終末世界のラーメン屋台の店長さん   作:一反木綿豆腐

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プラタ家事代行サービスと食事会

 

 

 

「ンナッ、ンナナッ(新規顧客とリピーターの割合はどんな感じかな?)」

「え~っとぉ、言葉で説明するよりも資料で見て貰った方がいいかなぁ~」

「こちらです、王よ」

 

 

 報告会は恙(つつが)なく進む。

 あの子達も今日のために、資料作成に力を入れていた。

 私は少しばかり作成に手を貸して目も通したけど、ガウタマも納得するレベルでしょう。

 

 それを横目に、私は台所に立つナラカの後ろ姿を目に焼き付ける。

 

 着流しにたすき掛けなんてしちゃって……。

 どれだけ私の脳みそと性癖を破壊すれば気が済むの、この男は……!

 

 

「バター……いや、今日は赤ワインにするか」

 

 

 あっという間に微塵切りとなった玉ねぎを熱したフライパンに入れ、ナラカは一人呟く。

 このままでは手持無沙汰だし、妹達も心配なさそうだし、手伝いでもするとしましょう。

 

 それに、僅かであったとしても、彼の力になってあげたい。

 それだけの恩もあれば、心からの感謝もあるから。

 

 

「……手伝うわ」

「そうか。じゃあ、変わってくれ」

 

 

 台所へと向かい、声をかけるとあっさりと申し出は受け入れられた。

 

 屋台の仕事に関しては、断固として一人で行う職人気質。

 けれど、日常の調理は相手の腕を認めてさえいれば、拒絶することはない。

 彼が腕を認めているのは極一部で、そちら側に分類される事実が何よりも嬉しく、誇らしい。

 

 何せ、私よりも遥かに長い付き合いのはずのアキラとリンですら、そちら側ではないのだから。

 

 コンプレックスの塊だった私に、細やかな誇りと自尊心を植え付けた。

 人として生きていくには、それだけで充分と学ばせるように。本当に、憎らしい人。

 

 

「今日のメニューは…………そう、分かったわ」

「流石に分かるか。多少手間だが、報告会はまだ時間がかかりそうだしな」

 

 

 渡された木べらで、焦げないように玉ねぎと赤ワインを混ぜていく。

 小中火で炒め、煮込むことで玉ねぎの辛み、赤ワインの渋みが飛んで、甘味が生まれる。

 

 そうしている間にナラカは冷蔵庫や棚から食材を取り出していく。

 牛挽き肉、きのこを数種、ナツメグ、卵、パン粉、バター、缶のフォンドボー、生クリーム。

 料理に慣れた人間なら、これから何を作るのかは一目瞭然でしょうね。

 

 

「らしくないわね。牛乳を忘れたの?」

「いや、牛乳じゃなくてこっちを使う」

「炭酸水? どうして?」

「炭酸ガスが肉に浸透してふっくらして舌触りもよくなって、肉汁を閉じ込める」

 

 

 自分の知識から足りない食材を指摘してみると、返ってきたのは科学知識に基づいた答え。

 

 料理は科学と合理、と言い切るだけはある。

 ナラカ曰く、料理に愛情なんか込めるか、だけど。

 少しでも美味しいものを食べさせたいと願い、努力と研鑽は怠らない様は愛情に違いない。 

 

 それを意地でも認めようとしない姿は、呆れを誘うけれど同時に堪らなく愛おしい。

 

 

「これくらいでいいかしら?」

「いいね。さて、冷めたらタネを作っていきますか」

「ああ、そうだった。頼まれていた調べものだけど、駄目ね。何の情報も出てこなかったわ」

 

 

 赤ワインを吸い、暗い赤紫に染まった玉ねぎから汁気がなくなったところで火を止める。

 熱を持ったままでは挽き肉がタネにする前に固まってしまう。

 

 それまでの間、この仕事場に現れたドローンの調査結果を伝える。

 残念ながら何処を当たってみても、どの勢力が使っているどころか、同型機の情報さえなし。

 

 考えられるとするのなら──

 

 

「TOPSから離れた技術者にも当たってみたけれど、見たこともないそうよ」

「となると、TOPSでもかなり秘匿性の高いところか……」

「TOPSとも異なる技術ツリーを持つ勢力という可能性もあるわ」

「防衛軍は……?」

「防衛軍はドローンにそこまで資金を投入していない。基本、使い捨てなのよ」

「そりゃそうか。遠隔操作もホロウの中に入ったら、制御を受け付けなくなる」

「そう。自立制御の自爆ドローンくらいはあるけど、明らかなワンオフ機は使わない」

「壊れるのが前提の機械にそこまで金は掛けんか。じゃあ個人の作成、改造の線は?」

「改造の線はないわ。完成度が高すぎて、歪さがない。どう浮かんでいるかさえ外見からじゃ分からないのは異常」

「個人の作成だとしたら相当な天才で、異常な技術力の持ち主ってことか」

「調べて何も出てこないし、下手をすればこの街の相当深部にまで食い込んだ組織か個人ってところかしら」

「そうか。悪かったな、これ以上は調べなくていいぞ」

「いいの……?」

「ああ、何者か分からない以上、相手に悟られる前に手を引かんと、お前らの身が危ないしな」

 

