終末世界のラーメン屋台の店長さん   作:一反木綿豆腐

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アンケート回答ありがとうございます。
今回も引き続き、一人称で。



『パエトーン』とナラカ

 

 

 まったく、どいつもこいつも。

 反吐が出るとは正にこのことだ。

 

 プロキシだの、パエトーンだの。

 おかしな持ち上げ方をしやがって。

 

 あの虚(うろ)──ホロウから人々を帰るべき場所へと送り返す。

 成程、ホロウ災害に脅かされる世界にとって、確かに何より求められる能力と人材ではあるか。

 

 

 ……ん? もしかしてアレか?

 他の連中からすると、オレがそれ目当てで二人に手を貸したと思われてたりする……?

 

 

 ふざけた話だ。

 オレは二人にそんな役割求めていないし、そんな力が真価だとも思っていないんだがなあ。

 

 

 


 

 

 

「ったく、何なんだってんだ一体」

「ンナナッ(二人とも真剣な表情をしていた。大事な話だよ、きっと)」

「大事な話ねえ。今更だろ。あ、いや、誰かと結婚するとかそういう話か?」

「ンナッ!(それはめでたい! でも、寂しくなるね……)」

 

 

 朝まで店を出して、そのまま諸々の片付けと仕込みもやって。

 そろそろ寝るか、というタイミングで、アキラから連絡があった。

 

 何でも、“大事な話があるから「Random Play」(家)に来てほしい”だとか。

 

 声色は硬かった。

 だが、覚悟の響きはあったか。何しろ、声に震(おび)えだけはなかった。

 

 「Random Play」の裏手。

 駐車場側の裏口、その僅かに建付けの悪い鉄扉を押して、中に入る。

 

 

「あ、ナラカ、おはよう」

「おはよう。来てくれたね、待っていたよ」

「……おう、おはようさん」

 

 

 廊下を進み、無数のビデオが棚に並ぶ店内へと辿り着くと、アキラとリンが待ち構えていた。

 アキラは店のカウンターに寄り掛かり、リンは椅子に座っており、その瞳は隠しようのない不安と、それを押しのける強い意思の光を放っている。

 

 どうやら、結婚の話ではなかったようだ。

 残念。二人に一人立ちが来て、安心して見送る時が来たのかと思ったのだが。

 

 

「ンナッ(ガウタマっ! いらっしゃい!)」

「ンナナッ(皆! 王だ、ボクたちの王が来た!)」

「「「ンナッ! ンナッ! ンナッ!(王ッ! 王ッ! 王ッ!)」」」

 

「ンナァ、ンナナッ!(ふふふ、もっと褒め称えてもいいんだよ、我が精鋭達)」

 

 

 そうしていると、店のあちこちからわらわらとボンプ達が湧いて出てくる。

 イアスを筆頭とした、アキラとリンのボンプ達は、オレの肩(定位置)から降りたガウタマの周囲に集い、賞賛の歓声を上げ始めた。

 

 おうおうおうおう、とオットセイか己らは。

 

 ガウタマが来ると大抵のボンプはこうなる。

 もうボンプ用の洗脳電波でも発しているのかと疑いたくなるほどだ。

 

 オレから見れば単なる相棒だが、ボンプから見ると凄まじいカリスマを秘めているらしい。

 

 ボンプの気持ちも分からないでもない。

 心を与えられてはいるが、ボンプは本質的に道具。

 自身と比較にならないほど性能に優れたボンプを見れば、王と呼びたくもなるのだろう。

 

 いや、やっぱり気持ちは分からねえわ。

 誰かに利用される安堵と歓びなど分かりたくもない。

 

 

「こっちに来てほしい。見せたいものがあるんだ」

「見せたいものねえ。食いたいものでもできて、何か買ってきたか? 面倒な料理は勘弁してほしいんだが」

「ううん、そういうのじゃないよ。そういうのじゃ、ないんだ」

「……そうかぁ」

 

 

 カウンターから移動した二人が向かったのは、「STAFF ONLY」の看板が掲げられた扉の前。

 二人の心持ちを表すかのように、鉄扉が軋みながら開いていく。

 

 その向こうは、単なる物置と聞かされていた。

 確かめるつもりもなく、その必要もないと考えていたのだが、もうそういった段階ではないらしい。

 

 まったく、二人揃って出会った時と似た顔をしやがって。

 今にも泣きだしそうな、見ている方が辛くなるような顔だ。

 

 だが、やはり、目から光は失われていない。

 アキラとリンの心とは裏腹に、オレの胸中に飛来した静かな歓び。

 

 成長の光というものは、それが誰のものであれ、常に眩しく美しいものだ。

 

