終末世界のラーメン屋台の店長さん   作:一反木綿豆腐

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アストラ・ヤオとラーメンだけ作ってたい店長さん 終

 

 

 

『もー! ナラカー! どうしてアストラさんと知り合いって教えてくれなかったのー!』

「教えるわけねえだろ。客の情報を勝手に漏らすかよ。安心して来れなくなるだろ」

『んぎぎ、私達のこと信用してないのー!』

「信用も信頼もしてるに決まってる。だけどな、人の口に戸は立てられない。何処から漏れるか分からん以上、自分で止めとくのが一番いいだろう」

『ムキーーーーーーーーー!!!』

「あっははははは! 本当に仲がいいのね!」

 

 

 イアスの小っちゃいあんよで頑張って昇ったナラカの肩の上で、ポテポテと頭を叩いてやるけど当人は何処吹く風。

 

 認める。確かに認める。

 ナラカの言い分は全面的に正しい、と。

 相手がスクープ目当ての記者でなかったとしても、顧客の情報は明かすべきじゃない。有名人でなくても。

 お店を気に入ってくれたお客さんの情報を勝手に明かすなんて、裏切りにも等しい。

 

 でもナラカ、私とお兄ちゃんがアストラさんのファンだって知ってたじゃん!

 別に明かさなくても、サインを貰うくらいはできたじゃん!

 ナラカのけちんぼ! 面倒臭がりで無責任な癖にクソ真面目! ドスケベボディのエッチの化身!

 

 

「…………なんか、謂れのない誹謗中傷を受けてる気がする」

「まあまあ。家族仲がよくて羨ましいわ。イヴなんて大抵は塩対応だもの。もっとスキンシップをしてほしいくらいなのに」

『確かに、そんな感じするよねイヴリンさん。でーもー?』

「イヴも大概甘いわ! 私にだけは甘々よ、甘々! 抱き着いた時にお尻を撫でても怒られないわ……!」

『やっぱり家族のスキンシップはそれくらい普通だよねー!』

「もちろん普通よ!」

(………………そうなの? マジで? オレがおかしいの?)

 

 

 ふふふ、ナラカ、困惑してるみたいだね……?

 

 依頼を受ける少し前に知り合ったんだよねー。

 まさかネッ友の「デタラメチャーハン」さんが、アストラさんだったなんて。

 オフ会のつもりで会いに行ったんだけど、色々と巻き込まれて仲良くなっちゃったー♪

 

 その時に気が付いた……!

 アストラさんもまたイヴリンさんをよくない目で見ている、と……!

 

 その瞬間から私達は同志になった。

 

 そう、アストラさんと私とお兄ちゃんは紳士淑女同盟を結んでいる。互いの性癖を満たすために……!

 まずは手始めに、このままアストラさんと一緒にナラカの認知をおかし──えふんげふん、正していかないとね! 家族としてね!

 

 

「で、お宝なんだが、ヨラン何某のコンサートのアルバムってことは、記録媒体は普通のディスクでいいんだな?」

 

 

 チィッ……!

 ナラカが急に話題を変えたってことは、何か感じ取ったみたい。

 私達が誰にも気が付かれないはずの、よくない目はナラカには通用しないから。

 

 とは言え、真面目な話は真面目な話。

 此処は仕事に精を出そう。プロキシとして、アストラさんとナラカを家に帰してあげないと……!

 

 

「多分、だけどね。インターノットの話では肝試しに使われたんですって」

「情報源がインターノットって、お前なぁ……」

『いや、アストラさんが見た心霊サイトの書き込みを確認してみたけど、私も信憑性は高いと思う』

「ああ、お前はこのホロウに入ったことがあるんだったな」

『うん、此処の主は確かに音楽に反応してた。あの時はオペラだったけど、ヨランさんの歌なら反応する、かも……』

「で、持ち込んだ当人は?」

「分からない。それ以降の書き込みは見当たらなかったわ」

「書き込み主が音源を持ち込んだ可能性は高いが、生死は不明。生きていた場合は音源を持ち出している可能性も高い、か。いや……」

 

 

 バレエツインズの5階。

 吹き抜け構造のお陰でエントランスを一望できるラウンジで、ナラカが立ち止まる。

 

 手首の下に取り付けられた箱型の装置を弄り、様子を確かめる。

 何だろう、アレ。見たことがない装置だ。武器か何かかな?