 

 両手を組んで天井を眺めたナラカは、調査の中断を決めた。

 私達を気にしてくれるのは嬉しいけれど、同時に侮られているようで苛立ちを覚える。

 

 とは言え、彼の言い分は正しい。

 対象の戦力が不明かつ、異常な技術力を持っていることを考えれば、手を引くのは無難。

 私と妹達だけで対処できない可能性が高い。

 

 

「貴方ね、こんな奴に目を付けられるなんて、何をしたのよ」

「さあ? 知り合いがそいつにストーカーされてるんだとさ」

「ストーカー? こんなドローンを使って……?」

「其処までして姿を隠したいのか。或いは動けないのか」

「その知り合い、何者なの……?」

「オレからは言えないな。それに、どうもオレかその周囲を探っている感じもするんだよなぁ」

 

 

 私の問いかけに、彼はハッキリ明かせないと答えた。

 個人の情報を、相手の同意なしには明かさない。

 普段好き放題やっている癖に、こういうところは律儀で真面目なんだから。

 

 本当に何者なのか。

 このドローンも、そんなものにストーカーされる相手も。

 

 彼の周囲を探っているということは、ドローンの操縦主は彼に興味があることは間違いない。

 

 もしくは、彼の家族であるアキラとリン。

 あの二人がプロキシをやっているのは聞いているし、うっすらと察してはいた。

 利用するという点に関して言えば、強いだけの彼よりも様々な意味で価値は高い。

 

 或いは、私達が本命という可能性も否定できない。

 いずれにせよ、情報が少なすぎて、正体どころか目的すらも絞れない。

 彼の決断通り、巣穴を突いて、正体不明の何かを刺激しない方がいいでしょうね。

 

 

「さて、続きだ。報告会が終わる前に作っちまおう」

「ええ、そうしましょう」

 

 

 そうして、頭を切り替えて調理へ戻る。

 

 シルバー小隊にいた頃には考えられなかった日常。

 もう会えない家族に、顔向けできないとは思わない。

 

 誰かの手で作成されたクローンであったとしても。

 誰かと寄り添って生きることが、生命の本質だと思うから。

 彼女達も、きっと同じことを考えたに違いない。

 

 ねえ、私の気持ちに気付いているかしら?

 貴方に助けられたあの日から、私は貴方に狂っている。狂わされてしまった。

 

 だから責任を取ってもらうわ。

 

 私を助けた責任。

 私に自尊心を植え付けた責任。

 私に幸福を教えた責任。

 私に新しい家族を与えた責任。

 私に、生きていたいと、生きていてもいいんだと思わせた責任。

 

 何があったとしても結論だけは出してもらうわ。

 もっとも、どんな結論であったとしても、離れるつもりはないけれど。

 

 だから、覚悟しておいて。私の、愛しい貴方。

 

 

 


 

 

 

「これで完成。うん、悪くない出来だ」

 

 

 深めの皿に盛りつけられた私とナラカの合作は、煮込みハンバーグ。

 味付けの大半は彼の手によるもので、私は指示に従っただけ。

 

 悔しいけれど、こればっかりは敵わない。

 火入れといい、調味料の割合といい、ほんの些細な違いなのに、結果には大きな差が出る。

 

 

「ンナナッ!(皆、素晴らしかったよ。褒めてあげようね! 撫でてあげようね!)」

「「「でぇへへへへ」」」

 

 

 その頃には、報告会も終わっていた。

 どうやらガウタマも納得のいく内容だったみたいで、妹達は頭を撫でまわされている。

 

 でも、あのだらしない笑い方、ナラカに褒められている時のアキラとリンにそっくり。

 なに? 彼やガウタマに褒められるとこうなるというの?