 

「これは、何だ……?」

「H.D.Dシステムというホロウの内外を繋ぐ通信装置だよ」

「私達が、旧都陥落の時に持ち出せた先生の研究成果」

 

 

 通された部屋の中は薄暗く、電灯とは別の光で照られていた。

 

 壁一面に取り付けられた無数のディスプレイ。

 その前に鎮座するパソコンが、アキラのいうH.D.Dシステムの核なのだろう。

 

 記憶を探れば、関連する知識もありそうだったが面倒なのでやめておく。

 

 オレは記憶力がいい。

 イヴリンやライカンさんが気付いたように、かえしと出汁の量を客によって変えているのは、五感から得られる情報で好みを判定する観察眼故。

 しかし、二度目以降は以前の顔色などと比較して、ベストの割合を導き出している。

 

 最早、超記憶症候群(ハイパーサイメシア)の域にある。

 もっとも、通常のそれとはからくりが異なるらしいが。

 オレの場合は、記(・)憶(・)の(・)方(・)式(・)そのものが違う、とガウタマは言っていたか。

 

 そんなわけでオレに忘却は存在しない。

 けれど、膨大な記憶から必要な情報を引き上げる工程が挟まって面倒なので、アキラとリンの語るに任せよう。

 

 

「どういうシステムなんだ……?」

「専門的な内容は避けるけど、端的に言うとホロウの内外で通信が行える。それもタイムラグなしで」

「へぇ、そりゃ凄い。で、それがどうかしたか……?」

「これを使って、私達はプロキシをしてるんだ。それで、パエトーンなんて呼ばれてて……」

「パエトーン、パエトーンか……小耳に挟んだことはあるな。何でも、当代一のプロキシなんだって? やるじゃないか」

「「でぇへへへへへ!」」

 

 

 あんまりにも暗い顔をしているので、冗談交じりに褒めてやる。

 すると、二人揃って頬を染め、照れながら後頭部を掻き出す。

 他人に褒められると謙遜する癖に、オレが褒めるとすぐに喜ぶのは何だか面白さ感じるな。

 

 常にそれくらい単純な方が、もっと、ずっと生きやすいだろうに。難儀な奴等だ。

 

 しかし、パエトーンねぇ。

 確か、神話の英雄で太陽神の息子だったか。

 友人にいじめられ、冒険の末に父親の下へ赴き、空を駆ける太陽の馬車を貸し与えられながらも約束を破り、天地に災厄を齎したという。

 

 通り名にしたってもうちょっと別の何かがあっただろ。

 ホロウの道先案内人って意味なら、天孫降臨の猿田彦命(サルタヒコ)とか。

 ああいや、こっちの神話は新エリー都には残っていないか。

 

 

「おこ、ってる……?」

「いや、別に。裏でコソコソ何かやってるのは知ってたしな」

「うん、そんな気はしてたよ。じゃあ、僕達の目的は……?」

「カローレ・アルナとヘーリオス研究所だろ?」

「そこまで、分かってたんだ」

「お前ねえ。何年一緒に生活してきたと思ってる。ヒントはあった。答えを導き出すのに苦労はしねえよ」

 

 

 恐る恐るこちらの様子を伺うリンと硬い表情のままのアキラ。

 あまりの間抜けっぷりに思わず呆れてしまう。

 怒る理由など何処にもない。二人は己の目的のため、必要な手段を取っただけだ。

 

 その末に、二人がどんな悲惨な末路を迎えたとしても、オレは憤りさえしないだろう。

 己の人生を生きるために、己で選んだ道だというのなら、オレが口を挟む余地など何処にもない。好きにすればいい。

 

 もし怒りを覚えるとするのなら、それは二人を利用し、私益を貪る何者かが現れた時だけだ。

 

 

「ヒントって何が……?」

「いや、他の連中は察せんとは思うが。ほら、会って一ヵ月くらいの時だ。リンがラジオを叩き壊したことあっただろ」

「…………あったね。確かにあった」

「え? 私、そんなことしたっけ? ぜんぜん記憶にないけど……」

「そりゃ、覚えていたくないくらい嫌な思い出だったからじゃないか? その時流れてたのがカローレ・アルナについてだった」

「そう、だった。その後で、僕は……」

 

 

 リンはまだ思い出せないのか首を捻り、アキラは自分の失敗を自覚して片手で顔を覆う。

 

 まだ家も持たず、廃墟で共同生活を送っていた時だ。

 リンが何もかもに耐え兼ねたように、泣きながらラジオを床へと叩き付けた。

 