 

 その後、ナラカは口元を手で隠し、僅かに考え込む仕草を見せる。

 ナラカはよく自分を獣に近い感性を持っていると言うけれど、行動は論理と理屈に基づいていることが多い。

 直感は直感で鋭いが、断片的な情報を組み立て、その場で正確な結論、最適解を導き出す判断力を持っている。

 

 

「とは言え、可能性はゼロじゃないか」

「うんうん。書き込み主さんの安否も気になるし、此処はリンの腕前に……」

「それだと書き込み主の足跡を追う手順が必要になる。だらだらやるのは趣味じゃない。ホロウは長居すればするほど危険だしな」

『そんなこと言ったって、いきなり目的の品には辿り着けないよ』

「……いや、仮に残っていたとするのなら、1階から3階までだろうよ」

「どうして分かるの?」

「そりゃビルの中だからだ。何らかのアクシデントが起きたとして、逃げるのは上か下のどちらかという話」

『うーん、でもビルの上層には下へ繋がる裂け目もあるよ?』

「それを知ってんのはこのホロウに精通している奴だけだろ。心霊サイトの書き込みなら、目的は十中八九肝試し。慣れ親しんだところには来ない」

「それは、そうかもしれないわね……」

「上に逃げるよりも、下に逃げる方が体力的にも楽だしな。裂け目も安定しているとは限らんし、心理としては下へ行きたくなる。あとは音源を囮として使った可能性が高い。いくら貴重でも、命には代えられん」

『あ、そっか。主だけじゃなくて、他のエーテリアスもそっちに反応してくれれば御の字だもんね』

「あとは分からんな。少ない情報からこれ以上を組み立てるのは無理だな。そもそも穴だらけの理屈だ……仕方ない」

 

 

 小さく嘆息したナラカはエントランスの方向へと向き直る。

 

 何をするつもりだろう。

 アストラさんもエーテル適正は高いみたいだし、ナラカがホロウレイダーの真似事をして養ってくれた時期もあることは知っている。

 

 けれど、それでも確実にタイムリミットが近づいてきているのは事実。

 此処で時間を無駄にするよりは、素直に足跡を探った方がいいと思うんだけど……。

 

 

「リン。一応確認しておくが、エントランスから吹き抜けの間に裂け目はあるか?」

『えーっと、ちょっと待って。……ない、かな。キャロットデータとこっちで観測してる環境データも一致してる。一時的ではあるけど、波形も今のところは安定してるよ』

「なら問題ないな」

 

 

 何をするつもりなのか分からない私とアストラさんは、顔を見合わせて首を傾げ合う。

 

 ナラカはそんな私達を余所に、両腕を大きく広げ、パンと頭上で打ち鳴らす。

 ビリビリと空気を震わせるような音を吹き抜けいっぱい響かせ、そのまま何度か手を打ち合わせた。

 

 いや、ちょっと待って、これ……!

 音だけじゃない。イアスに搭載されてるエーテルの計測器に反応がある……!

 

 

『マスター1号。エーテル波動の拡散を確認しました』

『え、エーテル波動の拡散?! もしかして……!』

『肯定。マスターの自称・保護者からです』

「成程、流石は高性能AIだな。自称・助手筆頭。いつまで助手で居てくれるんだ?」

『提案。マスター1号、自称・保護者は信用に値しません。今すぐ手を切るべきです』

『こらぁ、Fairy! ナラカは私の家族! 絶対に離れません!』

「ハッ。嬉しくなるね。何処ぞの怪しいAIとは信用度が違って」 

『くらぁ! ナラカも煽るなぁ! 二人ともぶっ飛ばすよぉ……!』

「『…………はい』」

「うーん、こういうのなんて言うのかしらね。喧嘩するほど仲がいい? それとも子は鎹……?」

 

 

 もー、アストラさん呆れちゃってるじゃん……。

 

 どうにもナラカとFairyは仲が悪い。

 ナラカは製造元も分からないFairyを危険視してるみたいだし、Fairyも自分以上に信頼されているナラカが気に喰わないみたいだし。

 お互いの声が聞こえてくる度に、煽りと皮肉が飛び交う事態に。

 

 兎も角、私の鶴の一声で、二人を黙らせることに成功した。

 私としてはもっと仲良くして欲しいんだけど……。

 

 そりゃFairyは謎が謎を呼ぶ存在だよ……?