 

 

「おい、仕事の時間は終わりだ。飯にしよう」

「パンとライス、どちらがいいかしら?」

「あ、私はライスで」

「ん~、今日はパンの気分~」

「私はパンがいいわ」

 

 

 報告会の後に食事会を行うのが、私達の恒例行事。

 家事代行サービスを始めてから、すっかり彼の料理を味わう機会が減ってしまった。

 彼の料理で育ったと言ってもいい妹達も寂しがっていたから、始まったのよね。

 

 アンと私、ナラカはライスを皿に盛り付け。

 ビビとシータにはカットしたフランスパンをテーブルに並べる。

 

 あとは付け合わせのシーザーサラダも人数分。

 

 

「はぁ、いい香り」

「ふぉぉ、美味しそう~♪」

「……ごくり」

 

 

 手を洗い、テーブルについた妹達は、目を輝かせる。

 当たり前の幸福を享受する姿に、私も自然と頬が緩んだ。

 

 

『いただきます!』

 

 

 誰に促されるまでもなく、全員がテーブルにつくと同時に両手を合わせて食への感謝を捧げる。

 新エリー都ではあまり見られない風習だけど、すっかりと身に付いた。

 

 それぞれがナイフとフォークを手に取り、まずはメインディッシュのハンバーグから。

 柔らかな感触と溢れる肉汁に、唾液腺が弾けそうになる。

 

 

「…………!」

「うまぁ~……♪」

「ソースだけではなく、ハンバーグの味もしっかりしているわね」

 

 

 一口サイズに切り分けたハンバーグを口に入れた瞬間、三人の目が輝いた。

 

 私も同じでしょうね。

 赤ワインで煮込んだ玉ねぎのお陰で味に重厚感が生まれている。

 それが炭酸水のお陰か、肉汁が口いっぱいに広がり、肉自体も滑らかな口当たり。

 

 其処に、フォンドボーと赤ワイン、生クリームで作ったソースが加わる。

 五味全てが合わさった複雑な味わいを、最後に入れたバターの風味が後押しする。

 

 美味しい以外の感想があるわけもない。

 煮込む前にしっかりと焼き色を付けたお陰で香ばしさも加わって、顎の動きが止まらなくなる。

 

 

「うーん、もう少し赤ワイン減らして、生クリーム増やした方がよかった気がする」

「もー、ナラカさんっていつもそうですよね」

「これでも十分美味しいよぉ~」

「いや、他人が作ったもんなら文句はないが、自分が作ったもんだと粗が気になる。気にならない?」

「相変わらずね。その妥協しない姿勢、見習わせて貰うわ」

 

 

 ナラカの表情からして出来自体に不満はないようだけど、改善点が気になる様子。

 料理に対する妥協がない、というよりも、職人気質が現れた結果でしょうね。

 

 彼だって妥協はする。

 ただ、可能な範囲内での追及がやめられないだけ。

 今回は三人の子供舌に合わせ、もう少し優しい味付けの方がよかった、といったところかしら。

 

 

「それに、ツイッギー姉さんも手伝ったんですから、何か言うことはないんですか?」

「別に、オレだけでもよかったんだが、ありがとう?」

「余計な言葉が多すぎ~。そして、必要なものが足りない。それは、ナデナデ~」

「…………えぇ」

「我が王が私達を褒めるように、ナラカも姉さんを褒め称えるべき」

「……ちょ!」

 

 

 な、何を言い出すの、この子達は……!

 この、人の気持ちを分かっているからって! ニヤニヤ笑わないの愚妹達……!

 

 

「オレ、ちゃんとおっかないって顔できてるか?」

「────は?」

 

 

 おっかないって顔は出来てるわね?

 それはどういう意味かしら? 返答次第でぶっ飛ばす、いえショットガンぶっ放すわよ……?

 

 

「だってオレが近くにいると、眉間の皺が凄いしさぁ」

 

 

 ち、違っ……!!

 決して、不快な心持ちでいるわけじゃないわ! ただ、その……。

 

 とんだ誤解を何とか弁解しようとするけれど、パクパクと口が動くだけで言葉が出てこない。

 そうこうしている間に、ナラカは恐る恐る手を伸ばし、私の撫で始めた。

 

 わ……わ……わぁ……はわわ……。

 

 

「…………! ……っ、…………ッ!」

「凄い顔になっとる! 大丈夫か、これ大丈夫かなぁ!?」

「いいです、いいです。ツイッギー姉さんすごく喜んでます」

「これでぇ……?!」

 

 

 何とか顔に力を籠める。

 眉間に思いきり皺を寄せ、唇を噛み締めて必死に堪えた。

 

 ああ、私の顔、耳まで真っ赤になっているわ。

 鏡を見なくても分かるくらいに、顔の構成するパーツすべてが熱いもの。

 

 でも、でも────

 

 

 ────こうでもしないと顔がゆるゆるになっちゃうのよ!!

 

 

 いや、それだけは駄目! それだけは見せられない!

 そ、そんなだらしない顔、この人にだけは見せられるわけないじゃないの!!!

 

 

 





 ツイッギー
 ヤンデレ成分少な目。何番目でもいいとか思っている節がある。でもいじらしい乙女。

リン「眼帯ってエッチ。エッチじゃない?」
アキラ「分かるマン」


 三姉妹。
 気ぶり勢。「random play」にも通っている。詳しい事情は話していない。


 ナラカ
 クソボケ。自己評価も自己肯定感も高いのに、自分が愛されるとだけは思っていないアホ。

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