸福が舌の上に広がり、もう二度と空腹の心配をしなくていい安心を感じながら、リンは思わず微笑んでいた。
「何だよ、どうかしたか?」
「んーん、何でもない♪ ナラカの愛情を感じてただけー♪」
「オムライス如きに愛情なんか込めてねーよ。料理は科学と合理だ」
「ひどーい! 私の感じた愛を否定しないでよー!」
対面の椅子に両手両足を組んで座ったナラカは普段通りの無表情。
だが、細められた目に浮かぶの、柔らかで穏やかな光。それを慈悲と愛と呼ぶものだとリンは知っていた。
鋭い目付きに反した優しい光に、気恥ずかしさと心地良さを感じ、精一杯に感謝を詰め込んで微笑んで返す。
──だから、キチンと私達の口から伝えないと。
朱鳶を傷つけた愚行を、繰り返すつもりはない。
失われた信頼は、自分で取り戻す。でも、その前に。
返そうと思っても返し切れない恩がある、大好きな家族に、自分達が何をしているのか、何が目的なのかを告げないと。
何年も黙っておいて、今更虫が良すぎる話かもしれないけれど。
それが、誠実さなのだと、思うから。
リンちゃん。
脳焼き被害者その1&性癖破壊被害者その1。
なお、ナラカを異性として愛しているわけではない。もうそういったレベルを超越した親愛を抱いており、カテゴライズが家族。
なお、性癖も性欲もあるし、周りの人間がエッチ過ぎるので、ナラカにセクハラッシュを仕掛ける模様。
また自分と同じで他人をよくない目で見ている者以外には、よくない目で見ていることに全く気付かれていない淑女の鏡。そんな見方を教えたのはナラカです。
ナラカ。
目付きが鋭すぎて、この世全てに不満がある顔付きになってしまっているが、顔立ち自体は整っていて、イケメンというよりも漢前。
アキラとリンへの教育方針は、全力で褒める、間違ってたら叱る、あと優しくして腹いっぱい食べさせて、傍にいるという至極単純なもの。
なのに二人の性癖が破壊されちゃったのは、妙な色気があるから。
服装さえしっかりすれば、ライカンやヒューゴに挟まれても違和感がない。
あーぁ、(二人の性癖が)壊れちゃった。