 ナラカと同じで口も悪いし、意外と調子乗りだけど、いい子だとは思う。

 私達には献身的だ。体調を気遣ってくれたり、気分が落ち込んでいる時には声もかけてくれる。

 出会ってから、どれほど彼女に助けられたかも分からない。だから、同じ家族として仲良くして欲しい。

 

 でも、今はそれよりも……!

 

 

『ナラカ、何したの?』

「ちょっと待て。集中してる…………………………見つけた、3階の西側の隅。形状的に再生機器に入ったディスクだな」

「うわーお! びっくり! 何をしたの?」

「原理的には、エーテル波動を使った反響定位だ」

『反響定位って、コウモリとかが使うアレ? 確か、人でも訓練次第で身に付くって聞いたことはあるけど……』

「説明は後でしてやる。波動にエーテリアスが引き付けられてくる。さっさと移動するぞ」

「え? 大将!? 何を、きゃあ……!」

『ちょ、ちょちょちょ……!?』

「ショートカットだ」

 

 

 自分が何をしたのかもそこそこに、ナラカはアストラさんを私が乗っている方とは逆の肩に担ぎ上げる。

 

 お姫様抱っこならぬ、お米様抱っこ。

 新エリー都の歌姫に対してする行いじゃないけれど、今はそこじゃない。

 

 

 ────あろうことか、ナラカは柵を飛び越え、吹き抜けへと身を投げた。当然、私達も一緒に。

 

 

『ぴゃーーーーーーーー!!』

「きゃーーーーーーーー!!」

「うるさっ…………」

 

 

 イアスと感覚を同期しているので、胃が浮く浮遊感がダイレクトにやってくる。

 私は必死にナラカの頭にしがみ付き、アストラさんは楽し気な悲鳴を上げた。

 

 イアス越しでも伝わってくる明確な死の予感。

 このまま行けば、三人とも地面に激突してぺしゃんこになっちゃう……!

 

 

 『アストラ・ヤオ……! 無理心中に巻き込まれたか……!』

 

 

 明日の朝刊の一面は絶対にこう……!

 私が落下の恐怖に無意味な予想を立てると、突如として落下の方向が変わった。

 

 真下から斜め下へ。

 見れば、ナラカの手首の装置から、ワイヤーが伸びて対岸の壁へと突き刺さっていた。

 

 刺さっているのは、多分5階か6階辺り。

 当然の物理法則に従い、自由落下から振り子運動へと移行している。

 

 ショートカットってそういう……!

 いやでも待って、振り子運動ってことは加速していることに変わりはない。

 自由落下でなくても、着地の衝撃は相当なものになるわけで────

 

 

『んぎぎ───って、アレ?』

「ほらよ、到着」

「あっはははは! すごいっ! まるでジェットコースターみたい!」

「はしゃぐなよ」

「こんなのはしゃぐわよ! でもジャットコースターよりもずっとスリリング! だって、行き先が予想できないんですもの!」

 

 

 ────けれど、衝撃は無きに等しく。

 

 まるで羽毛が地面に落ちたかのように、三階の通路に立っていた。

 着地の衝撃を足の指先から続く関節を使って、アブゾーバーみたいに殺し切ったの……?

