終末世界のラーメン屋台の店長さん   作:一反木綿豆腐

19 / 19
輝きのモーメント、に飛び入り参加する店長さん

 

 

 

 帝高エンターテインメントグループ。

 フーガ・ミュージック社。

 “組織”。

 それらを操る何者か。

 

 入り乱れる思惑は、この街で繰り広げられる争いの縮図にも似て。

 

 気が付いた時には、私一人でどうにか出来る範囲を超えていた。

 まったく、自分自身の愚かしさが嫌になる。

 

 しかし、自身が全てを失うことになったとしても、アストラだけは守らねば。

 

 そのために、あの“パエトーン”を呼び込んだ。

 まさか、バレエツインズで一緒にいたボンプ、そして彼の家族が伝説のプロキシとは。

 

 思いも寄らぬ幸運だった。

 巻き込んだ申し訳なさもあるが、背に腹は代えられない。

 

 ただ、更なる想定外もある。

 アキラとリンへ送ったコンサートのチケットと同様のものをナラカにも送った。

 

 

 ────にも拘らず、彼はコンサートに来ていなかった。

 

 

 ………………これは私が悪いな。

 

 助けて欲しいなら直接言えということか。

 はたまたただ利用されることを嫌ったか。

 

 いや、そもそも彼はアストラのコンサートに興味などないのだろう。

 テレビから。ラジオから。街角の誰かの再生機器から。直接耳にしたとしても。

 

 彼にとっては等しく歌に過ぎない。

 

 音質だの、演出だの、コンサート独特の雰囲気だの。

 そんなものに、まるで興味がない。歌の本質は其処ではないとでも言わんばかりに。

 

 ああ、認めよう。

 彼の人間性や人格を知りながら、正しい手段を取らなかった私のミスだ。

 まったく腹立たしい。少しくらい察する努力をしてくれてもいいだろうに。

 

 だが、知らず知らずの内に口角が上がっていることに気が付いた。

 何があっても変わらない彼に、アストラとの関係の変化に怯える自分が少し馬鹿らしくなった。

 

 焦りが少しずつ解けていく。

 仕方がない。此処は素直に、察しの悪い先達へと助けを求めるとしよう────

 

 

 


 

 

 

 すっかりと気温が下がった年の瀬、吐くと息も自然と白く染まる時期。

 今日も今日とてルミナスクエア北側の運河近くで、オレは店を出していた。

 

 客入りは可もなく不可もなく。

 客が出ていったと思えば、新しい客が一人やってくる。

 暇という訳でもなく、忙しい訳でもない。オレにとっては理想的。

 

 今は50代のくたびれたサラリーマンが、出来上がったばかりのラーメンを啜っている。

 見るからにしょぼくれた顔は、必死に養っている家庭にさえ居場所がないと言わんばかり。

 事実、おっさんの零す愚痴は、部下や家族への不満ばかりで、聞くに堪えない。

 

 それでも関係性を破綻させないおっさんは、社会不適合者のオレからすれば頑張っている方だ。

 

 愚痴を聞き、時折フォローを入れてやりながら相手をしていると、携帯が通知を知らせる。

 画面の表示はイヴリン。アイツが個人的な連絡を寄越すとは珍しい。

 

 

「おっ、何だ女か? 大将も隅に置けないな」

「そういうところだぞ。だから自分のガキや部下に嫌われる」

「…………確かに、あいつらの辺りが強くなったのは……はぁ、オレって奴は、デリカシーがない……」

 

 

 自己を顧みて、反省できるのならおっさんの方は問題あるまい。

 それを横目に屋台を離れ、通話を開始する。

 

 

「もしもし、どうした?」

『…………どうしてコンサートに来なかった』

「興味ないから? あの我儘娘のコンサートなんてどうでもいいわ」

『チケットは……?』

「家に置きっぱ」

『君という奴は……』

「ダメだった……?」

『ダメとは言わんが……』

 

 

 イヴリンは携帯越しにクソデカ溜め息をつく。

 明らかに呆れた様子が伝わってくる。あれ? 喧嘩売られてるのか、オレ?