 突然の出来事にアキラは固まり、オレはこわーなどとドン引き。

 暫らく毛布に包(くる)まって啜り泣いていたリンは、やがて泣き疲れて眠ってしまった。

 

 それを横目に、市政からの配給品やらオレが拾ってきた缶詰を、アキラと食べていると唐突に口を開いた。

 

 

『あの、ナラカ、さんは、どう思う……?』

『口ん中パッサパサになるな、これ……何が?』

『その…………カローレ、アルナが、……旧都陥落を起こした、張本人だって』

『知らん。分からん。どうでもいい』

『………………えぇ』

『だってオレ、エリー都来たばかりで思い入れなんてないし、期待してもいなかった。ただ見に来ただけだもん』

『そう、なんだ……』

『そもそもニュースもラジオも、その女を犯人犯人いうばっかで、犯人である理由も根拠も語っていない。オレには判断材料がないわけだ。それでどうこう言えるわけないだろ?』

『……うん…………ありが、とう』

 

 

 あまりにも不用意な発言の後で、自分の失態も気づかずに泣き出したアキラに、カローレ・アルナと近しい人物であると確信した。

 

 それでどうこうするつもりなんぞ、オレには全くなかった。

 助けて欲しいと手を伸ばしてきたから、手を取ってやっただけ。

 別の何かが後から生えてきても、手を放す理由にはならないだろう?

 

 街に思い入れなんてなかったのも事実だ。

 旧都陥落を前にしても、なんか来たばっかなのにエラいことになっとる! 程度の感想しかなかったし。

 

 だが、今はカローレ・アルナに違う結論を抱いているのも、また事実。

 

 

「それで、H.D.Dシステムとやらは、お前達の目と頭ん中に埋め込まれてるもんと連動してるのか」

「え? どうしてインプラントのこと分かったの……?」

「エーテルには敏感なんだよ、オレ。だからそれに関連した技術が近くにあると何となく分かる。何をしてるかまでは分からないがな。ま、ただの体質、才能だ」

「…………ナラカも、僕達に話していないことがあるんだね」

「当たり前だろ。オレの場合は隠してるわけじゃないけどな。単純に説明するのが面倒でぇ。何処から説明していいかも分からなくてぇ。タイミング逃してもっと面倒になっちゃてぇ。もう説明する気も起きなくなっちゃってぇ」

「お兄ちゃん! ナラカ、私達より酷い理由で話してくれてない!」

「妹よ、これがナラカだ! 知っていたろう!」

「あとな、お前らの目が時々ペカペカ青く光ってるの見る度に、キッショッ! 何で目が光るんだよ! とかも思ってた」

「「酷い!!」」

 

 

 オレもまた様々な秘密を抱え、語っていない事柄が多くあることを悟ったのだろう。

 

 二人の顔に安堵が広がる。

 どうやら、この程度のことで怒りもしない関係性も変わりはしない、とオレの思いは伝わったらしい。

 

 ただ、一つだけ言っておかねばならないことがある。

 

 

「それと、カローレ・アルナとヘーリオス研究所についてだが……」

「何か、知ってるの……?」

「それとも調べて分かったことが……?」

「オレが言いたいのは、情報じゃない。単なる所感だ」

「所感……ナラカがどう思っているかってことだよね?」

「…………聞かせてくれるかい?」

「ああ。ハッキリ言うぞ。其処で育ったお前達には分かりにくいかもしれないが、どっちもまともな人でもなければ、場所でもないからな」

 

 

 ガウタマと共にカローレ・アルナとヘーリオス研究所について調べたが、まったく情報は出てこない。

 どんな秘密があるのかは知らないが、完璧に情報封鎖を行わなければならない理由があるのだろう。

 もっと深く調べようと思えばできたが、その場合は何処かの勢力にこっちが補足されかねないから止めておいた。

 

 その上で、断言する。

 カローレ・アルナも、ヘーリオス研究所も、まともではない。

 

 例え、世界を救う大義があったとしても。

 例え、それしか手段がなかったとしても。

 

 ガキの身体を切り開いて、得体のしれないものを埋め込むなど。

 背負う必要のない責務を子供に背負わせるなど。

 

 人間の獲得した倫理と尊厳からしても、決して肯定されるはずがない。

 

 これはオレの結論ではない。

 人類の結論であるべきものであり、それに沿うならば、奴等の行いは必ず否定されなければならない。

 

 例え二人を傷つけることになったとしても、これだけは告げておかなければならなかった。

 

 