 

 アストラさんは何の痛みも衝撃を感じなかったのか。

 肩から降ろされて目を輝かせている。強いなぁ、色々と。

 

 とんでもない技術。

 いや、これを技術と呼んでいいかさえ、私には分からない。もう魔法のようだった。

 

 と言うか……。

 

 

『ナラカ、ちゃんと説明してからやってよぉ!』

「説明する時間が惜しかったんだよ、見ろ」

「何あれ、エーテリアスが集まってる。凄い数ね」

 

 

 突然の恐怖体験を強制させられた怒りに任せ、イアスの可愛いおててで、ナラカの頭を叩く。

 それを拒絶することもなく、ナラカは顎を使って、私達の視線を誘導した。

 

 先程まで立っていたラウンジは、アストラさんの言葉通りエーテリアスが無数に集っていた。

 

 多分、ナラカの発したエーテル波動に引き寄せられたんだ。

 エーテル波動は生物やエーテリアスから常に発せられている。

 人間で言えば、大きな物音を耳にしたとか、目映い閃光を遠目に確認したようなものだと思う。

 

 

「特に、オレのエーテル波動はエーテリアスを引き付けるらしくてな。ホロウに入った時は抑え気味にしてる」

『そんなこともできちゃうんだ……』

「多分、アストラもできるようになるぞ。あんたの歌声は周波数が特殊だからな。エーテルを振動させて波動の発生も抑制もできる、と思う」

「あら! 私にそんな才能が!?」

「問題は、抑制の方は兎も角、放った波動の反射をどう受け取るか、だな。何にせよ、お前には無用の長物だろうよ」

「どうして? ホロウ災害に巻き込まれることだって可能性としてはあるわよ? 便利じゃない」

「その歌声は、そんな目的のためのものか? 違うだろ。お前は思うままに歌え。その方が、誰かの心に届くだろうさ」

「ふふ、そうね。そうだった。歌は魔法だけど、私はそんな使い方をしたいわけじゃない。私の歌を聞いた人が微笑んでくれるのが、一番嬉しいかも」

 

 

 歌は魔法。

 その魔法は戦うためでも、ホロウを攻略するためのものでもない。

 誰かの耳に入り、その心を震わせて大きな感動を呼び、小さな奇跡を積み重ねるためのもの。

 

 それこそが、アストラさんの目指すもので、理想とする歌なんだと思う。

 

 かっこいい……!

 これこれ、これだよ! 歌姫って言うのはこうでなくちゃ……!

 

 確かな矜持に、揺るがぬ信念。

 富のためでなく、名声のためでもない。

 それらが乗った歌は、天上の音楽の如し……!

 

 そして、それを理解して肯定してるナラカも、かっこいい……!

 

 自分のまったく興味ない分野でも、信念に準じて全力を投じる人を決して笑わない。

 

 例え道半ばで倒れたとしても、大きな失敗をしてしまっても。

 よくやったじゃないか、と優しく肩を叩き、努力を認め、讃えてくれる。

 

 

 スケベすぎる……!

 見た目も中身もスケベすぎるでしょ、私の家族(おんじん)は……!

 

 

「またしても、いらん風評被害を受けている気がする……」

『まあまあ♪ でも、エーテル波動って、色々できるんだね』

「エーテルを用いた技術は生身のものでも色々あるからな。これは“術法”って呼ばれるもんの延長だ」

「術法……うーん、ちょっと聞いたことないわね」

「衛非地区の雲嶽山って集団が用いる技術(わざ)だよ。オレが色々とアレンジしてるから原型留めてないけど」

『でも、反響定位って、建物の構造とかを把握できるのは知ってるけど、小さいものまで分かるの……?』

「色々試してみたんだが、エーテル波動って色々と反射したり、突き抜けたりするみたいでな。だから、それを変えればいい」

 

 

 成程、そういう理屈なんだ。

 壁に反射する波動。特定の材質にだけ反射する波動。人に反射する波動。

 反射と透過を自在にできた上で、その反射を捕えることができるなら、確かに不可能じゃない。

 要は、エーテル波動を用いたエコーやソナーみたいなイメージ、かな……?

 

 でもさ、これってとんでもない高等技術じゃない……?