 

 

『折角、人が送ったものを使いもしないのは、人としてどうなんだ……?』

「オレに人の道を説く方が、どうかしてると思う」

『…………この男は』

 

 

 再びの露骨なクソデカ溜め息。

 おっ、ちょっとイラッ☆ としてきたぞぅ。イヴリンも同じだろうけど。

 

 あの我儘娘のコンサートなんて行ってもオレにとって何の価値もない。

 人は多いわ、ぴーぴーぎゃーぎゃー喧しいわで鬱陶しいことこの上ない。

 

 歌は歌だ。

 聞く者の心を癒し、その胸に何かを抱かせれば十分。

 アレの歌にはそれだけの力と信念がある。コンサートで聞く必要なんぞ何処にもないだろうに。

 

 この前言っていた埋め合わせのつもりなのかは知らんが、もっと実用的なものをくれ。

 包丁だの、鍋だの、まな板だの、フライパンだの、そっちの方がよっぽど役に立つ。

 

 

『アキラとリンもこちらに来ている。二人にもチケットを贈ったからな』

「それは知ってる。嬉しそうだったぞ」

『そういう意味ではなくでだな……』

「どういう意味だよ……?」

『二人にも協力を求めたということだ。“パエトーン”として、な』

「ほーん」

『興味がないようだな』

「あの二人が選択したことだ、オレがとやかく言うつもりはない。責任も、協力を求めたそっち持ちだ。違うか?」

『その通りだ、と言いたいが、二人がどうなっても構わないのか……?』

「オレだっていつかは死ぬ。いつまでも二人を守ってやれるわけじゃない。自分で選択したことなら自分で身を守れなくちゃ話にならんだろ」

 

 

 そのために必要なことは最低限教えてある。

 それにオレが教えていなかったとしても、二人なら問題ない。

 

 アキラもリンも、他者と手を取り合う強さと素直さがある。

 出来ないものは出来ないと認め、出来る者へと助けて欲しいと手を伸ばす。

 出来ないものを認められず足掻く者へ、出来る者として手を差し出す。

 

 それがあるから、オレはただの()()でいられる。

 

 大体、なに意地を張っているのやら。

 アキラとリンを引き合いに出しやがって、ふざけているのか?

 

 ──オレを動かしたければ、ただの一言で十分なんだよ。

 

 

『…………すまない、手を貸して欲しい』

最初(ハナ)からそう言え、間抜け」

『こちらが何も言わなくても察してくれると思っていたのだがな』

「知ったことかよ。助けを求められない奴を助けてやる義理も道理もない、利用されるのは嫌いなんでな」

『手厳しいな』

 

 

 三度目のクソデカ溜め息。但し、今度は苦笑を含んでいた。

 

 利用されるのは嫌いだが、助けを求めてきたのなら無碍にはしない。

 知らん仲でもないからな。命くらいは賭けてやろう。

 

 ガウタマに視線を送ると、ある程度は事態を察したのか動き出す。

 

 

『フーガと“組織”が動いている。帝高側も私の正体に気付いているようだ』

「数は……?」

『分からない。帝高側は混乱に乗じるつもりだ。かなりの人数を敢えて見逃している可能性が高い』

「帝高は馬鹿なの? そんな真似して事態を収拾できると本気で思ってんの?」

『思っているのだろう。基本、TOPSの関係者は傲慢で自信家だ』

「 ア ホ く さ 」

『言わないでくれるか? 不測の事態を想定していない馬鹿者と付き合っているなど、考えるだけでも悲しくなる』

 

 

 帝高の馬鹿さ加減に頭痛でも覚えているのだろう。

 いくらスパイを排除するためとは言え、事態を大きくしすぎだ。

 事態が大きくなればなるほど、不測の事態も大きくなるのは当然の帰結。

 

 いくらTOPSだからと言って、隠蔽できる規模は限られる。

 下手をすれば、帝高ごと切り捨てられる事態にまで発展するな。これは。

 

 オレとイヴが同時に溜め息をついている間、ガウタマはオレの腕に日天と月天を取り付ける。

 

 そして、右腕にもう一つ。

 これを引っ張り出すのも久しぶりだ。開発者は勿論、日天月天と同じアイツ。

 

 

『それに、両者の動きも妙だ。()()()()()()()()()()()()