「…………うん。うん、ナラカなら、そう言うって思ってた。大丈夫、分かってるよ」 

「その上で、僕達は真実を知りたい。それを知らなければ、僕達は前に進めないんだ」

「待っているのが、お前達にとって酷でしかない事実だとしても……?」

「大丈夫だよ! お兄ちゃんも、イアスも、ナラカもいる! 皆もね!」

「どんな真実であっても、僕達は受け止められる。ナラカが毎日美味しいご飯を作ってくれたからね」

「言うじゃないか…………おい、よく顔を見せてみろ」

 

 

 二人が微笑みを浮かべた顔を向ける。

 

 その瞳は不安に濡れているが、迷いは微塵もない。

 確かな決意と穏やかな覚悟の浮かぶ、いい面構えだ。

 

 まったくカローレ・アルナも、ヘーリオス研究所も、TOPSも、市政も、この街の誰も彼もが何も分かっていない。

 

 優れた技術を持つが故に、本質を見誤っている。

 世界を救うものは優れた技術ではない。技術は結局のところ、補助に過ぎないからだ。

 

 真に必要なのは、それらを正しく行使する人間達とその心。

 失敗を隠さず素直に明かし、成功を目指して恐れることなく他者に手を伸ばし、その手を取れる者達に他ならない。

 

 喜ぶがいい、ヘーリオスの救世主気取りども。

 お前達の遺児は、正しく救世(ぐせ)の道を歩んでいるぞ。

 

 

「思いの外、心地良いもんだな。ガキの成長した姿を見るのは。まあ、オレは腹いっぱい食わしてきただけだがね」

「ナラカぁ~~~~~…………」

「遅くなって、ごめん。ごめん、なさい……」

 

 

 オレの納得を感じ取ったのか、先程までの面構えは何処へやら。

 泣きそうな顔になりながら、揃って胸へと飛び込んでくる。

 アキラまで、出会ったばかりの頃のような顔をしちまって。

 

 二人に抱き着かれる度、言葉にならない感情が湧き上がる。

 それを愛と呼ぶのかは、いまだに判然としないが、悪い気分ではないことだけは確かだ。

 

 さて、折角だ。

 成長を認めた記念に、二人がそれぞれ食べたいものを作ってやろう。

 

 準備も手間も後片付けも増えるが、今日ばかりは──────

 

 

「このクソガキどもがぁ!! どうだぁ、オレ、ちゃんと怖いって顔できてるかぁ!?」

「いったぁ────!」

「いっっ! 僕達が何をしたというんだい!!」

「こっちの台詞だよぉ! この展開で何でケツ撫でたのぉ!? 挙句の果てに握り締められて左右に開かれたよぉっ!?!」

「「ナラカがエッチ過ぎるの悪い」」

「真顔で何言ってんだコイツら!」

 

 

 ────反射的に二人から離れて、そのまま頭に拳骨を振り下ろす。

 

 いや、確かに、確かにだ。

 オレも面がよくて胸も尻もでけぇ女をよくない目で見ている。それは認めるよ……!

 

 レミエールとか会うたびに、何だコイツ、エロの擬人化か? と本気で思う。

 この間、三角締め喰らった時も、太ももの感触に色々元気になりかけた……!

 

 イヴリンは、あのパッツンパッツンのケツ見て、引っ叩(ぱた)いたらどんな声上げんだろうな? とか考える。

 あと、シガレットキスとかするから、爆乳の先っちょが身体に当たってて冷静さを保つのが大変だった……!

 

 儀玄は顔を合わすと、あの胸の金具壊れねーかなー、とか期待してる自分がいる。

 助兵衛め、って言われた時思い出すだけで、かわっ!! エッッッッッッッッッ!!! ってなってるよ……!

 

 でも、コイツラみたいに、自分から何かはしてねえんだよなぁ……!?

 

 

「これはスキンシップ、スキンシップだから……はぁ……はぁ……」

「そうとも。これは健全な、親愛の表現だよ……はぁ……はぁ……」

「やだ怖いッ!! その呼吸何とかしてから言えぉっ!!!!」

 

 

 生まれてこの方、恐怖なんて抱いたことのないオレだが、この二人だけは怖い……!

 

 こ、コイツらのオレに対する執着は何なんだ。

 どうしてこうなった。どうしてこんなモンスターになってしまったんだ、この二人は……!

 

 せめて、せめて一緒に他人をよくない目で見る程度にしてくれないかなぁ……!

 

 

 




 ナラカ
 基本、新エリー都の組織は極一部を除いて嫌いなので、こいつらアホだなー、とか思っている。TOPSもヘーリオスも市政もぜーんぶ同列でしかない。
 でも、その組織の人間全てが嫌いなわけではない。頑張っている奴は好き。但し、他人を利用して頑張っているのではなく、自分の努力や他人と手を取り合って頑張ってる人限定。
 

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