 目的のものにだけ反射するエーテル波動を発生させるとか、そんな機械すら聞いたこともない。

 

 …………けど、まあいっか♪

 

 聞きたいことはあるけど、ナラカの方から話してくれるのを待つとしましょうか。

 

 ナラカだって私達にそうしてくれた。

 だからその背中を見習って、私達も同じようにするだけ。

 ナラカにしてみれば隠し事ですらないかもしれないし、きっとねだれば教えてくれる。

 

 でも、他でもないナラカの意思で、ナラカの口から聞きたいから。

 だってそうでしょ? 自分のことを黙って受け止めて貰おう方がきっと嬉しいもん。

 

 少なくとも、私とお兄ちゃんはそうだったから。

 

 

「じゃあ、その……えっと、装置の方は? 自分で作ったの?」

「まさか、こんなもん作れん────こともないかもしれんが、面倒臭い。ガウタマを作った奴に貰ったんだよ」 

『確か、エリー都に来るように誘ってくれた友達だったけ? マルセルグループがこんなもの作ってるんだ』

「いや、違う……ん? いや、違わないな。ああ、そうなるのか。そうだったわ」

「大将ったら、友達のこと忘れちゃうなんて酷いわねー」

『ナラカさいてー』

「忘れてたわけじゃなくて、勘違いしてただけなんだよなぁ。それに、日天(スーリヤ)と月天(キャンドラ)は趣味の産物だ。こんなもん売ってねえよ、使える奴はそういないしな」

 

 

 日輪と三日月、更にナラカが詳しい旧時代の梵字という言語が刻まれた装置。

 日天(スーリヤ)と月天(キャンドラ)は、ナラカが勝手に名付けたみたい。

 

 正式な名称は“三次元機動装置”とかいうのだとか。

 ワイヤーの射出と巻取。打ち込んだアンカーの固定と引抜。小型にも関わらず強力なモーター。

 ボンプの開発・量産を行うマルセルグループの人なら、単純な構造の小型化なんてお手の物。

 

 でも、確かに使える人間なんてそうはいない。本当に趣味の一品だと思う。

 ナラカのようにスケベな逞し過ぎる身体じゃないと、簡単に肩が外れてしまう。

 身体全体に負担が分散するように、肩から股下まで取り付けるベルトもつけないと。

 

 

「ホロウも、これを使って飛び回っていたわけだ」

「成程ねー、エーテル波動で索敵して、エーテリアスは引き付けて姿を隠す」

『地形や裂け目は、これで回避するんだ。それならホロウも一人で探索できるね』

「別にエーテリアスなんぞ敵でもないが、どうせ何もしなくても沸いてくる。倒すだけ時間の無駄だしな」

 

 

 あ、お兄ちゃんが泣きながらソファに倒れ込んだ。

 なんか、「僕の恩人(ヒーロー)が、本当にヒーローだった件について……」とか喜んでる。

 

 

「説明終了。周辺のエーテリアスは波動に引き付けられてるから、さっさと目的のもの回収しておさらばするぞ」

「そうしましょう! 待っててね、秘蔵のアルバム! あと、書き込みの主の安否も確認しないと!」

『よーし、行くぞー!』

 

 

 


 

 

 

「うふ、うふふふふ……!」

『よかったね、アストラさん!』

「ええ、二人のお陰よ! ありがとう!」

 

 

 目的のアルバムは、ナラカの言った通りの場所にあった。

 予測した通り、アルバムを囮にしていたらしく、元の持ち主も無事に脱出していたみたい。

 

 万事解決、お仕事終了!

 ただ、ちょっぴり不満なのは、プロキシとしてあんまり役に立たなかったことかな。

 脱出はきちんと熟したけど、アルバムを見つけたのはナラカみたいなものだし。

 

 でも、気分はいい。

 ナラカは本当にホロウを一人で探索できるし、脱出もできる。

 つまり、私達にプロキシとしての才能も、H.D.Dシステムの恩恵も求めていない。

 

 ただ、私達が困り果ていたから、助けを求めたから、助けてくれただけ。

 何処にでもいる誰かに過ぎなかったのに、迷いもなく手を取ってくれた。

 

 それを確認出来て、たまらなく嬉しかった。

 

 ヘーリオス研究所の遺児でも、パエトーンでもなく。

 私がただのリンで、お兄ちゃんがただのアキラでも、一緒にいてくれたんだ、と。

 

 

「やっと見つけた! あっ、イヴー!」

「はぁ、まったく。お嬢様、即興はせめてステージで頼む……」

「ふふふ、捕まっちゃった……!」

 

 