「成程、両者と繋がっている何者か。黒幕がいると」

『どうしてその辺りの察しばかりいいんだ、君は』

「場所はスターループだったな。黒幕が正体を現したのなら…………アキラとリンに会場を探らせろ、下手すれば全員死ぬぞ」

『まさか……!』

「お前が黒幕だったとして、標的に動きを悟られるような動きをするか?」

『しない、だろうな……』

「そうだ、上手いやり方なら他にいくらでもある。つまり、黒幕側は事が終わった後など考えていない。動きが捨て鉢に過ぎる」

『………………』

「まして、スターループの会場は()()、全員殺すにはお誂え向きだ。自分の墓標としてもな」

『……ただの推測だが、君が言うとぞっとしないな』

「すぐに向かう。この距離でも、飛び立つ前には間に合うはずだ」

『……すまない』

「謝罪なんぞいるか。オレはオレのやりたいようにやってるだけだ」

『────ふっ。ならば、“ありがとう”が正しいか』

「分かってきたじゃないか」

 

 

 それを最後に、通話を終了する。

 

 向かうはスターループ。

 幸い、場所は運河の向こう側に見えており、お誂え向きの鉄橋もある。

 車で行けば、回り道と信号待ちだけを考慮しても30分はかかるが、オレなら10分か。

 

 でも、その前に────

 

 

「悪いな、お客さん。今日は店仕舞いだ」

「お、おぉ? …………コスプレ?」

「そんなようなもんだ。代わりが来るから、ゆっくりしてってくれ」

「そうか。気を遣わせて悪いな、大将。それに、何だかよく分からんが…………頑張れよ」

 

 

 一言かけると、オレの格好におっさんは目を丸くした。

 まあ、普通の人間には日天も月天、それにもう一つもコスプレの類にしか見えないだろう。

 

 

 予想外だったのは、何らかの事情を察して寄越した静かな鼓舞とサムズアップ。

 

 

 驚きはしたが、何とかサムズアップで返しておく。

 何も知らないまま純粋にそれを言える人間がいるなら、この街もまだ大丈夫ということか。

 

 

「ンナッ!(代わりも来たし、これも被りなよ。正体を隠しておいた方がいい。随分と久し振りだね)」

 

 

 川沿いの道を歩き出すと、ガウタマが呼んだ数体の野良ボンプが入れ違いで到着する。

 彼等はこちらに敬礼すると、短い手足を懸命に駆けていく。これで、店の方は安心だ。

 

 そして、オレの肩(定位置)に飛び乗ったガウタマが渡してきたのは兜。

 

 ホロウレイダーの真似事をしていた時に、顔は隠せと奪ったマスクを渡され、オレは断固拒否。

 だってあいつらのマスク、デザインださいし。すぐ壊れるし。呼吸もしづらいし。

 顔を隠す意味合いは理解していたが、不便さの方が先に立った。

 

 そこでガウタマが作ったのが、この兜。

 

 巨大で凶悪な歯と顎の意匠。

 眼窩、鼻腔、耳朶の存在しない頭蓋骨を模した形状。

 頭頂部から伸び、攻撃にも使える三本の刃鎖(ソーチェーン)

 

 うん。何度見てもいいんじゃないでしょうか。

 まるでオレの本性を現しているかのようで。

 

 

「さて、と」

 

 

 兜を被ると、内側の網膜投影ディスプレイが起動する。

 物を作るのが得意なアイツが作成し、一部の技術を継承しているガウタマお手製。

 高性能に決まっている。ガウタマに搭載された計器類ともリンクしていて、実に便利だ。

 

 さあ、準備は整った。あとは駆け抜けるだけだ。

 

 

「行くとしますか」

 

 

 地を蹴って、川沿いの道を疾駆する。

 夜の闇に紛れ、地面に顎がつきそうなほどの低姿勢は、見る者がいれば獣と見違えたろう。

 しかし、一般人の目には映っても、風がふいたとしか認識していない。

 

 獣の疾走とは元よりそういったもの。

 居る・来るという認識と気構えがなければ、人は瞳に映っているのに認識さえできないのだ。

 

 それをいいことに誰にも悟られぬことなく、柵を飛び越えて運河に身を投げて────

 

 

「ンナァァァッ!!(この感覚、久し振り~~~~~~!!)」

「はしゃぐな」

 

 

 鉄橋に打ち込んだアンカーを支点に、宙を舞う。

 風を切る音と襲いかかる風圧を感じながら、自らの感覚と技量、兵装で、重力へと戦いを挑む。

 

 何もない虚空で身と共に心を躍らせた。

 時に旋回し、時に鉄橋の鉄骨を駆け、時に運河を渡るタンカーを足場に、翼もない身で空を行く。

 

 この瞬間は嫌いではない。

 今ならば、あの()()()にも問題なく追いつける。

 

 けれど、今の目標は別だ。

 向かうは数々の有名人が伝説の階とした舞台。

 

 いいだろう。そして覚悟するといい。

 帝高もフーガも、正体の分からぬ“黒幕”も。

 オレが出張る以上、その思惑を粉微塵にしてやろうじゃないか。

 

 

 





 ナラカの兜。
 イメージは弐瓶勉作『ABARA』の黒奇居子の頭部。
 ホロウレイダーの真似事をしている時、正体を隠すために被っていた兜。作成者はガウタマ。
 正体を隠す、ナラカのサポートのみを目的に作成されたため、エーテル用の対策はされていない。
 網膜投影ディスプレイを採用しており、ガウタマ、引いてはガウタマの開発者の持つ技術力の高さが伺える。


 客のおっちゃん。
 身勝手な都合で増える犠牲、個々の欲望に塗れた背徳の街でも、人の善性は、決してなくならない。

 
 ナラカ
 イヴリンがチケットを送ってきた時点で薄々察していたが、全部無視した。オレの助けが欲しけりゃ分かりやすく、直接言えとのこと。でも、すぐに駆け付けられる場所にはいたから、まだ有情。


 ガウタマ。
 兜を作った。どちらかと言えば、株だの何だのやるよりもものを作る方が得意。武装の整備も彼の役割。


 イヴリン。
 ナラカの態度に半ギレになった。でも、来てくれるようで安心したのでお礼を言った。立派な社会人で綺麗なお姉さん。

小説の視点はどちらが読みやすい?

  • 一人称
  • 三人称
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

Jukebox Driver(作者:moti-)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

 オーディオ機器の個人製造販売を行う少年・シドと、その周辺人物のお話。


総合評価:827/評価:8.67/連載:15話/更新日時:2026年09月18日(金) 18:30 小説情報

監察官のちょっと奇妙な冒険(作者:プロメイア推しの人)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

オリ主が転生して、赫灼熱拳するお話です。▼ストーリーは2.7から始めま~す。ん?まぁ、途中からにょきっと生えてくる感じで。(それでも過去キャラと絡みがあるのは許してちょ)


総合評価:1020/評価:8.24/連載:10話/更新日時:2026年06月23日(火) 16:25 小説情報

朝起きたら隣にヴェリナがいた(作者:ぼっちプレイヤー)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

▼ ヴェリナさんの新密度イベでこれ同人誌の導入では?となってから勢いで書いた。▼ オリ主×ヴェリナなのでアキカプ推しのプロキシは閲覧注意なのだ。


総合評価:1663/評価:8.45/連載:6話/更新日時:2026年09月03日(木) 20:00 小説情報

猫、拾いました(作者:ぽこちー)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

続いてのニュースです。▼現在、新エリー都では謎のウイルスが猛威を振るっています。▼このウイルスに感染すると、人間は動物へと変化し、知能構造体はその形態や性質に、未知の変化が生じてしまうとのことです。▼現在、専門家たちは治療薬の開発を急いでいますが、いまだ完成の目処は立っておらず、感染拡大の原因についても詳しいことは分かっていません。▼市民の皆様は、不要不急の…


総合評価:838/評価:8.9/連載:8話/更新日時:2026年09月17日(木) 14:48 小説情報

起きたら超絶美少女が嫁になっていた件(作者:理 想 な ん か ね ぇ よ)(原作:ゼンレスゾーンゼロ)

▼タイトルのまんまです▼深夜テンションで書いたから続くかは未定▼記憶喪失のオリ主が死ぬほどゼンゼロキャラを曇らせていた話▼追記、リメイクします


総合評価:1860/評価:7.97/未完:6話/更新日時:2026年08月31日(月) 22:22 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>