 夕焼けに照らされるバレエツインズの出入り口では、呆れ顔のイヴリンさんが待ち構えていた。

 その後ろには黒塗りの高級車に、帝高の黒服さん達が大勢。

 

 これでもう逃げられない。

 アストラさんの冒険は今日のところはもうおしまい。

 

 でも、本人は嬉しそう。

 

 気持ちはよく分かる。

 だって、待っていてくれる誰か、探してくれる誰かがいる喜びは知っているから。

 

 

「さあ、車に────いや待て、なぜ彼が此処にいる」

「そこのお転婆娘に金で雇われた。宝探しに付き合ってくれ、ってな」

 

 

 私達の一番後ろ。

 最後までエーテリアスを警戒していたナラカが現れると、イヴリンさんは目を丸くする。

 

 どうやらイヴリンさんもナラカと知り合いみたい。

 「一期一会」、新エリー都の何処でも店を出せるから、無愛想で口も悪いけど顔は広いんだよねー。

 

 

「これは、私の責任だな」

「そうだね。オレのプライバシー侵害するの止めてくださる?」

「すまない。お嬢様にはよく言って聞かせよう。埋め合わせもさせてもらう」

「埋め合わせぇ? いいよ、別に。金貰ってるしな。仕事みたいなもんだ」

「私が個人的に、そうしたい、と言ったら……?」

「個人的にねぇ…………なら、次からはイヴと呼ばせて貰うか」

「君はあまり人の名を呼ばないだろうに」

 

 

 イヴリンさんはナラカの提案に苦笑を漏らす。

 

 ふぉ、なんかいいやり取りしてる。

 と言うか、イヴリンさんの表情が緩んでいるように見えた。

 頬が赤く見えるのは、夕日のせいか、はたまた別の理由なのか。

 

 ────と、その時、パァン! と私もよく聞き慣れた音が鳴り響いた。

 

 

「ひぁァッ────!!」

「ほらぁ、行くわよイヴー」

「きゅ、急に何をするんだ! まったく!」

「ふ~んふふ~ん♪」

「はあ。見苦しいところを見せた。では、また」

 

 

 はい、そうです。

 アストラさんによるスパン──げふんげふんスキンシップです。ありがとうございました。

 クールビューティーに似合わず、随分可愛らしい悲鳴でした。本当にありがごうざいました。

 アストラさんは周囲に気取られぬように、私とナラカにサムズアップ。

 ナラカと私、そして推移を見守っていたお兄ちゃんは画面越しに、揃ってサムズアップ。

 

 私とお兄ちゃんは鼻血を流しています。

 だってすっごいエッチな声だったもん。重ねてありがとうございました。

 

 流石は同志アストラさん……! で、できる……!

 

 




 三次元起動装置“日天(スーリヤ)&月天(キャンドラ)”
 元ネタは勿論あのヒーローと調査兵団、そして追跡者のお兄ちゃん。
 アンカー付きのワイヤーを射出、巻取を行い、三次元機動を可能とする装置。
 無論、武器としても使え、人体程度なら貫通可能。

 但し、正確な狙いを撃ち抜く動体視力と反射神経。
 ワイヤーの伸縮と現在高さを把握するコンピューター染みた計算力と空間把握能力。
 遠心力に耐え抜く超人的な身体能力。

 以上の全てを要求される。実質的にナラカの個人兵装。
 ナラカはこれを使って、ホロウをスイングアクションでびゅんびゅん飛び回っていた。

 製作者はガウタマと同一人物であるが、現時点では不明。
 まあ、予想している方もいると思うけど、あの人です。


 リンちゃん
 スケベとかっこいいを同一視している節がある。

 アキラ
 恩人(ヒーロー)がヒーローみたいなことができて歓喜で泣いた。

 Fairy
 ナラカと仲が悪い。不快と言うよりかは警戒心の発露。売り言葉に買い言葉。

 ナラカ
 Fairyと仲が悪い。優秀さは認めるが目的なんだテメー状態。煽るわ、皮肉飛ばすわ。

 アストラ
 朝の挨拶と一緒にイヴリンの尻を叩いてる。

 イヴリン。
 意外と悲鳴が可愛い。

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